【SIHH 2017特集】時計師たちの作り出す、掌の中の宇宙：Van Cleef & Arpels (ヴァン クリーフ＆アーペル)

誇張かもしれないが、時計を作るということは、さながら森羅万象を解き明かすようなものだ。1分は60秒、1日は24時間。時間を確認する、という極めてシンプルな作業のために作られたこの道具は、長い年月をかけて多様な進化を遂げてきた。そして中でも最も稀少性が高いのが、オートオルロジュリーと呼ばれる高級機械式時計。機械工学から天文学、そして芸術に至るまで、ありとあらゆる文明の粋を結集させたこれら小さな機械が生み出す際限なきロマンは、まさに人類の叡智と呼ぶに相応しいだろう。

今回、『The Fashion Post (ザ・ファッションポスト)』では、1月に開催された世界最大の宝飾と時計の見本市のひとつである SIHH (Salon International Haute Horlogerie、通称ジュネーブ サロン) から、中でも個性が際立つ選りすぐりの新作をブランドごとにご紹介。もちろん、どれも極めて生産数が限られている上に、お値段も気軽に手が出せる代物ではない。しかし腕時計に馴染みの薄いミレニアル世代だからこそ、今一度オートオルロジュリーのストーリーに触れ、その崇高な世界に憧れを抱いてもらえたらこの上ない幸せ。

ヴァン クリーフ&アーペルのストーリー

宝飾の世界における総本山、フランスのヴァンドーム広場に本拠を構えるパリのハイジュエラー Van Cleef & Arpels。その歴史は、1895年に宝石商の娘 Estelle Arpels (エステル・アーペル) と、ダイヤモンド商かつ宝石細工職人の息子である Alfred Van Cleef (アルフレッド・ヴァン クリーフ) が結婚したことから始まった。メゾンの設立は1906年。1933年に考案された「ミステリーセッティング」は、文字通り石を留める立て爪が見えない画期的な構造で特許を取得しており、現在に至るまでメゾンの技術力の高さを証明し続けている。Van Cleef & Arpels のジュエリーを象徴するのは、アールヌーヴォーを思わせる流麗な曲線使いと、意外性に富んだデザイン。妖精や植物、動物など自然界に着想を得たポエティックなストーリーは、ハイジュエリーからタイムピースまで共通して見られる特徴だ。

パピヨンの躍動感を、アールヌーヴォーの意匠で再現。「レディ アーペル パピヨン オートマタ ウォッチ」

異なるエナメル技巧を用いて制作されたパーツを組み立てる「レディ アーペル パピヨン オートマタ ウォッチ」の制作工程 | © Van Cleef & Arpels

Van Cleef & Arpels の作品の多くは、自然界のモチーフからインスピレーシ ンを受けて制作されている。昨年の9月にパリで発表され、日本で展示が開催された「L’Arche de Noé (ラルシュ ド ノエ)」も記憶に新しいだろう。 1世紀以上にも渡る歴史の中で、数多くの名作を生み出してきたフレンチジュエラーの、最も象徴的なモチーフの一つが、パピヨン(＝蝶々)だ。春の訪れを告げる可憐なパピヨンは、これまでハイジュエリーからアイコンコレクション、そしてタイムピースまで様々なコレクションでその羽ばたきを見せてきた。

そして今回、SIHH 2017の最新コレクションとして発表されたのが、「レディ アーペル パピヨン オートマタ ウォッチ」。ラウンドフェイスのダイヤルには、Mucha (ミュシャ) の絵画のような優美な草木の様子が描かれている。この繊細な情景を表現するために用いられたのは、「シャンルヴェ エナメル」、「パイヨン エナメル」、 「プリカジュール エナメル」と工程の異なるエナメル技巧。風にそよぐ草木の背景で煌めくのは、見事なグラデーションを描くブルーとモーヴ、バイオレットのサファイア。パヴェセッティングのダイヤモンドに縁取られたダイヤルの左下に佇むパピヨンは、特別に開発された「ランダム オートマタ モジュールとオンデマンド アニメーション モジュール」を搭載した自動巻き機械式ムーブメントにより、一定の時間で羽をはためかせる。

「レディ アーペル パピヨン オートマタ ウォッチ」(WG、ダイヤ、エナメル、サファイア) ¥ 32,400,000 | © Van Clef & Arpels

1935年からメゾンのアイコンとして親しまれる「カデナ」が、ダイヤモンドとエメラルドのミステリアスな輝きでアップデート。

1943年に販売されたイエローゴールドとエメラルドを用いた「Cadenas」ウォッチのリテールカード | © Van Cleef & Arpels

自然界に着想を得たロマンティックなクリエイションに加え、Van Cleef & Arpels が得意とするのが前衛的なアイデアに基づいたデザイン。中でもファスナーのデザインをそのままハイジュエリーで仕立て、実際に開閉することも可能な「ジップ ネックレス」はジュエリーオークションの常連だ。ヴァンドーム広場に古くから伝わる伝統をアップデートさせてきたアヴァンギャルドな感性は、1935年に発表された「Cadenas (カデナ)」にも存分に生かされている。メゾンの著名な顧客のひとりであるウィンザー公爵夫人にインスピレーションを受けたこのシークレットウォッチは、直線的なケースと南京錠を思わせるまるみを帯びたクラスプが特徴的。イヴニングパーティーで、一目につかず時間を確認出来るよう、内側にさりげなく文字盤が取り入れられたアイコニックな「Cadenas」は、今回 SIHH 2017 においてホワイトゴールドとスノーセッティング ラウンドダイヤモンド、そしてプリンセスカットエメラルドを纏ったリュクスな出で立ちで登場。メゾンのヘリテージを受け継ぐクリエイションは、「パーマネント コレクション」のひとつだ。

「カデナ」ウォッチ (WG、ダイヤ、エメラルド) ¥ 19,500,000 | © Van Cleef & Arpels

人類の叡智の結晶、フランソワ・ジュノが手掛けたオートマタの最高傑作

SIHH 2016 にて Van Cleef & Arpels 新作として発表された作品たちの中でも、圧倒的なインパクトを放つのが「エクストラオーディナリー オブジェ オートマタ フェ オンディーヌ」。13世紀から伝わるゼンマイ仕掛けのからくり時計「オートマタ」を継承する世界で最も著名な作家の François Junod (フランソワ・ジュノ) とのコラボレーションによって生まれたこのテーブルクロックには、Van Cleef & Arpels の誇るデザイン美学、創造性、最高峰の時計製造技術、ジュエリーセッティング技術が結集されている。

宝石細工職人、宝飾職人、 ストーンセッター、エナメル職人、キャビネット職人など20ものアトリエの知見をもとに作られた「エクストラオーディナリー オブジェ オートマタ フェ オンディーヌ」。蓮の葉を模した題材には、エナメルで作られた蓮の花、そしてホワイトゴールドやダイヤモンドで作られた妖精、「オンディーヌ」が優美な佇まいを見せる。手巻きムーブメントを巻き上げると、葉が波打ち、花弁が花開き、そして「オンディーヌ」が羽をはためかせる。まさに、伝統と革新が融合した Van Cleef & Arpels の最高傑作と呼ぶに相応しいユニークピースだ。

「エクストラオーディナリー オブジェ オートマタ フェ オンディーヌ」非売品 ※ユニークピース | © Van Cleef & Arpels

問い合わせ先／ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク 0120-10-1906
HP: www.vancleefarpels.com