Interview with Derek Cianfrance

PORTRAITS | Jun 9, 2017 8:31 PM
結婚したカップルの幸福な記憶と愛の破綻を描き、多くの映画祭で高い評価を得た『ブルーバレンタイン』(2010) 。あれから7年、監督 Derek Cianfrance (デレク・シアンフランス) の最新作『光をくれた人』が公開中だ。本作は、第一次世界大戦後の西オーストラリア沖の島を舞台に、灯台守として暮らす夫婦に起こる出来事を描いている。原作は M.L.Stedman (M・L・ステッドマン) の処女作『海を照らす光』(2012) で、アメリカのスクライブナー社から出版されるやいなや、瞬く間に読者と評論家を虜にし、40カ国語以上の言語に翻訳され世界中でベストセラーとなった。
ⓒ 2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

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結婚したカップルの幸福な記憶と愛の破綻を描き、多くの映画祭で高い評価を得た『ブルーバレンタイン』(2010) 。あれから7年、監督 Derek Cianfrance (デレク・シアンフランス) の最新作『光をくれた人』が公開中だ。本作は、第一次世界大戦後の西オーストラリア沖の島を舞台に、灯台守として暮らす夫婦に起こる出来事を描いている。原作は M.L.Stedman (M・L・ステッドマン) の処女作『海を照らす光』(2012) で、アメリカのスクライブナー社から出版されるやいなや、瞬く間に読者と評論家を虜にし、40カ国語以上の言語に翻訳され世界中でベストセラーとなった。

この原作との出会いについて Cianfrance はこのように語っている。

「Steven Allan Spielberg (スティーブン・スピルバーグ) 監督が、僕が撮った『ブルーバレンタイン』の大ファンだったそうで、彼の会社ドリームワークスから「新作を撮らないか」という声がかかりました。それまではオリジナルの作品ばかり撮っていたので、原作があるものを撮ってみたかったときにこの原作を紹介されたのです。」

長い間、愛や家族の遺産、孤独、選択などをテーマにした温かみのある映画を作ることに興味を抱いていた Cianfrance は原作を読んだ時、非常に似たテーマを感じ、共感するものがあったという。

「人間関係が “孤島” のように描かれている点に惹かれた。幼い頃、実家で暮らしていた時、僕の家族はお客さんが来るとみんな変わったんだ。“理想的な自分” に変身した。そしてお客さんが帰ると、みんなリアルな自分に戻った。僕はこれまで作品の中で家族を描き、家庭内で起こっていること、隠している秘密を追求してきた。この物語は、僕が常に思い描いてきた“孤島に暮らす家族”という隠喩的なイメージを体現化していたんだ。そういう孤独を掘り下げている点に強く惹かれた。時代を超えた壮大な設定を背景に、生々しい人間の感情を描写している点にね。そして原作に驚くほど忠実に描きたかったんだ。この映画で私がもらった最も嬉しかった誉め言葉は、原作者のステッドマン自身からのものだった。試写した後、1日中泣いていたと言っていた。自分の作品が理解されたことに涙したんだよ。 「あれは、人間として私たちがお互いに理解しようとした瞬間だったわね」と彼女は言ったんだ。」

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物語の舞台はヤヌス・ロックという島だが、終わりと始まりの二つの顔を持つローマの神、ヤーヌスの名前が付けられているのは偶然ではない。トムとイザベルのキャラクターは、ヤーヌスのように、2つの対極の間にはまっている。戦争の傷跡から逃れられない過去と2人が共に希望として描く未来、世界の暗部から逃れた隠遁生活と輝く約束の光を追う生活、その時々に公平であることをすることと何が真実であるかを見極めようとすること。このすべてを映画に入れ込み、それでいて魔法にかかったようなロマンスがあり、最終的な報いもあるという点が腕の見せどころだった。原作を読み、映像化したこの物語を思い描くことができた Cianfrance は是が非でも映画化をしようと考えた。

「世界中にいる数百万のファンと同様、ステッドマンの小説に度肝を抜かれた。彼女の創作能力の素晴らしさは、暗い秘密と破滅を暗示するような決断をサスペンス風にも詩的にも描けるところで、この小説を読みながら地下鉄の中で人目もはばからず泣いたことを思い出すよ。その数年後に、この本を読みながらカフェや、公園、地下鉄で泣いている人を見かけたんだ。これは非常に人間くさい、普遍的な物語だと思うよ。人々がこの作品に魅かれるのは、愛の痛みと愛を失う辛さがすごく正直に描かれているからなんだ。そしてそれが贖罪と癒しとなる見事な表現で綴られているんだ。」

Cianfrance は Stedman からの助言を受けずに脚本を書いたが、原作者の存在は常に感じていたと語る。

「私たちは話したこともなかったが、心は深くつながっていた。彼女の言葉を経典のように扱ったよ。本は何度も読んだから、暗記していたしね。最初にこの本を読んだ時の感覚を保とうと思っていたんだ。その思いが私の道しるべだった」

『光をくれた人』

Cianfrance は原作に対して揺るぎない敬意を抱く一方で、映画館で文学作品が生き生きと蘇る神秘の秘法を見つけ出したいと懸命に努力をし続けた。彼は常々、結婚生活の破綻の原因にもなり、同時に2人を結び付けている秘密が、物語の中心テーマだと考えていた。

「映画において、秘密が明らかになる方法は、脚色に際してとても重要だった。例えば、原作では、トムとイザベルは同時に赤ん坊に関する真実を知る。しかし映画ではトムが先に知るから、観客には彼が1人で重荷を背負っているのが分かるんだ」

主役のトム役に監督自ら抜擢したのは、『SHAME -シェイム-』(2011) でヴェネツィア国際映画祭の男優賞を受賞し、また『それでも夜は明ける』でアカデミー助演男優賞にもノミネートされた演技派 Michael Fassbender (マイケル・ファスベンダー)。妻イザベル役は『リリーのすべて』(2015) でアカデミー賞助演女優賞に輝いた Alicia Vikander (アリシア・ヴィキャンデル) が演じている。それぞれのキャスティングについて Cianfrance はこのように述べている。

「脚本を書きながら、Michael はトム役にぴったりだと感じていた。Michael は映画俳優の中でも特に頭がいいし、自らの世界をしっかりと頭の中でコントロールしている。でもこれまで彼の“心”を感じたことがなかったから、善悪と愛の間で揺れ動いているこの役に挑戦してほしかった。 Michael に実際に会い、彼には可能だと確信を持った。次に、彼とバランスの取れる相手を探さなければいけなかった。イザベルはトムとは正反対で衝動的だし、感情で動く。だから感情に身を委ねられる勇気ある役者を求めていたんだ。キャスティング・ディレクターに、『風と共に去りぬ』(1939) の Vivien Leigh (ヴィヴィアン・リー) や、『こわれゆく女』(1974) の Gena Rowlands (ジーナ・ローランズ) 『奇跡の海』(1996) の Emily Anita Watson (エミリー・ワトソン) を探していると伝えたら、「Alicia Vikander に会うべきだ」と言われた。これは『リリーのすべて』や『エクス・マキナ』(2015) が出る前の話だ。彼女に会って4時間ほどのセッションを行ったんだけど、彼女はすべてを出し切ってくれた。自分をさらけ出して、失敗もしてくれた。監督にとって、役者からの最大の贈りものは “失敗” だと思うんだ。役者には悪い演技を見せてほしい、恥をかいてほしい。それができる人は、自らを評価してないからだ。抑えることなく、すべてを見せている。彼女はそれができたのさ。そういうわけで、Michael という時代を代表する名優の一人と、Alicia というノンストップで走り続け、疲れを知らないサラブレッドが揃った。2人が互いに刺激し合っているのを、監督として見られたのは光栄だった。昨日の上映を見ながら、2人をものすごく誇らしく思った。感情的にも精神的にも極限まで突き詰めてくれたからね。彼らはこの映画に魂を捧げてくれたのさ。」

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これまでの作品でも “演技” を越えたリアルを求めてきた Cianfrance は、本作でもわずかなキャストとスタッフだけで人里離れたロケ地で共同生活を行い、徹底的にリアリティを追求している。そんな撮影環境の中で垣間見えた二人の相性はとてもよかったという。

「個々に会っている時からふたりは相性がいいと思っていた。一緒にいる姿が想像できたんだ。濃密なシーンを撮影する時はいつも戸惑うけど、何を目指しているのかは明確に伝えるようにしている。イザベルはこれまで男性と付き合ったことがないし、トムも戦場にいたから、過去4年間は誰とも親密な関係を持ったことがないはずだ。彼は恐怖に駆られていて、内面は死んでいるんだ。そんな彼が生き返るのさ。だからベッドシーンではできるだけ素直に演じてもらうようにした。そしてふたりは美しく、優しく、親密な演技を見せてくれた。映画のベッドシーンは通常あまり好きじゃないんだけど、この作品のふたりの間には純粋で穏やかな絆が感じられた。脆く壊れそうな2つの魂が、互いを慰め合っている。それが美しく思えたんだ。」

そんな彼らだからこそ、生まれたシーン。それは、イザベルがトムのヒゲを剃るというものだった。普段、自身のヒゲを剃るということに慣れている男性でも、他人のヒゲを剃るというのはとても難しい。ましてや、その相手が世界的な映画俳優というのだからなおさらだ。

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「ヒゲを剃るシーンは彼らの提案だったんだ。トムはもともとヒゲがなかったんだけど、ある日 Michael が「トムにヒゲを生やして、彼女に剃らせたらどうだ」と言ってきたんだ。最高のアイデアだと思ったよ。男女の関係ってそういうものだからね。相手のために自分を変えるのさ。トムが “壁” を取り除く瞬間を見せることもできた。でもまずは、その撮影を実現させなければいけなかった。映画を撮る時、そういうのは難しいんだ。舞台裏で人々は、なぜかリアルに描かせないようにする。僕は常にリアルに描こうとしているのに。リアルな瞬間を求めているんだ。だから Alicia が Michael のヒゲを剃れるように、何か月もかけてスタジオを説得した。「刃物だから彼を傷つけるかもしれない、危険だ」と言われたけど、「傷つけるわけがない」と反論した。彼らは、事前にスタッフにヒゲを剃らせて、撮影時はシェイビングクリームをつけて剃るふりをすればいいと言ってきたが、僕は「彼女に任せればいい」と。Alicia に「自分で剃ることに抵抗はない?」と尋ねたら、不安げに「大丈夫だと思う、Michael に聞いて」と答えたんだ。だから Michael に確認したら、彼は「問題ない」と言ってくれた。そうやってあのシーンは実現したんだ、演技から自然なやりとりへと移行するのが、あそこの醍醐味なんだ。僕は自分の作品には常にそれを求めている。」

Cianfrance の緻密な演出によって、映画化が実現した本作を鑑賞した原作者の Stedman は「私はとても恵まれたわ。このプロジェクトが素晴らしい映画監督の Derek Cianfrance (デレク・シアンフランス) の手に渡ったんですもの。彼は愛情を持って非常に巧妙に原作の世界を映画に移行してくれたわ。そして完璧なキャストと撮影と音楽で完成したの。結果、この上なく美しい感動的で(原作に)忠実な映画となったわ。私の小説の世界観を受け継ぎながら、監督と俳優たちは登場人物も深く掘り下げてってくれたの。その過程をずっと見守ることができたのは、素晴らしい経験だったわ」と語った。この作品を見て観客に望むことを、Cianfrance は次のようにまとめている。

「観客にはこの素晴らしいラブ・ストーリーを存分に味わってほしい。愛と真実が交錯する古典的なテーマだ。そして最も誰の気持ちが分かるかとか、誰の選択が正しいとか、その理由なんかを話しながら劇場を後にしてくれることを願っている。」

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<プロフィール>
Derek Cianfrance (デレク・シアンフランス)
1974年生まれ、アメリカ・コロラド州出身。コロラド大学で映画製作を学び、在学中に撮った3本の学生映画は、どれも大学の最高の映画製作賞を受賞し、芸術学部長の特別賞のほか、学生映画を対象としたインディペンデント映画チャンネル賞を受賞した。23歳の時、共同で脚本を書き、監督と編集を行った初の長編映画『Brother Tied』(1998) が世界30か国以上の映画祭で上映され、フロリダ映画祭でその大胆で独特な表現に対して贈られる特別審査員賞を含む数多くの賞を受賞した。2作目の『ブルーバレンタイン』(2010)は、Ryan Gosling (ライアン・ゴズリング)、Michelle Williams (ミシェル・ウィリアムズ) らが出演。2010年サンダンス映画祭でワールド・プレミア上映され、トロント国際映画祭やカンヌ国際映画祭を含む世界中の映画祭でも上映された。本作で Derek Cianfrance はシカゴ映画批評家協会の最優秀新人映画賞を受賞した。さらに『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012) でも Ryan Gosling と再タッグを組み、ナショナル・ボード・オブ・レビュー(米国映画批評会議)から、この年のインディペンデント映画トップ10に選出された。

作品情報
タイトル 光をくれた人
原題 The Light Between Oceans
監督 Derek Cianfrance (デレク・シアンフランス)
原作者 M.L.Stedman (M・L・ステッドマン)
脚本 Derek Cianfrance
製作 David Heyman (デビッド・ハイマン)、Jeffrey Clifford (ジェフリー・クリフォード)
出演 Michael Fassbender (マイケル・ファスベンダー)、Alicia Vikander (アリシア・ヴィキャンデル)、Rachel Weisz (レイチェル・ワイズ)
配給 ファントム・フィルム
製作国  イギリス、ニュージーランド、アメリカ
製作年 2016年
上映時間 133分
HP hikariwokuretahito.com
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5月26日 (金) TOHOシネマズ シャンテ 他にて公開
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