Interview With Gary Card

PORTRAITS | Apr 19, 2018 9:00 PM
3月16日、日本中を沸かせた GU (ジーユー) と Kim Jones (キム・ジョーンズ) のコラボレーションラインの先行ポップアップが DOVER STREET MARKET GINZA (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) で行われた。会場の内装を手がけたのは、ロンドンを拠点に活動するセットアーティスト/彫刻家の Gary Card (ゲイリー・カード)。コラボレーションの世界観とマッチする、カラフルでファンタジーなセットを見事に作り上げた彼のバックグラウンドや仕事について話を聞いた。
Photo by Yusuke Miyashita

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3月16日、GU (ジーユー) と Kim Jones (キム・ジョーンズ) のコラボレーションラインを一足早く購入できるポップアップが、GU銀座店から100メートルと離れていない DOVER STREET MARKET GINZA (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) でスタートした。事前にネットから入場券を申し込んだ人たちは、ベージュと白の切り替えになったパンツを、あるいはピンクの刺繍が入ったデニムジャケットを、信じられない低価格で手に入れることができた。それらのアイテムはびっしりとイラストやロゴが書き込まれたカラフルなラックにかかっており、会場は祝祭的なムードに満ちていた。

そして、そのポップアップの内装を手がけたのが、ロンドンを拠点に活動するセットアーティスト/彫刻家の Gary Card (ゲイリー・カード)。もし時間があれば、Balenciaga (バレンシアガ) や Camper (カンペール) の最新の広告ビジュアルを検索してみてほしい。現代のムードをそのまま色で表したような、絶妙なトーンのセットデザインは Gary によるもの。また、彼の彫刻作品は、段ボールや布など現実的な手法を使って作られた完璧なファンタジーで、どれも目を見張るほどすばらしい。

今回は、ポップアップの準備のために来日していた彼の元を訪ね、彼のバックグラウンドや仕事についてじっくりと話を伺った。

—まずは、あなたの人となりやルーツについて聞かせてください。10代の頃は、どんな音楽や映画が好きでしたか?

子どもの頃に、僕に最も重要な影響を与えたのは Prince (プリンス) だった。

—ああ、それは確か『Interview』の記事で読みましたよ。かなり熱狂的だったんですよね。

そうだね (笑)。でも、それが自分のクリエイションにどういう影響を与えたかというと……。当時はただ消費するばかりだった。心の底から Prince のことが大好きで、彼がやることは何でも好きだった。だから、Prince と仕事をしていた人たちはみんな大好きだったし、Prince が好きだって言った人のことも、みんな好きだった。Prince に似ている音楽もまとめて好きになった。子どもの頃から、ディスコ、ファンク、エレクトロ、つまりダンスミュージック全般にハマっていて。だから、ファンカデリックやパーラメントの70年代の作品から大きく影響を受けたよ。それから80年代のニューウェーブも。Prince がニューウェーブに与えた影響は大きかったね。80年代はポストパンクが強い時代だったと思うから。

—ニューウェーブではどのバンドが一番好きでした?

リアルタイムじゃないけれど、Talking Heads (トーキング・ヘッズ) かな。David Byrne (デヴィット・バーン) のやることには何でも夢中になった。あとは、もう少し現代的なもの……例えば Phoenix (フェニックス) なんかも。

—オールタイムでいうと Prince は別格?

そうだね。僕の世界のすべてだった。

—そういえば、最前列でライブを観ていて、ステージ上のプリンスと目があったことがあるそうですね。

そう。Prince がギターを弾いていて、僕も曲に合わせて歌ってた。そしたら、Prince が僕の目をまっすぐ見つめてくれて。彼が何を思ってたか分かったんだ (笑)。僕はその日、髪を真っ白なマッシュルームカットにして、洋服は全身紫で固めてた。ちゃんとしたオタクは彼の目の前で歌ったりしないから、Prince は「コイツは一体なんなんだ?」って思ったのに違いないよ。

Photo by Yusuke Miyashita

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—映画もやはりカラフルなものが好きですか?

そうだね。『ロスト・チルドレン』(1995)、あと『バットマン』シリーズ。特に『バットマン・フォーエバー』(1995) は最高だと思う。

—最近では『ブラックパンサー』が天文学的な興行収入を記録していますが、マーベル映画はお好きですか?

うん。今はマーベル映画を観るには歳をとりすぎたけど、今でも大好きだよ。あと、Tim Burton (ティム・バートン) の作品も。子どもの頃は『ビートルジュース』(1988) に夢中だった。この作品が今の僕のDNAに組み込まれているのは、作風から明らかに分かってもらえると思うけど。『ビートルジュース』、『シザーハンズ』(1990)、それから『バットマン』の最初の2本。子どもの頃は Tim Burton にとても大きな影響を受けたよ。

—あなたが自分の作品を作り始めたのは、14歳、15歳の頃ですよね。

うん、とても若かったね。

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—そのきっかけは何だったんでしょう?

創作を始めたきっかけかぁ。僕は小さい頃に『蠅の王』(1954年に出版された William Golding (ウィリアム・ゴールディング) の小説) が大好きだったから、僕の作品は全部『蠅の王』に関連したものだった。ある日先生から粘土を渡されて、何でも好きな物を作っていいよと言われたんだけど、この小説に出てくるキャラクターや動物を作ってみたんだ。それまでそんな物を作ったことはなくて、イラストしか描いたことがなかったのに、直感でどうやれば良いか分かった。不思議な感じがしたよ。それが僕にとってのきっかけだったのかも。

—もともと頭にあるイメージを具現化する才能があったんですね。

そう思う。でも、いつでも何でも好きなものを作れる喜びを知ったのは、マスキングテープで形を作れるって分かった時かな。大学の授業でお面を作ることになったんだけど、家にマスキングテープしかなくてさ。僕の父親が棚にしまって、長い間放っておいたものだから、粘着剤がネバネバになってたんだけど、使ってみたら予想以上に面白くて。僕はマスキングテープから何でも作ることができるんだ。DOVER STREET MARKET GINZA のために作ったサングラスをかけたピエロの顔も、全部マスキングテープで作ってる。

—あなたは自身の作品を通じて、どのような感情を表現したい?

うーん、難しい質問だね。何よりも人に喜んでほしいと思っている。直感的な魅力を感じてほしい。それから、何かを介在するようなものを作りたいと思っている。僕はキャッチーな作品を作っているのは、人の目を覚まさせるような、即時に影響を及ぼすようなものにしたいから。魅力的で、楽しい作品にしたいんだ。特に、Kim Jones と GU のポップアップの内装は、大きな影響を素早く人に与えるようなものにしたかったし、たぶんそれができたんじゃないかと思っている。

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—すべての作品にそういった機能を求めているんですか?

いや、そうでもない。今プライベートワークで作っているスカルプチャーなんかは、またぜんぜん別のものだ。一部は、もっと陰鬱で、ダークで、奇妙だしね。あと、最近作った『Happy Breakfast』(ロンドンを拠点とする出版社の New World からリリースされたZINE) では、一枚の絵にどこまでたくさんの色を詰め込めるか、極限までやってみた。ただ、今回のような商業的なプロジェクトでは、魅力的で楽しいものにするようにしている。

—あなたの中でその二面性を出し分けているという明確な意識があるのでしょうか?

セットデザイナーとしては、いくつものアイデンティティーを使い分けるのが楽しい。そもそもセットデザイナーはそうあるべきだと思うし。いろんなブランドと仕事するから、ある意味コメディアンみたいにならないと。コラボレーションごとにスタイルを変えるんだ。建築的な要素が強いときもあれば、暗い雰囲気のときもあるし、活気に満ちた明るい雰囲気のときもある。だから、個人的なプロジェクトをやるときに、自分のアイデンティティーがいったい何なのか、理解しづらいときもあるよ。「自分はいったい何をしたいんだろう?」って。それが面白いよね。さっき話した『Happy Breakfast』の次は、もう少しダークで、モノトーンで、静かで、悲しい感じのものを作りたい。

—いつも自分が本当にやりたいことについて考えているんですね。

常に考えているよ。

—今は、南ロンドンで創作活動をされていますよね。街自体から、作品に影響を受けることはありますか?

ロンドンにはお金がないから、いろんなことができないといけないし、想像力を働かせて、少ない資源で創作活動ができることが大切。例えば今、LOVERBOY (ラバーボーイ) とのコラボレーションが進行しているんだけど……。

—それ、インスタグラムで見ました!

ありがとう。LOVERBOY は大きなアイディアを持ったブランドだけど、あまりお金がないから、創造性を発揮することが求められる。それがロンドンの好きなところの一つなんだ。やってみたいことは何でもできる。LOVERBOY の一員になるために、大金なんて必要ないんだ。大量のゴミ袋とお母さんの持ってる古いスカートとスカーフさえあればオーケー。だから、LOVERBOY とのコラボレーションでは、毎回何もない状態から、いかに大きくてエキサイティングなセットを作れるか、というところに挑戦してる。段ボール箱、安全ピン、ゴミ袋、スプレー、紐なんかを使ってさ。それを何年も取り組んでいるよ。それが、ロンドンの本質じゃないかな。

—東京も似たような状況なのですが、ロンドンはそれがポジティブに作用する街なんですね。

ほとんどの場合、アイディアは素晴らしいんだけどお金はない (笑)。大きなビジネスなら別だけど。ロンドンからはすばらしいファッションデザイナーが何人も輩出されているけれど、たいていお金はなくて、愛と情熱、衝動によってその地位を築いている。そういう部分には影響を受けているね。数日前に Judy Blame (ジュディ・ブレイム) (『i-D』全盛期のカヴァーや Björk (ビョーク) のアートワークで有名なスタイリスト/アートディレクター) が亡くなってとても悲しいよ。Judy は世界で初めてこの手のことをやったスタイリストの一人だった。Judy Blame が誰なのかよく知らないときから、彼の作品から影響を受けてきた。彼は、何もないところから何かを生み出した。お金がなかったら、コーラの缶を見つけて、ランプにスプレーをかけて、頭には安全ピンを飾ればいい、っていう。それって、すごくロンドンらしいと思う。Judy のような勇敢な人々が、大胆にクレイジーなことをやってのけた精神というのは、僕らがこれからも引き継いでいくものだと思う。

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—それでは、別の場所や国に住もうと考えたことはないですか?

以前は考えたこともあった。ニューヨーク移住を試みたこともあった。でも、今、別の国に住んだとしても何をしたいか、よく分からないと思って。まだまだロンドンでやりたいことがあるから、他の場所に住むメリットはないかな。僕の業界はロンドンがベースだし、セットを作るための自分のチームもロンドンにあるし。数年したら、どうか分からないけどね。

—たしかに LOVERBOY のようなロンドンのブランドにとっても、あなたのクリエイションは不可欠なんじゃないでしょうか。この相性の良さはなかなか他に見当たらないと思います。

僕にはまだ “brat” な部分があるんだ。日本語にも、“brat” に当たる言葉があると思うんだけど。何ていうんだろう? ワガママな子どもみたいな感じ。

—どういう時に、自分を子供だと感じることがあるの?

僕は仕事のための仕事をしたことがないし、そういう意味でラッキーだったんだ。自分が貢献できると感じられる仕事しかしてこなかった。ブランドの仕事でも、求められているものを与えられないと思って断ったものがけっこうある。プロジェクトの中で自分らしさを発揮できると感じられない場合は、受けないようにしている。だから、引き受けた仕事は、不可避的に自分の作品に近いものになる。せっかくエルメスの仕事をやるなら自分で誇れるものにしたいし、人に見せたときに、自分と同じくらい喜んでもらえるようなものにしたいしね。

—仕事をする時、あるいは自分の作品を作る時に、インスピレーションを求めて旅に出たり、新しい本を読んだりするようなことはありますか?

しないね。自分の作品を作るときは、それが自分の声を反映したものとなるようにしないといけないから、背伸びはしない。それがプレッシャーにもなるんだけど。僕は、もっともクリエイティブな商業的プロジェクトにおいてすら、完璧に自然なものにすべきだという願望があったりする。

Photo by Yusuke Miyashita

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—あなたのこれまで手がけてきた作品の総体を眺めていくと、そこにはブライトサイドとダークサイドの魅力的なコントラストがあります。それは、本来的には誰しもが抱えているものだと思いますが、あなたの作品は特に色濃く出ているように感じるのです。

僕もそれが魅力的だと思っているんだ。いろいろなアイディアを試してみた結果、暗いものをカラフルな世界に持ってくるときもあるし、異なる世界が一部重なることもある。コム デ ギャルソンと DOVER STREET MARKET GINZA との仕事はとてもうまくいっていると思う。だから、何年も一緒にやれているんだ。

—DOVER STREET MARKET GINZA については、どのようなイメージをお持ちですか?

異なるカテゴリのものごとが重なり合っているように見える。ブランド同士が、ある意味では対立しているんだけど、それを祝福するような感じがある。いろんなインスタレーションの中で、そういった対立や戦いが、カオス (混沌) を通じて調和するというのが素晴らしいんだ。空間を通じて、カオスそのものが美しい調和のようなものを作り出すっていう。それがこのお店の美しいところだと思う。

—ロンドンも東京もより洗練されているとは思いますが、一方でカオスは減退していますよね。

だからこそ、このお店が大切なんだ。カオスの感覚を失っていないからね。ロンドンのソーホーは、かつてカオスだった。ダークで、気持ちが悪くて、汚くて、個性にあふれていた。本当のパンク精神があって、活力があって、カラフルで、ちょっと危なかった。それが今では、ソーホーや東ロンドンから、僕が大好きだった美しいカオスの居場所がなくなってしまったように感じる。『Happy Breakfast』では、僕が愛するカオスを表現したんだ。キャンバスプリントを取り入れて、いろんな要素を混ぜ合わせて、奇妙なコラージュを作った。だから、混沌としていると同時に、とても美しい鮮やかな色合いに仕上がったよ。

—今日のインタビューでは、あなたがどんな未来への願いをこめて作品を作っているかがよくわかりました。ちなみに、自分の未来について考えていることはありますか?

究極的には、僕は彫刻家になりたいんだ。今は少しずつ前に進んでいる。でも、とても難しいよ。今はセットデザイナーとしての人生を歩んでいるから。いろんなブランドと働くのも、たくさんの人とコラボレーションするのが大好きだ。もちろん Kim と一緒に仕事をすることも。一緒に素晴らしいことができている。だけど、最終的には彫刻家に行き着くんだと思う。

Photo by Yusuke Miyashita

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<プロフィール>
Gary Card (ゲイリー・カード)
イングランド南部ドーセット南海岸のボーンマス生まれ。17歳の時にロンドンに移り住み、セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインにてシアターデザインを学ぶ。Loewe (ロエベ) や Hermès (エルメス) のクリスマスウィンドウを手がけたり、スウォッチの腕時計のデザインや、『Visionaire (ビジョネア)』59号の児童書制作にも携わる。現在36歳、ロンドンのハックニーを拠点に制作活動を行っている。
HP: www.streeters.com

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