Interview With Sylvie Legastelois

Chanel (シャネル) 新作フレグランス「ガブリエル シャネル」デザインの軌跡を辿る、Sylvie Legastelois (シルヴィ・ルガストゥロワ) インタビュー

Interview With Sylvie Legastelois
Interview With Sylvie Legastelois
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Chanel (シャネル) 新作フレグランス「ガブリエル シャネル」デザインの軌跡を辿る、Sylvie Legastelois (シルヴィ・ルガストゥロワ) インタビュー

Interview With Sylvie Legastelois

Chanel (シャネル) が、「CHANCE (チャンス)」以来実に14年ぶりとなる新しいフレグランス「ガブリエル シャネル」を発売した。フレグランスに秘められた壮麗さを引き出すべく、細部に至るまでこだわりを追求したデザインについて語った Chanel パッケージ・グラッフィックデザイン制作責任者 Sylvie Legastelois (シルヴィ・ルガストゥロワ) のインタビューを公開

Chanel (シャネル) が、「CHANCE (チャンス)」以来実に14年ぶりとなる新しいフレグランス「ガブリエル シャネル」を発売した。今年 Chanel は、メゾンの創始者のファーストネーム “ガブリエル” を讃え、様々なキャンペーンをローンチ。最新フレグランス「ガブリエル シャネル」の誕生は、彼女の名を冠したハンドバッグ「ガブリエル ドゥ シャネル」に続く “ガブリエル イヤー” にふさわしいニュースとして世界中で話題を呼んでいる。

4代目 Chanel の専用調香師である Olivier Polge (オリヴィエ・ポルジュ) によって紡がれた、太陽、 花々、輝きに溢れた香りは、パッケージ・グラフィックデザイン制作責任者 Sylvie Legastelois (シルヴィ・ルガストゥロワ) が生み出すボトルと共鳴している。デッサンから製造まで、常にデザインし、細かな調整を行い、すみずみまで検証し、形状を反転させ、そしてガラスメーカーへの指示と 7年もの歳月を捧げてこのプロジェクトに携わってきた Sylvie Legastelois。フレグランスに秘められた壮麗さを引き出すべく、細部に至るまでこだわりを追求したデザインについて語ってくれた。

 

THE FRAGRANCE GABRIELLE CHANEL – THE UNIVERSE OF THE FRAGRANCE

 

—Chanel 社で働いてどのくらい経ちますか。これまでの経歴を教えてください。

フレグランス「ココ」が発売された1984年より、Chanel 社で働いています。パリのデザインスクール (E.D.P.I.-工業デザイン 専門学校) とブリュッセルの装飾絵画学校 (Van der Kelen Institute) で、トロンプ・ルイユ (だまし絵) と美術工芸を学びました。卒業後はエージェンシーに3年間勤めたのち、Chanel 社に入社し、当時 Chanel のアートディレクターをつとめていた Jacques Helleu (ジャック エリュ) が率いていたチームの一員になりました。グラフィックアートや出版、デザイン、絵画について学んできた私の経歴は、異色と言えるものでした……実際、Chanel 社でのキャリアも、パーテーションやファッションのウィンドウ ディスプレイの背景を描くことからスタートしたのです。香水・化粧品部門や時計・宝飾部門のプロジェクトでは、クリエイティビティ溢れるさまざまな局面で、自分のアイデアを表現することができました。そして1993年、Jacques からパッケージとグラフィック デザインの制作を任されました。

©︎ Chanel

©︎ Chanel

—Chanel 社での現在のポジションは。

香水・化粧品部門と時計・宝飾部門のパッケージとグラフィックデザインの制作を統括しています。

—メゾンとブランドというものを、どのように捉えていますか。

卓越したブランドは、人を謙虚にさせます。32年もの間、Chanel 社の一員でいられたことは大変幸運なことでした。今でも、 日々新しいことを吸収しています。Chanel は一流のメゾンで、どんな変化がおとずれようとも廃れることはなく、最先端のブランドであり続けています。このことがひとつの魅力を生み出しているのです。

—Chanel 特有の、写実的で美しいクリエイションをどのように定義づけますか。フレグランスの場合、Chanel のフレグランス は「抽象的なフローラル」と表現されていますが、ボトルについてはどうでしょう。

Chanel 特有のクリエイションは、シンプルさと複雑さを同時に併せもちます。一目で “シャネル” というブランドを喚起させるように思えますが、実際は違います。黒、白、ライン、カーブ、面取りといったあらゆるディテールが、Chanel を想起させる揺るぎない “コード” です。このシンプリシティとは、貧しさではなく複雑さなのです。Chanel はラグジュアリーメゾンであり、より卓越したハイスタンダードを目指しています。その結果として、シンプルなものが強い個性を生み出しているように見えるのです。

—Olivier Polge は、「N°5」をはじめとする Chanel のフレグランスを現代に存続させ、その未来をも確実なものとするべく取り組んでいます。メゾンのイメージを維持しながら、未来へ向けてどのようにアプローチしていきたいですか。

「N°5 ロー」については、Olivier Polge がオリジナルの「N°5」を再解釈したように、私も “コード” を守りながら全く新しい スタイルで表現しなければなりませんでした。これがきっかけで、「N°5」のシルエットが浮かび上がった、まるで宝石箱のような ライナーをデザインしました。ほぼ真っ白なライナーです。Chanel は、クリエイションを礎とするメゾンです。けれども、そのクリエイションにガイドラインはありません。ただ、直観と才能によって生み出されるのです。もちろん、インスピレーションによっ ても。だからこそ女性たちの声に耳を傾け、時代とともに歩んでいくことが重要になってきます。ブランドの “コード” は私たちの クリエイションに根付いていますが、同時に、時代のエスプリに刺激を受けながら、市場をリードし続けています。Chanel は アイデンティティを保ちながら、常にサプライズと夢をもたらさなければならないのです。

—Chanel のフレグランス ボトルの歴史の中で、最もセンセーショナルなデザインは「チャンス」のボトルでしたが、「ガブリエル シャネル」は、新たな1章となるのでしょうか。メゾンで受け継がれてきた伝統や、ブランドのアイコンとも言うべきフレグランス ボトルの永遠性とどのように歩調を合わせていきますか。

おっしゃる通り、新たな章となるでしょう。「チャンス」ほどわかりやすくはないかもしれませんが、「アリュール」の時と同じようなものです。「ガブリエル シャネル」は、Chanel のフレグランス ボトルの歴史においても重要な意味を持ち、役割を果たします。 完成したのは、華美な装飾を一切省いたスクエアのボトル、フォルムが中央に向かうよう象られた面取り加工、そしてこれまでにない絶妙なカラー コンビネーション。このフレグランス ボトルの、とりわけそのストイックさと華やかさの間に生まれる張りつめたバランスに、Chanel 独自のスタイルが見てとれます。

—このように輝かしい功績をもつメゾンでは、新しいボトルのデザインはどのようなプロセスで生まれるのでしょうか。

行き当たりばったりではできませんね。新しいボトルの制作では、既存のどの製品の個性も損なうことなく、新しい表現やメッセージを反映させます。Chanel では、全てのフレグランスを維持していくことが原則です。したがって、新しいフレグランスは 既存のフレグランスの中で、自らのポジションを見つけなければなりません。さらなる進化の追求、常にサプライズを常に届けたいという情熱、創造へと突き動かす原動力、こうした要素すべてが私たちの仕事には終わりがないことを意味します。Chanel は、決して読み終わることのない、無限の広がりをもつ物語なのです。

—「ガブリエル シャネル」のコンセプト、その第一歩となるクリエイティブな発想はどのようなものでしたか。

メゾンは、輝くようなフローラルのフレグランスをつくりたいと考えていました。目的は、あくまでも香りを主役にすること。ボトルはあくまでも脇役で、香りそのものにスポットライトを当てる必要がありました。このボトルの開発にあたり、デザインのシンプルさや精巧なガラス加工技術とともに、Gabrielle Chanel (ガブリエル シャネル) 自身が大切にしていた純粋さも追求しました。そして、Olivier Polge がつくり出した、その太陽のような輝きに満ちた香りにインスパイアされ、私たちは、言葉では表現しきれないような 絶妙なカラーのキャップとラベル、そしてライナーのデザインを生み出したのです。

—Olivier Polge とはどのように協力しましたか。

Chanel では、製品の開発とパッケージ クリエイションの間に、強い結びつきがあります。だからこそ、私たちは綿密に協力しながら、お互いを補完し合っています。

—インスピレーションの源は何ですか。影響を受けたものはありますか。

既にお話したクリエイティブなアイデアに始まり、金や銀の糸が編み込まれたラメやツイードの絶妙な色合いからもインスピレーションを得ました。ウェストミンスター公爵が Gabrielle Chanel に贈った美しい小箱や、外面だけでなく内面も美しいあらゆるクリエイションからも、ボックスのデザインのヒントを得ました。外面よりも内面が明るく輝くボックスです。Gabrielle Chanel はかつて、“ラグジュアリーとは、目に見えないもの” と語りました。この輝きに満ちたボックスは、太陽のように輝くフローラルノートの豊かさを表現しています。

©︎ Chanel

©︎ Chanel

—最初のデザインスケッチから立体製図までの、プロセスを教えてください。

ボトルの誕生はスケッチから始まり、すぐに立体成形の過程へと移ります。理想的なデザインを完成させるべく、ボトルのラインやシルエット、ガラスの重量といったあらゆるディテールを評価するためです。その後、技術的評価が行われます。これらのデザインにまつわる過程は、すべて自社のスタジオで進めます。その後、3D設計図が開発チームやサプライヤーへと渡されます。

—最初のスケッチから製造のための検証 (ガラスなどの素材や印刷技術の選定) へは、どのように進行するのでしょうか。

スケッチは夢の始まりです。スケッチが完成した後はすぐに、この夢をかたちにするために最もふさわしい素材を探し、優秀な サプライヤーと協力しなければなりません。大切なのは選択とモチベーションです。発売へ向けて、チームは何年にもわたって 懸命に取り組みます。例えば、Chanel のさまざまなカラーは、パントンカラーにはありません。すべて人の手から生まれた、Chanel が Chanelのためにつくり出した、オリジナルの色たちなのです。

—開発スケジュールについて教えてください。

我々がこの素晴らしいプロジェクトに着手したのは、2009年のことでした。Chanel では、新しいフレグランスの発売によって、 既存のフレグランスの価値が損なわれることは決してありません。常に全く新しいアイデンティティをもち、これまでにない価値をもたらすフレグランスだけをつくり出すと決めているからです。フレグランスが登場するたびに、メゾンの新たな一面が明らかになるのです。

—「ガブリエル シャネル」のボトル制作において、もっとも大きなチャレンジは何でしたか。独創性や技術に関しては、どのような点が革新的ですか。

独創性という点では、ブランドの DNA 維持しながら革新させて、かつてないサプライズと魅力をもたらすことが1つのチャレンジでした。技術という点では、2つのチャレンジがありました。どちらも革新的です。まず薄いガラス。フレグランス業界で一般に見られるガラスボトルとは一線を画しています。 そして特別な加工を施したライナー。「N°5 ロー」に続き、採用しました。

—特許登録は行いましたか。

“マルロケット” のないボトルの特殊な製造方法に関しては、パートナー企業が特許を登録しています。この製造プロセスによって、ガラスの厚みはボトルの外側へ押し出され、この余分なガラスを取りのぞくためにボトルは何度も繰り返し磨かれます。

—このボトルの特徴を数ワードで表現してください。ボックスについても。

そのボトルはシンプルで、貴重で、太陽の輝きに溢れて……まるでクリスタルのようです。 そのデザインはシンプルで、スクウェアのラベルに、スクウェアのボトル。ボトルの正面は、4つの角からラベルへ向かってストレートなラインが象られ、フレグランスの色合いに軽やかなグラデーションを生み出したり、光の戯れをもたらしたりと豊かな表情をたたえています。 そのキャップもラベルと同じスクウェアで、ラベルと同じサイズで、きわめて Chanel らしいデザインです。 グラフィカルな象形、すっきりとしたライン、ミニマルなメッセージといった、さまざまなコードが、ボトルをシンプルかつクラシカルな印象にしています。そして、ウェストミンスター公爵がガブリエルに贈った小箱のように、ボックスの外面はシンプルに、そして内面はラグジュアリーに仕上げられています。コントラストと矛盾、それが重要です。

—どのような色をイメージしましたか。

太陽のように輝く香りの個性が、キャップやラベルのえも言われぬ絶妙な色合いにつながりました。ゴールドでもシルバーでもなく、まるできらめくラメのようです。シンプルで、太陽のような輝きに満ちて明るくて……それでいて、これ見よがしなゴールドではないカラーにしたかったのです。

—特別なライナーを開発したのは、なぜですか。

直線的なデザインで、華美な装飾を一切省いたボトルをつくりたいと思いました。ガブリエル シャネルがしばしば語ったよう に、シンプリシティは “貧しさ” ではありません。このボトルは大変軽くて、まるで宝石のようにライナーの中に大切に守られてい ます。 Chanel には、外面と同じように内面も美しくなければならないという考えが一貫してありますが、この考えこそが貴重 なパッケージが生まれた背景です。ボトルを箱からそっと取り出す、エレガントな所作を思わせます。このデザインには、ミステ リアスな側面もあります。特別な加工が施されたライナーで、ボトルを美しく際立たせたいと思いました。まるで、宝石箱が宝石を美しく見せるように……。

<プロフィール>
Sylvie Legastelois (シルヴィ・ルガストゥロワ)
Chanel 社パッケージ・グラッフィックデザイン政策責任者 。デザインスクール (E.D.P.I.工業デザイン専門学校) を首席で卒業し、ブリュッセルの装飾絵画学校 (Van Der Kelen Institute) で学んだのち、1984年に Chanel 社に入社。自らのクリエイティビティを活かし、シャネル ブティックの内装デザインの仕事に従事。そして1993年、Chanel 社の香水・化粧品部門、時計・宝飾部門において、当時アートディレクターをつとめていた Jacques Helleu により、パッケージ・グラフィックデザイン制作責任者に抜擢される。「N°5」のボトルのデザイン変更をはじめ、「プレシジョン」「アリュール」「チャンス」「エゴイスト」といった、数々の大型プロジェクトを手掛けている