José Neves
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Farfetch (ファーフェッチ) 起業家、José Neves (ジョゼ・ネヴェス) インタビュー

José Neves

Portraits/

“eコマース界のフィクサー”、“ファッション・ユニコーン”、“ビリオンダラー・プレイヤー”…1974年ポルトガル生まれ。世界32カ国にて展開されるファッションeコマースサイト Farfetch (ファーフェッチ) の起業家として知られる José Neves (ジョゼ・ネヴェス)  がテクノロジーに興味を持ったのは、8歳の頃だったという。インターネット黎明期において、コーディングやプログラミングを習得した彼は、ポルト大学在学中にテクノロジーに特化した会社を立ち上げている。

Farfetch (ファーフェッチ) 起業家、José Neves (ジョゼ・ネヴェス) インタビュー

Editor – Shunsuke Okabe

 

“eコマース界のフィクサー”、“ファッション・ユニコーン”、“ビリオンダラー・プレイヤー”…1974年ポルトガル生まれ。世界32カ国にて展開されるファッションeコマースサイト Farfetch (ファーフェッチ) の起業家として知られる José Neves (ジョゼ・ネヴェス)  がテクノロジーに興味を持ったのは、8歳の頃だったという。インターネット黎明期において、コーディングやプログラミングを習得した彼は、ポルト大学在学中にテクノロジーに特化した会社を立ち上げている。

そして若き起業家が、テクノロジーの次に目を向けたのが、ファッション。最初の起業から僅か2年後には、初となるシューズブランドを立ち上げ成功を収めている。

今やファッション、テクノロジーの垣根を越えて時代を席巻する José に、インターネット時代におけるファッションビジネスのあり方を問う。

 

– 今やeコマース時代の寵児としての文脈で語られることも多いですが、本格的なキャリアのスタートはシューズブランドのショップだったと伺いました。

 

実を言うと、リテールの世界に入るまでは専らポルトガルでテック業界の住人で、ファッションビジネスに関係したソフトウェアを開発していたんだ。ロンドンでシューズブランドの SWEAR (スウェア) をはじめたのは1995年のこと。そこからリアル店舗でのファッションビジネスに着手した後に、様々な立ち上げ事業にも携わってきた。

ファッションというフィルターを通して消費者と関わることが出来るのは貴重な経験だったけど、そこからより幅広い視点でビジネスを展開したくなった。こうして誕生したのが、ファッションのライセンス事業とホールセールを手がけるショールーム SIX London (シックス ロンドン)。SIX London は世界600もの小売店との取引を手がけるビッグビジネスになった。

これらの経験を生かしてセレクトショップ bstore (ビーストア) を2001年に立ち上げたんだけど、ここでの業績が評価されて2006年には British Fashion Award (ブリティッシュ・ファッション・アワード) のリテール部門で優勝することになったんだ。

 

– テック畑からファッションの世界へと転身を遂げたわけですが、それと同じくリアル店舗からeコマースに鞍替えするのも大きな変化だったのではないでしょうか?

 

eコマースとはいえ、Farfetch のコンセプトはあくまでリアル店舗をウェブ上でコミュニケーションすることだったから、全くの別業種というわけでもなかったよ。例えばヨーロッパの路地裏に佇む小さなブティックで取り扱っている商品を、世界中のウェブユーザーに共有することで、今まで考えもしなかった新たなマーケットを形成することができる。Farfetch は今や世界32カ国、店舗数にして320以上ものセレクトショップがパートナーとして加わっていて、10都市でオペレーションを行っているからね。

その中で重要だと考えたのが、ハイエンドな世界観を保ちながらセールスのサポートをするということなんだ。リアル店舗だけを基軸に考えてしまうと、どうしてもビジネスの規模に限界がある。そこで Farfetch がウェブを通して世界中のユーザーにアピールすることで、ショップ各々の独自性を高め、バイイングに専念することが出来るんだ。

ポルトガルにある Farfetch のグローバルオフィス | © Farfetch

– 今や人々の生活に無くてはならないeコマースですが、テクノロジーとリテールにおいてラグジュアリーファッションの世界は後進的だと言わざるを得ません。それについて以前『Business of Fashion (ビジネス・オブ・ファッション)』のインタビューで「ファッションはダウンロード出来ない」と語っていらっしゃったのが印象的でした。

 

その時のインタビューでも少し話したんだけど、現代のファッションの世界において、オンラインと実店舗、そのいずれが欠けても成り立たないというのが僕の考えなんだ。瞬く間に変化し続けるデジタル社会において、昔ながらのやり方にとらわれていてはビジネススキームとしては十分だとは言えないね。これからのリテールにおいて、デジタルテクノロジーをいかにパワフルに、なおかつシームレスに織り交ぜていくかということが重要なんだ。

逆にeコマースをベースに考えると、実際のカスタマーとのコミュニケーションを取ることが出来る場といえばカスタマーサービスだね。フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが少なくなった今だからこそ、人と人が関わりあうカスタマーサービスの重要性を見直す必要がある。

 

– eコマースサイトで買い物をするカスタマーが、ラグジュアリーブランドのような高価なものを購入したくなるには、何が必要だと思いますか?

 

利便性の高さ、優れたカスタマーサービス、そしてインスピレーションに溢れていること。この3つは、たとえラグジュアリーブランドに限った話でなくても必要不可欠だね。利便性とカスタマーサービスの重要性は言わずもがな。それでは、オンライン上でいかにインスピレーションを与えられるか。例えば Farfetch のサイトを見てもらえれば分かると思うんだけど、サイトでは通常の商品ページだけでなく、気鋭デザイナーのインタビューやシーズン毎に掲載される特集コンテンツ、スタイリングのエキスパートによるファッションストーリーなど、豊富な関連コンテンツが紹介されている。無機質な通販サイトでは消費者の感情に訴えかけることは出来ない。その為にこれらエディトリアルは重要な役割を果たしているんだ。

何か特定のものを探している消費者が、インスピレーションを掻き立てるエディトリアルを目にすることで、今まで意識していなかったアイテムにも目が向けられる。eコマースにおいても、やはりクリエイティビティは無くてはならない要素なんだ。

 

– ファッションのeコマース市場は、Farfetch が立ち上がった8年前と現在で大きく様変わりしているのでは無いでしょうか?

 

まず根本的な消費者の気持ちを代弁すると、実際の店舗で買い物をするのと、eコマースサイトで買い物をするとき、時間と物量の制約という点において大きな差異があるということ。例えばセレクトショップで買い物をするとき、当然お店に足を運ぶための時間がかかるよね。そのうえ、店舗のスペースには限界があるから、お目当てのアイテムが置いてある保証は無い。

 

– 特にラグジュアリーな世界観を打ち出すショップでは、店頭に商品を多く並べすぎないのが通例です

 

その通り。だからこそ、時間、物量という2点で制約が生まれるんだ。その一方で、eコマースには物量の制限が無い。特に Farfetch で言えば、世界中のセレクトショップで取り扱っているものを、そのままオンラインに集約しているから、選択肢は星の数ほどある。そして特定のアイテムを探すにしても、ブランド、アイテム、カラー、その他ありとあらゆる条件で簡単に検索出来る。

もしかしたらこの大きなギャップに、8年前のユーザーは困惑していたかもしれない。そもそもインターネットで何十万もするドレスを買うことに、懐疑心を抱いていた人も多いかもしれないね。

だからこそ、さっきも言ったカスタマーサービスを通じたコミュニケーションが信頼を獲得するための重要なパーツだと信じている。そして少しずつ信頼を獲得してきたeコマースだけど、今まさに次のフェーズに差し掛かっているんじゃないかと僕は思うんだ。

 

– 次のフェーズとは?

 

僕が言いたいのは、インターネットの特性や優位な面を、より実社会に溶け込ませるということなんだ。1つめは、より実際のライフスタイルに即したコンテンツを提供すること。さっき言ったファッションストーリーや、お勧めのアイテムをピックアップしたフィーチャーなんかがそれだね。デジタルならではのビジュアルコンテンツで、膨大な数の商品からオススメを効果的に提案出来る。そしてもう一つ、インターネットで “ポチッ” としたアイテムを、実際の店舗で受け取ることが出来るのも今の時代だからこそ出来る仕組みだね。

 

– 最近よく聞く、オムニチャネルというやつですね。

 

そうだね。オムニチャネルは簡単に言えば、物流と実店舗、オンラインショップの3つが統合的にコントロールされている環境のことなんだけど、実際に Farfetch ではネットで購入したものを、一部のパートナーであるセレクトショップで受け取れるんだ。

 

– 正直オムニチャネルがどう便利なのか、あまり想像出来ないんですが…

 

そうだね、例えばパリの L’eclaireur (レクレルール) で置いているアイテムを Farfetch で購入したとする。アメリカに住んでいる人だったら、パリでしか置いていないものをネットで買えるのは便利だけど、さらに実際にアイテムを受け取るのを店舗に指定することで、自分が受け取れる時に店に足を運び、その場で試着することも出来る。こうして集客に繋がれば、店側にとっても新たな顧客を獲得する契機となり得る。

もっと言えば、世界中を旅する顧客にとって、旅先で注文したものを受け取れるという便利な一面もある。実店舗を持たない Farfetch だからこそ、パートナーのセレクトショップをハブにして有効活用してもらえたらと願ってる。今はまだ一部の店舗でしか展開していないけど、将来的にはこのサービス を世界中の店舗に広めていきたいんだ。

 

– 先日ロンドンの老舗セレクトショップの Browns (ブラウンズ) を Farfetch が買収したことでも大きな話題となりましたが、このニュースの裏には今言ったような将来的な展望があったということですね

 

まさにその通り。Browns と Farfetch は約2年間パートナーとして関係を築いてきた。今後オムニチャネル戦略に注力する中で、Browns は最適のパートナーだと感じたんだ。

小売業界における未来を見据えて進歩し続けること、試行錯誤をし、デモンストレーションし、そして新たなイノベーションを見出すことというビジョンを、僕らは共に強く信じている。そしてこの将来図が、今後世界中に広くあまねく浸透していったらと願っているんだ。

さらにオムニチャネルとはまた違ったアプローチで、僕たちが提供しているサービスの中に「Farfetch & Away (ファーフェッチ&アウェイ)」というのがあるんだ。簡単に言えば、バカンスシーズンを地中海で過ごす顧客のために、Farfetch でオーダーしたアイテムを主要な港にヨットで届けるというサービスだね。これだけインターネットが普及した現代において、いつどこにいても欲しいアイテムを手にすることが出来るというのが僕たちの思い描く理想図なんだ。それがたとえ、海の上であったとしてもね。

 

– これでクルージングパーティーで着るスーツをいつどこにいても受け取れるということですね。ラグジュアリーファッションマーケットと言えば、ヨーロッパに加え近年では BRICs (ブラジル、ロシア、インド、中国) や中東など、新興の経済大国の影響力が大きいのではないでしょうか?

 

中国、ロシア、中東の経済成長が目覚しいのは想像の通り。とはいえ、どの国であってもラグジュアリーカルチャーを享受する顧客層はある一定数いるというのが僕の持論だから、経済規模だけでは語るべきでは無いんじゃないかな。

実際、この1年の間に Farfetch は日本とオーストラリアからも供給を開始したんだけど、この2国にはそれぞれ素晴らしい現地のデザイナーがいるよね。彼らのクリエイションをグローバル規模で支援出来たら、僕の目標に少しだけ近づいたと言えるんじゃないかと思ってるんだ。

 

– あなたの思い描く目標について、もう少し教えてもらえますか?

 

まず、Farfetch を通してグローバル規模のオムニチャネル戦略を構築することは、僕たちが目指す目標の一つだね。今年に入ってから、また新たに資金を調達し、スペイン語、ドイツ語、韓国語のサイトを開設したことで、現在9カ国語に完全対応するシステムを作り上げた。このことによって、これまで以上に幅広い国や地域それぞれの言語、通貨でサイトを利用出来るようになった。

もう一つ、ファッションの枠を飛び出して僕らが挑戦していることの一つにスマートフォンアプリの「Farfetch Discover」がある。これは、世界中の都市のトラベルガイドを、サイトと同じ言語で利用出来て、なおかつファッション関係の人たちがおすすめするロケーションやレストラン、ショップを紹介するサービスなんだ。

ファッションで言えば、今特に力を入れているのがメンズウェア。メンズウェアは近年大きく成長しているのに加え、メンズの顧客はウィメンズとはまた違う趣味趣向を持っているから、このターゲットが満足するコンテンツを提供するために、メンズ専用のサイトをローンチした。

これからローンチするもので言えば、MYSWEAR (マイスウェア) かな。実は MYSWEAR は、僕が90年代半ばにローンチしたシューズブランドの SWEAR (スウェア) と、Farfetch による初のコラボプロジェクトなんだ。このサービスでは、最新の 3D デジタルモデリングテクノロジーを用いて、ポルトガルの熟練の職人達にオンラインでオリジナルシューズをパーソナルオーダーすることが出来るんだ。サイズや形はもちろん、マテリアルや色、そしてイニシャルの刻印までカスタムデザイン出来るんだ。

 

© Farfetch