Chim↑Pom
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アーティスト集団 Chim↑Pom (チン↑ポム) エリイインタビュー

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「落書き」「悪ふざけ」「アートじゃない」…。そうメディアに叩かれては、お騒がせ集団とも呼ばれたChim↑Pom(チンポム)。アートを理解していないのはChim↑Pomか、それとも世間か。アートを体現するエリイの言葉から、現代美術を紐解いてみたい。

アーティスト集団 Chim↑Pom (チン↑ポム) エリイインタビュー

「落書き」「悪ふざけ」「アートじゃない」。そうメディアに叩かれては、お騒がせ集団とも呼ばれたChimPom(チンポム)。アートを理解していないのはChimPomか、それとも世間か。アートを体現するエリイの言葉から、現代美術を紐解いてみたい。

2005年に結成されたアーティスト集団ChimPomは、当初から現代社会に対して挑発的ながら、どこかユーモアのある作品を次々と生み出し、注目を集める。 渋谷のセンター街で捕獲した大型ネズミを剥製にし、そのネズミたちをまるでピカチュウのように変貌させた「スーパーラット」は、彼らの代表作のひとつといえるだろう。広島市の上空にピカッという文字を飛行機雲で描いたり、渋谷駅構内に飾られている岡本太郎の壁画「明日の神話」に、原発事故を連想させる絵を付け足したり、そういった活動が批判の対象となったこともあった。

時には世間からのバッシングを受け、時にはアート界から賞賛を受ける彼らとは一体、何者なのだろうか。なかでも、ファッション界にも多くのファンを持ち、グループ内のミューズ的存在でもあるChimPom唯一の女性メンバー、エリイとは。

ブラウス ¥ 388,000 (腰に巻いたブラウスと同アイテム)、スカート ¥ 522,000 | 全て Chanel (シャネル)

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— アートに興味をもったのはいつ頃か、覚えていますか?

絵を描くことに対する興味に関しては、幼稚園の時に描いた絵を、担任の先生が褒めてくれたので「あ、そうなんだ、絵がうまいんだ」と知って、それが絵に対する初体験ですね。

— そこから成長するにつれて、自分で描くだけではなく、アーティストの作品にも興味が出てきたのですか?

それから小学校に上がっても、図工の時間が楽しくて、手もすらすら進むなっていうのがあり中学も高校も美術部でした。現代美術に出会ったのは、2001年。高校の美術選択の授業で、横浜トリエンナーレを見に行ったのがきっかけです。そこから東京のほぼ全てのギャラリーに足を運び、展覧会をたくさん観に行きました。全てが新鮮で新しい物の見方を発見した時代でした。

— エリイさんにとって、アートの魅力とは何でしょうか?

作品物体だけではなく、コンセプトによって物の見え方が変わる瞬間の体験。ひとつの角度からだけではなく、違う角度から見るとまったく意味が変わって来るのが現代美術の魅力です。

— ChimPomの作品で重要なのは、おもしろいおもしろくないかだと聞きました。そのスタンスは、結成から10年以上経った今でも変わらないですか?

そうですね。「おもしろい!」と心が反応しないと意味も価値もないな、と考えていて。面白いというのはかなり重要度が高いです。おもしろいというのは、心がザワッとしたり、平常時と違う雰囲気になったりすること。ワクワクしないで、いつもと同じ感覚で惰性的にやっていると、良いことは何もないなって思う。

— “おもしろいというアイデアから、アートとして作品になるまでは、どういったプロセスがあるのですか?

毎週サイゼリアでメンバーで会議をしていて、そこから新たな発見や体験を話したり、こういう作品をつくろうというプロジェクトを何個も同時に進めていきます。Chim↑Pom会議をして、実行に移すという感じです。

— これまでに見た ChimPom の作品の中でもERIGERO」とにかく衝撃的な映像で、「なんだこの人たちは!」って思ったのが、ChimPomに対するわたしの最初の印象だったのですが。

「ERIGERO」はChim↑Pomを結成して、一番初めに作りました。この作品はホワイトキューブの中に私が一人画面に映っていて、周りにいるメンバー達の一気コールに合わせてピンクの液体を飲んでは吐くのを繰り返す様子をビデオに収めた、パフォーマンス作品です。

— どこで飲んでいることが多いんですか?

歌舞伎町。

— そういえば、歌舞伎町のど真ん中にあるライブネットスタジオTOCACOCAN(等価交換)で、「ハジくん見えない世界へようこそ」を生放送配信していますよね。「会田誠のひとり酒」も気になるところです。そもそも結成のきっかけは、日本の現代美術家である会田誠さんだったとか。

そうですね。わたしが高校生の時に、会田さんの絵のモデルをやっていて。ちょうど、うちのリーダーや他のメンバーとかが、会田さんの家でご飯を食べていたり、出入りをしていて。そこで出会って、うちのリーダーがこのメンバーがいいんじゃないかなって言って、集めて。それまでは、メンバーのうち3人くらいとはあんまり喋ったことがなかったんですけど。

— エリイさんにとって、会田さんとはどういう存在ですか?

会田さんって、よくお酒も飲むし、すごくおもしろいんですよね。飲み友達って感じですね。あと芸術に対する態度がいいですね。

— 出会った当初から今に至るまで、二人の関係性とか距離感はどう変化しましたか?

出会った当初よりは確実に仲良くなっていますよね。もう知り合ってから10年以上経っているし。それって誰でもそうなんじゃないですか

— 師匠という感じではないのですか?

師匠ってよくいわれたりするけど、別にどっちでもよくて。会田さんもそう思ってるんじゃないかな。あとはなんにも教わってない (笑)。

ジャケット ¥ 915,000、スカート ¥ 403,000、サンダル ¥ 255,000、ネックレス (上) ¥ 204,000、ネックレス (下) ¥ 247,000、グローブ ¥ 96,000 | 全て Chanel (シャネル)

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— 社会に対して強烈なメッセージを持つ作品が多いですよね。その意図について教えてください。

アート自体が社会情勢、もしくは社会を写しているものであり、現代美術作品はその時代を切り取って形成されているので結果のアウトプットがそういう型になります。

— 昨年には、アジアの現代美術の新進アーティストを対象とした『プルデンシャル・アイ・アワード』において、最も栄誉ある「Emerging Artist of the year」を受賞。その特典として、ロンドンのサーチギャラリーでの個展が実現しました。現地での反応はどうでしたか?

とにかく、すっごいたくさん人が来たな、ということと、ヨーロッパでのささやかな基盤ができたなという感じがします。私たちの高円寺にあるアーティストランスペースに外国からその繋がりで来る人が多くなりました。

海外雑誌にもかなりたくさん載りましたね。

— 会期中は、広島市から譲り受けた大量の折り鶴が、エリイさんによって一枚の四角い折り紙に折り戻され、その紙を使って観客たちが新たな鶴を折る、というパフォーマンスが行われたそうですね。ここから生まれた大量の折り鶴が広島市に送り戻される、というプロジェクトへと繋がっていくと。

そうですね。会期中、私は現地に滞在していて、毎日ギャラリーでパフォーマンスをしました。

広島には大量の折り鶴が世界中からおくられてきていて、何十年もの間にたまった膨大な千羽鶴は、1羽1羽に祈りがこもったまさに世界平和への希求を型にしたもので、広島市は捨てるわけにもいかずそれらの保存に苦心しています。

この作品は広島市からその大量の折り鶴をもらい、私が1羽ずつ元の一枚の四角い折り紙に戻していき、その紙で観客に再度鶴を折ってもらい、それを再度広島市へ送り…というのを繰り返しました。

この「行為」だけが増え続ける平和と破壊の無限ループのスパイラルは、まさに人類の永遠の課題で、「世界平和」を批評し続ける終わりなきプロセスかなと。

日本では、批判的なことをいう人たちの意見が的外れ

— イギリスのアート誌『CCQ』の表紙を飾った写真は、まさにそのパフォーマンス場所で撮影されたみたいですね。大量のカラフルな折り鶴の山も印象的でした。海外での作品に対するリアクションについては、どう思いますか?

海外に限らず、作品を観た人たちが、いいとか悪いとか、意味があるとかないとかを言っていたとしても、そういうことを言っている人たちのことを信用していないので、褒められても褒められなくても、良いことを言われても悪いことを言われても、特になにも思わないですね。

— 日本ではポリティカルな要素が作品に入ってくると、ネガティブな報道や意見が目立ちますよね。そういった反応については、どう感じますか?

日本では、批判的なことをいう人たちの意見がちょっと的外れなんですよね。なにもわかっていないし、こっちからコメントを返すに値していないというか。なにも知らないで言ってきている暇な人たちなので。でも、それは褒めてくれる人にもいえることなんですよね。なにが良いのか、わかっていないで言っているっていう。

— 2008年には、「日本のアートは10年遅れている」というタイトルの個展を行いましたね。アートを見る人たちの目が、日本では特に遅れていると、今でも感じますか?

というか、世界でも遅れていると思う。ほとんどの人たちがクソみたいなパンピーで、なにも知らないでいるし、なにも思わずに暮らしてる。だから日本は世界に比べてもっと遅れているけど、他の国だって遅れていると思う。

— アートと呼び名がついた途端に、なんだか難しいものと感じる人も多いかと思います。そういった人たちがアートを身近に感じられるようになる方法はあると思いますか?

う~ん。そういう人たちはアートというよりも、デザインとかを見てアートを感じたと勘違いして楽しんでいればいいんじゃないかな。

— 同じアジアでも、中国のアート市場は近年盛り上がっていましたよね。近隣国でのそういった盛り上がりが、気になったりはしますか?

中国のアートの市場が盛り上がっているという話になるのは、大抵オークションやアートフェアとかでの売買がメインなんで、Chim↑Pomの活動とは直接関係ないかなって思いますね。そっちの世界と私たちの世界は少し違うんですよね。そもそも、売買のシーンと美術としてのシーンって、重なっているところはもちろんあるけど、根本は違うから。

— それでは最後に、これから何十年先もアーティストでいたい?

そうですね、生まれ変わっても芸術家!

 

Ellie 20160411

エリイ
アーティスト。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。アーティスト集団ChimPomの紅一点メンバー。映像作品を中心に、インスタレーションやパフォーマンスなど、さまざまなメディアを駆使して、作品を発表し続けている。ChimPomとしては、著作に『ChimPomチンポム作品集』、『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』、『芸術実行犯』がある。

HP: chimpom.jp

Editor Shunsuke Okabe
PhotographerYusuke Miyashita
Makeup & HairRie Shiraishi
Interviewer & WriterEri Takahashi
問い合わせ先/シャネル (ファッション) 0120-525-195
HP: www.chanel.com