Interview With Issey Ogata

PORTRAITS | Jun 13, 2017 6:00 PM
舞台、映画、ドラマとさまざまな分野で高い評価を得る俳優、イッセー尾形。昨年公開された、Martin Scorsese (マーティン・スコセッシ) 監督『沈黙-サイレンス-』(2017) では LA映画批評家協会賞次点に選出されるなど、海外演劇界からも厚い支持を得ている。そんな彼が次に挑むのが、互いに “戦友” と呼び合う桃井かおりとの共演作『ふたりの旅路』だ。中世の街並みが残るラトビアを舞台に、ケイコ (桃井かおり) と彼女の行方不明の夫 (イッセー尾形) は不思議な再会を果たし、すれ違いを繰り返しながらも心の再生をはかっていく。尾形が演じるのは異国の地で突然現れては消えていく、どこかつかみどころのない男。彼はこの役をどう捉え、どう演じたのか。「つかまない」という独特の役作りや作品との向き合い方について聞いた。
Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

舞台、映画、ドラマとさまざまな分野で高い評価を得る俳優、イッセー尾形。昨年公開された、Martin Scorsese (マーティン・スコセッシ) 監督『沈黙-サイレンス-』(2017) では LA映画批評家協会賞次点に選出されるなど、海外演劇界からも厚い支持を得ている。そんな彼が次に挑むのが、互いに “戦友” と呼び合う桃井かおりとの共演作『ふたりの旅路』だ。中世の街並みが残るラトビアを舞台に、ケイコ (桃井かおり) と彼女の行方不明の夫 (イッセー尾形) は不思議な再会を果たし、すれ違いを繰り返しながらも心の再生をはかっていく。尾形が演じるのは異国の地で突然現れては消えていく、どこかつかみどころのない男。彼はこの役をどう捉え、どう演じたのか。「つかまない」という独特の役作りや作品との向き合い方について聞いた。

—本作はラトビア人 Maris Martinsons (マーリス・マルティンソーンス) 監督の作品でしたが、出演のきっかけは?

桃井さんから直接、連絡があったんです。「ラトビアと神戸が舞台で、私と尾形さんは夫婦であるような、ないようなそういう関係の作品なんですが出てもらえませんか」と。あと、着物の話も聞いたかな。本当にそれぐらいだったんですけど (笑)、「やります」とお伝えしました。そこからイメージを膨らませて、僕は人形劇の紙芝居を作った (これは現在、特報映像として流れている)。それをかおりさんと監督さんに見せたら「そうです。そういう感じの映画です」って喜ばれました。

—あの紙芝居はクランクインされる前に作られたんですか? 映画の世界観そのままだったので驚きです。

そうですね。実は逆なんです。

—では、実際に脚本を読まれたときの感想はいかがでしたか?

率直にいうと「覚えづらいセリフが多いな」と思いました (笑)。そしたら、かおりさんが「ここで必要なのは決められたセリフよりも男と女の丁々発止のやりとりの方が必要だから」と不安一掃 (笑)。「あ、得意だ、じゃあ」という感じで、撮影に臨みました。

—即興で演じられることも多かったのでしょうか?

サッカーの試合みたいなもんです。一時もボールから目を離しません。

—リガの旧市街で、紋付袴姿の尾形さんと黒留袖を着た桃井さんが口喧嘩をしているシーンがすごく印象的だったのですが、あれもアドリブで?

そうそう。あのシーンは4回くらいテイクを撮ったんですが、1テイク目が使われたのかな。一番活きのいいやりとりだったから (笑)。ひとけのない深夜の街で二人は言い合いになる。僕は怒って、かおりさん演じるケイコの元からどんどん離れて行っちゃって、しまいには人の家のドアをどんどん叩いて、「もうラトビアなんか嫌いだ〜」なんて叫んだりして。さすがにそこはカットされているけど (笑)、自由にやらせてもらいました。1シーンを長回しで撮って、自由に生まれるものを映像におさめていくという感じでしたね。

『ふたりの旅路』

—ラトビア・リガの撮影はいかがでしたか?

すごく楽しい街でしたよ。中世の街並みが残っていて、どこを見ても美しくて絵になるし、カフェでコーヒーを飲んでいるだけでも気持ちがよかったですね。日本人が珍しいのか、ジロジロ見られたのも思い出深いです。あとね、生の野菜が驚くほどおいしかった。きゅうりなんて、「これがきゅうりだよなぁ!」って言いたくなる味。みずみずしくて甘くて。でも、そういう魅力はあまり他の国には知られていないそうです。ラトビアの方はちょっと引っ込み思案というか、シャイな人が多いのかな。お国自慢が苦手なのかもしれない。だからこの映画を通じて、ラトビアの魅力を味わってもらいたいですね。

—尾形さんのホームページには、リガの街並みや人々を描いたスケッチがたくさん掲載されていて、ふだんの街の様子が伝わってくるようでした。あれはいつ描かれたのですか?

カフェや道端で目の前の風景を描くこともありましたが、ほとんどがホテルの部屋に戻ってから、その日に見た風景を思い出しながら描きました。自分が見たものだけを、見た順番から描いていますから、構図とか陰影のつけ方はめちゃくちゃです。中央がすごく大きくなっちゃって、端っこが小さくなっているとかね。子供のような目で描いています。

—絵は昔から描いてらっしゃるのですか?

はい、昔からですね。僕が子供の頃、週刊マガジンとかサンデーとかがちょうど出始めたから、鉄人28号やアトムをなぞったりしていました。だから、デッサンはきっちりしてなくても「自分にはこう見えたんだから、いいや」って思いながら、今も楽しんで絵を描いています。

—絵を描くことは、演技をすることとつながっていますか。たとえば、人間観察や感情表現の参考にするなど。

うーん。それよりもっと即物的ですね。この絵を描いたんだから、僕は確かにあの時、あの場所にいたんだって、自分で確かめるような感覚です。

—今回の作品は、夢か現実かわからない、不思議な空気感がありました。尾形さんのように、その日に見たことを絵にしないと、「あれって現実だったのかな?」と不安になるような。その中で「着物」が重要な役割を果たしています。

そうですね。ラトビア国立劇場で行った着物ショーでは、客席に現地のエキストラの方が入っていたのですが、みなさん演技ではなく、本当に興味深く着物をご覧になっていて、感動していた姿が印象的です。遠い東の国からやってきた民族衣装を初めて見る方も多かったでしょうしね。あのショーを行っている団体は、この映画のためにできたグループではなくて、ふだんから着物文化を広めるために世界中を回っている方たちなんだそうです。日本の着物って格式が高いんだなと、馴れ馴れしくは近寄れない雰囲気がありました (笑)。ケイコはリガで不思議な体験を重ねるうちに逆にどんどん国籍不明の女という色を濃くしていくんですけど、きっと着物ショーの放つ光の陰となるのかな、とかおりさんの演技を見ながら思いました。ましてや僕はその相方で、いるのかいないのかよくわからない、つかみどころのない役だったので、「じゃあ、つかむのをやめよう」と思ったんです。

—つかむのをやめようというのは?

「職人気質で気難しい男」という大枠は決めておくけれど、あらかじめ「こういう男でやろう」と決めすぎると、役が逃げていくような気がしたんですね。この映画は、ストーリーや人間関係などの設定をあえてはずしている作品なので、「さっきこういうふうに演じたから、今度もこうやらなきゃ」と論理的に演じると、かえって作品の邪魔をする。それよりも大事なのは、かおりさんとどうやりとりをするか。僕の目に見えるのはかおりさんだけだから、彼女にどう語って、語られるのかというのを常に考えていましたね。

—桃井さんとは、過去に映画で共演されたり、二人芝居でタッグも組まれたりしています。尾形さんにとってどういう俳優ですか?

いろんなところで言っているけど、お互いを “戦友” と呼んでいます。

© Krukfilms/Loaded Films

—戦友というと?

一か八かの作品にばかり二人で出ているから (笑)。お客さんがまったく反応せずに席を立ち去るか、あるいはのってくれるか。そういう作品ばかりですね。以前、『太陽』(2006年) で、僕は昭和天皇、かおりさんは香淳皇后を演じたのですが、役自体すごく難しいし、ロシア映画。不安なことも多かった。だから、かおりさんと二人で芝居を組み立て、打ち合わせを重ねて、それを現場でやり、監督さんが頷いて、映像におさめていくという感じでした。こういう感じだから、これまでやってきたことが本当に綱渡りのようなんです。今回も桃井さんという心強い戦友との共演で、同じように演じました。

—出演のきっかけが桃井さんからのオファーということでしたが、桃井さんでなければ受けていなかった可能性もあるのでしょうか?

連絡があったあの時、台湾で『沈黙-サイレンス-』(2017年) の撮影をしていて、気分は前向きだったから「なんでもやる」って積極的ポジティブでした。(笑)。普段はしないような仕事も引き受けましたね。

—では、普段はどうやって作品選びをされていますか?

勘ですね。嗅覚。クンクンって鼻を効かせて。

—脚本を読んで「出たい!」と思われるということでしょうか?

もちろんそれもあるし、脚本がない状態で「こういう作品なんですけど」と、イメージの説明があり、心惹かれるものであれば引き受けます。あと、非常に熱心にオファーされると、受けちゃいますね。

—日本の作品のみならず、海外作品にも多く出演されていらっしゃいます。尾形さんの中で、海外と日本とで作品の取り組み方や意識に違いはありますか?

海外、日本という分け方ではなくて、対個人ですね。一人一人の監督に対して向き合い方が違います。ただ、これまで一緒にやってきた方々に共通していえるは、幸いにして、みなさんと価値観が似ていることでしょうか。言葉では言えないけど、演じてみないとわからないんだという点に価値を持っている。演じる前にこう撮ろうとか、こう作ろうとか、判断できない。それ、僕にはすごくわかるんです。事前に説明されるとかえって演じられない。実際、何を演じられるかはやってみないとわからないし、そういうことにこそ敬意を払う、と思ってらっしゃる方たちです。あらかじめ決められた通りに撮っていくというのはほとんどないですね。その場でじっくり時間をかけて撮る。だから、スタッフの方は戦々恐々としていますよ。「この監督は長いぞ」って思われているようなこだわる監督さんが多い。僕の場合は「一日かかると思ったけど、午前中で終わった!」とスタッフに喜ばれたこともあります (笑)。

—その場で呼吸を合わせて作っていく感じでしょうか。

そうそう。オーケストラのようですよ。監督が指揮者で、彼がすーっと息を吸い込んだら、演者スタッフがそれに合わせて動くという感じ。だからね、現場はすごく静かなんです。雑音とか怒鳴り声とかは一切ないですね。

—これまでにさまざまな役を演じられている尾形さんですが、今後、演じてみたい役や出演したい作品はありますか。

日本の終戦直後の時代に興味がありますね。人々が「これからどうなるんだ」という思いを抱えていた頃の作品があれば出てみたい。たとえば、殺されて東京湾に投げ込まれるか、大金持ちになって御殿を建てるか。そういう一か八かの、計算と欲望と金と名誉と死が一緒くたになったような世界。そういった時代をくぐり抜けて現代があると思っていますから。誰かそういうドラマ作ってくれないかな。ボクもコツコツやってます。

photo by Hiroki Watanabe

photo by Hiroki Watanabe

<プロフィール>
福岡県生まれ。高校卒業に演劇活動をスタートさせる。1981年に日本テレビの「お笑いスター誕生」で金賞を受賞。1985年に森田芳光監督『それから』で映画デビューを果たす。その後、『トニー滝谷』(2004) など数多くの作品に出演。また、台湾の名匠 Edward Yang (エドワード・ヤン) 監督の『ヤンヤン夏の思い出』(2000) や、ロシアの Aleksandr Sokurov (アレクサンドル・ソクーロフ) 監督の『太陽』(2006) など海外の作品にも出演。近作は Martin Scorsese (マーティン・スコセッシ) 監督が遠藤周作の小説『沈黙』を映画化したハリウッド大作『沈黙-サイレンス-』(2017) 。テレビドラマにも多数出演しているほか、小説『言い忘れてさようなら』や『とりあえずの愛』など著書も多い。
HP: issey-ogata-yesis.com

作品情報
タイトル ふたりの旅路
原題 MagicKimono
監督 Maris Martinsons (マーリス・マルティンソーンス)
脚本 Maris Martinsons
製作 Linda Krukle (リンダ・クルクレ)、水野詠子、Jason Gray (ジェイソン・グレイ)
出演 桃井かおり、イッセー尾形、Arturs Skrastins (アルトゥールス・スクラスティンス)、木内みどり、石倉三郎
配給 エレファントハウス
製作国 ラトビア、日本
製作年 2017年
上映時間 99分
HP futarimovie.com
© Krukfilms/Loaded Films
6月24日(土)渋谷ユーロスペース、丸の内 TOEI ほか全国順次公開

<Staff Credit>
Photographer: Hiroki Watanabe
Makeup: Mariko Kubo
Writer: Mariko Uramoto

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