Mike Mills
Mike Mills

映画監督・Mike Mills (マイク・ミルズ) インタビュー

Mike Mills

photography: ustumi
interview & text: tomoko ogawa

Portraits/

映画『20センチュリー・ウーマン』を観てまず思ったのが、「こんなにも女性のことを理解して描ける男性が存在するなんて!Mike Mills (マイク・ミルズ) 最高すぎる」ということだ。女性が同性におぼえる生々しさも、男性が抱くファンタジーも一切ない、全女性への賛歌のような映画を目の当たりにして。本作は1979年のサンタバーバラを舞台にした、世代の違う一筋縄ではいかない (単純な女性なんていないけど) 3人の女性と少年ジェイミーが過ごすひと夏の物語だ。シングルマザーでジェイミーの母ドロシア、姉のようなシェアメイトで写真家のアビー、幼なじみのジュリーという世代も性格も思考も異なる、魅力的な女性たち。そして、主人公である少年のモデルとなるのは、基本的に Mike Mills 以外の何者でもない。でも、この映画はフィクションなのである。前作『人生はビギナーズ』(2010) では、晩年ゲイとカミングアウトした自身の父をモデルに描いた彼が、母と自分の物語を映画にすることを決めたのはなぜか、来日中の監督に訊いた。

映画監督・Mike Mills (マイク・ミルズ) インタビュー

Photo by UTSUMI

Photo by UTSUMI

映画『20センチュリー・ウーマン』を観てまず思ったのが、「こんなにも女性のことを理解して描ける男性が存在するなんて!Mike Mills (マイク・ミルズ) 最高すぎる」ということだ。女性が同性におぼえる生々しさも、男性が抱くファンタジーも一切ない、全女性への賛歌のような映画を目の当たりにして。本作は1979年のサンタバーバラを舞台にした、世代の違う一筋縄ではいかない (単純な女性なんていないけど) 3人の女性と少年ジェイミーが過ごすひと夏の物語だ。シングルマザーでジェイミーの母ドロシア、姉のようなシェアメイトで写真家のアビー、幼なじみのジュリーという世代も性格も思考も異なる、魅力的な女性たち。そして、主人公である少年のモデルとなるのは、基本的に Mike Mills 以外の何者でもない。でも、この映画はフィクションなのである。前作『人生はビギナーズ』(2010) では、晩年ゲイとカミングアウトした自身の父をモデルに描いた彼が、母と自分の物語を映画にすることを決めたのはなぜか、来日中の監督に訊いた。

―『20センチュリー・ウーマン』は前作に続き Mike Mills 監督のプライベートな体験がベースの物語でしたが、それはあえての選択だったんでしょうか?

僕、異なる文化の映画を観るのが大好きなんです。たとえば、小津安二郎、Federico Fellini (フェデリコ・フェリーニ)、Szabó István (サボー・イシュトヴァーン) の映画とか。僕が観客として映画を観るとき、自分と全く違うキャラクターが出ている方が、実際に生きている人のように感じたり、「これは本当の話だ」と思える。映画で描かれている真実と自分が関係なくても、体験しているように感じられる魅力っていうのかな。だって、現実の人生って映画で描かれているものとは全く違うじゃないですか。もっととっ散らかってる。それを物語として成立させたいのなら、異なる質のものにする必要があると思っていて。そうすると、観客はそこに本当のことが潜んでるな、と嗅ぎとることができるから。

―全然違う人の物語に見つけた本当っぽさに共感してしまうというのは、よくわかる気がします。
僕の場合、普通のフィクションの映画を観たときに、これは物語なんだなと思ってしまって、キャラクターが実際生きているように感じないことが多くて。だから、ドキュメンタリーの映像だったり、歴史だったり、現実の人生をフィクションに組み込んでいくようにしているんです。僕自身、観ていて驚かせてくれるような映画が好きなので。いわゆる映画的なルールを無視してたり、カテゴライズしにくい作品が特にね。

-実際の当時のニュース映像や人物写真だったりが入ってくることで、より感情移入できる部分は個人的にありました。

僕が前作と今作で特に気に入ってるのが、ドキュメンタリー性と映画性、どちらの側面も持っているところ。そこが面白くてワクワクすると思うし、架空の登場人物である写真家・アビーが NY で過ごした辛い時期を振り返るとき、1977年の NY に実在した女性たちの写真がインサートされ、またアビーの話へと戻ってくる。僕、あのシーンが大好きで。歴史詐称とも言えるけど、フィクションの物語に現実を持ち込まないという映画のルールを破ることはスリリングだし、だからこそ共感されやすいのかもしれない。

©︎2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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-05年の『サムサッカー』、09年の『人生はビギナーズ』、16年の本作とこれまで3作の長編映画を手がけていますが、それだけの年月が必要だったと思いますか?

僕の場合、映画をつくるのに平均5年はかかるみたいです。怠け者でもないし、努力もしてるし、もっと早くできたらなとは思ってるんだけど、そこはコントロールがむずかしいところで。映画を撮らせてもらえること自体が、ものすごい名誉で幸せなことだと知ってるから、時間がかかったとしても誰にも文句は言えない (笑)。ただ、これからも5年に1度のペースでいくとすると、そんなに数は作れないかもしれないですよね。でも、世の中には既に十分すぎるほどの映画があるし、みんな僕の映画もそんなにたくさんは必要ないと思ってるだろうから、ちょうどいいかもね (笑)。

-いやいや、私はもっとたくさん観たいですが……。ちなみに、自分のことをオープンに映画で語ってもいいかなと思ったきっかけってあったんですか?

二つあって、ひとつは本やポートレイトを通じて自分を表現している人たちが好きだったから。Allen Ginsberg (アレン・ギンズバーグ) の私的な詩もたまらなく好きだし、Federico Fellini の『8 1/2』(1963) も大好き。Woody Allen (ウッディ・アレン)の『アニー・ホール』(1977) や『マンハッタン』(1979) もある種、彼の人生をベースにした自分語りから始まるじゃないですか。ただ、僕は彼らみたいなタイプじゃないと思っていたので。

-だから、『人生はビギナーズ』まではしてこなかったんですね。

そう。でも、父が晩年、勇敢にもゲイだとカミングアウトして、本能のままに強く生きて、強烈に死んでいった。誰かが死んだ悲しみって、アルコール以上に人を酔わせるというか、勇気だったり強い意志を持たせることがあるんですよね。悲しみのなかで、「誰がなんと言おうとかまわない!  僕は映画を撮るぞ!」と思ってできたのが、『人生はビギナーズ』。特別で素敵なストーリーだし、素晴らしい映画だし、まさに父の人生そのものだった。それが多くの人に受け入れてもらえたことで、こういう映画なら僕にもつくれるかもしれないと思えたんです。父が生きていたらすごく喜んでこの映画を観ただろうから。母はあまり語られたくないトリッキーな人だから、そう簡単にはいかないんですけど。

©︎2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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―幼い頃は、変わった両親に生まれて自分も変わってるなと思っていました?

間違いなく。特別っていう意味じゃなく、変わり者。僕は女性が好きなストレートな男性だけど、感情的にはトランスな部分もあって、すごく変わった人間だとは思ってましたよね。世間を気にしないボヘミアンな母は男性のようなショートパンツを愛用する働き者の建築家で、父はゲイ。家庭内での性別的役割分担が、反転してたんですよね。僕は晩年にできた子どもで年上の姉が二人いて、当時どの友達にも、第二次世界大戦と大恐慌についての話ばかりしている親はいなかった。だから僕は常に孤独を感じていて、パンクに傾倒することになる (笑)。

―子どもに対して内面をあまり見せない、強い母を持った寂しさはありました?

まぁ、そうですね。良し悪しではなく、簡単な人ではなかったですよね。僕が関わろうとすればするほど離れていくし、むしろ怒る (笑)。でも、すごく一般的な家庭のあり方だったと思うし、子ども時代の思い出が僕にとってかけがえなのないものであることは変わりないですね。もっと母が自分のことを話してくれたなら、もっと父がいつもいてくれたなら、と思ったことはありますけど。

―4年後には、映画のなかで55歳だったドロシアと同じ年になりますが、ご自身の母親について昔よりは理解できているように感じます? 

もちろん。ただ、他界して18年になる母が生きていたらとしたら、状況は全く違うでしょうね。生きている人よりも、亡くなった人といい関係を築くことはずっと簡単だから。生きていると、みんな現実的な問題を抱えているものじゃないですか、たとえ親であっても。僕がこの映画で言っているのは、親と子、特に親と子どもってお互いにすごく愛し合えるからこそ、すごく深く肝心なところで、母は子を人として、子は母を女として理解することはできないというトラップがあるということ。自分が子どもを持つと、その視点がわかるようになる。年を重ねただけ、親を見る目は変わりますよね。

©︎2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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―ドロシアのように、若者にジェネレーション・ギャップを感じることは? 

25歳くらいの子から見たら、51歳の僕なんて全然興味の対象じゃないだろうなとは思うけど、全く気にならないですね。ジェネレーション・ギャップって、ある意味年上からの一方通行な気がする。ただ、僕はインターネットの以前の世界に生まれた人だってことは強く感じます。まだ誰もそのことを考えることもなかった、ネットがどんなものなのかもわからなかった時代。SNS 社会で生きるって、産業化とか第二次世界大戦前後と同じくらい、意識をガラッと変えることじゃないですか。以前と以後では、異なる思考、関係の作り方、まったく異なる世界になったから、その違いがコミュニケーションを難しくすることは時々あるかもしれないけれど。

―誰もが SNS に自分を表現できますもんね。

世界規模でね。たとえば、ゲイの子がコミュニティを見つけられるということは、素晴らしいと思います。誰もがネット上で自分や生活をバラバラに解体して、分裂させて生きることができる。妻のミランダ (・ジュライ) がよく言っていて、本当にそうだなと思うことがあって。1930年代の映画に出てる人たちって、タバコを吸いまくってますよね。今となって振り返ると、タバコは有害だから吸わないほうがいいとわかる。それと同じで、スマホを片時も離せない僕らの映像を未来の人たちが見たら、「少しならいいけど、有害だからね」と言われるんだろうねって。

『20センチュリー・ウーマン』

-『20センチュリー・ウーマン』を観たあとの、ミランダさんの感想は?

編集段階で迷っていたときに観てもらったんですが、気に入ってくれて、「感動した! 『人生はビギナーズ』よりしたかも」と言ってくれました (笑)。女性の物語だし、ミランダ (・ジュライ) のパーソナルな物語ではないけれど、登場人物に彼女の要素もあるからだとは思うけど。それを聞いてすごくホッとしました。正直で物事を甘くは見ない人なので。

-アーティスト活動と映画監督をするとき、脳みその働きは違うんですか?

全く違うものですね、結果的には。ただし、同じスピリットからくるものではあります。たとえば、グラフィックデザインはすごく抑制された孤独な作業なので、ストーリー性というより時間内にやるものという感じ。一方で、映画は時間軸をベースにした、体験なんですよね。僕の映画づくりは、デザインやコンセプチュアル・アートの延長線上にあると思っていて。映画撮影術を使わずフレームもスチール写真みたいに撮るとか。だからデザインやペイントをするときよりハードに脳みそを使ってますね。

©︎2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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-どちらの作業もお好きですか?

最近は、映画を作り続けたいなと。そのグラフィックデザインもペイントも入れられるし。ボスは僕なんで(笑)。たとえば、今回でいうと、アビーのフォト・プロジェクトも、僕がギャラリーでやってるみたいなものなので。僕のキャリアはある意味バラバラに枝分かれしてるから、それを一つに寄せ集めることに幸せを感じるんですよね。

-ファッションにおいて、好きなスタイルはありますか?

結構、退屈なファッションが好きで (笑)。監督を始めてからは、現場に行くときは必ずスーツにネクタイ、というトラディショナルなスタイルです。もし、タイムマシーンがあるなら、1930年代のテーラーに行ってみたいくらい、当時のスーツ・スタイルは好み。毎日、父がスーツにネクタイをしていたことも影響しているんですかね。派手なのは苦手だけど、洋服も歴史も好きだから、紳士用のハットをかぶったりネクタイをしたりして遊んでいます。

-洋服はマインドセットするのに効果的、と以前おっしゃってましたよね。

監督をしてるときは、僕が船長のような存在なので、イライラしたり落ち込んだりするとクルー全体にすぐ影響するんです。だから、僕は「みんなの気持ちを思いやれる人間だ!」と自分が思い込める服装をしなきゃいけない。スーツって、自分が公的な人物だということを思い出させてくれる、一つのパフォーマンスでもあるんですよね。今日はいつもの日常じゃないぞと。

―いつもの日常で監督が幸せだなぁ、と感じる瞬間ってどんなときですか?

最近だと、特に何にもしないで息子ホッパーと一緒にぼんやりしてるときかな。彼とソファに座って本を読んだりするのは、すごく大切な時間ですね。映画を観るのもそうだし、音楽を聴いたり、アートを観るのもいいよね。美術学校に通っていた頃は、アートを嫌いになることを学んだじゃないけど、アートなんてくだらない資本主義のクソみたいなもんだと思い込んでいたところがあって。でも大人になってみると、アートいいじゃん!ってなった (笑)。だって、創造的なことほど最高なことはないし、真面目な話、アーティストが作品を創造する行為ほど厳しい精神訓練になることはないと僕は思うから。

<プロフィール>
Mike Mills (マイク・ミルズ)
1966年、カリフォルニア州バークレー生まれ、サンタバーバラ育ち。映画監督、グラフィックデザイナー、アーティストとして活動。名門、NY クーパー・ユニオンでデザインを学ぶ。アパレルブランドX-girlなどのグラフィックデザインや、Beastie Boys (ビースティーボーイズ)、Sonic Youth (ソニックユース) などのアルバムカバーデザインを担当。MV監督としても活躍し、ストリートシーンも牽引。映画監督としては、長編初監督作品『サムサッカー』(2005) に続く、第二作『人生はビギナーズ』(2010) で、インディペンデント・スピリット賞の監督賞、脚本賞にノミネートされる。本作でアカデミー賞脚本賞 (オリジナル) にノミネートされる。

作品情報
タイトル 20センチュリー・ウーマン
原題 20th Century Women
監督 Mike Mills (マイク・ミルズ)
製作 Megan Ellison (ミーガン・エリソン)、Anne Carey (アン・ケアリー)、Youree Henley (ユーリー・ヘンリー)
出演 Annette Bening (アネット・ベニング)、Greta Gerwig (グレタ・ガーウィグ) 、Elle Fanning (エル・ファニング)、Lucas Jade Zumann (ルーカル・ジェイド・ズマン)
配給 ロングライド
製作年 2016年
製作国 アメリカ
上映時間  119分
 HP  www.20cw.net
  ©︎2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
 6月3日 (土) 丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開

<Staff Credit>
Photographer: UTSUMI
Writer & Translator : Tomoko Ogawa