Todd Haynes
Todd Haynes

映画監督・Todd Haynes (トッド・ヘインズ) インタビュー

Todd Haynes

photography: yusuke miyashita
interview & text: tomoko ogawa

Portraits/

『ベルベッド・ゴールドマイン』、『エデンより彼方に』、『アイム・ノット・ゼア』、『キャロル』といった作品を発表し続け、我々を魅了し続ける Todd Haynes (トッド・ヘインズ) 監督。自身も同性愛者である彼が映してきたのは、王道ではない社会的マイノリティの人々だったが、今回、そんな彼が初めてキッズ映画を生み出した。『ヒューゴの不思議な発明』でおなじみのベストセラー作家であり、イラストレーターのブライアン・セルズニックによる児童文学、『ワンダーストラック』の映画化だ。1927年と1977年に生きる、生まれつき聴覚障害のある少女ローズと母を失ってしまった少年ベンの神秘的なめぐりあいを描く本作に、どう惹かれたのだろうか。来日中のヘインズ監督に、本作の持つ力について話を聞いた。

映画監督・Todd Haynes (トッド・ヘインズ) インタビュー

Photo by Yusuke Miyashita

Photo by Yusuke Miyashita

『ベルベッド・ゴールドマイン』、『エデンより彼方に』、『アイム・ノット・ゼア』、『キャロル』といった作品を発表し続け、我々を魅了し続ける Todd Haynes (トッド・ヘインズ) 監督。自身も同性愛者である彼が映してきたのは、王道ではない社会的マイノリティの人々だったが、今回、そんな彼が初めてキッズ映画を生み出した。『ヒューゴの不思議な発明』でおなじみのベストセラー作家であり、イラストレーターのブライアン・セルズニックによる児童文学、『ワンダーストラック』の映画化だ。1927年と1977年に生きる、生まれつき聴覚障害のある少女ローズと母を失ってしまった少年ベンの神秘的なめぐりあいを描く本作に、どう惹かれたのだろうか。来日中のヘインズ監督に、本作の持つ力について話を聞いた。

—子ども騙しではない、自分の手で切り開く子どもたちの物語という印象を受けました。初めての子どもモノを監督する上で、その視点は意識されていました?

ブライアン・セルズニックという原作者が今回は脚本も手掛けてくれたんですが、彼自身が、大人でも怖いような大変な状況でも見事に向き合って自らの人生を前進していくことができる、そんな子どもたちのマインドや力をリスペクトしているんですよね。そもそも、そういう観点から書かれている物語なんです。

—監督自身は、セルズニックが書いた原作のどの部分に惹かれたんですか?

ベンとローズという二人の子どもの人生が50年という時を隔てて描かれていますが、僕が美しいと思ったのは、耳が聞こえない中でも彼らがそれぞれに突き進んで物語を引っ張っていくところ。映画って、台詞に依存しているものと思われがちだけれど、実は非常に豊かな台詞以外の言語をたくさん持ち合わせている。だから、この物語を描くには映画というメディアが必要だと強く感じました。

『ワンダーストラック』

—ローズ役のミリセント・シモンズが素晴らしかったんですが、全米の聴覚障害者のオーディションから彼女を抜擢した際に決め手となったのは?

ミリセント(以下ミリー)のオーディションテープを見たときに、彼女がどうやって全身を使って感じていることを表現しているかを見て、溢れる生命力、ワクワク感、強さが感じられて、「特別な子に巡り会えた!」と思って興奮したんです。ただ、映像だけでは、映画製作のプロセスを乗り切れるのか、あるいは他の役者と並んだときに負けないかはわからなかった。

—実際に会ってみて、いかがでした?

彼女はすごくエネルギーに溢れているんだけど、カメラを通して見ると、静けさというか落ち着きがある女の子なんですよ。経験値のあるプロの役者でも珍しい、今、ここにいるという存在感みたいなものがあった。ジュリアン・ムーアは僕にとって史上最強の女優の一人だけれど、彼女がミリーを見たときに、「この子は奇跡ね!」と言ったんです。ジュリアンが役者として持っている知恵みたいなものを、新人子役だし、聴覚障害もあるミリーは既に身につけていたんだよね。本当にすごいと思う。

PHOTO: Mary Cybulski © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

—ローズの声のない世界を通じて、耳が聴こえない状態を疑似体験したように感じました。もちろん、音楽は聞こえているんですが。

今回の音声トラックは、聴覚障害者が感じている世界がどんなものなのか、健常者の人々に感覚的にわかってもらえたらいいなという思いで作られています。ローズの物語では台詞は聞こえてこないから、音楽だけがかかっている。つまり、彼女の感情を音に変換して表現している。逆に、途中から耳が聞こえなくなるベンの物語では、実際に聴覚障害者が聞こえているであろう、低周波音を文字通り表現しようとしています。僕の意図としては、本作ですべての音響スペクトルをカバーしてみたかったんですよね。通常の映画では、ここまでたくさんの音質のレイヤーがあることに気が付かないし、作る必要もない。でも、今回はそれができるチャンスだったから。

—いつも題材を選ぶときに、マイノリティを描くということは意識しています?

そういうものを求めてしまう、というのはやっぱりあるかな(笑)。というのは、力を持っている人の物語は、わざわざ映画で観る必要はないと僕は思うから。そういう人たちの物語はどこにでも転がっているし、彼らの選択によって周囲の人がどういう影響を受けているのかということに目を向けたほうが面白い。だって、誰でも、生きるうえで自分の脆さや自己疑念と向き合わなければいけない瞬間ってありますよね。みんなが観たがるようなヒーローモノは、そこから一番かけ離れた世界の物語と言える。それと同時に、生きていく辛さや痛みを描く映画もある。世間は「こう生きるべきだ」と言うけれど、その道だけを真っ直ぐいくことで見逃しているものもあるかもしれない。僕が惹かれるのは、そういう物語なんですよね。それが、『ベルベット・ゴールドマイン』であったり、『アイム・ノット・ゼア』であったりするんだと思う。

PHOTO: Mary Cybulski © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

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—ヘインズ監督の作品は、台詞に依存していないという印象があります。物語を伝えるために、一番重要なのは何だと思いますか?

最近ますます大事だなと考えているのが、カメラと、カメラの位置、そしてそこにカメラを置く理由なんです。デジタル化が進んで簡単に撮影ができることから、「何を残すかは後で考えればいい」というスタイルが常識になったことで、多くの映画監督が「どこにカメラがあるのか」、「誰の視点をカメラは追っているのか」を考えることをやめてしまった。映画では、そこに見えているものよりも見えていないもののほうが多くを語ったりする。カメラの中に何が含まれているかではなく、何が除外されているかを考えることが大切。カメラについて考えることを怠けないこと。

PHOTO: Mary Cybulski © 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

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—便利じゃなかった時代には、戻れないですもんね。

そうですね。昔はカメラがでかくて重くて、カメラを動かすためにオープンセットを作らなくちゃいけなかったから、カメラのことばかり考えていたからね。それって言い換えると、レンズの心理学的要素について考えることなんです。見るという行動って、これは見て、これは見ないという行動とも言える。自分では選んでいるつもりがなくても、選択している。だから、その選択とそれが何を伝えようとしているか、なぜその選択をしたのかを考えることが重要。情熱を後回しにすると、結果、すべての映画が同じように見えてしまうことになってしまうから。

—最後に聞きたいんですが、二つの時代という設定と、オスカー・ワイルドとデヴィッド・ボウイというキーワードは、『ベルベット・ゴールドマイン』を彷彿とさせる……と思ったのですが、これは偶然なんですか?

ボウイの「スペース・オディティ」もオスカー・ワイルドの詩もブライアンの原作にあったから起用しているし、全くの偶然なんです。ただ、最初にブライアンと会ったのは、シカゴのデヴィッド・ボウイの展覧会で。そこで『ベルベット・ゴールドマイン』の上映とトークがあって、僕は今回の衣装デザインもしてくれたサンディ・パウエルと一緒にいたんだよね。しかも、ブライアンはもちろん、彼の夫も、ボウイについて大学で講義しているくらいボウイが大好きで。ブライアンはそのときは既に原作を書いていたから偶然なんだけど、僕がこの映画を作ることになったのは、間違いなく運命だったと思うよ(笑)。

Photo by Yusuke Miyashita

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<プロフィール>
Todd Haynes (トッド・ヘインズ)
1961年1月2日、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。芸術に高い関心を持ち、ブラウン大学では美術と記号学を専攻。その後NYへ移り、1987年に短編『Superstar: The Karen Carpenter Story』を監督、バービー人形を使ってカレン・カーペンターの生と死を描き注目される。91年『ポイズン』(93)で長編監督デビューを果たして以降、『SAFE』(99)、『ベルベット・ゴールドマイン』(98)、『エデンより彼方に』(03)、『アイム・ノット・ゼア』(08)など、国際的に高く評価される作品を次々に生み出す。パトリシア・ハイスミス原作「The Price of Salt」の映画化、『キャロル』(16)では、アカデミー賞®6部門、ゴールデン・グローブ賞5部門、BAFTA9部門にノミネートされるなど賞レースを騒がせ、BFIによる「史上最高のLGBT映画30」の第1位に輝いた。

作品情報
タイトル ワンダーストラック
原題 Wonderstruck
監督 Todd Haynes (トッド・ヘインズ)
脚本・原作 ブライアン・セルズニック
出演 オークス・フェグリー、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ミリセント・シモンズ
配給 KADOKAWA
製作国 アメリカ
製作年 2017年
上映時間 117分
HP  wonderstruck-movie.jp
 2018年4月から角川シネマ有楽町ほか全国で公開