俳優・Gaspard Ulliel (ギャスパー・ウリエル) インタビュー
Gaspard Ulliel
何はともあれ、Xavier Dolan (グザヴィエ・ドラン) だ。若き天才の名声を欲しいままにするカナダ人映画監督が、処女作 『マイ・ マザー (原題:I Killed My Mother)』で鮮烈なデビューを飾ったのが2009年。その後2012年に公開された『わたしはロランス (Laurence Anyways)』で第65回カンヌ国際映画祭を受賞したことも記憶に新しい。そしてその後『トム・アット・ザ・ファーム (原題: Tom à la ferme)』、『マミー (Mommy)』と立て続けに作品を発表し、昨年には最新作『たかが世界の終わり (原題: Juste la fin du monde)』を公開。同作は第69回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞している。
俳優・Gaspard Ulliel (ギャスパー・ウリエル) インタビュー
Portraits
何はともあれ、Xavier Dolan (グザヴィエ・ドラン) だ。若き天才の名声を欲しいままにするカナダ人映画監督が、処女作 『マイ・ マザー (原題:I Killed My Mother)』で鮮烈なデビューを飾ったのが2009年。その後2012年に公開された『わたしはロランス (Laurence Anyways)』で第65回カンヌ国際映画祭を受賞したことも記憶に新しい。そしてその後『トム・アット・ザ・ファーム (原題: Tom à la ferme)』、『マミー (Mommy)』と立て続けに作品を発表し、昨年には最新作『たかが世界の終わり (原題: Juste la fin du monde)』を公開。同作は第69回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞している。
「Xavier Dolan の最も成熟した作品」と評される同作のストーリーは極めてシンプル。人気作家である主人公の Louis (ルイ) が12年ぶりに帰郷し、家族との再会を果たす。目的は「自らの死を告げる」こと。これほど単純なプロットを何故ここまで複雑に、詩的に、パーソナルに表現出来るのか…
この歪んだ家族愛を描くために Xavier が指名したのが、Gaspard Ulliel (ギャスパー・ウリエル)、Léa Seydoux (レア・セドゥ)、Marion Cotillard (マリオン・コティヤール)、Vincent Cassel (ヴァンサン・カッセル)、そして Nathalie Baye (ナタリー・バイ)。今回、2月11日の公開に先立って急遽来日した主演の Gaspard に、『The Fashion Post』が突撃取材を敢行。作中の緊迫感溢れる様子とはうって変わり、長身かつ端正な顔立ちのその人は満面の笑みで取材室へと招き入れてくれた。
― グザヴィエ・ドラン監督との初共演、現場での初対面の印象を教えてもらえますか?
これまで一緒に仕事をしてきたどの監督とも全く違う、彼ならではの演出方法が印象的だったね。恐らく共演していた人たちも皆同じ感想を持っているはず。
まず彼が特別な点として、最初から自分の頭の中に明確なビジョンがあるということかな。だからこそ、テイクの途中で変更が入ることもしょっちゅう。「そうじゃない、ここはこうなんだ」とか「新しいアイデアがある」とか。僕もこれまで数々の監督と仕事をしてきたけど、そんな演出方法をするのは知る限りでは彼だけ。普通なら、テイクを撮り終えてから指示を出すからね。それが Xavier の場合、まだ演技の途中なのに割り込んでくる (笑)。突然テイクの途中で音楽をかけたりと、音声さんはかなり困ったんじゃないかな。
もう一つ特徴的なのは、彼の作品の多くはカット割りが細かく分けられているということ。だから、演技の途中で変更があっても、編集の段階で繋げられるんだ。これが出来るのも、最初に思い描いたイメージに忠実だからこそ。だから彼と仕事をする時はいつだってリズム感があって、結果的に良い作品が仕上がるんだ。
いつだって、心のどこかでサプライズを期待してる
― この独特の演技指導について、本作のプレミアで Marion Cotillard (マリオン・コティヤール) は「ライブアートのよう」だと称していました。何か具体的なエピソードはありますか?このシーンが突然変わっちゃって、困ったとか。
いい質問だね。ちょっと考えさせて。マイナーチェンジは常にあったよ。ちょっとした台詞回しだったり。でも現場が混乱するような大幅な変更は、そう言われてみると一度も無かったね。だから彼のカットは、いつだって気持ちがいい。実は俳優って、心のどこかでサプライズを期待してるんだ。Jean Cocteau (ジャン・コクトー) も言っていたように、アートは常に明確なビジョンと予定調和、そこに加わる偶発的なアクシデントによって生まれるものだからね。
― 本作の主演について Xavier 監督直々のラブコールがあったとのこと。
そうだね。彼と初めて出会ったのはいつだっただろう…厳密には覚えてないけど、映画祭などで会うたびに話しをしていたんだ。お互い、いつか仕事をしたいねって。今回の作品について聞いたのは、僕が LA にいた時のこと。彼もちょうど同時期に LA にいて、ランチに誘われたんだ。そしてこの作品のことを力説されて、主演に起用したいと。
後で知ったんだけど、彼はほとんどの場合オーディションをしないらしいんだ。具体的なキャストを想像しながら脚本を書く。これもまた、彼のユニークなところだね。
― 何か役作りで心がけたことはありますか?
Jean-Luc Lagarce (ジャン・リュック・ラガルス) による原作『Juste la fin du monde』を読んでも分かるように、この Louis (ルイ) というキャラクターの過去については何も記されていないんだ。だからクランクインの前に、この人物の背景にある記憶を自分の中でイメージする必要があった。人気作家としてでなく、幼い頃に家族と共に過ごした Louis のイメージをね。本作のストーリーでもわずかにその片鱗は描かれているんだけど、僅かな要素を元に自分の思うキャラクター設定を作り出す必要があったんだ。何せセリフの少ない役だからね。家族に馬事雑言を浴びせられた時、Louis はどんな反応をするのか。無言だからこそ自分の中でのキャラクター像を明確に持っていないといけないんだ。
― 作中では、互いの意見をぶつけ合うシーンが多く描かれています。
そうだね。でも安心して、僕らはプロだから、撮影中はいがみ合っていても、カメラが止まったら和気藹々としてるから (笑)
― 日本でも人気の高い Xavier 監督ですが、本作の主演にあたり参考にした過去作品はありますか?
『トム・アット・ザ・ファーム (原題: Tom à la ferme)』(2013年) だね。個人的に『たかが世界の終わり』と『トム・アット・ザ・ファーム』は、多くの共通点を持っているように思うんだ。これは持論なんだけど、アーティストは時に自分自身が作り出した枠から外れることを求められるもの。そういった意味で、この2つの作品は彼がこれまでに手がけてきた作品とも違う、ある種リスクを取った作品と言えるんじゃないかな。彼のファンが期待しているのは、恐らくドラマティックで誇張したような表現。一方でこの2作品は無駄を削ぎ落とした、リアリティを追求した作品という印象を受けるね。だからこそ本作は、彼がある種の成熟の域に達したということを証明しているんだ。その作品に携わることが出来たのは僕のキャリアの中でも特別な、光栄なことだね。
<プロフィール>
Gaspard Ulliel (ギャスパー・ウリエル)
1984年11月25日生まれ。フランス・ブローニュ=ビヤンクール出身。2001年に『ジェヴォーダンの獣』で映画デビュー。2003年公開の André Téchiné (アンドレ・テシネ) 監督作品『かげろう』に抜擢され、フランス国内で注目を集める。主要主演作品は Bertrand Bonello (ベルトラン・ボネロ) 監督作『サンローラン (原題: Saint Laurent)』、Peter Webber (ピーター・ウェーバー) 監督作『ハンニバル・ライジング (原題: Hannibal Rising)』、Xavier Dolan (グザヴィエ・ドラン) 監督作『たかが世界の終り (原題: Juste la fin du monde)』。2013年にモデルの Gaelle Pietri (ガエル・ピエトリ) と結婚し、2016年2月には第1子 Orso (オルソー) を授かっている。
作品情報 | |
タイトル | たかが世界の終わり |
原作 | Jean-Luc Lagarce (ジャン・リュック・ラガルス)『Juste la fin du monde』1990年 |
原題 | Juste la fin du monde |
監督 | Xavier Dolan (グザヴィエ・ドラン) |
出演 | Gaspard Ulliel (ギャスパー・ウリエル)、Léa Seydoux (レア・セドゥ)、Marion Cotillard (マリオン・コティヤール)、Vincent Cassel (ヴァンサン・カッセル)、そして Nathalie Baye (ナタリー・バイ) |
配給 | ギャガ株式会社 |
HP | gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan |
2017年1月21日 (土) に全国ロードショー |