the 4 best fragrances
for 2026 spring

存在をまとう。記憶を残す香り

the 4 best fragrances
for 2026 spring

photography: kazuki iwabuchi
text: miku oyama
edit: miku oyama, hinano akou

視線を奪うシルエット、空気に残る余韻。私たちが “その人らしさ” を感じ取る瞬間は、目に映るものだけでできているわけではない。ファッションが輪郭を描き、ふとすれ違ったときに漂う香りが気配を完成させる。ファッションとフレグランス。その重なりが、言葉よりも先に印象を語り、記憶の中に余韻を残していく。

今回は、深みと余韻で魅せる至極のフレグランスをピックアップ。夜の静けさ、肌に寄り添う温度、過去の情景を呼び起こすような感情——そっと、でも確かに記憶に刻まれ、忘れられない気配を漂わせて。

the 4 best fragrances
for 2026 spring

存在をまとう。記憶を残す香り

森に沈む祝祭の余韻

 

ぽってりとした有機的なフォルムに、静かに光を受け止める大理石の台座。ひと目見ただけで視線が吸い込まれるその佇まいは、まさに香りを宿したオブジェのよう。昨年11月に待望の日本上陸を果たした BOTTEGA VENETA (ボッテガ・ヴェネタ) のフレグランスコレクションは、”香りのイントレチャート” をテーマに、ブランドが誇るクラフツマンシップと素材への探究心を、嗅覚のレイヤーで表現している。今回フォーカスするのは、イタリア語で「真夜中」を意味する「メッツァノッテ」コレクションの「グッドモーニング ミッドナイト」。祝祭の余韻を閉じ込めた、遊び心のある一本だ。湿度とほのかな甘さを帯びたタイ産ウードに、ローズ、そして酸味を残したワイルドストロベリーを重ねることで、暗い森の奥に灯る “赤い感情” を思わせる香りへと昇華。夜の静けさと熱を同時に孕んだその香りは、まとうほどに肌の上で静かに物語を続ける。

チャイの温もりをまとう、セカンドスキンフレグランス

 

冬と春のあわい。夜にはまだ、ツンと肌を刺すような冷たい空気が残る。PRADA BEAUTY (プラダ ビューティ) の新作フレグランスは、クリーミーなサンダルウッドとスパイシーなチャイが溶け合う、温かみのある香り。核となるのは、ムスクとシトラスで構成された「エスプリ ドゥ インフュージョン」。このエッセンスが、肌に溶け込むようになじみ、まるで素肌の延長のように、静かに気配を添えていく。そこに重なるのが、サンダルウッドに、軽やかなカルダモンとシトラスを加えた、モダンで洗練されたチャイアコード。温もりを宿しながらも重たさに傾かず、透明感をたたえた余韻を残す。移ろう季節の空気に寄り添いながら、装いと肌の境界をやわらかく滲ませる、静かな存在感のフレグランス。

タバコ メモリーズ 52mL ¥29,000/CHAMBRE52 (シャンブル サンカン ドゥ)

52号室から始まる、黄昏の物語

 

香りは記憶に結びつく。黄昏時のホテルのルーフトップ。ゆっくりと燻るタバコの香りが、空気に溶けていく。芳醇なその残り香は、旅先で過ごす贅沢なひとときの情景をふいに呼び覚ます。2024年に誕生した新鋭フレグランスメゾン CHAMBRE52 (シャンブル サンカン ドゥ) は、創業者 Nicolas Dewitte (ニコラ・ドゥウィット) が、ブラジル・サンパウロ滞在中に過ごしたホテルの部屋番号 “52号室” に由来する。メゾンのアイコニックな香り「タバコ メモリーズ」は、サフランとアイリスの気品が溶け合い、甘美なタバコリーフと重なりながら、ノスタルジアと深い余韻を同時に描き出す。記憶の奥にゆっくりと沈み込み、時間を超えて感情に触れるような物語を宿す香り。

オードパルファム 各100mL 各 ¥40,700 *2月下旬発売予定/Trudon (トゥルドン)

香りに綴られた時代の叙事詩

 

17世紀のフランス王室、そしてフランスの一時代を築いたナポレオン1世にも愛された、至高の香り。1643年、パリで誕生した Trudon (トゥルドン) は、現存する最古のキャンドルメゾンとして歴史と香り、そして美意識を現代に受け継いでいる。そのメゾンが手がけるフレグランスは、単なる香りではなく、歴史を内包した “物語” そのものだ。自然の息吹や森の息遣いのような深い余韻を残す「ドゥ」、聖と俗、神と人が最も近づく場所——教会や聖堂に立ち込める香気を思わせる「モーテル」、アレキサンダー大王の東方遠征、砂漠の旅の束の間の休息に着想を得た「メディエ」。どの香りも、ただ香るのではなく、空間に情景を描き、記憶の奥へと静かに染み込んでいく。そこにあるのは、時間を超えて受け継がれる歴史と、人の感情に寄り添うロマン。過去と現在をつなぐ、目に見えない物語の断片を紡ぐ。