Interview with Arata Iura

PORTRAITS | Jul 2, 2018 9:00 PM
沖縄返還問題に尽力した一人の外交官を描いた映画『返還交渉人』は、もしかすると生活の課題に追われている人々の政治意識を再び呼び起こすかもしれない。劇中では様々な主張が入り混じっているが、主人公の千葉一夫を演じた井浦新は、本作品が過去にさかのぼって正義と悪を仕分けるためのものではないと話す。

日本の平和維持に米軍基地は必要か否か。第二次世界大戦が終結してから今までその議論は平行線をたどり続け、今でもまだ解決の糸口が見えたとは言いがたい。評論家は基地賛成派と基地反対派に好き勝手にわかれて熱い議論を交わしているが、それははたして「現実」に何か変化をもたらすものになり得るのだろうか。

沖縄返還問題に尽力した一人の外交官を描いた映画『返還交渉人』は、もしかすると生活の課題に追われている人々の政治意識を再び呼び起こすかもしれない。劇中では様々な主張が入り混じっているが、主人公の千葉一夫を演じた井浦新は、本作品が過去にさかのぼって正義と悪を仕分けるためのものではないと話す。

―『返還交渉人』の撮影に入る前と実際に本作をご覧になった後とでは、沖縄の基地問題に対する感情や印象は変わりましたか?

基地問題はもちろんなんですが、僕はもともと沖縄で代々語り継がれている神話に興味がありました。だから、個人的にたびたびその神話を巡る旅に出ていて。そこで、琉球の成り立ちを追っていくと、やっぱり豊かな自然に行き着く。当たり前のようにみんな自然信仰を持っているんです。でも何も特別なことではなくて、鬱蒼と茂る木々の中に神や精霊を祀る空間がぽつんとあるっていう、要は神社みたいにわざわざという感じではなくて……

―本当にただそこにあると。

そうなんです。それが沖縄なんですよね。それで、あの地には日本人の本来の姿やアイデンティティが残っているんじゃないかと思いました。それは岡本太郎さんの書籍を読んで勉強したことでもあったんですが。沖縄でフィールドワークをしていくと、防空壕のような戦争の爪痕が目に飛び込んできて、自然の中にそれがあるのが目立つんです。だから、古の沖縄だけじゃなく近代の沖縄で起こったことも知っていなくちゃいけないなと。現地にいる年配の方にそういう負の歴史のことを聞くのはどうしても気が引けるんだけど、それでもちゃんと……

―入っていかなければいけない?

その歴史や成り立ちを他の誰かに伝えていくためにも、まずは僕がちゃんと知る必要がある。だから沖縄をまわる中で自ら学ぶ機会を意識的に作っていました。だけど、実はこれまで自分がやってきたフィールドワークの中で千葉さんの名前って出てこなかったんですよ。

―一度も?

ありませんでした。まあ僕も「沖縄返還に尽力した官僚の方は誰ですか?」という聞き方はしなかったんですが。だから、最初に脚本を読んだ時に抱いた印象は「あ、こんな方がいらっしゃったのか」っていうこと。ただ、どこか個人的に信じられないところもあったりして。すごく穿った見方をしていたから……。

―それは千葉さんがされたことに対する疑念ですか?

いや、今実際に僕たちが知っているこの国の政治のあり方と千葉さんの行動がどうしても結びつかなかった。

―ああ、なるほど。千葉さんのような方が存在したのなら、この国の政治は別のものになっていたんじゃないかと。さらに言うと、もっとマシな姿になっていたはずだということですね。

でも、千葉さんが沖縄返還のために尽力されたのは事実なので、それは本当に希望だなと思うんです。

―なるほど。

だから、諦めるべきことなんかないんだなっていう。今の政治にうんざりして、興味も失って、何も期待しないという風潮が一番危険。どんな状況においても自分の信念を貫いて、不正を許さず弱い側に立って戦い続けた人がいたことを知ったうえで、今の政治をもう一回見直してみるってことも大事なんじゃないかと思いました。だからこそ、千葉さんを演じる上でも、本人の行動やパーソナリティを美化せずに、なまなましい人間臭さをちゃんと浮き彫りにして描かなければいけないなと。この作品と出会ってから、自分のフィールドワークのやり方も変わりました。

―具体的にどう変わりましたか?

自分から千葉さんの名前を出すようにしたんです。すると、現地の人たちはだいたい知っている。年配の方になればなるほど、「そういう人の話は聞いたことがある」って。千葉さんって退職されてからも講演のために沖縄へ足を運び続けていたんです。僕と同年代でも、千葉さんの公演を見に行ったことがあるっていう人がいたりして。

―千葉さんの行動はきちんと語り継がれていたんですね。

亡くなる直前まで沖縄で自分が見てきたことをしっかり伝え続けていた。それに若い世代もちゃんと興味を持っていることに感動しました。だから、全国にもこの作品を届けるべきだなと。

©NHK

©NHK

―この映画を挑まれる前に、井浦さん自身は沖縄の基地問題に対してどういうスタンスを持っていたんですか?

沖縄に足を運ぶたびに基地問題や米軍基地に関わりのある人と知り合っていきました。離れた場所でニュースだけ見ていると、どうしても「日本に米軍なんか必要ない」っていう極端な考え方になってしまいます。もちろん「中央は沖縄の側にちゃんと寄り沿って政治をすべだ」って声をあげることは自由ですが、僕は沖縄で基地問題に直面している人たち、基地と共に生活している人たちと触れ合っているから、どちらの意見もあることを知っている。何なら、どちら側の人たちとも仲良く一緒に酒を飲んだりして。だから、答えはそんな簡単に出ない。当事者ですら答えを持っていない場合もあります。

―米軍基地と共生されている人たちから、葛藤や戸惑いみたいなものを直に感じられた?

葛藤や戸惑いというよりも、生活がただそこにあるんです。今まで戦闘機の轟音とともに“そうやって生きてきている”。生きるために基地の中で仕事をしている人もいる。米軍のために日本の食材やら物資を中に運んでいる。でもその人たちは決して嫌な仕事をしているとは思っていない。

―はい。

家族のために一生懸命仕事をしているんです。と同時に、自分の生活を全て投げ打ってでも金網の前でデモをしながら“自分たちの沖縄”を守るために戦っている人たちもいて。でも、その人たち同士で酒を飲んでも、アイデンティティがぶつかり合うことはないんです。

―ああ、なるほど。

何でかっていうと、それは「沖縄で生きているそれぞれの今があるから」。金網の前で座り込みをしている人たちも、米軍を守るために雇われている日本人の機動隊に引きずりまわされていたりする。だけど、米軍と共生している人たちに対して、「生活を投げ打て」と強制する権利は誰にもない。同じように「デモなんかやめて米軍と共に生きる道を考えようよ」って押し付けることだってできない。僕の役目っていうのは、自分の考えをぶつけることではなくて、第三者として仲介に入ること。たとえ話し合いの場で答えは出ずとも、あるいは解決の糸口を見いだせなくとも、「みんな沖縄が好きなんだ」っていう気持ちを確かめることはできるから。

―お話を聞いていて、一点引っかかったことがあります。千葉さんは井浦さんが先ほどおっしゃられた「アメリカ軍は即時撤退すべきだという極端な考え」の持ち主にも見えるんですよね。しかし、井浦さんはその主張を伝えることがこの映画の本質だとは捉えていない。今回井浦さんが担う役割についてはご自身でどう考えていますか?

現地の人たちの辛さを知って一緒に戦うっていうのも一つの手かもしれないけれど、沖縄出身ではないにも関わらず沖縄に寄り添って基地問題に立ち向かっていった千葉さんの役を演じさせてもらって、ある答えを提示していくってことより、沖縄問題を含めた日本の政治に対して日本人に気づきを与えるのが自分の役目だと思ったんですよ。さっきの質問に戻ってしまうんですけど、「僕が基地問題をどう思っているか」っていう質問に対してはけっこう簡単に答えられる。

―そうですね。

沖縄について何も知らなかった時には、「アメリカ出て行けー」っていうデモに参加していた時もありました。ただ、「アメリカ出て行けー」って日本人全員が言ったらアメリカは出て行くのかって、そんな簡単な話じゃなくて。仮に強制的に退去させたとしても、今米軍と共生している方たちはどうするのか。出て行けって言った人たちが一生面倒みていくのかっていう。沖縄問題を学べば学ぶほど、アメリカ軍に依存しない暮らしを実現させるために今僕たちがやるべきことは、例えば「そういうことがしっかりできる総理大臣を選ぶ」っていうことかもしれないと。じゃあ選挙でちゃんとした人を選ぶためには、まず自分たちがちゃんとした目を持たなければいけない。選挙権を与えられた人たちは絶対に選挙にいく。もしくは、もし今の政治に不満があるなら、みんな選挙をボイコットするとかそれくらいの行動を起こしてもいい。目の前のことをきちんと考えて選択していかないと、沖縄の基地問題も解決されない気がします。もちろん時間はかかる。その間に辺野古の自然はどんどん削ぎ落とされていくのは事実だし、それを一生懸命止めようとして運動をしている人たちがいるのも事実。だからといって、基地賛成派と基地反対派、どっちが良い悪いの話をしていても仕方ない。僕たちはもっと根本的なところから理解をして、行動を起こさなければいけない。

©NHK

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―自分の強い気持ちを主張することではなく、自分の役割をまっとうすることが大切だと。

だって、自分の気持ちを言っても極端すぎて伝わんないんですよ。日本に米軍の基地は不要。茶番だとしてもアメリカと北朝鮮がこんなに仲良くしている姿を見せてくれたら、北朝鮮のミサイルから日本を守るための戦闘機や基地なんて要らないでしょう、とか。でも「極東は平和だ。自衛隊だけで十分守れる」なんて政治家でもない僕が言っていても意味はなくて、「状況を良くしよう」という政治家を僕たちが選んで応援していくことから始める必要があるんじゃないですか。

―今はみんな「政治家は信用できない」という前提に立っている気がしますよね。

今までの政治を振り返ればそれも仕方ないのかもしれない。政治家の方の携帯にデフォルトでこの映画を入れておいてほしいですよ、本当に。自分が甘い汁を吸おうとしてしまった時、信念が揺るぎそうになった時に我に帰るために。僕は政治家全員が悪だとはもちろん思っていなくて、この状況を少しでも良くしたいって志した人たちが大勢いるはず。でも、霞ヶ関ではどこかの派閥に入って大きなものに巻かれないと政治活動を続けることができないから、本人も気づかない間に妥協してしまって、諦めている。

―そして、それはこの国の民も一緒かもしれない。

そうですね。でも、僕は返還交渉人の話がまずドラマで放送された時に、沖縄の方たちからいただいたメッセージにすごく感動したんです。「基地問題については何十年も解決しないから半ば諦めていたし、考えることすら止めていたけれど、諦めちゃいけないんだって改めて気づくことができました」って。それが僕にとっては宝のような言葉で。「命をかけました」なんて軽々しく言えることじゃないんですけど、魂を削りながら共演者のみなさんとやった甲斐があったなって感じましたし、そこでやっと大きな喜びを得ることができました。

<プロフィール>
井浦新 (いうらあらた)
1974年9月生まれ、東京都出身。映画『ワンダフルライフ』(98/是枝裕和監督)に初主演。以降、映画を中心にドラマ・ドキュメンタリー・ナレーションと幅広く活動。主な出演作品に『ピンポン』(02/曽利文彦監督)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08/若松孝二監督)、『空気人形』(09/是枝裕和監督)。『かぞくのくに』(12/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12/若松孝二監督)では日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。『ジ、エクストリーム、スキヤキ』(13/前田司郎監督)、『さよなら渓谷』(13/大森立嗣監督)、『悼む人』(15/堤幸彦監督)、『白河夜船』(15/若木信吾監督)、『光』(17/大森立嗣監督)、『二十六夜待ち』(17/越川道夫監督)、『ニワトリ★スター』(18/かなた狼監督)など。今作の監督柳川強が演出したNHKドラマ「最後の戦犯」(09 年)がテレビドラマ初主演作。今後の公開待機作として『赤い雪RED SNOW』(甲斐さやか監督)、『菊とギロチン―女相撲とアナキスト―』(瀬々敬久監督)、『嵐電』(鈴木卓爾監督)などがある。

作品情報
作品名 返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す
監督 柳川強
原案 宮川徹志
脚本 西岡琢也
プロデューサー 西脇順一郎
出演 井浦新、戸田菜穂、尾美としのり、中島歩、みのすけ
配給 太秦
制作年 2018年
制作国 日本
上映時間 100分
HP www.henkan-movie.com
©NHK
6月30日より ポレポレ東中野ほか全国順次公開
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