Interview with M. Night Shyamalan

PORTRAITS | May 19, 2017 9:09 PM
冒頭からたった5分で始まる、衝撃的な恐怖の連鎖劇『スプリット』の幕引きをするのは、作品を発表するごとに世界を震撼させてきたインド出身の映画作家、M. Night Shyamalan (M・ナイト・シャマラン) 。死者の存在が見えてしまう少年と小児精神科医の交流を描いた『シックス・センス』(1999) や、見えない怪物に護られ社会から隔絶された村のおとぎ話『ヴィレッジ』(2004) など、「目に見えない何か」が巻き起こす神秘的で不気味な恐怖を描き続け、スリラー映画の新しい時代を築きあげてきた。
Photo by UTSUMI

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憂鬱な気分と愛想笑いで充満したパーティが終わり、どんよりとした空気で車に乗り込む少女たち。そんな退屈な日常の延長だったはずの帰路は、突如見知らぬ男の誘拐劇によって無情にも断たれることになる…。冒頭からたった5分で始まる、衝撃的な恐怖の連鎖劇『スプリット』の幕引きをするのは、作品を発表するごとに世界を震撼させてきたインド出身の映画作家、M. Night Shyamalan (M・ナイト・シャマラン) 。死者の存在が見えてしまう少年と小児精神科医の交流を描いた『シックス・センス』(1999) や、見えない怪物に護られ社会から隔絶された村のおとぎ話『ヴィレッジ』(2004) など、「目に見えない何か」が巻き起こす神秘的で不気味な恐怖を描き続け、スリラー映画の新しい時代を築きあげてきた。

そんな Shyamalan が今回テーマに選んだのは、解離性同一障害 (以下、DID) という「多重人格」によって人生を奪われた主人公と、彼をめぐる人々の悲劇。冒頭で連れ去られた少女たちはやがて薄暗い地下室のような部屋で目覚め、自分を連れ去った男ケビンにいくつもの人格が宿っていることに気づくのだが、Shyamalan 作品での一番の魅力は、ここで繰り広げられるような少女たちとケビンの人格たちとのめくるめく心理戦にある。CG や派手なアクションが多いハリウッド映画界において、Shyamalan のこのような繊細な表現は、とても文学的にすら感じられる。

また早くも本作の続編『Glass』(原題) 公開が Shyamalan 監督の Twitter より予告され、なんと世界を震撼させた『アンブレイカブル』(2000) と本作『スプリット』の2つの映画をぶつけた3作目が2019年に公開されるというから驚きだ。

Shyamalan が仕掛ける、不可視という恐怖の迷宮に迷い込んでみよう。

『スプリット』

—今回のストーリー設定は、あなたのこれまでの作品にもよく見られる、情報が遮断された環境に「閉じ込められた」主人公たちが、未知への恐怖と格闘するという展開です。しかしこれまでと違うのが、犯人であるケビンの中の人格たち自身も、一つの体に「閉じ込められた」存在であるという点でした。このストーリーのアイデアや設定は、どこから生まれたのでしょうか。

「情報が遮断された環境」とは面白い表現ですね。確かに僕は、情報を主人公に与えないというスタイルはすごく好きです。DID というものに若い頃からすごく興味を持っていて、ずっと勉強をしていたテーマだったので、ずっとこの構想について考えてはいました。ケビンが患っている DID の患者たちは、「情報の遮断」というより「時間を失った」という感じる場合が多いらしいんです。例えば僕がさっきまで違うことをしていたのに、気づいたら今こうやってインタビューをしている、というように、突然空白の時間が生まれるような感覚です。

—この映画全体を覆っている「先が読めない」展開に対する不安感は、監禁された少女たちが感じている恐怖だけでなく、ケビンの「空白の時間」による混乱した精神状態をまさに表しているのですね。この混沌とした不安感は、ラストまで全貌が明かされることのないケビンの屋敷の部屋ひとつひとつからも強く感じられ、家全体がまるでケビンの内臓をみているような気持ちになりました。例えばケビンの人格たち、少年ヘドヴィグの部屋や女性であるパトリシアが神経質にサンドイッチを切るキッチンや、デニスが使うパソコンが置いてある部屋など、それぞれの人格と部屋が紐付けされているような表現が感じられます。各部屋が持つ役割や込められた意味などありましたら、教えてください。

全くその通りですね。最初に少女たちが監禁されていた部屋はなんの特徴も変哲も無く、ここは地下室なのか何なのか、よくわからない部屋でした。でも次の部屋に入るとここは地下じゃないのかもしれないと思う様になり、次にパトリシアとキッチンに入ると業務用の冷蔵庫が置いてあることに気付きます。映画が進行して一つ一つ部屋が新しく開放されるごとに、新たな情報やヒントが出てきて、一体ここはどこなんだろう、と観る者は感じるのです。ラストで少女ケイシーが助け出された時、最後に照明があたり、やっとこの部屋がどういうものだったのかが明らかになります。そこが最後の展開です。

ちなみに、撮影していたのは基本的にスタジオで組んだセットでしたが、スタジオではなく実際に精神患者の人たちがいる病院の真下で作っていたシーンもありました。最後の方でパイプがむき出しの地下室があったでしょう。あのあたりが、精神患者の人たちの病室の真下なんですよ。まだ今もあるので、もし見たければ見に行くこともできますよ (笑)。

©︎2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

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—ケビンが患っている DID について伺います。NY大学在籍時に DID を学ぶクラスを取っていたと聞きましたが、今作で描かれている DID のリアルな描写はどのようなリサーチのもと生まれたのですか。

大学で真剣に DID の勉強をしていた頃からこの脚本執筆時に至るまで、DID に関する色んな本が出ていました。それらからもリサーチを行ったりしていましたが、それよりリアルな DID 描写に役立ったのは、心理学者で DID の権威の方が幸運にも僕の自宅から2時間くらいのところに住んでいた、ということでした。僕は彼女とじっくり色んな話をさせて頂き、例えばこういう場合はどうするのか、実際に患者の家に行ったりするのか、またセラピーをする様子など、色んな質問をさせて頂きました。

—作中で、24の人格たちが体に現れるため「照明」を掴むというセリフがあります。これは実際に起こっている現象なのでしょうか。

「照明」とは、DID 患者が使う、彼ら自身が経験していることを説明するために使う言葉です。患者の中にいるそれぞれの人格たちは、ふだんは頭の中の暗い中にいるような感覚なのです。ところが実在している体を支配して現れた瞬間は、照明がついたかのように周りが見えるようになります。それで「照明」という言い方をしているのです。他にも「スポット (spot)」という言い方をする場合もあります。「スポットライト」という様な光があたるという意味もあるかもしれませんが、その場所に居る、存在しているという意味の「スポット」でもあるのです。

—今作で主演に起用した James McAvoy (ジェームズ・マカヴォイ) について教えてください。あなたはこれまでの作品でも「目に見えない」パワーを描くのがとても得意でしたが、今回はその中でも究極的に不可視の “人格” というものを、いくつも一度に同じ体で表現するというとても難しい表現を行っています。James に演じさせることで、ケビンという人物をどのように描けると期待したのでしょうか。

まずは、それぞれの人格に「優しさ」をもって演じられるということが、この役には大事だと思っていました。どんなに暗く悪意に満ちていそうなキャラクターでも、愛をもって演じていないと信憑性がないし、伝わりません。どんな悪役でもその人なりの価値観が必要なんです。何故そういうキャラクターになったのかということが明確になっている上で演技をしないと、観客も共感出来ないでしょうし、真実味がありません。ただクレイジーで悪い奴だから悪く演じるだけだと、そのキャラクターは異次元的な存在に映ってしまいます。そうではなく、そのキャラクターはこういう考え方なんだから守ってあげないといけない、というように、リスペクトをもって演じること。それが、James ならできると思ったんです。それに彼は本当に技術的に優れた役者でしたしね。このケビンという役を演じるには、本当にスキルが必要でした。でも彼は見事にやってのけたというわけです。

©︎2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

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—確かに、ケビンの中にいる人格者たちはみんなサイコ的要素を持ってはいますが、憎みきれない人間的な顔が時折現れます。特に精神科医 Dr. フレッチャーの前では、ケビンの中の人格たちは素直に自分のことを話し、唯一心を許しているような表情を浮かべることもありました。フレッチャーはこのストーリーの中で唯一「赦し」の存在だと思うのですが、彼女の存在によってケビンをどのように描写しようと試みたのでしょうか。

DID 患者の人格の中でも、望ましい人格の人たちと、望ましくない人格の人たちに分かれています。後者は例えば暴力的であったり、ものを盗んだり、女性を攻撃したり。セラピーではそういう人格たちになるべく照明が当たらないようにするものなのですが、でもその人格たちも、やっぱり存在理由はあるんです。映画の中では、そんな望ましくない人格たちは「一団 (ホールド)」と呼ばれています。パトリシアやデニス、ヘドウィグたちがそうでしたね。でも例えばパトリシアのどんな宗教でもいいのでとにかく何かを信じなくてはいけない、熱狂的な信者であることが救いになると思い込む性格や、デニスの異常なまでの潔癖性も、それぞれケビンにとって必要な要素だったんです。

Dr. フレッチャーはケビンの中の人格全員に対して、ホールドであろが無かろうが誰も否定をしません。誰もがちゃんと存在する意味があると、受け入れているんですよね。そんな彼女の「人格全体を守らなきゃ」という気持ちは、全部の人格に伝わっています。だから例えば劇中にもあったように、デニスはバリーのふりをしながらフレッチャーに会いたくてやって来るんです。でも彼女にはその誤魔化しはバレていて、しぶしぶ本性を出しますけどね (笑)。それも受け入れられているという愛情と信頼があるからこその行動なんです。

実は24番目の人格に関しては、フレッチャーの繋がりだというように解釈もあるんです。フレッチャーは人格たちみんなのために頑張っているけれども、結局彼女のやり方ではみんな救われません。そこで24番目が「じゃあここからは俺の出番だ」と出てきてしまうんです。だからフレッチャーと24番目は繋がっていて、一つの存在であるとも言えるんですよね。

©︎2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

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<プロフィール>
M. Night Shyamalan (M・ナイト・シャマラン)
インド東海岸ポンディシェリ出身。ニューヨーク大学の映画学科に進学。1992年の卒業制作作品が批評的に成功を収め、監督・脚本を手がけた『翼のない天使』(1998) で劇場映画デビューを飾る。1999年、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』は世界的に大ヒットを記録し、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞を含む6部門にノミネートされる。以降、ウィリスと再タッグを組んだ『アンブレイカブル』(2000) をはじめ、『サイン』(2002)、『ヴィレッジ』(2004) と衝撃的な結末が話題を呼ぶ作品を次々と発表する。2015年の原点回帰ともいえるホラー『ヴィジット』は世界興収約1億ドルのスマッシュヒットを飛ばした。『ウェイワード・パインズ 出口のない街』(2015-2016) では、初めてテレビ番組での製作総指揮・監督も務めた。

作品情報
タイトル スプリット
原題 SPLIT
監督 M. Night Shyamalan (M・ナイト・シャマラン)
脚本 M. Night Shyamalan
製作 M. Night Shyamalan、Jason Blum (ジェイソン・ブラム)
出演 James McAvoy (ジェームズ・マカヴォイ)、Anya Taylor-Joy (アニヤ・テイラー=ジョイ)、Jason Blum (ベティ・バックリー)
配給 東宝東和
製作年 2017年
製作国 アメリカ
上映時間 117分
HP split-movie.jp
 ©︎2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
 5月12日 (金) 全国公開

<Staff Credit>
Photographer: UTSUMI
Makeup: Mariko Kubo
Writer: Asako Tsurusaki

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