Kiyohiko Shibukawa
Kiyohiko Shibukawa

俳優・渋川清彦インタビュー

Kiyohiko Shibukawa

Portraits/

映画『AMY SAID エイミー・セッド』で無農薬野菜を販売する役柄を演じた渋川清彦に役者としての生き様そして年を重ねることについて聞いた。

俳優・渋川清彦インタビュー

Photo by UTSUMI

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俳優マネージメント集団であるディケイドが創立25周年を記念して、自ら企画・制作した映画『AMY SAID エイミー・セッド』が 9月30日(土) より公開される。あらすじは大学時代に映画研究会に所属していた9人の仲間たちが集い、20年に渡り口を閉ざしていた、サークル内のファムファタル的存在だったエミの自死の真相について語り合うという話だ。映画製作に明け暮れた当時のノスタルジーを感じながらも、20年の時を経て、今目の前にある生活と現実を生き抜こうとする大人たちの心情を描き出すことに成功している。酸いも甘いも噛み分けた大人が見るにふさわしい青春群像劇だ。

今回インタビューさせてもらったのは、『私本当は知っているの。エミが死んだ理由』と口火を切る直子 (中村優子) を支える夫・飯田役を演じた渋川清彦。こういう役者を人間味がある人と言うのだろうか。現場に現れた渋川は飄々とした佇まいと朴訥とした口ぶりで、演技論について問いかけると煙に巻く。けれども、自分の生活やダメな部分を隠すでも飾るでもなく、こちらをまっすぐ覗き込んでニカッと笑いかける姿に、ただ魅せられてしまう。そんな彼が映画に対する愛と、自身の役者としてのスタイルそして知られざる私生活について語ってくれた。

 

 

—『AMY SAID エイミー・セッド』の脚本を渡されて読んだときの率直な感想について教えてください。

うーん、『台詞が長いな』というのが第一印象でしたね (笑)。 僕の台詞はそんなに長くないんだけど、『皆きっと大変だろうなぁ』という感じ。

確かに。吉祥寺の「SOMETIME」で映画サークルの同窓生と大学時代を懐古するシーンが映画の中心となっています。それはさながら実力派の役者同士の舌戦が繰り広げるられているようでした。現場で演じる上で意見を交わすことはありましたか?

僕は特に意見を交わすことなく、おのおの自分の演技をしていましたね。「こうきたな」「じゃあこうしてみよう」みたいな。まあ長い付き合いですから。4日か5日くらい夕方から朝までぶっ続けで同じロケ地で演技していましたからね。どっぷりその期間は役柄に浸かっていました。朝方撮影が終わると、出演陣で24時間やってるような吉祥寺の居酒屋でひとまず飲んでから帰ってというサイクルで。…大変でしたけど、朝まで飲むのは楽しかったですね (笑)。

—映画のハイライトシーンとして大橋トリオさんの書き下ろし楽曲を背景に過去の自分たちの映像を見つめるシーンがあります歳を重ねて過去を懐かしく思うことは増えてきましたか?

まあ、高校時代とか過去の思い出は懐かしくなるものだよね。脚本で共鳴したり、共感したりというより、それはただそういう事実があるというだけかもしれません。役柄にあまり引っ張られすぎるとバランスがとれなくなってしまうから。ずっとその世界に没頭できていれば一番幸せなのだけどね。

 

『AMY SAID エイミー・セッド』

—映画に紐づいて、過去と現在を比較したいのですが、19歳で Nan Goldin (ナン・ゴールディン) との出会いから始まって、そこから俳優の世界に入って演技を続けるなかで自分の演技像であったり、年を重ねるにつれてつながることや分かることはあるのでしょうか?

年を重ねて分かることなんて何もないですよ。当時、40代の人生を想像しなかったし、今50代を想像できないし。だって19歳で Matt Dillon (マット・ディロン) が出ていた映画『カンザス』(1990) で映画の世界に憧れて刺青を入れてから、性格もやってることも変わってないもの。そりゃあいくらか経験を積めば、少しばかし分かった気持ちにはなるかもしれないですけど、大概は勘違いですよ (笑)。わからないことはわからないし。だから台本に書かれていることをシンプルにやるだけ。色々と自分で考えて解釈してやりたがっちゃうものだけど、あんまり僕はそれはしないですね。

—ともすれば、演技をする上で監督に意見をぶつけていく役者さんも多いように感じますが。

僕は映画は監督のものだと思っているから。その台詞に書かれているものがすべてなんです。それが個人的に面白かろうが面白くなかろうがね。そこに書かれていることに染まっていくことと寄り添うことが大事かなと。あとは観る人が自由に解釈してくれれば、いいんですよ。

—映画の役所で「朝起きて、畑耕して寝るだけ」といった趣旨の台詞もありましたね。映画の世界を一足先に綺麗に諦めることができた男の潔さがにじみ出ていて好きな台詞なのですが、渋川さんご自身の思考がシンプルな理由はどこかにあるのでしょうか?

確かにそういう感じの役でしたね。でもそれは綺麗事だし、難しいですよねぇ。全部をシンプルにして生きていくなんて、きっと無理。僕だって日常は、昨日も嫁と喧嘩して怒られたり。今日一緒に車で実家に帰らないといけないのに、朝もぐちぐち言われたし、どうしたらいいのかねぇ。まぁだからこそ、演技をしている時くらいは余計なことを考えずにその世界に没入していたいのかもしれないね。

Photo by UTSUMI

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—現場でほかの役者に影響を受けたりすることはありますか?

そりゃあ演技が巧い人とか、ハッキリと喋れる人とか、すぐに涙をながせる人とかがそばにいると刺激にはなります。でも僕は結局別にそういう役者じゃないし、あんまり喋るのも得意じゃないから。まあ、飲んだらよく喋るんだけど (笑)。

—演技以外で歳を重ねて変化したことはありますか?

本当に自分は変わっていないなと思いますね。ファッションや身につけるものでも昔からこだわりは変わらないし。強いて20代から変わったことといえば、親とか人の言うことをきちんと聞くようになったことくらいかもしれない。「日本酒飲みすぎたら死ぬからやめろ」と言われたから我慢していますし、「飲酒運転するなよ」みたいなことに対して「わかった」って素直に言うことを聞く (笑)。二日酔いとかそういうのが社会としてダメな風潮があるから、飲み過ぎないようにも気をつけています。そのくらいかもしれないですね。

—昔も今も変わらず映画の世界に憧れてそのままで居続けられているということですね。

そうですね。結局、映画の世界に憧れて今の仕事をしていて、映画好きな仲間とお酒を酌み交わしたりしている時間がずっと楽しい。好きでやってることだから、苦労らしい苦労もそんなにないのかもしれない。

Photo by UTSUMI

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<プロフィール>
渋川清彦 (しぶかわ きよひこ)
1974年 群馬県渋川市生まれ。モデル活動を経て、豊田利晃監督の『ポルノスター』(1998) で映画デビュー。近年の主な出演映画に『そして泥船はゆく』(2014)、『ソレダケ/that’s it』、『お盆の弟』、『モーターズ』(2015)、『下衆の愛』(2016) など。公開待機作には、主演作『榎田貿易堂』などがある。また、地元・渋川市の観光大使を務める一方、サイコビリーバンド DTKINZ (ドトキンズ) のドラムとしても活動中。

作品情報
タイトル AMY SAID エイミー・セッド
監督 村本大志
脚本 村本大志、狗飼恭子
製作 佐伯真吾
出演 三浦誠己、渋川清彦、中村優子、山本浩司、松浦祐也、テイ龍進、石橋けい、大西信満、村上虹郎、大橋トリオ、渡辺真起子、村上淳
配給 ディケイド
製作国 日本
製作年 2016年
上映時間 96分
HP amy-said.com
©2017「AMY SAID」製作委員会
9月30日(土) よりテアトル新宿、10月28日(土) より渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開