Think About: Photo Book

ART | Oct 1, 2018 9:00 PM
アートブックショップ「POST」代表を務める傍ら、展覧会の企画、書籍の出版、DOVER STREET MARKET GINZA (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) をはじめとするブックシェルフコーディネートなどを手がける中島佑介。彼の目線からファッション、アート、カルチャーの起源を紐解く連載コラムがスタート。第6回目のテーマは「写真集」。

9月にはニューヨーク、10月には台湾とソウル、11月にはパリ….と世界中で毎月のようにアートブックフェアが開催され、各フェアの規模は年を重ねるごとに徐々に大きくなっています。作り手も出版社から個人まで多様化して出版部数も数十部~数千部とさまざま、刊行されるタイトル数は年々増え続けている今日は、表現としてのアートブックが最も活況な時代と言えるかもしれません。中でも数多く刊行されているのが写真集です。写真は19世紀に発明された比較的新しい技術ですが、もともと二次元性が高く本の構造と相性が良いため、短期間のうちにアートブックと強い関係性が生まれました。写真集の世界的なブームはどのような変遷で到来したのでしょうか。今回は写真集の歴史を辿ってみたいと思います。

「The Japanese Photobook 1912-1990」 Steidl刊

「The Japanese Photobook 1912-1990」 Steidl刊

写真が誕生した当初は記録のための技術として用いられていましたが、徐々に表現として発展し、印刷技術の進化が本と写真の接点を生み出しました。写真史家の金子隆一氏は、写真集を「一人もしくは複数の写真家の主体的な表現が『書物』というかたちとなって実現されたものである。言い方をかえれば、オリジナル・プリントに準ずる写真家の表現の最終的なかたち」と位置付けています(「The Japanese Photobook 1912-1990」 Steidl刊より引用)。1910年代以降に写真集が芸術運動の一環として作られる事例が登場し、作家による主体的な表現として徐々に成長していきました。

「Mirrors and Windows: American Photography Since 1960」

「Mirrors and Windows: American Photography Since 1960」

豊かになりつつあった写真と写真集の関係性に重大な影響を与えたのが、アメリカで活躍したキュレーターの John Szarkowski
(ジョン・シャーカフスキー) です。彼は1962年からニューヨーク近代美術館の写真部門ディレクターとして活躍、優れた企画によって芸術写真の領域を拡張し、その影響力はアメリカだけでなく世界にまで及んでいました。写真を画像ではなく独自性のある表現として捉え、美術の文脈へと接続した Szarkowski ですが、彼の思想は写真集に対しても色濃く影を落としています。彼の考えに従うと、オリジナル・プリントにはそれぞれに作品性が備わっているので、写真集でもオリジナル・プリントの作品性を損なわないように取り扱うべきで、トリミングや裁ち落としはもってのほか※、写真に何も手を加えることなくそのままに収録することが求められます。
※裁ち落としで図版を印刷する際には、本文のサイズよりも3mm程度大きく印刷し、はみ出した部分を切り落とすことでページの端まで図版が印刷されているレイアウトができあがる。

Szarkowski が活躍していた時代に出版された写真集を手にとってみると、多くは1ページに1図版のみが印刷されています。複数の写真で物語を作り、ひとつの表現となっているようなケースはごくわずかで、あくまで1枚1枚、それぞれ独立した写真を鑑賞するためのものとして写真集が作られているのが見受けられます。写真をオリジナルに近い形で鑑賞するためのシャーカフスキー・スタイルが写真集の世界標準となっていた一方で、全く影響を受けずに独自の進化を遂げていたのが日本でした。

「Mirrors and Windows: American Photography Since 1960」

「Mirrors and Windows: American Photography Since 1960」

「Mirrors and Windows: American Photography Since 1960」

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Szarkowski が MoMA のキュレーターを務めていた頃、日本ではオリジナル・プリントに価値を見出す風潮はなく、雑誌や写真集などの印刷物が作品発表の中心となっていました。写真家たちは試行錯誤によって印刷物そのものを作品として機能させるための技術を見つけます。それがページの連なりによってストーリーを描く「シーケンス」の活用でした。最低の単位は見開きの2ページ、1枚の作品の強度よりも写真が並ぶことで生じる相互作用に重点が置かれています。また、ページを跨いで物語を紡いでいくために相性の良かったレイアウトが裁ち落としでした。裁ち落としにすると写真がページの中で完結したものではなく、空間的に拡がりを持つ印象を読者に与えることができます。50年代から70年代に日本で出版されている写真集群は総じてシーケンスを活用し、裁ち落とし図版を多用した編集になっています。

日本におけるガラパゴス的な写真集の進化は長いこと世界に知られぬ存在であり続けていましたが、90年代に入り、海外の美術関係者がこれらの写真集を発見しました。シャーカフスキー・スタイルに慣れていた欧米の人々は、一枚ではなく一冊という単位で表現を構成する写真集のあり方に驚愕するとともに、この手法を取り入れていきます。そして90年代以降、シーケンスを設けたり裁ち落としを活用する方法が浸透し、現在では Szarkowski の影響は影をひそめ、日本発のスタイルが写真集の主流となり、写真集の多様性が生まれました。近年優れた写真集が世界中で出版されている根源には、戦後の日本で独自に進化していた写真文化があったのです。

今日、写真集の表現は国際的にもひとつの到達地点にたどり着きました。どこにいても世界中の情報を得られる今日、90年代に世界にインパクトを与えた日本の写真集のような存在はもう見つからないかもしれません。過去を参照にすることで新しい表現が生まれる可能性は以前よりも減少していますが、現代では技術的な進化に目が離せません。また、SNSに小さな頃から慣れ親しんでいる世代にとって、本が新たな表現手段として見直されている動向もあります。新しい技術や世代から既成概念を超えるような新たなアートブックのあり方が生まれるのも、遠い未来ではないのかもしれません。

「The Photobook: A History VOLUME 1」

「The Photobook: A History VOLUME 1」

「来たるべき言葉のために」中平卓馬 著

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「写真よさようなら」森山大道 著

「写真よさようなら」森山大道 著

「写真よさようなら」森山大道 著

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「The Photobook: A History VOLUME 1」

「The Photobook: A History VOLUME 1」

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<プロフィール>
中島佑介 (なかじま ゆうすけ)
1981年長野生まれ。出版社という括りで定期的に扱っている本が全て入れ代わるアートブックショップ「POST」代表。ブックセレクトや展覧会の企画、書籍の出版、DOVER STREET MARKET GINZA (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) をはじめとするブックシェルフコーディネートなどを手がける。2015年からは TOKYO ART BOOK FAIR (トーキョー アート ブック フェア) のディレクターに就任。
HP: www.post-books.info

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