音楽の持つ絶対的な力を信じ続ける映画監督、デイミアン・チャゼルが描く『ラ・ラ・ランド』に起きた奇跡とは

PORTRAITS | Feb 24, 2017 8:00 AM
ハリウッドを舞台に、音楽が引き起こすある若いカップルに起こった奇跡を描いた映画『ラ・ラ・ランド』。この作品の指揮を執ったのは、『セッション』(2013) で世界を沸き起こし、音楽が引き起こすミラクルを信じている映画作家、Damien Chazelle (デイミアン・チャゼル) だ。
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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夢追い人が集まる街、ハリウッドを臨むロサンゼルスの高速道路。ここで起こった渋滞シーンから映画は始まる。まったく動かなくなった車の一台一台から流れる音楽や人々にカメラを向けるロングショット。Jean-Luc Godard (ジャン=リュック・ゴダール) の『ウィークエンド』(1967) を彷彿とさせるその停滞した空気感は、しかし突然始まる車を足場にしたミュージカルにより破られる。夢追い人が集まる街 ‘LA LA LAND’ (ハリウッドの愛称) への入り口は、そんな圧倒的な多幸感に包まれて始まる。

ハリウッドを舞台に、音楽が引き起こすある若いカップルに起こった奇跡を描いた映画『ラ・ラ・ランド』。この作品の指揮を執ったのは、『セッション』(2013) で世界を沸き起こし、音楽が引き起こすミラクルを信じている映画作家、Damien Chazelle (デイミアン・チャゼル) だ。前作『セッション』(原題『Whiplash』: 鞭打つしなやかな動きの意味。また作中で演奏される Hank Levy (ハンク・レヴィ) の名曲「Whiplash」にちなむ) で音楽に取り憑かれた若者と指揮者の衝撃的なまでのストイックさ、そして音楽が孕む狂気と華麗なる復讐劇を描き、世界中の度肝を抜いた気鋭の監督だ。そんなデイミアンが次のテーマに選んだのは、ショー・ビジネスの夢に向かって生きる若き男女のミュージカル。厳しさの中に音楽の美しさを見出す前作とは打って変わり、本作では音楽を通し夢に向かう二人の若者のそれぞれの生き様、そして二人で夢を見ることの難しさについて描いている。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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映画スタジオの前にあるカフェでウェイトレスをしながら幾度となくオーディションを受け続けチャンスを掴もうとしている女優志望のミア (エマ・ストーン)。彼女はあるパーティの帰り、一軒のジャズパーから流れてくるピアノの音色に運命的に引き寄せられる。中で演奏していたのは、売れないジャズピアニストのセブ (ライアン・ゴズリング)。彼の夢は、自分の店を持ちそこでジャズを思う存分演奏すること。しかし才能はあるがプライドの高さが邪魔してなかなか成功出来ずにいる。その後もなにかといろんな場面で出会う二人はいつしか惹かれあい、お互いの夢を応援しあうようになる。しかしセブがミアとの将来の安定のために入ったバンドが成功したことから、パーフェクトだったはずの二人の歯車は少しずつ狂い始める。自分の夢を追い求める意味とは、どういうことなのだろうか…?誰もが一度は直面する分岐点を、明るく軽やかに、しかし繊細に描いてゆく。

 

『ラ・ラ・ランド』

 

公開に先駆けて来日を迎えた監督は、アカデミー賞7部門ノミネートという快挙の報告を受けた瞬間を、主役の Ryan Gosling (ライアン・ゴズリング) と同じホテルで迎えたと教えてくれた。

「このニュースを聞いた時、僕はライアンと同じホテルにいたので、二人でシャンパンを開けました (笑)。実はまだその時のショックが抜けていません。もちろん、光栄なことだと思っています。この映画はチームみんなで愛を込めて作ったものです。スタッフのそれぞれが自分の限界を突破して作りました。それが認められたのは、とてもうれしいことです。世界中で、そして日本で見てもらえて本当に嬉しく思っています」。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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『セッション』以前、監督がハーバード大学在学中からよりアイデアが練られていたという、満を持しての本作。その鍵になった瞬間は、ライアンと出会った瞬間だったと言う。

「ライアンと僕は出会った瞬間からすごく盛り上がり、そしてそこにエマ (・ストーン) も参加して、3ヶ月もの間リハーサルを行いました。同時に同じ場所で、映画の準備もしていたんです。例えばダンスの練習をしているのと同じ場所で、コスチュームやセットを作ったり。文字通り、みんな同じ場所で作り上げていったのです」。

チームの結束力の強さを感じさせてくれるコメントだが、そんな彼らが描き上げた ‘LA LA LAND’ には、ところどころに映画ファンが思わず身を乗り出したくなるような嬉しい仕掛けが盛り込まれている。例えばセブのピアノに吸い寄せられるミアの姿は『カサブランカ』(1942) で Humphrey Bogart (ハンフリー・ボガード) に「As time goes by」をリクエストする Ingrid Bergman (イングリッド・バーグマン) を彷彿とさせるし、セブのピアノが起こす奇跡はバーグマンとボガードの思い出の地であるパリへと、ミアとセブ二人を誘うことになる。そしてミアが働くカフェは『カサブランカ』で実際に撮影された有名な窓というエピソード付きだ。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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他にも先に述べた集団ミュージカルで始まるオープニングは、映画ファンなら『ロシュフォールの恋人たち』(1967) との相似点に気づいてニンマリすることだろうし、またミアとセブがロサンゼルスの街を見渡しながら踊り始めるシーンは『雨に唄えば』(1952) と同じ街灯に手をかけて回る踊りを披露してくれている。またこの作品で実際に使われたレコーディングスタジオは、『雨に唄えば』や『オズの魔法使い』(1939) と同じ場所だったらしい。

「無意識にいろんな映画のオマージュが入っているかもしれません。僕たちはいろんな映画を研究して、泳ぎ続けてきましたから。自分では気付かなかったんですが、日本の方から絵コンテの段階から鈴木清順監督の『東京流れ者』(1966) を思わせるとも言われましたね。非常にワイドで撮っているポップなミュージカルなんですが、もしかしたらこれは ‘隠れたオマージュ’ かもしれませんね」。

若者が抱く夢と希望を、歌とダンスで描くミュージカル。しかしこの作品が高い評価を受けているのは、そのエンターテイメント性と視覚的な楽しさだけではない。ショー・ビジネス界での成功に向かう二人に立ちはだかる現実的な挫折。そして二人で夢を見ることのはじけるような楽しさと裏腹に、そこに含まれるお互いの存在によって夢へのストイックが阻害されるというジレンマ。これらの困難を若き二人がどう乗り越えていくかという、ハラハラする巧みなストーリーテリングだろう。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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「ミュージカルには、他にはない、楽しく楽観的なエクスタシーや恍惚感を与えてくれます。しかし同時にリアリスティックで、現実的な要素も必要なんです。叶う夢もあれば、叶わない夢もあります。ミュージカルとしても、ファンタスティックと同時に現実的な要素が同居しているのです。観客の皆さんには、そこを楽しんでもらえるのではないでしょうか」。

『セッション』で、J.K. Simmons (J・K・シモンズ) 演じる鬼教官フレッチャーが呟く「ジャズが死ぬわけだ」という印象的なセリフがある。これはセブが愛するジャズが時代に取り残されつつあるという焦燥感にも通じる言葉で、LA LA LAND の夢から覚める瞬間が迫ってきているように感じさせられる。しかし最後にセブのピアノが起こす、奇跡のラストシーンは、そんな停滞した空気を一気に吹き飛ばしてくれることだろう。音楽の力を信じ続けるデイミアンは、観客の誰にも LA LA LAND のミラクルを起こす勇気を与えてくれるにちがいない。

Photo by Junko Yoda

Photo by Junko Yoda

<プロフィール>
Damien Chazelle (デイミアン・チャゼル)
1985年、アメリカ、ロードアイランド州生まれ。2014年、『セッション』がサンダンス映画祭でグランプリと観客賞のW受賞を果たしてたちまち注目される。アカデミー賞®でも、作品賞や自身の脚色賞を含む5部門にノミネートされ、J・K・シモンズの助演男優賞を含む3部門で受賞する。その他にも膨大な数の賞を獲得し、世界各国でスーパーヒットを記録して一躍時の人となる。初めて監督を手掛けた作品は、ハーバード大学在学中に制作したミュージカル映画『Guy and Madeline on a Park Bench』(2009)。メディアから高い評価を受け、LAウィークリーには「2010年のベストデビュー作」、タイムアウトニューヨークからは「いとも簡単に、ここ数十年の中で最高の作品としてのし上がった」と絶賛される。その他、イライジャ・ウッド主演の『グランドピアノ狙われた黒鍵』(2013) の脚本、『ラスト・エクソシズム2悪魔の寵愛』(2013) の原案と脚本、『10クローバーフィールド・レーン』(2016) の共同脚本を担当する。

作品情報
タイトル ラ・ラ・ランド
原題 LA LA LAND
監督・脚本 Damien Chazelle (デイミアン・チャゼル)
出演 Ryan Gosling (ライアン・ゴズリング)、Emma Stone (エマ・ストーン)
提供 ポニーキャニオン/ギャガ
配給 ギャガ/ポニーキャニオン
HP http://gaga.ne.jp/lalaland/
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. © 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
 2月24日 (金) TOHO シネマズ みゆき座他全国ロードショー
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