fumiko imano
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孤高のアーティスト fumiko imano (イマノ フミコ) インタビュー

fumiko imano

Photographer: Eriko Nemoto
Writer: Arisa Shirota

Portraits/

Loewe(ロエベ)のベージュのワンピースに身を包んだ彼女を見つけた瞬間、まるで森の中に迷い込んだ少女を見つけたかのようだった。なんとも不思議なのだが、彼女の周りにいると、おとぎ話の中に入り込んだかのような感覚に陥る。彼女の話し方や身振り、すべてが妖精のような。ヘルシンキをベースにするファッション誌『SSAW』のクリエイティブディレクターを務めるChris Vidal Tenoma(クリス・ヴィダル・テノマ)もそんな彼女の個性に強く惹きつけられている様子だった。彼女の名前は、fumiko imano(イマノ フミコ)。その“少女”はどこか不満げだった。

孤高のアーティスト fumiko imano (イマノ フミコ) インタビュー

Photo by Eriko Nemoto

Photo by Eriko Nemoto

Loewe(ロエベ)のベージュのワンピースに身を包んだ彼女を見つけた瞬間、まるで森の中に迷い込んだ少女を見つけたかのようだった。なんとも不思議なのだが、彼女の周りにいると、おとぎ話の中に入り込んだかのような感覚に陥る。彼女の話し方や身振り、すべてが妖精のような。ヘルシンキをベースにするファッション誌『SSAW』のクリエイティブディレクターを務めるChris Vidal Tenoma(クリス・ヴィダル・テノマ)もそんな彼女の個性に強く惹きつけられている様子だった。彼女の名前は、fumiko imano (イマノ フミコ)。その“少女”はどこか不満げだった。

「海外に住んで日本に帰ってくると生きづらいよね」と彼女は微笑みながら問いかけてきた。ブラジルのリオデジャネイロで2歳から8歳まで過ごし、20代前半でイギリスの Central Saint Martins (セントラル・セント・マーチンズ) でファインアートを専攻。その後、London College of Fashion (ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション) でファッションフォトグラフィーを学んだ、日本を拠点とするアーティストである。現在44歳。彼女は自分と社会の狭間で、アイデンティティを探し続けている。自分を追い求め、何事にも妥協しないもの特有の、混じり気のない純粋さが滲み出ていた。そしてようやく彼女は、今その葛藤から自由になろうとしている。

Loewe が毎シーズン発行しているルックブック『Publication』の創作にコラボレーターとして参加して以来、彼女の名前は知られるようになった。2018年春夏ウィメンズコレクションに向けて制作されたブックには、オランダ人モデルでアーティストのSaskia de Brauw(サスキア・デ・ブロウ)、そして2018-19年秋冬ウィメンズコレクションのブックの撮影には、現在最も成功しているアフリカ系ファッションモデルのLiya Kebede(リヤ・ケベデ)を引き連れた。アイコニックな双子のセルフポートレイトのスタイルで、パリのユネスコ本部ビルで撮影された作品は、どこか幻想的だ。この『Publication』への参加は彼女のキャリアにとって大きなターニングポイントとなった。メゾンブランドの制作物に携わるということは、彼女の表現が世界から認められたことを意味するからだ。自分とは何かを問い、葛藤し続けてきた先に彼女は何を見たのだろうか。

―そもそも、写真を始めたきっかけは何だったんですか?

おばあちゃんがオリンパスのカメラをくれたんです。今でも使ってるけど。その後にお父さんが40年前くらいに買ったペンタックスの一眼が出てきて。「すごい!一眼!」って。当時の私からしたら、写真はとてもロマンティックなものでした。

―Loewe のルックブックや今回の『SSAW』に寄稿されているセルフポートレイトは仮想の双子を作りだした、ある種のコラージュ作品でもあります。デジタル写真で綺麗に合成するわけではなく、アナログなフィルムを使った2枚の写真が繋ぎ合わされていますよね。

だいたい写真を繋ぎ合わせています。だから、フィルムの方が作業しやすいんですね。フィルムでなければダメっていうこだわりはあまりないというか。結構デジタル写真も好きで。

『SSAW』の Tuomas Laitinen (トゥオマス・ライティネン) と Chris Vidal Tenomaa (クリス・ヴィダル・テノマ) と一緒に | Photo by Eriko Nemoto

『SSAW』の Tuomas Laitinen (トゥオマス・ライティネン) と Chris Vidal Tenomaa (クリス・ヴィダル・テノマ) と一緒に | Photo by Eriko Nemoto

―『SSAW』とのコラボはどのような経緯で実現したんですか?

彼らとは2002年くらいにパリで出会っていて、そこからもう15年くらい続いている関係なんです。私のことを覚えていてくれて、2年くらい前も一度作品を掲載してもらいました。今回は3、4日フィンランドに滞在して、Chris が連れて行ってくれた場所で私が直感的にフレーミングを決めて撮影しました。テキスタイルデザイナーであり、ファッションデザイナーでもある Vuokko Nurmesniemi (ヴォッコ・ヌルメスニエミ) のアーカイブピースを着て。彼女はマリメッコでデザイナーをしていた人で、まんまるのワンピースとか、変わった形の洋服を着て楽しく撮影できましたね。

―自費出版で制作している作品でも、コラボレーションで制作している作品でも、セルフポートレイトのスタイルが多いですよね。どうして今の作風に辿り着いたんですか?

自分の見た目がすごくコンプレックスだったんです。いじめられていた時期もあって。自分は他人からどう見えているのか、いつも気になっていました。でも、ロンドンに行ったときに、「フォトジェニックだね」って言われたことがあって。その言葉をきっかけに、セルフポートレイトの制作を始めました。その頃『i-D』マガジンが大好きで、いつか有名になって、モデルとして『i-D』に載るのが夢だったというのもあります。それと、ロンドンでファッションフォトグラフィーを勉強していたんですけど、ファッションフォトってモデルやスタイリストやメイクさんたちとコラボして作っていくものじゃないですか。他の人のクレジットと並んで自分のクレジットが入るわけですよね。その頃の自分は精神的にすごく若くて、自分の作品が、自分だけの成果にならないのが嫌だったんです。そこで結局行き着いたのがセルフポートレイトでした。

―セルフポートレイトにこだわり続ける理由はあるんですか?

写真を見て、「これはこの人の写真だ!」ってわかる作品を目指していたんです。例えば Juergen Teller (ユルゲン・テラー) とか、アラーキーの写真は、作品を見たらすぐに彼らが撮影したということが分かりますよね。それがすごく難しくて。だけど、顔が出てくるとわかりやすいじゃないですか(笑)。ある意味、どの写真にも自分の顔のスタンプを押している感覚なんです。

―セルフィーとは違う?

そうですね。見えない観客のためにやっているところがあります。例えば女優だったら観客がいる前で演技するけど、写真は違う。でも、見てくれる人のことを考えないで作品を作ると、本当にアウトサイダーになってしまうから、将来的に見られることを意識してます。

―現在は、Loewe のルックブックの制作では M/M(paris) (エム・エム・パリス)、今回は『SSAW』と、世界中のクリエーターとコラボして制作しています。セルフポートレイトを一人で制作していた頃と比べて何か心境の変化はありましたか?

すごくあったと思います。自分だけで制作してきて、ずっと孤独感を感じていました。自分だけで作るとなると、作品に関してもそのプロセスも、全て自分の責任だし。だけど、アーティストは孤独なものだって言うから、しょうがないのかなとは思っていたんですけどね。でも、1度コラボし始めてからは慣れてきて、仕事のための写真を肯定できるようになりました。誰かと制作すると、同じ結果にならないし、自分だけで作る作品とはまた違ったものができるということを楽しめるようになりました。きっと、自分の作品が確立したからコラボにも前向きになれたんだと思います。以前は、心の余裕もなかったのかな。ずっと独りよがりでいるのって、つまらないなと思うようになりましたね。

―自分の作風が確立してくることで、心の余裕ができて、良いタイミングで各アーティストとのコラボが実現したんですね。

そうですね。15年前くらいに出会った人たちが次第に有名になり、誘われる機会が増えました。ファッションで活躍している人たちが多いですね。

―最初はロンドンでファインアートを勉強されていたわけですが、そこからファッションフォトへとシフトしましたよね。ファッションは以前から好きだったんですか?

最初はファッション好きじゃなかったんです。自分が何を着たらいいのかもわからなかった。でも、ロンドンにいた時に、セントラル・セント・マーチンズの裏に『Kokon to Zai(ココントーザイ)』っていうお店があって、そのお店が私のファッション観を変えるきっかけになったんです。そのお店のオーナーとの会話がきっかけで、Marjan Pejoski (マラヤン・ペジョスキー) のファッションショーでバックステージの撮影をすることになって、クリエーション面でかなり衝撃を受けました。そこからコレクションを3回くらい手伝ったんです。その頃の90年代のファッションは、普段は着られないような服も結構あって、今思えばファッションの全盛期だったのかも。そのショーをきっかけに、だんだんファッションに関わっている人たちが好きになってきたんです。皆、クレイジーで愛さずにはいられない人たちがいっぱいいますよね。ファッションに対するパッションで集まってくる人たちは、規格外な格好をしていて、自分らしさを突き詰めていて、そこに共感しました。

―特に好きなブランドはありますか?

COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)。長くやっているのにスピリットが変わらないし、働いている人たちも面白い人ばかり。デザイナーの川久保玲さんのことも個人的に尊敬しています。ブランドとしてクリーンなイメージを保っているし、洋服のクオリティもすごく高いと思います。

―海外をベースにする雑誌やブランドとのコラボの他、ファッションフォトグラファーのNick Knight(ニック・ナイト)が主催しているファッションデジタルプラットフォーム『SHOWstudio(ショー・スタジオ)』にも2回に渡り作品を寄稿されています。しかし、日本の企業や媒体とのコラボとしているのをあまり目にしません。日本と海外での壁を感じることはありますか?

日本ではアーティストの受け入れ体制の少なさや、長期的に海外に行った人を外人のようにみなすような不思議な風潮は感じることがありますね。その点で言うと海外では、ただリスペクトを持って作品を純粋に評価してくれるからイージーでやりやすいかな。例えば、M/M(paris) は、世界的に高く評価されている人達だけど、クリエーターを同等に扱ってくれる。そういった意味で、海外のシーンは日本よりも開かれているのかも。

―これからの展望を教えてください。

今は、iPhoneのカメラの画質も良くなって、誰もが写真を撮れる時代。私自身もイメージを見慣れすぎてしまっているせいか、写真というメディア自体に物足りなさを感じてきているんです。今は、自分が満足できる方法を探している状況。常に、自分に素直に、楽しみながら何かできたらいいな。

Photo by Eriko Nemoto

Photo by Eriko Nemoto

<プロフィール>
fumiko imano (フミコ・イマノ)
アーティスト
1974年生まれ。幼少期をブラジルのリオデジャネイロで過ごし、現在は日立市を拠点に活動している。セントラルセントマーチンズではファインアート、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションではファッションフォトグラフィーを専攻する。2002年に第17回イエール国際モード&写真フェスティバルで入選。その後、セルフポートレートによる写真作品や映像作品、インスタレーションなどを発表し、その独特の世界観が高い評価を得る。SS18から3シーズン Loewe (ロエベ) ともコラボレーションし、注目を集めている。

HP:www.fumikoimano.com