kento kaku

ちゃんと生きる、ということ。賀来賢人の自然体の現在地

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photography: Yuji Watanabe
styling: Arata Kobayashi
interview & text: Tomoko Ogawa

ドラマ『不適切にもほどがある!』 (TBS系) の脚本を手がけた宮藤官九郎と、プロデューサーの磯山晶が再びタッグを組んだNetflixシリーズ『俺のこと、なんか言ってた?』が、2026年10月22日より配信される。“承認欲求”をテーマに据えた本作で、俳優・賀来賢人が演じるのは、劇団「ウイスキーボンボン」を主宰する劇作家・岡本哲。旗揚げ公演で新人戯曲賞にノミネートされたものの、新作がいまだ書けずにいる岡本は、アルバイト先のサウナ「白樺」で、世間からすっかり忘れられた大物俳優・高瀬川玄 (役所広司) と出会う。やがてその出会いは、それぞれの止まっていた時間を動かしはじめる。

人間の弱さや欠点を笑いに変え、まるごと肯定していく物語のなかで、クラシカルな装いを軽やかに着こなした賀来賢人が、プレッシャーとの付き合い方や、表現に向き合う姿勢について語る。

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ちゃんと生きる、ということ。賀来賢人の自然体の現在地

—岡本は中年と若者の架け橋になるような役柄でしたね。高瀬川を救う人でありながら、自分は未だスランプの中にいるというアンバランスな役だと思いますが、脚本を読んで、岡本をどう捉えましたか?

自分自身も決してうまく生きられているわけではなく、どこか現代的な脆さや、困難に直面すると逃げてしまう弱さを抱えている。ある意味、とても不器用で、情けなさも感じさせる人物というか。でも、その情けなさが、本を読んでいて僕はとても好きだったんです。それは、僕の演じたキャラクターに限った話ではなくて。シリーズの後半で、坂井真紀さん演じるチヂミさんが、「人間なんてみんな病気だ」と言うセリフがあるんです。僕はそのセリフが本当に大好きで、この作品の大きなテーマなんじゃないかと思うくらい。人間って、欠陥があるんですよ。しかも、掘れば掘るほどその欠陥が出てくる。だけど、それが普通じゃないですか。岡本も高瀬川さんも、チヂミ姉さんも、金を盗まれても笑っているくらいですからね。

—「ケンチャナヨ (大丈夫) !」って言ってましたもんね。

そうそう。人間賛歌じゃないですけど、人間の弱さみたいなものも含めたキャラクターが、やっぱり宮藤さんの本の素晴らしいところだなと。以前、「宮藤さんは、一番ぶっ飛んだキャラクターに、一番芯を食ったことを言わせる」とおっしゃっていた方がいて。今回はそれがチヂミさんなんです。そこが、僕が宮藤さんを好きな理由です。

—岡本は、期待に応えようというプレッシャーで書けなくなっているように映ります。期待の重さがときに人を潰してしまうことを賀来さんはどう見ています?

なんでしょうね。人前に立つ僕の仕事は、少し脳みそのネジを緩めて、プレッシャーを無視しないと普通の精神状態ではやっていけないと思っています。難しいところですけど、普通だったら岡本くんは特に、逃げたくなるだろうなと思いますね。でも、逃げてもいいんじゃないかというか。最後は自分で芝居を作りきって、面白いものにできた。彼にとっては、それがひとつの昇華でもあったのかなと思います。

—Netflixシリーズ『忍びの家』以降、企画や制作に携わっていらっしゃいますが、表に立つ側ではない裏側のプレッシャー、苦しさは感じるようになりました?

プレッシャーを苦しさと捉えないことが、もしかしたら一番いいのかなと。最近は、失敗というものをネガティブに捉えていなくて。失敗したら、失敗したぶんだけ改善できると思うので。

—そう捉えられるようになったきっかけがあったのでしょうか?

コロナのときに、仕事を失う恐怖みたいなものを強く感じたんです。特に俳優という仕事は、いつ出番がなくなってもおかしくない前提がある。なのに、何をいまさら安定を求めているんだ、とすごく思っちゃったんですよ。

—自分にツッコミを入れたんですね。

そうそう。大学もやめて、安定した職業じゃないとわかっていてこの業界に入っているのに。だったら、自分が心底ワクワクする好きなことだけをやろう、と思って。そこからはもう、そういうマインドなんですよね。

—それ以前、うまくいかない時期はどう対応していたんですか?

腐っているときはありましたよ。「なぜうまくいかないんだ!」と思って、自暴自棄になったりもしました。でも、そういうときって、何をやってもうまくいかないんですよ。ただ、ふと周りを見たり振り返ると、成功している人たちって、何事にも全力で向き合っている。単純なことですが、それが本当に大事なんだなと思いましたね。

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—仕事だけでなく、生活することも含めて、ということですか?

身だしなみひとつでもよくて、生きるということを、ちゃんと大切にする。そういう人たちが周りにいた、というのもありましたね。

—高瀬川はみんなから忘れられ、キャリアが振り出しに戻ってしまうキャラクターですが、賀来さんは、誰も自分を知らないところからゼロで始めたい、という欲求はありますか。

二度と戻りたくないですね (笑)。お金もなかったし、本当につらかったから。でも、その経験がなければ、今こうやっていることを「ありがたいな」とも思えないですよね。

—役所さん演じる高瀬川は他者からの評価を強く求める一方、岡本は自分のやりたいことと現実とのギャップに苦しんでいるように見えます。賀来さん自身は、他者からの評価と自分自身の納得、どちらを大切にしていますか?

自分かもしれないですね。もちろん、最終的には評価していただくお仕事ですけど、もしされなくても、自分が納得していれば僕はいいかなと。僕だけじゃなく、一緒に作った人がちゃんと納得して、楽しい仕事だったと言ってもらえれば、それでいいかなと思っています。

—では、エゴサーチしたり、評価はあまり気にしないですか? 

全然気にしますよ。自分の作品がどう評価されているかは、仕事の一環として確認します。でも、それで一喜一憂したりは、もうしないですね。

—働く環境では、先輩や後輩の間に世代のギャップのようなものがあると思います。俳優は会社ほど上司と部下の関係がはっきりしていないかもしれませんが、賀来さんが先輩から受け取ってよかったものや、逆にこれはいらなかったなと思うものはありますか。

僕にももちろん、ややギャップを感じる先輩はいました。そのときに思ったのは、下の世代にはこういうことはしないようにしよう、ということで。きっと、それは僕の世代だから思うことなんでしょうね。今の年下の方たちは比較的ボーダレスで、ちゃんと話を聞いてくれる。その雰囲気が、コミュニケーションとして現場にいい方向に作用していることもあるだろうし、なあなあになっている部分もある。そこは善し悪しですけどね。でも本当に、さっき言ったことに尽きるんですけど、ちゃんとした人であること。それが大事なのかなと、どの仕事に対しても思います。

—今回、長く第一線にいる俳優のひとりである役所さんと共演して、どんな刺激を受けました?

「今まで出会った俳優のなかで誰が一番すごかったか」という話をよくするんですが、多くの人が「役所さん」って答えるんです。これはもう普遍というか、業界にいる人で、「役所広司」という人を否定する人はまずいないし、間違いなくナンバーワンですよね。そのうえで、生で役所さんを体感して、一番すごいなと思ったのは、まず、あの圧倒的な存在感。そこにいらっしゃるだけで、もう敵わないと思わせるものがあるじゃないですか。そして、技術もある。それはもうわかっているはずなのに、努力もするんですよ。本番直前までずっとセリフの練習をしているし、どういう言い方、間合いをするかを考えていらっしゃる。あのキャリアで。それは勝てないですよ。それを目の前で拝見することができて、人としても素晴らしいし、「これが役所広司たる所以なんだな」と思いました。もう、お手上げです (笑)。

—現場も、みなさん楽しんでいたんだろうなと想像してしまいました。

とても楽しく演じさせていただきました。役所さんは、こちらが緊張してしまうような雰囲気をまったく感じさせないんですよ。いい人すぎて、心配になるくらいでした(笑)。クランクアップが印象的だったんですが、役所さんが最後に挨拶をされたんです。ほぼ全キャストがいて、スタッフも役所さんの話を聞いていると、みんながこう、拝むように目を輝かせているんですよ。もう役所広司ファンクラブみたいな。本当に素敵な現場でした。

—この作品では、裏方という人たちに支えられて作品ができていく姿が描かれています。賀来さん自身は、人の才能を支えることに面白さを感じますか?

企画をして、プロデューサーとして現場に入ることもあるので、そのときに一番感じます。あとは、共演した俳優たちが活躍しているのを見ると、すごくいい気分になります。たとえば今回でいうと磯村勇斗。彼がデビューしたての頃から一緒に仕事をしていて、「お前は絶対売れる!」と言っていたら、素晴らしい俳優になって。昔からの仲間が活躍しているのを見ると、「あいつ、ダメになったな」と思われないように、頑張らなきゃなという気持ちになる。この業界は、お互いの活躍がずっと見られるのがいいですよね。また別の作品で再会もできるし、やめられないなと思います。

—最後に、作品のタイトルにかけて。賀来さんは、「俺のこと、なんか言ってた?」と聞きたいタイプですか?

聞きたくないですね、自分のことは(笑)。どう思われようが、別にいいかな。でも、作品としてなら知りたい、という感じです。難しいところですけど、いいことだけありがたく頂戴したいし、いくらでも聞きたいですね。ただ、批評家の意見よりは、一般の視聴者の声のほうを僕は信用していますね。でも、いいことだけ、お願いします!