トム・フォードの世界観が凝縮された傑作ミステリー映画『ノクターナル・アニマルズ』が公開
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トム・フォードの世界観が凝縮された傑作ミステリー映画『ノクターナル・アニマルズ』が公開
"Nocturnal Animals" Is Now Showing
インテリア、現代アート、ファッションと映画の随所に至るまでちりばめられた美学に加えて、結婚、消費社会、ジェンダーなど Tom Ford の世界観が凝縮された映画『ノクターナル・アニマルズ』。鮮やかに彩られた暴力と失われた愛の激しい鼓動が、容赦なく観る者に突き刺さる。この哀しい愛の傷跡をたどる傑作ミステリーを衣装デザイナーの Arianne Phillips (アリアンヌ・フィリップス) のインタビューを交えて紐解く。
かつて Gucci (グッチ) を復活させ、“トム・フォード シンドローム” を起こしたといわれる Tom Ford (トム・フォード)。Gucci や Yves Saint Laurent (イヴ サンローラン) のクリエイティブ・ディレクターを経て、2005年に自身のブランドを立ち上げた後も、世界で最も成功したデザイナーとの呼び名が高い。そんな Tom Ford の監督デビュー作『シングルマン』(2009) は、“絶望と孤独” を独特の映像美で情緒たっぷりに描き出し、主演の Colin Firth (コリン・ファース) がヴェネツィア国際映画祭、英国アカデミー賞、サンフランシスコ映画批評家協会賞で主演男優賞を受賞したばかりか、Tom Ford も各国の映画祭の脚本賞をノミネートされるなど、世間に高く評価された。
そして、現在公開中の最新作『ノクターナル・アニマルズ』は第73回ヴェネツィア国際映画祭で審査員グランプリを受賞し、キャストの Michael Shannon (マイケル・シャノン) はアカデミー賞助演男優賞をノミネート、Aaron Taylor-Johnson (アーロン・テイラー=ジョンソン) はゴールデングローブ賞助演男優賞を見事受賞するなど、いま最も注目を集めている作品だ。
現在、小説、過去……3つの世界が妖しく交錯する『ノクターナル・アニマルズ』
スーザン (Amy Adams (エイミー・アダムス)) はLAで成功したギャラリスト。キャリアも家庭も手に入れて何不自由なく暮らしているはずなのに、決して幸せではない “現在” をおくっている。ある日、スーザンの元に20年前に離婚した元夫のエドワード (Jake Gyllenhaal (ジェイク・ギレンホール) ) が書いた「ノクターナル・アニマルズ」という “小説” が届く。
テキサスを舞台に起こる悲惨な殺人事件を描いた小説に打ちのめされるスーザン。この小説はいったい何を意味しているのだろう? エドワードとNYで過ごした “過去” がフラッシュバックのように甦る。これはエドワードの “復讐” なのか? スーザンが住むLAの “現在”、エドワードとそっくりのトニーが登場するテキサスを舞台にした “小説”、スーザンとエドワードが過ごしたNYの “過去”、3つの世界が美しくも妖しく交錯していく……。
消費社会のなかで、Tom Ford が語る愛の物語
「すべてが、人間関係すらも、あまりに容易に捨てられる廃棄の文化にあって、この物語は、忠誠、献身、愛を語ります。私たちみなが感じる孤独、私たちを支えてくれる人間関係をめぐる物語なのです」とTom Ford 本人が語る本作は、映画の冒頭に出現するインスタレーション、登場人物が装うハイファッション、LAの洗練されたライフスタイル、ちりばめられた現代アートなどが、あたかも現代の消費社会に警鐘を鳴らしているようにも受け取れる。
廃棄が前提のファストファッショントレンドは言うまでもないが、アートでさえ投資対象になる消費社会において、Tom Ford がひとりのパートナーと30年以上添い遂げている事実に、本作のテーマが潜んでいるのかもしれない。
1986年、『VOGUE HOMMES INTERNATIONAL』の元編集長だった Richard Buckley (リチャード・バックリー) に一目ぼれしたという Tom Ford は、Richard が重度のガンに罹ったときも闘病生活を献身的に支えて結婚し、いまでは子供もいるという。
「TOM FORD」ブランドを使わないと決めた理由
おどろくべきことに本作には「TOM FORD」ブランドが使用されていない。「ブランディングによって観客が映画に入りこめなくなるのを避けるため、そして、映画は服を売るための宣伝ではない、という監督の考えのもと、私たちはこの映画で “TOM FORD” を使わないと決めました」と語るのは、衣装デザイナーの Arianne Phillips (アリアンヌ・フィリップス)。『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』(2012) でアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされ、Madonna (マドンナ) などセレブの衣装デザイナーやスタイリストとしても著名な彼女は、Tom Ford の衣装へのかかわりについてこう説明する。
「『ノクターナル・アニマルズ』のコスチュームデザインは、Tom が書いた脚本を読んで発想していきました。Tom との打ち合わせを重ね、行きついた結論は、衣装がキャラクターの背景をしっかりと伝えることが最も重要である、ということでした。衣装が物語をより明確にするのです。——彼が突き詰めるディテール、映画監督としての洗練されたスタイリッシュな感覚は、場面場面の意味や物語全体をより豊かなものにします。Tom は、ファッションデザイナー、クリエイティブディレクター、映画監督、いずれにおいても誰よりも一歩先を歩む存在なのです。」
スーザンの心理にそって変化する衣装
スーザンが “現在” の世界で着る衣装は、ほとんどが Arianne のデザイン。黒と白のミニマルなスタイルでスーザンの「完璧主義の鎧」を映し出す衣装が、ラストシーンで変化するのも見所だ。
「スーザンのキャラクターについて話し合った結果、彼女の衣装の色合いはニュートラルなものにしようと決めました。スーザンは映画の中である種の旅を経て、最後に色を着る、という特別なアイデアを Tom はもっていました」。エンディングに現れるスーザンの “緑” のドレスは、Arianne が染色からこだわったもの。
そして、衣装へ想いはメインキャスト以外にも見られる。例えば、Jena Malone (ジェナ・マローン) 演じるスーザンのもとで働くギャラリーのキュレーターが着ているハーネスは Comme des Garçons (コム デ ギャルソン) のヴィンテージ、レザーアイテムは Gareth Pugh (ガレス・ピュー) のものだという。「着る芸術」というコンセプトのもと、Tom Ford 自身がこの衣装が選んだそうだ。
Tom Ford が苦んだジェンダー
一方、Michael Shannon が演じるテキサスの保安官ボビーの衣装はコンテンポラリーとは正反対。小説の世界で展開するテキサスの殺人事件では、カウボーイハットとウェスタンブーツに身を包んだボビーが、Jake Gyllenhaal 演じる “繊細な” エドワードや小説上のトニー (Gyllenhaal は1人2役演じている) と対比的に、マッチョでタフな “男らしい” 男として描かれている。
「テキサスで育った少年として、私は古典的に男らしい人間とはみなされず、そのことに苦しみました」と語った Tom Ford。対照的な男性像を物語に登場させることによって、男は男らしく、女は女らしくといったジェンダーによる性差別を指摘しているのかもしれない。
インテリア、現代アート、ファッションと映画の随所に至るまでちりばめられた美学に加えて、結婚、消費社会、ジェンダーなど Tom Ford の世界観が凝縮された『ノクターナル・アニマルズ』は、鮮やかに彩られた暴力と失われた愛の激しい鼓動が、容赦なく観る者に突き刺さる。この哀しい愛の傷跡をたどる傑作ミステリーから、Tom Ford のメッセージを感じてほしい。
作品情報 | |
タイトル | ノクターナル・アニマルズ |
原題 | Nocturnal Animals |
監督/脚本 | Tom Ford (トム・フォード) |
原作 | Austin Wright (オースティン・ライト) |
出演 | Amy Adams (エイミー・アダムス)、Jake Gyllenhaal (ジェイク・ギレンホール)、Michael Shannon (マイケル・シャノン)、Aaron Taylor-Johnson (アーロン・テイラー=ジョンソン) |
配給 | ビターズ・エンド、パルコ |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2016年 |
上映時間 | 116分 |
HP | www.nocturnalanimals.jp |
©︎ Universal Pictures | |
11/3(祝・金)より、TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー |