【インタビュー】Saint-Louis (サンルイ) CEO、ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール氏 - エルメスグループの世界でもっとも権威のあるクリスタル工房、その魅力にせまる

PORTRAITS | May 13, 2014 5:10 PM
2014年、そんなサンルイのアイコンともいえる「Thistle (ティスル)」シリーズが誕生100周年を迎える。それを記念した限定商品の発表にあわせて来日した、サンルイの現 CEO である Jérôme de Lavergnolle (ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール) 氏に、サンルイの魅力から、職人の独自の育成方法、同氏が考える「ラグジュアリー」の定義まで聞くことができた。

文: Frances Brittle-Matsuki  写真: 土屋文護

 

世界でもっとも権威のあるクリスタル工房であり、Hermès (エルメス) グループの一員でもある「Saint-Louis (サンルイ)」。職人の手仕事にこだわり、技術を継承しながらも現代の技術でものづくりを続けるサンルイの製品は、フランスが世界に誇る工芸品であり、その繊細かつ華麗なデザインはまさに伝統と職人技の結晶である。ダイヤモンドのように光り輝くサンルイのクリスタルは、すべてがハンドカットであり、その輝きと芸術性は、17世紀から現代に至るまで多くのファンを魅了してやまない。

そんなサンルイの歴史は古く、1586年、フランス・ロレーヌ地方にて前身のミュンツタール・ガラス工房として始まる。1767年、ルイ15世から聖王ルイ9世にちなんだ“Saint-Louis”の名称を受け「サンルイ王立ガラス工房」となる。1781年、無色透明のガラスより透明度の高い鉛を含んだクリスタルの開発に成功し、クリスタル工房の先駆けとなった。それを受け、王立科学アカデミーから「サンルイ王立クリスタル工房」という呼び名を与えられ現代に至っている。

サンルイのコレクションは多岐にわたり、グラス・花瓶・デキャンタ・燭台・シャンデリアなどを展開。とくに1850年ごろ、サンルイが発表したペーパーウェイトは、コレットをはじめとする文人や芸術家、王室の人々を魅了しフランスやイギリスで一大ブームを巻き起こした。サンルイが毎年発表するペーパーウェイトのコレクションはどれも限定数の制作であり、シリアルナンバーと製造年が明記されている。さらには1830年にサンルイが提案した「ワインごとにグラスを換える」という新しいテーブルマナーは、当時の上流階級から支持されて普及し、いまなおサンルイのグラスセットを持つことがステータスになっている。

2014年、そんなサンルイのアイコンともいえる「Thistle (ティスル)」シリーズが誕生100周年を迎える。それを記念した限定商品の発表にあわせて来日した、サンルイの現 CEO である Jérôme de Lavergnolle (ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール) 氏に、サンルイの魅力から、職人の独自の育成方法、同氏が考える「ラグジュアリー」の定義まで聞くことができた。

Photography: Bungo Tsuchiya

Photography: Bungo Tsuchiya

 

– 「Thistle」シリーズは今年で100周年ということですが、その魅力・特徴を教えてください。

今回は、100周年を記念して、ペーパーウェイトや花瓶を制作しました。もともとは「Chardon (シャルドン=あざみ)」と呼ばれていたコレクションですが、100年も前に「Thistle (ティスル=あざみの英語名)」に変更しました。サンルイの中でも、非常に歴史のある「Thistle」は、以前はゴールドのみの装飾でしたが、いまではプラチナ装飾も加わりました。サンルイの特徴が明確に表現されていて、ジュエリーのように輝きを放つのも「Thistle」の魅力です。少しでも光が差せば、グラスの中で光が反射し、クリスタルの輝きがさらに増します。

また、サンルイが制作するペーパーウェイトは、とても繊細な仕事です。1つ1つ枝を作り、1つ1つ葉も作り、1つ1つ花びらも作ります。それらを組み合わせたクリスタルの花を透明のクリスタルに閉じ込めたオブジェが今回のペーパーウェイトなのです。またサンルイの特徴の1つはその色彩の美しさにあります。他のメゾンのものと比べていただくと、サンルイ独特のニュアンスのある色彩が一目瞭然かと思います。

 

Jérôme de Lavergnolle | Photography: Bungo Tsuchiya

Jérôme de Lavergnolle | Photography: Bungo Tsuchiya

– 職人の育成と継承について、サンルイ独自の人材育成のポリシーや取り組んでいることがあると聞きました。

フランスでは「MOF (Meilleur Ouvrier de France)」といって、国家最優秀職人賞というものがあります。「MOF」というのは、フランス文化の最も優れた継承者たるにふさわしい高度の技術を持つ職人に授与される称号です。サンルイではこの「MOF」の称号を得ている職人が多数在籍しています。職人たちがこの称号を得るための準備として、通常の仕事時間とは別にプライベートで600時間以上も費やさなければ準備にたどり着くことすらできないのです。

若者がこういったガラス職人になるために、フランスでは現在2つの学校が残っています。私たちは毎年欠かさずにこれらの学校を訪れては、校内でもっとも優秀な生徒を探しスカウトしているのです。サンルイは技術力においても世界トップのメゾンなので、その道を目指す若者にとってもサンルイにスカウトされるのはもっとも名誉あることです。そしてサンルイに採用された若者は、少なくとも10年の間にさまざまな技術を身につけなくてはなりません。なぜならば、クリスタル職人というのは工芸ができるだけではなく、ありとあらゆる工程を身につけて、すべてを自分の手でできるようにならなければ一流の職人にはなれないからです。

サンルイには大きく2つの職種があります。「ホットワーク」と「コールドワーク」といわれるものです。「ホットワーク」というのは、クリスタルを吹く作業のこと。「コールドワーク」というのは製品にカットや装飾を施す作業のこと。歴史を受け継ぐために、こういった技をしっかり継承していくのはとても大事なことです。職人の技というのは決して本で学ぶことはできません。実際に先輩の動作を目でみて、観察することによって学ぶことができるのです。また、サンルイの職人たちは土曜日になると技のさらなる向上のために、社内の講習に参加することができます。また毎回テーマを決めてコンテストを定期的に行っており、優秀作品を表彰しています。現在、サンルイの職人の平均年齢は35歳〜37歳ほどで、約300人が在籍しています。

 

– 創業当時から現代まで継承していることを教えてください。

1586年当時はクリスタルではなく、ガラスをつくっていました。18世紀に入りクリスタルを製造する技術が発明されることとなり、1781年にサンルイがヨーロッパ大陸で初めてクリスタルの製造に成功しました。その時からサンルイは炉の火を一度も絶やすことなく朝から夜まで1日24時間体制で常に動いています。なぜなら炉というのは一度止めてしまうとダメになってしまうからです。このようにクリスタル自体は量産体制なのですが、そのクリスタルを仕上げるのは、すべて職人の手仕事です。吹くのもすべて人間の口で吹いていますし、カットも機械を使わずにすべて手仕事で行っています。つまり19世紀のクリスタル職人も21世紀のクリスタル職人も、やっていることがほとんど変わらないのです。いろんなものが劇的に変化しつつある現代においても、サンルイでは伝統と技を世代から世代へと受け継ぎ、そしていまもクリスタルを当時と同じようにつくっているのです。

 

– 現代生活において、サンルイがもたらしたいものとはなんでしょう?

伝統と革新がうまく混ざり合ったものをお届けしたいと思っています。サンルイはこれだけ古い工房にもかかわらず、現代性というものを常に追求し、時代を表現しているメゾンです。というのも、サンルイの製品はステータスシンボルとしてだけではなく、そのほとんどが日常的に使用できるものだからです。サンルイがもっとも大事にしていることは、毎日お使いいただけるものであるということ。テーブルであっても、装飾品、照明や芸術作品なども生活に寄り添うものを制作しています。

Photography: Bungo Tsuchiya

Photography: Bungo Tsuchiya

 

– ジェロームさんが考える「ラグジュアリー」とは何でしょうか?

私にとっての「ラグジュアリー」とは、「それしかない」特別な製品だということです。そしてまったく非の打ち所がない質を備えている製品であること。例えば、ここに2つのサンルイのグラスがありますね。まったく同じに見えますが、サンルイでは一点一点、職人がすべて手仕事でつくっていますので、きちんと観察すると微妙に違います。つまり、これは他にどこにもないあなただけの一点モノなのです。このグラスをつくった職人はあなただけのためにこれをつくったということになります。これが私の考える「ラグジュアリー」の定義です。

 

– 最後に、サンルイ製品のオススメの選び方や買い方があれば教えてください。

まず実際に目で見て触れること。なので、ぜひ一度エルメス銀座店を訪れてみてください。たくさん買い揃えなくてはいけないわけではありません。まずは1点だけ購入することから始めてみるのがオススメです。そして、コレクションを少しずつ集めていくというのが1つの楽しみ方です。私には二人の息子がいるのですが、先日、彼らに「僕たちはシャンパンやワインは飲まないし、サンルイのグラスは僕たちにとっては高級過ぎる」と言われました。しかし、それは違うと彼らに言いました。サンルイではあらゆる方々のための、さまざまな製品が用途に合わせて揃っています。ビールにしてもサンルイはビール用のグラスがありますし、フルートグラスなど長いものもあります。現代的なデザインのこの長いビールグラスで飲むと、特別な気分も味わえますし、大事な友人たちをもてなすのにもピッタリです。いまや友達が遊びに来ると、「サンルイのグラスでビールを飲まない?」と言えるのが息子たちの誇りになっています。

Jérôme de Lavergnolle | Photography: Bungo Tsuchiya

Jérôme de Lavergnolle | Photography: Bungo Tsuchiya

<プロフィール>
Jérôme de LAVERGNOLLE (ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール)
Saint-Louis CEO
監査法人勤務後、1994 年にエルメスに入社。エルメス・グループ各社での財務、監査などの経験を経て、2010 年にサンルイの CEO に就任。

Related Articles

Connect with The Fashion Post