masaki suda

光の方へ。菅田将暉とモノクロームのリズム 〈後編〉

地方移住がテーマの一つでもある楡周平原作の映画『サンセット・サンライズ』が、2025年1月17日に封切られた。主演を務めるのは、最近では黒沢清監督作『Cloud クラウド』での怪演が評判を呼んだ菅田将暉。監督は『あゝ、荒野』や『正欲』などで知られる岸善幸、そして脚本はあの宮藤官九郎だ。

本作では、都会から宮城県南三陸に移住した釣り好きの主人公・晋作 (菅田) と、よそ者に警戒心を抱く地元民との交流が主に描かれる。時代設定はコロナ禍の真っ只中。登場人物の全員がマスクをつけている姿がスクリーンに映ると、どこかファンタジーのようだった近過去の記憶が一気に蘇る。震災や過疎化、パンデミックのような社会問題に対して、人々はどのようにコミュニケーションを重ね、協働していけばいいのか。ここには、分断と二極化の時代に私たちが直面している問題に対する示唆が込められている。同時代性をはらんだ本作に対して、菅田将暉はどのように挑んだのか。LOEWE (ロエベ) のハードなレザージャケットをワイルドに纏った本人に訊く (後編)。

masaki suda

model: masaki suda
photography: yuichiro noda
styling: chie ninomiya
hair & make up: azuma (m-rep by mondo artist-group)
interview & text: hiroaki nagahata
edit: nonoka nagase

―菅田さんは大阪出身で、いま東京にお住いですが、地方移住や震災といったテーマについて、どのように向き合いましたか?

特に気をつけたのは、「東京ヘイト」にしないこと。端的にいうと、東京から地方へ移住することで生活が豊かになるという話ではありますが、東京を否定するような視点にはしたくありませんでした。「東京にいる時は寂しげで、地方にいる時は躍動している」みたいな姿は、本来この作品で伝えたいことではないのかなと。結局、晋作は「自分はこの町が好きなんです」というスタンスであって、「東京が嫌いだから」ではない。

―そこは重要なポイントですね。

その部分がしっかりとフラットに描かれているからこそ、後半の空き家問題がより際立ちます。ある日突然、晋作の家の隣に住んでいるおばあちゃんが亡くなる。親族は遺留品を大切にしたいから、部屋を誰にも貸したくない。その気持ちは理解できます。でも、その一方で、人が住まないと家や物は朽ちていく。過疎化も進んでいく。そこで、「人に住んでもらって修繕をし、新しい住人が生活を営む。そのうえで、遺族の方々が戻ったときにはその家や土地を眺められる時間を作る」という発想が出てくる。それは何に対してもフェアで、開いてる人の発想ですよね。

―本作では、先ほど挙げられた「僕はこの町が好きなんです」のように、かなりストレートな台詞が随所に散りばめられていました。それが、観る側がハッとさせられるポイントにもなっている。例えば、『ミステリと言う勿れ』では感情的にならず、ロジカルに「提案」するようなテンションで発声されていましたが、本作では、台詞の伝え方についてどんな意識がありましたか?

それで言うと、この作品は『ミステリと言う勿れ』に少し似ていて、演劇的な要素が強いと思います。特に、最後の芋煮会の場面は、まさに舞台のような演出。台詞も単なる会話とは異なり、少しロマンを帯びた「台詞らしさ」が魅力的に感じられる場面です。

ー晋作の「なんでこんなに切ないんですか」という台詞が印象的です。

震災を経験した人たちがいる一方で、その経験がない東京の人たちが川の中で流れに耐えている。そして奥に百⾹がいる。この状況、構図はとても象徴的です。さらに現場では、川の音が大きいので自然と声を張り上げることになる。その過程で感情が高まり、お酒が入っているという設定も相まって、お互いの意見がヒートアップしていく。その状況によって自然とキャラクターが形作られていくところは、『ミステリと言う勿れ』に似ているかもしれません。

ー地元住人たちからすればよそ者である菅田さんが、この作品やテーマに深くコミットする上で「これだけはやらなきゃ」と思っていたことはありましたか?

「やらなきゃ」という意味では、今回は多くの習いごとがありました。釣り、絵を描くこと、あとDIYも。晋作は一見すると器用に見えるかもしれませんが、言動に邪気がなく、フットワークが軽いところがポイント。単純に釣りが好きなんですが、それ以外のことにはあまり興味を持っていません。だからこそ、深く考えずにどこでもズケズケと入り込み、地元の人とも気軽にコミュニケーションが取れるんです。

ただ、震災当時の状況について触れると、やっぱり言葉に詰まってしまう。それでも、みんなが気を使い合って「どう思う?」と探り合うのではなく、「俺はこれがいい」「私はこうしたい」と言い合い、その結果「じゃあ、それで行こう」となる。この物語の核は、個々人が自分勝手に選択した結果として調和が生まれるところにあると思います。

ーそれは、現代のように異なる思想や見方が対立しがちな時代において、必要なスタンスの1つと言えそうです。

はい、そう思います。結局、全員がある種の「身勝手さ」を持っている。それが意外と必要で、大切なんじゃないのかなと。

レザージャケット ¥1,063,700、ドッキングシャツ ¥¥196,900、パンツ ¥180,400、スウェードローファー ¥147,400/すべて LOEWE (ロエベ)

ー最後の質問です。菅田さんという俳優に対して、作品に対する勘所が非常に鋭いという印象があります。「この作品だったらこう振る舞う」みたいなのが常に的確な方だなと。画面内にフィットしていて、浮かない。演技に際してはどういう準備を行っているんですか?

役作りについては、決め決めで準備することもありますが、基本的にはあらかじめ用意した引き出しの中から、現場で「どの引き出しを開けるか」「どれが効果的か」を試すスタイルです。このプロセスは、音楽のチューニングに似ている部分があって。リハーサルでキーを決めたり、ブレスのタイミングやテンポを調整したり、発声や歌い方を考えたりする感覚に近いですね。

作品には「鼓動の速さ」や「ビート感」がある。例えば、このキャラクターはこれくらいのリズムだな、とか。作品全体のリズム感についても意識していて、今作だったら比較的「まったり」としている。ただ、それも一定ではなく、速くなったり遅くなったりと変化があるんです。

ー確かに、本作はテンポが一定ではない感じがありますね。

そうなんです。例えば『ミステリと言う勿れ』でいえば、まったりしていてもテンポは一定で、その淡々とした進行がかえって怖さを生む。一方で、今回の作品は即興的な要素が強いから、急にテンポが速くなったり、またゆっくりに戻ったりする。そしてそのリズム感は役者だけでなく、現場全体にも共通するものでもあります。

現場のリズム感には、天候やスケジュールの進行具合など、色んな要素が影響します。例えば今回、初日にスタッフさんがシーバーを海に落としてしまったことがありました。その後、夕方には別のスタッフさんが携帯を海に落とすという出来事が続いて (笑)。でもそのおかげで、みんなの海への危機感が高まり、後のシーンがスムーズに進むようになったんですよね。

ー現場の偶然が結果的に作品にも影響を与えると。

そうなんです。そうやって出来上がる作品独自のテンポ感というものが、確実にあると思います。