"L'Opera" Is Now Showing

オペラ座の混沌期を人々の思いや視点を織り交ぜて描いたドキュメンタリー作品『新世紀、パリ・オペラ座』が公開

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オペラ座の混沌期を人々の思いや視点を織り交ぜて描いたドキュメンタリー作品『新世紀、パリ・オペラ座』が公開

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古くはルイ14世の時代から350年以上にわたり、オペラやバレエにおいて世界トップレベルの水準を維持してきたオペラ座にとってまさに混沌とも言える1年間に迫ったドキュメンタリー映画『新世紀、パリ・オペラ座』が現在公開中。

『新世紀、パリ・オペラ座』

舞台芸術の最高峰として長い歴史の中で君臨し続けてきたパリ・オペラ座。古くはルイ14世の時代から350年以上にわたり、オペラやバレエにおいて世界トップレベルの水準を維持してきたオペラ座にとってまさに混沌とも言える1年間に迫ったドキュメンタリー映画『新世紀、パリ・オペラ座』が現在公開中だ。エトワールとして活躍してきた Aurelie Dupont (オレリー・デュポン) が Benjamin Millepied (バンジャマン・ミルピエ) に代わってバレエ団芸術監督に就任したオペラ座新時代の波乱の幕開けにはじまり、オペラ座史上最大規模の新作オペラ「モーゼとアロン」の1年間にわたるリハーサルと公演初日直前の主要キャスト降板、さらに職員のストライキなど次々と難題に直面する総裁の苦悩、そしてロシア出身の純朴な青年が新たなスターを目指して突き進んでいく姿など、伝統と格式を重んじながらも常に新しいパフォーマンスを模索し続けるオペラ座の裏側を丁寧に映し出す。

監督はスイス議会でどのようにして議案が通るかを、政治的サスペンスで描き、大成功を収めたドキュメンタリー『スイス議会でポップコーン』(2003) や、スイスの極右派主導者 Christoph Blocher (クリストフ・ブロッハー) を描いたドキュメンタリー映画『L’EXPÉRIENCEBLOCHER』(2013) など社会問題をテーマに独自のヒューマニズム、眼差し、思いやりを持った作品作りで定評のある Jean-Stephane Bron (ジャン=ステファヌ・ブロン)。本作では、新作オペラ作品を創りあげる過程を、過剰な演出やありきたりな方法を使って見せるのではなく、創作に取り組む人々を丹念に追うことで1500名以上のスタッフたちの弱さ、またそこからの完璧への欲を露わにしている。オペラ座の舞台裏で日常的に現れるヒエラルキー、組織の働き方、集団としてのまとまり、また競い合い、それらのいずれもが芸術に関係しつつも政治的なものとも言える。まさに一つの社会や、街、企業の縮図とも捉えることのできる独特の空気を観客はそれぞれの登場人物の視点で感じることができる。

 

本作の制作にあたり、監督の Jean-Stephane Bron は以下のように振り返っている。

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas – Bande a part Films – France 2 Cinema – Opera national de Paris – Orange Studio – RTS

 

—今回、なぜ「パリ・オペラ座」を題材にしたのですか?

オペラ座に馴染みのない人は、まず「オペラ座」と聞いただけで圧倒されますよね。よく知らないうちは、遠くから眺めながら、とても “とっつきにくい” と感じるでしょう。だからこそ僕は、観客も含めて世界中の人に、オペラ座の世界をちゃんと知ってほしかったのです。どの映画にも解くべき謎がある。どんな視点からドキュメンタリーを撮るか、撮影者はどんな謎を解明していくのか、監督は何を伝え、観客に何を経験してもらうのか。こういったことは、映画制作を始める前に決めておかなくてはいけない本質的な問いだと思います。

—ではあなたが「パリ・オペラ座」のドキュメンタリーを制作する際に、こだわった点は?

今回は、音楽やその壮大さを通して「オペラ座」にアプローチするのはやめようと思いました。そもそも僕は、演出家や歌手、ダンサーや振付師に興味を持ったわけではないんです。僕は1つの集団が、共同作業をする姿をフィルムに収めたかった。彼らはありとあらゆる困難や葛藤を抱えながらも、そこには共通の目的や共通の利益がある。僕にはオペラ座の神秘のベールを剥ぐという、大それた野心があったわけじゃない。正直、オペラ座のことは何も知らなかったけれど、その組織としての仕組みに大いに興味を持ったんだ。それが今回の僕の視点です。実際のところ、オペラ座総裁の Stéphane Lissner (ステファン・リスナー) とその側近たちを通して、僕らは象徴的、政治的、そして行政的な力に近づくことが出来た。その力は絶大で、穴倉の中ではヒエラルキーの頂点なんです。そのおかげで、僕らは「オペラ座」の世界に切り込むことができた。芸術が生まれる瞬間にも立ち会えたしね。そこには解明されない神秘が隠されているかと思えば、一方で極めて些細な出来事も起こる。美と日常的なものが隣り合って存在している。僕はこの映画を通して、そういう世界を楽しみながら眺めているんだよ。時に皮肉も混じえながらも、常に温かい目でね。

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas – Bande a part Films – France 2 Cinema – Opera national de Paris – Orange Studio – RTS

—「パリ・オペラ座」での撮影許可はなかなかおりません。どのように交渉を?

僕たちが「オペラ座」を描くドキュメンタリーを描くためには、すべてにアクセスできる白紙委任状が必要だった。「どうぞご自由に」ってね。だがそれを手に入れるのはとても大変だったよ。Stéphane Lissner は最初、映画を撮られることに全く乗り気ではなかった。彼が総裁に就任して初めて組んだプログラムが実施される大切な年だったからね。そこにはリスクがあった。いわば内部の社会集団に試される時期だったんだ。映画は決して望まれていなかったし、実現するかどうかも危うかった。
でも少しずつ、僕の過去の作品に興味を持ち、実際に見てくれた結果、撮影にはOKが出たんだ。でもまだ「24時間、歓迎する」と言われたわけじゃなかった。でも何にせよOKが出て、基本的には認められたわけだ。ある種の白紙委任状のような自由を得たわけだが、僕はそれからも、もっと奥に分け入り、この世界の内幕を暴き出そうとする戦いを続けなくてはならなかった。それは、芸術家たちの仕事のベールを剥ごうとする試みでもあった。本来、それは見せられるべきものではない。なぜなら、この卓越した世界でみんなが興味を持つのは、結果を見せることだからね。結果は完璧であるべきで、そこに至るまでの道のりは、しばしば困難で複雑で葛藤と苦悩に満ちている。でも彼らは決してそれを見せない。最も私的で内輪のものだからね。

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas – Bande a part Films – France 2 Cinema – Opera national de Paris – Orange Studio – RTS

—常に完璧を求められる「パリ・オペラ座」が、そう簡単に葛藤や苦悩をさらけ出すとは思えませんが?

僕が「オペラ座」に興味を持ったのは〝簡単には見られないもの″だからだ。毎回、受け入れられるまで交渉しなくてはならなかったし、オペラ座の皆と信頼関係を築かなくてはならなかった。ドキュメンタリーでは必要不可欠なことだ。人によって方法は異なるけれど、それぞれの相手との間に信頼関係を築くためのカギを見つけないといけない。それができれば、彼らは徐々に他者の視線にさらされながら行動することを受け入れてくれる。ベールを脱ぎ、裸になり、自然に振る舞って、自分を見せてくれるようになるんだ。指揮者のフィリップ・ジョルダンや、ダンサー、歌手たちと向き合ってみて感じたのは、彼らは取り扱うのが難しい非常に特殊な感覚を持っているということ。彼らは普通の人ではなく、世界有数の指揮者や歌手だったりするから。それを撮影しようとすると、最初は抵抗される。でもそれを撮るのが面白い。彼らには謎がある。すぐには明かされない何かがあるんだ。「ぜひ撮影してくれ。最高だ。明日××時に来て」なんて被写体から言われるのは、決していい兆候ではないね。最初は不透明で、何らかの拒絶があるべきなんだ。撮られる側にも撮る側にも困難があったほうが、僕の印象では、うまくいくものだよ。

 

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas – Bande a part Films – France 2 Cinema – Opera national de Paris – Orange Studio – RTS

—映画に登場する新人オペラ歌手、Mikhail Timoshenko (ミハイル・ティモシェンコ) の姿が印象的でした。彼の視点から観る「パリ・オペラ座」はとても新鮮ですね。

Mikhail Timoshenko は、この映画の大切な視点の1つを担う登場人物だ。彼は「オペラ座」の華麗な世界とはかけ離れた場所からやって来た若い歌手で、彼に会った時、僕は丁度「オペラ座」の中に僕自身に似ている人物を見つける必要があると感じていた。彼は<フランス語>を習得しなければならず、僕は<オペラ座の言語>を学ばなければいけなかった。彼との間には最初から通じるものがあったね。彼のやる気や欲求が、僕の欲求や好奇心に似ていた。すべてに興味を持ち、発見し、この館の隅々まで見たいという好奇心だ。僕はドキュメンタリーの制作に取り掛かる前から、登場する人物のアイデアを持っていた。総裁、指揮者、Benjamin Millepied (バンジャマン・ミルピエ) のようなスター振付師。そしてエトワールではない無名のダンサーたち。こうした人物は私が望んだんだ。そこには観客が感情移入することになる主要人物たちがいる。だから、あえて質問をしたり何か言動をうながしたり、インタビューやナレーションなどを差し込む必要はないと思った。何もかも包み隠さず映像にし、すべてを登場人物に託したんだ。彼らがストーリーをけん引し、自分たちだけの物語を語ってくれると信じてね。

—1年半にわたる撮影で得られた膨大な映像素材を編集する際に、意識したことはありますか?

バレエもオペラも、それだけを撮影せず、常に誰かの視点を通して映し出すようにした。そこに美や振付、歌、音楽などをさらに投影していくんだ。被写体に、とても人間的な感情を投影することで、自己同一化を促した。僕にはカギとなる言葉があって、これは映画の地平でもあるんですが、「私はオペラドキュメンタリーを作っている」という言葉です。オペラについては何も知らなかったけれど、もともと音楽理論には興味があったので、書籍を読み漁ってオペラの形式や構造、方法について学んだ。序曲がどんなものだとか、どんな終わり方をするとか。そういったものを、映画を作るうえで活かしたいと思ったんだ。今回の映画を作るにあたっては、オペラの物語だけではなく、形式も意識した。恐怖の効果とかコラージュとか、一つの「場」から次の「場」への移行とかね。「場」は分離されていることもあれば、音楽やフレーム外でつながっていることもある。コーラスをフレームの外に置いたりしてね。こうしたことは純粋に形式の問題で、僕は非常に興味があった。だからこの映画は「場」で構成し、映画全編を通して登場する人物がいる。集団、アンサンブル、グループ、コーラスの場面がある一方で、ソリスト、ソリチュード、アリアの場面もある。後者はしばしば内省の場面になる。極めて孤独な場面も作って、映画全体をオペラの形式のように構成したんだ。あとは滑らかさも意識した。スピード、速さ、名人芸。一つのものから次のものへ、いかに移るか、どのように読むか。喜びの感情も全面に出しました。僕の前作の『L’Expérience Blocher』は、かなり暗い映画だったんです。デモクラシーの危機に瀕して、悲観的な感情もあった。そんな暗い感情、悲観主義に対抗して、今回僕はネガティブな感情に挑むような陽気で前向きな映画を作ることにした。それが僕をオペラの世界に飛び込ませたんだよ!

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas – Bande a part Films – France 2 Cinema – Opera national de Paris – Orange Studio – RTS

—「パリ・オペラ座」を映し続けた結果、芸術の殿堂はあなたの眼にはどう見えていますか? 

よく、文化は人々を結びつける重要なものだと言われる。でも僕にとって重要だったのは、それをフィルムに収めることでした。僕は一つの社会のつながりを撮影した。そこには一つのプロジェクトがあり、共通の地平が広がっている。個人の自我などより、はるかに偉大なものだよね。一見、同じ作品を何度も上演するオペラは古い芸術にも見えるけれど、でもそういったものだって、プロジェクトを進化させようとする人たちによって実現されている。それが僕にとっては、とても政治的なものに思えたんだ。オペラ座は、希望、喜び、共に歩んでいきたいという願望に突き動かされていると思う。劇中 Mikhail Timoshenko が2度、口にするフレーズがあります。「たとえすべての本が焼かれても、1冊あれば読むことができる」という歌詞です。この歌は映画の中で3回歌われますが、本作の秘密のカギのようなものだね。1節の歌、1つの音、一枚の絵画があれば…。この映画には信念があるんだ。ある種の信念がね。

作品情報
タイトル 新世紀、パリ・オペラ座
原題 L’Opera
監督 Jean-Stephane Bron (ジャン=ステファヌ・ブロン)
出演 Stéphane Lissner (ステファン・リスナー)、Aurelie Dupont (オレリー・デュポン)、Benjamin Millepied (バンジャマン・ミルピエ)、Philippe Jordan (フィリップ・ジョルダン)
配給 ギャガ
制作年 2017年
制作国 フランス・スイス合作
HP gaga.ne.jp
©︎ 2017 LFP-Les Films Pelleas – Bande a part Films – France 2 Cinema – Opera national de Paris – Orange Studio – RTS
 12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー