【インタビュー】80歳の新人監督 Eleanor Coppola (エレノア・コッポラ) が描く“この瞬間を生きることの尊さ”
News
【インタビュー】80歳の新人監督 Eleanor Coppola (エレノア・コッポラ) が描く“この瞬間を生きることの尊さ”
Interview With Eleanor Coppola & Diane Lane
名匠、Francis Ford Coppola (フランシス・フォード・コッポラ) の妻で、Sofia Coppola (ソフィア・コッポラ) の母である Eleanor Coppola (エレノア・コッポラ)。才能豊かなコッポラ家の人々を陰で支え続けてきた彼女が80歳にして初の長編実写映画に挑戦した。記念すべき初監督作品の主役には Francis Coppola にその才能を見出され、数々のヒット作に出演してきた Diane Lane (ダイアン・レイン) を抜擢。Eleanor が全信頼を置く名優だ。互いをリスペクトし合う2人に本作の製作秘話や人生をより豊かにする秘訣を聞いた。
現代の映画界に燦然と輝く一族がいる。そう、コッポラ・ファミリーだ。父親は『ゴッド・ファーザー』シリーズ (1972〜90) などを手がけた巨匠、Francis Ford Coppola (フランシス・フォード・コッポラ)。その娘、Sofia Coppola (ソフィア・コッポラ) は『ヴァージン・スーサイズ』(1999) で華々しく監督デビューを果たしたあと、ガーリー・カルチャーの旗振り役としてヒット作を連発。今年のカンヌ国際映画祭では女性監督として史上2人目の監督賞を受賞するなど、その地位を揺るぎないものにしている。息子の Roman Coppola (ロマン・コッポラ) も映画監督だ。Wes Anderson (ウェス・アンダーソン) の『ダージリン急行』(2007) や『ムーンライズキングダム』(2012) などでは共同脚本も手がけている。そして、忘れてならないのがこの人。フランシスの妻であり、Sofia と Roman の母、Eleanor Coppola (エレノア・コッポラ) だ。映画のセットデザイナーとして活躍後、共同監督を務めた『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(1991) をはじめ、数々のドキュメンタリーを制作。そんな彼女が80歳にして初めて長編フィクション映画のメガホンを取った。その記念すべきデビュー作『ボンジュール、アン』の主演に抜擢したのは Francis Ford Coppola の作品に数多く出演してきた Diane Lane (ダイアン・レイン) だ。日本公開を記念し、来日していた2人に製作の裏側やそれぞれの人生観について聞いた。
—Diane さんと Eleanor さんは約30年前、Diane さんが Francis Coppola 監督の作品に出演された時からご存知の間柄ですが、今回は監督と主演女優という立場で一緒に作品を作られました。改めてお互いの印象を教えてください。
Diane: Eleanor はコラボレーションをとても大切にする人。最高の作品を作るためにいろいろな人に意見を聞いて、アイデアを引き出そうとする。撮影監督の Crystel Fournier (クリステル・フルニエ) にもそうだし、衣裳をデザインした Milena Canonero (ミレーナ・カノネロ) にもそう。それってすごく珍しいことなのよ。監督でここまでできる人はそういない。私は若い頃から Francis の映画に出ていて、Eleanor とは旧知の仲だけど、彼女はこれまでずっと控えめで夫の作品の裏方に徹していた。今回、一緒に作品を撮ったことで Eleanor とじっくり向き合えたことがいい経験になったわ。
Eleanor: ありがとう。光栄だわ。Diane は7歳から俳優業を始めて、ずっと第一線で活躍し続けているプロ。監督から指示がなくても、その時々で一番いい演技をしてくれる。監督にとって夢のような俳優よ。たとえば、この映画は食べているシーンがとても多いんだけど、それも完璧にこなしてくれる。食べる演技ってものすごく難しいの。食べ物を口に含みながらきちんとセリフをしゃべらないといけないから。もちろん食べる以外のシーンも準備に抜かりがなくて、ほとんどが1、2テイクで決まったの。本当に素晴らしかった。
Diane: そんなに褒めてもらうとこれからますますハードルが上がっちゃうわね (笑)。
—本作は Eleanor さんの実体験をもとに作られた作品ということで、いわばアンという役は Eleanor さんを投影したキャラクターだと思うのですが、Diane さんはどう役作りされましたか? 監督からなにかアドバイスがあったのでしょうか?
Diane: 実は私、この作品が彼女の体験をベースにしているとは知らなかったの。でも現場で彼女の方から、ここでこんなことがあってとか、ここでこんなふうに感じたとかポツポツと話をしてくれるようになって、そうだとわかったの。でも、この作品は彼女の自伝的な部分もあれば、面白く脚色された場面もある。だから、アンは映画の中の独立したキャラクターだと思ったし、演じるときに彼女を強く意識していたわけではないのよ。
Eleanor: そうね。自分の体験をベースにシナリオを書いたけれど、そこに自由にフィクションを重ねていった。全てが実話に基づいているわけではない。映画では宿泊した場所も増えているし、登場人物にもかなり色をつけたわ。特にジャックはすごく個性的なフランス人になったわね (笑)。アンの趣味が写真を撮ることだったり、テキスタイルが好きなところは私と共通した部分だけど、それはあくまでキャラクターに個性を出すため。決してこの映画を自伝にしようとは思っていないのよ。
—そうなんですね。今作は、Diane さん演じるアンが映画プロデューサーとして多忙を極める夫のマイケルと、ちょっと強引だけど自由に人生を謳歌するフランス人男性、ジャックの間で揺れ動く姿が描かれていました。なので、Eleanor さんが実際にああいう体験をされたのかとドキドキしながら観ていたんです。特にラストシーンは印象的でした。夫とフランス人男性の間でアンはどういう選択をするのかと。そしたら、アンがカメラを向いて最高の笑顔を見せてくれました。あの演出についてどういう意図があったのか教えてください。
Eleanor : 実はこのラストシーン以外にもアンがカメラを見る場面をさりげなく散りばめているの。例えば、旅の途中でジャックに翻弄されるシーンがあるでしょう? そこでアンは「私、何をしているのかしら?」と自問する。そういう時にカメラを見るようにしているの。だから、カメラを見るというのは、自分に対する問いかけであって、一方で観客に向かって「あなたはどう思う?」という疑問を投げかけている。実は、ラストシーンはカメラを見ていないテイクも撮ったんだけど、編集する時に見たらやっぱり目線があるものが1番よかった。そうだわ、ここだけは6テイク撮ったのよね。その度にチョコレートを頰張らないといけなかったから大変だったでしょう?
Diane: 本当は私、1、2回でばっちり決められたんだけど、チョコレートを食べたかったからテイクを重ねたのよ (笑)。
—そんなキュートな Diane さんに聞きます。あのシーンにはどのような思いを込めて演技されましたか?
Diane: 重要だと思ったのはアンと観客との間に同じ思いを持つということ。あの視線は告白の一種だと思っているんです。ラストでアンは自分に第三の選択肢があるということに気づいた。それまでは、仕事ばかりで家庭を顧みない夫と暮らすか、チャーミングだけどどこか頼りないフランス人男性の二択しかないと思いこんでいて、第三の選択肢から目を背けていたのね。でも、自分には別の選択肢があると気づく。その素敵な喜びを共有したいと思ったの。
—今作では自分にとって人生で何が大切かということに気づくことの重要さを考えさせてくれます。お二人が人生という旅の中で大切にしていることは何ですか?
Eleanor: 私はこの作品を通して「今、この瞬間を生きよう」ということを伝えたかった。そして、自分自身にも言いたかったの。きっと映画を観てくださる方はこれからの人生まだまだ長いと思うけど、私はもう終わりに近づいている。だからもっと強くそれを認識しないといけないの。ラストシーンでアンは、自分が人生の主導権をもつべきだということに気づいたわよね。決して夫やフランス人男性から幸せはもらえない。自分しか人生の責任は取れない。観てくれる人にもその意味を考えるきっかけにしてもらえたら嬉しいわ。
Diane: 私はそうね、歳を重ねても勇敢でいることかしら。若い頃、50代になったら自分はどうなっているんだろうって考えていたけど、いざその年齢になってみると、ずっと変わらないところもあるし、若い頃よりも聡明になっているところもある。逆に、臆病になったり、子供っぽい自分も同居している。だから、歳を重ねることってすごくおもしろいと思うのよ。私は早く Eleanor くらいの年齢になりたいわ。私が80歳になったときに、果たして彼女のように勇敢でいられるかなと思うの。リスクを取って、何か情熱を感じられるものに向かうことができるのかなって。映画を作ることって怖さもあるでしょう。そういうチャレンジができる人に私はなれているかしら?それを時間とともに身につけたいと思うわ。25歳のときにはそういう勇敢さはまだなかったから。あ、でも、Sofia は25歳ですべてを手に入れていたわよね。
Eleanor: あはは。あの子はもう25歳じゃないわよ。
—コッポラ・ファミリーのみなさんはクリエイティビティにあふれていて、年齢を感じさせないですよね。今作は女性の生き方についてすごく前向きに描かれていますが、日本の女性にはまだまだ葛藤があります。封建的に男性を支えなくてはいけないとする考え方もあれば、男性と肩を並べて活躍しても社会的には同様に評価されないという悩みもある。そのような状況についてどう思われますか。
Eleanor: まず、私と Diane とでは世代も立場もぜんぜん違うからそのことは念頭に置いて聞いてちょうだいね。私の時代は当たり前のように世間から女性は夫をサポートする、子どもを育てるということを期待されていた。女性には自由がないというフラストレーションを感じていたの。それに比べて、Diane は幼い頃から役者として活躍して、子どもを育てながら自分の人生を送り、評価を受けている。それはとっても素晴らしいことだわ。
Diane: ありがとう。以前 Eleanor は、女性としての役割を強いられていた時、テキスタイルや水彩画などアートに力を注ぐことで自分を解放していたと言っていた。たとえそれが趣味の範疇を超えなくても、そういう情熱を傾けられる何かがあることはとても大事だと思うわ。私も絵を描くことは大好き。そういう自分だけの楽しみがあることは大切よね。あと、女性は社会に出ることで自由を手に入れてきたけど、果たして自分の人生でどれだけ自由が必要なのかとも考えるわ。だって、自由って時に孤独だったり、怖かったりもする。自由であることが必ずしも満足できる状況をもたらすとも限らない。だから、男性と女性のバランスが大事だと思うの。競い合うんじゃなくて、お互いがいかに補完し合っているかと気づくこと。そして、誰しもがいつでも自由になれるという選択肢を持っていること。日々仕事に忙殺されたり、相手に合わせるだけじゃなくて、自分自身にとって何が大切か気づくことが大切だわ。
<プロフィール>
Eleanor Coppola (エレノア・コッポラ)
1936年、アメリカ、カリフォルニア生まれ。カリフォルニア大学卒業後、フリーのデザイナーとして働き、インスタレーションのためのファブリックのコラージュや刺繍画を制作。1962年、『ディメンシャ13』(1963) の撮影で Francis Ford Coppola と出会い、翌年には長男の Gian-Carlo (ジャン=カルロ)、そして次男の Roman 、長女の Sofia が生まれる。『地獄の黙示録』(1979) の制作現場の裏側を撮影した『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(1991) で、Fax Bahr (ファックス・バー)、George Hickenlooper (ジョージ・ヒッケンルーパー) と共同監督を務め、エミー賞を始め数多くの賞に輝く。それ以降、家族が監督した映画の現場を追うドキュメンタリーを手がける。本作が初のフィクション映画となる。
Diane Lane (ダイアン・レイン)
1965年、アメリカ、ニューヨーク生まれ。Francis Ford Coppola 監督作品は『アウトサイダー』(1983)、『ランブルフィッシュ』(1983)、Richard Gere (リチャード・ギア) 出演の『コットンクラブ』(1984)、Robin Williams (ロビン・ウィリアムズ) 共演の『ジャック』(1996) に出演している。Richard Gere と共演した『運命の女』(2002) で、アカデミー賞®、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、演技派女優としての地位を確立する。最新作は、『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016) に続く、シリーズ3作目となる『ジャスティス・リーグ』(2017) など。
作品情報 | |
タイトル | ボンジュール、アン |
原題 | PARIS CAN WAIT |
監督 | Eleanor Coppola (エレノア・コッポラ) |
脚本 | Eleanor Coppola |
製作 | Eleanor Coppola、Fred Roos (フレッド・ルース) |
出演 | Diane Lane (ダイアン・レイン)、Alec Baldwin (アレック・ボールドウィン) 、Arnaud Viard (アルノー・ビアール) |
配給 | 東北新社 STAR CHANNEL MOVIES |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2016年 |
上映時間 | 96分 |
HP | bonjour-anne.jp |
©︎American Zoetrope, 2016 | |
7月7日(金) TOHO シネマズ シャンテ他にて全国ロードショー |
<Staff Credit>
Photographer: Hiroki Watanabe
Makeup: SHIGE at HK PRODUCTIONS (Diane)
KIE KIYOHARA at beauty direction (Eleanor)
Writer: Mariko Uramoto
Location by HOSHINOYA Tokyo