Haute Couture Is Getting Lively In Paris Now

【萩原輝美コラム】効率よりも技と質。活気づく、パリ・オートクチュールコレクション

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【萩原輝美コラム】効率よりも技と質。活気づく、パリ・オートクチュールコレクション

Haute Couture Is Getting Lively In Paris Now

毎シーズン、パリやミラノのプレタポルテ、オートクチュールコレクションを取材する、ファッションディレクター萩原輝美の新連載がスタート。第一回は、いま活気を取り戻しているオートクチュールコレクションについて。

今、オートクチュールが活気づいている。通称 “パリコレ” と呼ばれているのはパリ・プレタポルテ (既製服) コレクションのこと。その始まりは70年代始めだ。それ以前は上流階級のセレブを対象にしたオートクチュール (高級注文服) コレクションが中心だったが、プレタポルテの登場でオートクチュールは衰退していった。それがこの10年、プレタに背を向けオートクチュールに参加するデザイナーが毎シーズン増加している。この秋冬は、展示会やインスタレーションなどを含めて53ブランド。これは昨年から7ブランド上回り、復調オートクチュールを改めて証明している。4日間の日程はプレタなみの過密スケジュールだ。

要因の一つは、デザイナーたちの服作りの姿勢である。Viktor & Rolf (ヴィクター&ロルフ) はもともとクチュールでデビューしたデザイナーだが、2013年7月、13年ぶりにクチュールを再開した。「オートクチュールはモードの頂点。デザイナーのクリエーションが100パーセント発揮できる場」と2015年にプレタポルテを休止、クチュールコレクションだけに力を注ぎたいとファッションアーティスト宣言をした。

Dice Kayek (ディーチェ カヤック) は20年以上プレタポルテを続けてきた。90年代、プレタのショーで見せた服がすぐにファストファッションの店で売られていた。「絶対、コピーされない服を作りたい」それがクオリティと技を込めたクチュールコレクションでの発表につながった。

Photo: Courtesy of Dice Kayek

Photo: Courtesy of Dice Kayek

今シーズン、2回目のクチュールコレクションに挑んだ Hyun Mi Nielsen (ヒュンミ ニールソン) にパリでインタビューした。「なぜ、プレタでなくクチュールでスタートしたの?」「ゆっくり、じっくり服を作りたい。私、手仕事の技が好きなんです」ヒュンミは憧れのマックイーンに呼ばれてアトリエに入るが、その4ヶ月後に彼は死去した。4年間、Sarah Burton (サラ・バートン) の片腕としてキャリアを積み、Balenciaga (バレンシアガ) に移った。Cristobal Balanciaga (クリストフ・バレンシアガ) のアーカイブ作品に触れ、ますますクチュール服に魅了される。「私の服はプレタ・ポルテリュックスです。ブティックがオーダーしてくれれば同じ服を数点作ります。アーティストがオーダーしてくれれば1点ものの作品になります」オートクチュールコレクションはセレブだけの高級注文服だけではなく、若いデザイナーたちのカストマイズドウエアとして発表され始めている。

Photo: Courtesy of Hyun Mi Nielsen

Photo: Courtesy of Hyun Mi Nielsen

Photo: Courtesy of Hyun Mi Nielsen

Photo: Courtesy of Hyun Mi Nielsen

また、今シーズンはニューヨークコレクションの中心ブランド、RODARTE (ロダルテ)、Proenza Schouler (プロエンザ スクーラー)がパリ・サンディカ (オートクチュール協会) の招待デザイナーとして参加した。その理由は今、ニューヨークコレクションの多くのブランドが「See Now Buy Now」 (今売る服を発表する) 傾向になっていることだ。じっくり服作りをしたいニューヨークデザイナーたちがクチュールコレクションで、いち早く2018年春夏コレクションを発表することになった。

もう一つの要因は、中国をはじめとするアジアンデザイナーの参加が増えていること。今年ロードショーされた映画『メット・ガラ』で Rihanna (リアーナ) が着たドレスは Guo Pei (グオ・ペイ) のオートクチュール作品だった。そのドレスはアメリカ版『Vogue』の表紙を飾り、Guo Pei は一躍脚光をあびた。今シーズンの Guo Pei のコレクション会場には彼女のドレスをまとった中国人セレブが多数フロントローに座っていた。デザイナーだけではなく、顧客もアラブ、中国、インドなどのアジア人が増えている。

そして何よりクチュールは手技を秘めたエレガンス服であるが、ぐっとリアルでモダンな服が発表されている。ドレスが中心だった Valentino (ヴァレンティノ) はカシミア、シルク、その質感のコントラストと配色の美しさは、新しいヴァレンティノの魅力を広げている。デザイナーも消費者も、大衆消費から私 (わたくし) 消費へ向かっていることが感じられる。それに対応するクリエーションが、これからのファッションビジネスとなりそうだ。

<プロフィール>
萩原輝美 (はぎわらてるみ)
ファッション・ディレクター
毎シーズン、ミラノ、パリなど世界のデザイナーコレクションを取材。ファッション雑誌に記事、コラムを寄稿する。大学、専門学校の各種セミナー講師、デザインコンテスト審査員を務める。エレガンスをリアルに落とし込むファッション提案に定評があり、セレクトショップのプロデュースも手がける。最近は着物にも関心を広げ、ファッションと同じように日常にとり入れる企画、提案をしている。趣味は乗馬。
HP: hagiwaraterumi-bemode.com