Interview With Kyoko Hasegawa

PORTRAITS | Nov 24, 2017 9:00 PM
大森立嗣監督が『まほろ駅前』シリーズに引き続き三浦しをんの原作を映画化した『光』。短い出演時間の中でも強烈な印象を残す物語のコア・美花を演じた長谷川京子へのショートインタビュー。
Photo by UTSUMI

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舞台は緑が鬱蒼としげる美浜島。ある夜、地元中学生の信之が目を覚ますと森の中から恋人・美花の悲鳴が聞こえ、うまく想像ができないままにぼんやりしながら近づいてみると、森の奥に見知らぬ男にレイプされる彼女の姿が見えた。虚な目で助けを求める彼女のために、彼は超えてはいけない一線を超えてしまう。その“こと”が明るみに出ることはなかったが、普段から実の兄のように信之を慕う輔だけは、なぜかその現場をカメラで収めていた。悲劇はこれで終わらない。何と島全体が地震による大津波に襲われ、3人と数人の大人を除く島民が命を落とすことに。それから25年後、妻・南海子 (橋本マナミ) と子供と3人で団地に暮らしている信之 (井浦新) の元に、輔 (瑛太) が姿を表す。そして、南海子と密会を繰り返していた彼は唐突に「あの事件の真相を知っている」と信之を脅すのだ。

大森立嗣監督が『まほろ駅前』シリーズに引き続き三浦しをんの原作を映画化した『光』には、序盤に敷かれた伏線が回収されていく “気持ち良さ” は微塵も存在しない。最後の最後まで、私たち観客は激しい暴力の嵐の中に置き去りにされたままである。そして、そんな無意味にも見える狂気の連鎖のコアにいるのは、実はどこかの時点で狂ってしまった輔でも、輔によって本性をあぶり出されてしまった信之でもなく、全ての発端となった事件の当事者・美花である。短い出演時間の中でも強烈な印象を残す彼女を演じた長谷川京子へのショートインタビューを通じて、この映画の「異様さ」を感じ取っていただければと思う。

 

—僕は正直この映画をまだ消化できていません。この映画からどんな感情を受け取ればいいのだろうか、と途方に暮れている感じです。狂気と狂気がぶつかり合う様をただ見せつけられて、最後の最後までほっと胸をなでおろすような瞬間も訪れない。中でも、長谷川さん演じる美花は登場シーンこそ少ないものの、この映画の悲しみや怒りを一身に背負って生きているような雰囲気を漂わせています。まず、この人物像を組み立てるアプローチについて教えてください。

今回の人物像をどう捉えるかというのは本当に難しくて。ただ、美花の色によってこの作品が左右されるということは直感で分かっていたので、監督と話しながら作品の温度感をリサーチして自分の中に入れ込むことで、自分が演じる人物像の“軸”を模索していきました。演じる前には先に撮影が終わっていた幼少期のシーンも観ていたんですが、「過去にこういう事件があったから男性を惑わす性格になったんですよね」っていう答えみたいなものには縛られたくなかった。それとは違うエネルギーを出したかったんです。

—あくまで現場のやりとりで感じたことを出していくということですか?

そうです。私は最後の最後まで美花がどういう人物なのかは掴みきれませんでした。この映画の中で美花は悪女にも聖母にもなれるじゃないですか。だからずっと迷いがあったんですが、監督から「その場で感じたことをやってほしい」と言われた時に、ストンと腑に落ちたところがあって。つまり、4〜5日の撮影期間で美花のキャラクターを「これ!」と言い切ってしまうのではなく、現場でスタッフや他の演者さんが背負っているものを吸収するのが良いんだろうなと。

—登場人物がそれぞれ狂っていく理由として、映画の中で瑛太さんが演じる輔が「あの島がぜんぶ悪い」と話す場面がありますよね。正に自然の気が人を狂わせたという。

美花も自分が生まれ育った島のエネルギーに取り憑かれているような印象があります。そして、彼女には持って生まれた危うい色気があって、幼少期にはそれを野放しにしていたせいで良くないことが起きてしまった。一時期はそんな自分を恨んだこともある。ただ、今はその性質を享受して自分なりの境地を切り開いている人だと思っています。

—大森監督の映画に出演された俳優たちはみな「大森ワールド」というフレーズを口にしますが、長谷川さんが感じた大森ワールドとはどんなものでしたか?

スタッフと監督が信頼し合っているチームで、演出も具体的かつ丁寧でした。ここのテンションをちょっと下げてください、とか、最初のほうだけはきちんと演技をつけてくださって、その後は役者の心情を優先してシチュエーションを作ってくださいましたね。それと、撮影を重ねていくうちに演者の熱が高められていく様子が、まるで大森さんのワークショップに通っているみたいで (笑)。でも、その現場とあがりの雰囲気はぜんぜん違っていて、映像の中で人間の狂気、暴力性があぶり出されていたのは、さすがという感じがしました。

©︎ 三浦しをん/集英社 ©︎ 2017「光」製作委員会

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—ということは、想定していたテンションと異なっていたと。そのあがりをご覧になって、長谷川さんはどのように感じましたか?

脚本を読んだ段階では原作ともそんなに大差なかったし、けっこう咀嚼できたんです。それが、いざ映画としてあがってくると、予想以上に暴力性が全面に出ていました。自分の思考を破壊するような音楽 (Jeff Mills (ジェフ・ミルズ) が担当) の効果も大きいと思うんですけど。だから、脚本では納得していたけれど、映画としては「よくわからない!」っていうのが正直なところ。最後に希望とか何か落とし所があってほしいのに、(ダークなトーンのまま) ズルズル終わってしまう。監督とは撮影が終わってからきちんとお話していないんですけど、なぜこの終わり方にしたのかを知りたいですね。分りやすい映画ではないから、お客さんにはどう受け止められるんだろうって……。

Photo by UTSUMI | ドレス ¥486,000 (LOEWE)

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—ただ、そこに映画の新しいパワーや可能性があるかもしれませんよね。

うんうん。私も若い時は (分かりにくいものが) 好きだったかもしれない。それは自分が高尚でありたかったから (笑)。ただ、最近は分りやすいものがいいし、実生活や仕事以外の部分でエネルギーを使いたくないと思っちゃっている。『光』のような分かりにくいものを見た時に「これは芸術的でしょ!」って断言する若さは自分にはないし。

—正に、この映画の根底には「牧歌的な日常の裏にはいつでも狂気が潜んでいるんだ」という意地悪さがありますよね。

そう、ただね、いつでも安心していたい、人にややこしいこと言われたくない、そんな時代にこんな挑戦ができるっていうのは、役者として奮い立たせられるんです。これくらい冒険しないと、誰かに影響を与えることなんてできないんですよね。これを見て幸せになってもらいたいとか、悲しくなってもらいたいとかっていうのは分かりやすいんだけど、ただ暴力的に終わることで観た人に何を与えられるのかっていうのは、ずっと考え続けていることです。

©︎ 三浦しをん/集英社 ©︎ 2017「光」製作委員会

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—そんな映画の中で一つだけ救いというかユーモアがあるとすれば、終盤のシーンで信之が「(レイプされていた時に) 君は笑っていたんじゃないか」と話す場面で、「それで満足?」と返す時の長谷川さんの表情なんです。あそこで観客は「まったく、何なんだこの人たちは!」と苦笑いを浮かべるんじゃないでしょうか。あれは映画の中でも特に印象に残る芝居でした。

あの時は何も考えずにパッとやっただけで、実際に一回オーケーだったんです。特別に意気込んだわけでもなくて、自然とスルスルとできただけなんですよね。そうやって自分としては手応えがないところで評価されるのって、やっぱりお芝居は深い……このシーンに関しては、その場で私が “生きられた” 瞬間をきちんと拾って撮っていただけた、ということかもしれませんね。

Photo by UTSUMI

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<プロフィール>
長谷川京子 (はせがわ きょうこ)
1978年7月22日生まれ、千葉県出身。女性ファッション誌の専属モデルとして活動を始め、2001年に女優デビュー。2006年、「おいしいプロポーズ」(TBS) にて連ドラ初主演。2008年には河瀨直美監督映画『七夜侍』で主演を務めた。以降も数々のドラマ、映画、CMに出演。主な出演作品に、『RAIN FALL・雨の牙』(2009)、『桜田門外ノ変』(2010)、「続・最後から二番目の恋」(2014) 「セシルのもくろみ」(2017) などがある。また雑誌『LEE』(集英社) では、2児の母として食をテーマにしたエッセイ連載「おいしい歳時記」が大好評連載中。

作品情報
タイトル
監督 大森立嗣
原作者 三浦しをん
出演 井浦新、瑛太、長谷川京子、橋本マナミ、梅沢昌代
配給 ファントム・フィルム
制作国 日本
制作年 2017年
上映時間 137分
HP hi-ka-ri.com
 ©︎ 三浦しをん/集英社 ©︎ 2017「光」製作委員会
2017年11月25日(土)公開
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