Interview With Ruben Östlund

PORTRAITS | Apr 26, 2018 9:00 PM
映画が「自分を映す鏡」になっているとこれほどまでに思わせる監督は、なかなかいない。映されるのは、もちろん鏡の存在を意識していない自分だ。社会を、そこに浸かる現代人を風刺し、笑わせながらもチクリチクリと痛ぶってくる。Ruben Östlund (リューベン・オストルンド) は恐ろしい監督である。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で、彼は第70回カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞。「ザ・スクエア」とは、本作で登場する、「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした展覧会のこと。展覧会を企画する現代アート美術館のキュレーター、クリスティアンが巻き込まれる騒動が描かれるが、もちろん Östlund 監督、今回も他人事ではすませてくれない。前作『フレンチアルプスで起きたこと』(2015) でも感じた、ざわざわする居心地の悪さと痛烈なユーモアは健在。彼の映画はなぜこんなにも面白くて恐ろしいのか、来日中の Östlund 監督に訊いた。

映画が「自分を映す鏡」になっているとこれほどまでに思わせる監督は、なかなかいない。映されるのは、もちろん鏡の存在を意識していない自分だ。社会を、そこに浸かる現代人を風刺し、笑わせながらもチクリチクリと痛ぶってくる。Ruben Östlund (リューベン・オストルンド) は恐ろしい監督である。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で、彼は第70回カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞。「ザ・スクエア」とは、本作で登場する「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした展覧会のこと。展覧会を企画する現代アート美術館のキュレーター、クリスティアンが巻き込まれる騒動が描かれるが、もちろん Östlund 監督、今回も他人事ではすませてくれない。前作『フレンチアルプスで起きたこと』(2015) でも感じた、ざわざわする居心地の悪さと痛烈なユーモアは健在。彼の映画はなぜこんなにも面白くて恐ろしいのか、来日中の Östlund 監督に訊いた。

 

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

 

—前作もそうでしたが、こんなにいちいち当事者意識と良識を問われ続ける映画はなかなかないと思います。批判はしてもされることに慣れていないわたしたちの精神を追い詰めて、調教することが監督のもくろみなんでしょうか?

(笑)。少なくても、観ている人に挑戦はしてほしいと思ってはいますね。僕自身、同じように挑戦しているし、たとえば、「オー・マイ・ゴッド!  僕だったらどうする?」というシチュエーションを前にすると、自分が試されていることに気づきますよね。脚本を書きながら、そういうシチュエーションを見つけるのが大好きなんです。僕が考えているのは、観客だけじゃなくて僕自身のことでもあって、僕は多分観客と同じくらい、そういうシーンで試されているんだと思います。

—笑いながらも自分の中に主人公のクリスティアンを見出してしまう。人ごとでは片付けられなくなってきますよね。

僕が好きなのは、映画を観客にぐるっと向けた鏡のようにすることなんです。「彼の行動はクレイジーだよ」と言って押しのけることはできないし、耐えず自問自答をすることになる。確かに、あなたが言ったように、僕たちは観客を、彼らがいろんな視点を持てるように訓練しなくちゃいけないのかもしれない。僕自身、僕の大好きな Michael Haneke (ミヒャエル・ハネケ) や Luis Buñuel (ルイス・ブニュエル) のような監督から調教してもらってきたましたし。もちろん、僕が試されることを楽しめるようになるまではそれなりの時間はかかったけどね。

—監督は、実際に公共の場で自身の良識を問われたり、挑戦させられる機会がたくさんあったのでしょうか。

そういう機会は、まあ数回はありましたね。同じくらい、関わりたくないと思って近づかないようにしたこともあります。映画の中でクリスティアンが映画で経験することは、すべて僕自身や知人が経験したことなんです。つまり、僕の映画は机に座って書くことから生み出されるわけじゃなくて、みんなが僕に話してくれた経験をパズルのように組み立てている。たとえば、最初に女の人が「助けて!」って叫ぶシーンがありますが、それは実際に僕に起きたことなんです。「僕らが何とかしなくちゃ」と声をかけてくれた男性と一緒に、追いかけてきた男性から女性を守った。その後僕は自分がすごく誇らしくなったんだけど、興味深いのは、だから僕らはヒーローかどうかという議論になると、そうとは言えないということ。

—助けたからといって、ヒーローではない?

誰もヒーローじゃないなと思わされる瞬間が何度かあって。ハリウッドのヒーローのような人格なんて本当はいないじゃないですか。「ミルグラム実験」というとても面白い社会学の実験があるんですが、被験者は出題者、回答者に分けられて、出題者は回答者に電気ショックを与える権限を持つんです。最近またこの実験が行われて、テストに参加した人々は電気ショックが命に危険を与えると知っているのに、ほとんどの出題者が指示された通りに最後までボタンを押し続けた。「やりたくない」とボタンを押さなかったのは、共産主義で育った人と電子技師の二人だけ。つまり、ヒーローであることは、知識があるということ。電子技師は、このボルトを人間に流したら死んでしまうことがわかっているから、「ノー」と言えるんです。

—確かに知識は人を助けることができますね。監督は、思いやりってどうやって育つと考えていますか?

まず、人間のコアには、協力することに長けているというのがあると思うんです。それと、平等であることに取り憑かれている。だから、誰かが不当な扱いを受けていたら怒りますよね。それは、動物社会も同じ。僕は、人間だけじゃなく、生物というものが本来とても優しくて助け合う性質があると思っています。紛争をまず巻き起こすのは、資源となるものが不平等に配分されることですよね。金持ちと貧乏の間で対立が起きたりね。もし、もう少し平等な社会があれば、争いは少ないはずなんです。私たちが優しくあるべきだということを忘れないために、宗教や政治がある。だから、私たちの文化社会は思いやりを忘れないようにできていると僕は思ってます。

—信仰はありますか?

ないですね。僕の生きてきた北欧の文化では、宗教はもう存在していないに等しいんです。僕はアーティストだし、神様よりはサイエンスを信じているかな (笑)。

—本作では、センセーショナルな映像を流すことで人を取り込んでいくマスメディアを風刺しているような描写がありますが、監督は映画は最近のマスメディアよりも世界を変える力を持っていると思いますか?

全ての表現は、世界を変える力を持っていると思います。良くも悪くも。多くの人が見ているイメージの方が、ほかのイメージに比べて力を持つから競争が生まれますよね。大切なことは、可能な限りのたくさんの人に広めないと伝わらない。残念ながら、センセーショナルな映像を流す最近のメディアの方が、映画界よりも影響力を持っている。今は、すぐクリックできるものこそが、ものすごいインパクトを与えますからね。

©︎2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

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—アートだからと許容されてしまいがちなことについて最近よく考えるのですが、アートの怖さと自由さってなんだと思いますか?

僕はアートだからって、全てが許容されるとは全く思いません。アートも法のもとにあるものだし、もしアーティストが暴力的なパフォーマンスをして法を破れば罰せられる。だから、アートという名の下に何ができるかというのは、人間が法のもとで制限されている自由と同等だと思います。スウェーデンでは、たくさんのアーティストがその限界を押し広げていて、裁判に持ち込まれている。でも、あなたの言っていることも、まぁわかるところもあって、アートの世界って、行動の動機づけができるし、限界を押し広げることでキャリアも作れるからエクストリームになりがちですよね。でも、アートの素晴らしいところは、既存の枠組みにとらわれずに考えられるという可能性があること。普通の社会的ルールでは許されないことも、可能になることがある。そういった場合、考えることを喚起させることができる。それが自由っていうものなんだと思います。

—作品の中で物乞いやホームレスが出てきますが、ストックホルムはこの10年で変わったと思いますか?

変わったと思いますね。2004年のEUの東方拡大以降、ヨーロッパの加盟国を自由に行き来することができるようになってからは、ルーマニア人の路上の物乞いはいきなり増えましたし。10年前に比べると、もっと国際的になっていると思いますね。

—次のプロジェクトについて教えてください。

僕の妻が、ファッション・フォトグラファーということもあって、ファッションの世界の物語を考えています。タイトルは『Triangle of Sadness』っていうんだけど、目と目の間の皺を取る15分のボトックス注射のこと (笑)。辛い人生を送ってできた悲しい目の間の皺も、修正できますよっていう。主人公はもうそろそろ引退を考えている男性モデルで、自分がハゲ始めていることに気づくという話なんです。

—わ、それはまた意地悪ですね (笑)。映画を観て、もしかしたら監督はすごく意地悪な人なのではと思っていたんですが、まっすぐで誠実で思いやりのある方で、後ろめたくなりました。

登場人物にとっては、意地悪なんじゃないかな (笑)。でも僕も Michael Haneke に会う前までは、権威があるしすごく厳しい人なのかと思ってたんだけど、会ってみたら、すごくいい人で、本当に優しくて紳士で思いやりのある人だったから、その気持ちも少しわかります。

<プロフィール>
Ruben Östlund (リューベン・オストルンド)
1974年、スウェーデン西海岸の小さな島、スティルソに生まれる。2005年、長編デビュー作『Gitarrmongot (原題)』(2004) を監督。長編2作目『インボランタリー』(2008・未) がカンヌ国際映画祭のある視点部門でプレミア上映。長編3作目の『プレイ』(2011・未) はカンヌ国際映画祭の監督週間でプレミア上映され、‘Coup de Coeur’賞を受賞した。長編4作目の『フレンチアルプスで起きたこと』はカンヌ国際映画祭のある視点部門でプレミア上映され、審査員賞を受賞。数々の映画祭に出品され、16の外国映画賞を獲得。最新作である『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に初出品され、パルムドールを受賞。これまでに27の映画賞を受賞、36のノミネートを果たしている。

作品情報
タイトル ザ・スクエア 思いやりの聖域
原題 The Square
監督 Ruben Östlund (リューベン・オストルンド)
出演 Claes Bang (クレス・バング)、Elisabeth Moss (エリザベス・モス)、Dominic West (ドミニク・ウェスト)
配給 トランスフォーマー
制作国 フランス・ドイツ・デンマーク・スウェーデン
制作年 2017年
上映時間 151分
HP www.transformer.co.jp
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4月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、立川シネマシティほかにて全国公開。
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