Taraneh Alidoosti
Taraneh Alidoosti

女優・Taraneh Alidoosti (タラネ・アリドゥスティ) インタビュー

Taraneh Alidoosti

photography: hiroki watanabe
interview & text: tomoko ogawa

Portraits/

トランプ米大統領のイスラム教徒が多い国からの移民を制限する政策を「人種差別」だと抗議し、Asghar Farhadi (アスガー・ファルハディ) 監督とともに第89回アカデミー賞授賞式へのボイコットを表明したことが話題となった、女優 Taraneh Alidoosti (タラネ・アリドゥスティ) が初来日を果たした。

女優・Taraneh Alidoosti (タラネ・アリドゥスティ) インタビュー

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

トランプ米大統領のイスラム教徒が多い国からの移民を制限する政策を「人種差別」だと抗議し、Asghar Farhadi (アスガー・ファルハディ) 監督とともに第89回アカデミー賞授賞式へのボイコットを表明したことが話題となった、女優 Taraneh Alidoosti (タラネ・アリドゥスティ) が初来日を果たした。急速に近代化していくテヘランで揺れる若い夫婦の葛藤をスリリングに描くイラン映画『セールスマン』は、第89回アカデミー賞外国語映画賞のほか、第69回カンヌ国際映画祭の脚本賞と主演男優賞を受賞。俳優としても活動する教師エマッドの妻ナラを演じた、テヘランに生まれ、現在33歳の彼女の生の声を聞いた。

—現代のテヘランが舞台の物語ですが、ある種、文化人で現代的とも言える夫婦が事件をきっかけに、古い文化や宗教観に囚われていく様が絶妙に描かれていますよね。

主人公の夫婦は中流階級なので、初めはあまり伝統的な考えには囚われていないんです。事件が起きたときもできる限り今までの通り、あまり周りのことを気にせずに過ごそうとしているけれど、置かれている状況や周りの人が強制的に彼らを古い思考に押し戻そうとする。そういう感じだと思います。

—タラネさんご自身は、そこに共感する部分はありましたか?

うーん、それは答えるのが難しいですよね。人間って、その状況に置かれてみないとその時何を考えて、どう行動するか予想できないじゃないですか。だから、私が今言えることがあるとしたら、もしも映画で起こったようなことが自分の身に起きてしまったとしたら、自分が正しいと思う選択をして、いくら苦しくてもその選択を実行に移していきたいということですかね。できる限りで。自分は環境的にも今そういう状況には置かれていないので、どうなるかはわからないですけど、やっぱり、強い心を持っていたいなと思いますね。

—今まで私が思っていたイラン映画とは異なり、Farhadi 監督は普通の日常のホームドラマを描くことで、私たちと変わらないホームを感じさせながらも、現在の社会問題をそこに炙り出していますが、そういった映画が世界でも共感を呼んだり、賞を得たりしていることにはどう思っています?

イラン映画が広く知られたのは、やはり Abbas Kiarostami (アッバス・キアロスタミ) 監督がきっかけになったと思うのですが、すべてのイラン映画がそういうものだという印象を持ってしまった海外の配給会社や映画祭の関係者が増えたんですよ。結局、海外で公開される映画や映画祭で選ばれる映画は、キアロスタミタイプの映画だったりしましたし。

—Jafar Panahi (ジャファール・パナヒ)、Bahman Ghobadi (バフマン・ゴバディ) 監督などの作品は観たことがあります。

そうですよね。イランの中では、彼ら以外にもいろんなタイプの監督がいて、たくさんの作品が作られていますし、普通の日常をベースにした作品を作っている人ももちろんいます。Farhadi 監督の才能のおかげで、日常が描かれたものも海外の映画祭で評価されるようになりましたし、世界中の人がイラン映画を観ても、自分と関係している、自分の生活とそんなに変わらない人たちだと感じてもらえるようになった。その動きは、Farhadi 監督を含む数人の監督から始まったことなんです。たぶん、これからそういった作品を観てもらえる機会が、もっと増えると思います。

—Farhadi 監督が道を開いたということでしょうか?

うーん、そこからいきなり道が開いたということでもなくて、もちろんFarhadi 監督の映画でも、たとえば『彼女が消えた浜辺』(2009) 以前の『美しい都市』(2004・未) 、『火祭り』(2006・未) は他国でも公開されていますし、私が出演した Mani Haghighi (マニ・ハギギ) 監督の『MODEST RECEPTION』(2012) という映画もスイスなどでは公開されています。以前からそういう動きは世界で起きているので、その流れが広がっていけば、もっと多くの作品が世界で公開されるようになるんじゃないかと。

『セールスマン』

—Farhadi 監督の魅力は、イランという国の中流階級の人々を固定観念なくのぞき見ることができることだと思うのですが、タラネさんにとっての監督の魅力は何でしょう?

おっしゃる通り、中流階級の生活を描くという映画の流れはFarhadi 監督から始まったと言っていいと思います。それまでは全然異なる人たちが描かれることが多かったので、彼から他の監督も同じようなテーマに注目して、私たちの普通の生活がもっと見られることになったことがひとつ。もうひとつは、Farhadi 監督って、自分自身に対して甘んじないというか、ものすごく期待が高いんですよ。完璧主義なので、ディティールにいたるまで丹念に作り込んで書いたり、撮ったりされていますし、きちんと物語を書く人。とにかくストーリーテーリングが上手い。サスペンスの要素も入っているので、最後の最後までハラハラしながら楽しむことができる。その辺が彼の魅力なんじゃないかと思います。

—映画はいろんな世界のさまざまな考え方を知れたり、新しい扉を開いてくれるものだと私は思っているんですけど、タラネさんにとっての映画はどういうものでしょうか?

確かに、映画はいろいろな文化、人々の心を見せてくれるところがある。ただ、私たちはそれを知ることだけでなく、それを知ったうえでもっともっとお互いに近づいていけるんじゃないかと思うんですね。心の内を知ったら、彼らがそんなに自分たちと変わらないということに気づくし、だから映画というメディアは、私たちをもっともっと仲間として近づける力があるんじゃないかと思っています。

—まさに、その通りですね。今回は Arthur Miller (アーサー・ミラー) の戯曲『セールスマンの死』を演じる夫婦が、気づかぬうちに、“セールスマン” として生きた男とその家族を現実に目の当たりにすることになります。戯曲は、死ぬか適応するかという二つの道以外にないように考えてしまいますが、この映画はその二択以外の何を示唆していると思いますか?

『セールスマンの死』を読むと、確かに選択は死と生しか考えないかもしれないですが、この映画のなかではそれ以外のいろんな側面を説明していたと思います。Miller の舞台を演じる夫婦の前にいろんな問題が直面し、最後にセールスマンのおじいさんと何も知らないピュアで優しい妻と出会うことになる。まるで戯曲のウィリーとおじいさん、奥さんがダブってしまうような、まるで鏡でも見ているような感覚になります。でも、『セールスマンの死』という舞台を知らない人にも、映画を観ればそれが伝わると思いますし、ただ死と生じゃない、様々なものを映画から汲み取ってもらえるんじゃないかと私は思っています。

©︎MEMENTOFILMS PRODUCTION–ASGHAR FARHADI PRODUCTION–ARTE FRANCE CINEMA 2016

©︎MEMENTOFILMS PRODUCTION–ASGHAR FARHADI PRODUCTION–ARTE FRANCE CINEMA 2016

—本編では、他人の目を気にする女性や、思うことがあっても我慢する女性が出てきます。最近タラネさんはご自身について「男女平等を目指すフェミニスト」と Tweet して話題になっていましたが、今のイランで女性が、自分のことをフェミニストと謳うことは、周りにとってどんな印象を与えるのでしょうか?

フェミニストと言うと、まだネガティブに走るようなイメージを持たせる言葉だと思います。周囲のプレッシャーもあるので、そういう考えを持っていてもはっきり言わない女性たちはまだたくさんいるかもしれない。でも、イランの社会のなかでも少しずつ印象は変わってきていて、特に若い女性には、フェミニストだから男性と戦うとか、男性を駄目と思うのではなくて、フェミニストというのは、ただ男女の権利について平等だと考えてる人たちだという理解が少しずつですが上がってきているんですよね。もちろん男女の違いはありますが、権利のうえ、法律の上では同じ平等な人間だという考えは、少しずつ浸透してきているんじゃないかと思います。

—ヒジャブを被らない女性たちのSNS運動「#my stealthy freedom (MSF)」は、日本でも報道されています。

この活動を行なっているのは、Masih Alinejad (マシー・アリネジャド) というイランで活動していたジャーナリストで今はアメリカにいるんですが、彼女が抗議しているのは、ヒジャブは強制的ではないということだけなんですよ。女性の権利について直接的に謳ってはいないんです。

—そうだったんですね。そういう SNS を通じて知るテヘランの女性の写真だったり、もちろん映画の中に出てくる方もそうですが、みなさんとてもおしゃれでファッションへの意識が高いと思うのですが、規制がありながらも女性たちはファッションをどう楽しんでいるのでしょうか?

イランだけではなく、インド、アラブの女性を見てみてもそうですが、アクセサリー使いだったり、カラーのチョイスとかいろんなファッションに興味を持っていて、派手すぎるんじゃないかというくらい自分の見た目を美しく飾っていますよね。それは、イランでも同じで、女性たちの意識は高いと思います。綺麗な色遣いのファッショナブルな服も流行っています。限られたルールのなかでも、できる限りこだわったデザインが考えられていますし、自分のスタイルを持っている女性たちが、新しいファッションを作ったり着こなしを発表したりしていて、それは国内で報道もされていることです。特に、鮮やかな色、元気になる色を好む人が多いですね。私自身はシンプルな服装が好きだけど (笑)。枠のなかだけれど40年前からさまざまなファッションを楽しんできた女性たちがいて、彼女たちがもっと楽しめる社会に変えてきてくれたんだと思います。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

<プロフィール>
Taraneh Alidoosti (タラネ・アリドゥスティ)
1984年、イラン・テヘラン生まれ。17歳の時に出演したロカルノ国際映画祭審査員特別賞受賞作『I am Taraneh, 15 Years』(2002) で女優のキャリアをスタートさせた。Asghar Farhadi 監督とは『美しい都市』(2004・未)、『火祭り』(2006・未)、『彼女が消えた浜辺』(2009) でも組んでおり、本作が4本目の出演作となる。2017年1月、ドナルド・トランプ米国大統領が発令したイスラム国家7ヵ国の入国制限に反発し、アカデミー賞授賞式へのボイコットを Twitter で表明したことも大きなニュースとなった。

作品情報
タイトル セールスマン
原題 Forushande
監督 Asghar Farhadi (アスガー・ファルハディ)
脚本 Asghar Farhadi
製作 Asghar Farhadi、Alexandre Mallet-Guy (アレクサンドル・マレ=ギィ)
出演 Shahab Hosseini (シャハブ・ホセイニ)、Taraneh Alidoosti (タラネ・アリドゥスティ) 、Babak Karimi (ババク・カリミ)
配給 スターサンズ、ドマ
製作国 イラン、フランス
製作年 2016年
上映時間  124 分
HP www.thesalesman.jp
©︎MEMENTOFILMS PRODUCTION–ASGHAR FARHADI PRODUCTION–ARTE FRANCE CINEMA 2016
 6月10日(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー