行き場のない人々の怒りをユーモラスに描いたクライム・サスペンス『スリー・ビルボード』が公開

2017年第74回ベネチア国際映画祭で脚本賞、同年のトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得しているクライム・サスペンス『スリー・ビルボード』が公開した。

娘を殺された真相を求めて闘う母親。その怒りの矛先を向けられる末期ガンの警察署長。上司を尊敬し、母親に執拗な嫌がらせをする巡査。アクの強いキャラクター一人一人が抱える行き場のない怒りや不安。そんな人間らしいユーモアとシリアスな側面を見事に描き切ったのはローレンス・オリヴィエ賞を受賞するなどイギリス演劇界を担う才能でありながら、映画監督ビュー作の短編でいきなりアカデミー賞 ® 短編賞を獲得した俊英 Martin McDonagh (マーティン・マクドナー)。長編映画第1作目となる『ヒットマンズ・レクイエム』でも同脚本賞にノミネートされており、本作ではさらに多くの賞を受賞し今年のアカデミー賞 ® にも期待が高まっている。

ブルーのジャンプスーツにバンダナという “戦闘服” に身を包み、終始キレまくる主人公・ミルドレッドを演じるのはオスカー女優 Frances McDormand (フランシス・マクドーマンド)。ミルドレッドの胸が張り裂ける思いからユーモアまでを演じきるにあたり、主人公を以下のように分析している。「(ミルドレッドは) 複雑な人よ。ほとんどの言語で彼女がいる状態を表す言葉がないの。夫を亡くせば未亡人、親を失えば孤児。でも、子供を亡くした親についての言い方はない。なぜなら、生物学的にそういうことは起こってはならないから。そこにミルドレッドは置き去りにされている。だから彼女は一発勝負にかけるの。」

©︎ 2017 Twentieth Century Fox

ミルドレッドと対立し、物語の軸となるウィロビー署長を演じるのは、実力派俳優としてアカデミー賞 ®に2度ノミネートされた Woody Harrelson (ウッディ・ハレルソン)。愛妻家で良き父で人望厚く、茶目っ気もある人物だが、末期ガンを抱えて人生の終止符の打ち方に悩む署長を魅力的に演じている。署長の部下で、トラブルメイカーのディクソン巡査には、『コンフェッション』(2002) でベルリン国際映画祭男優賞を受賞した Sam Rockwell (サム・ロックウェル)。人種差別主義者でマザコン、バイオレンスでしか自分を表現できない教養に欠けた男が、ある事件をきっかけに変わっていく姿を味わい深く演じた。そのほか、John Hawkes (ジョン・ホークス) や Lucas Hedges (ルーカス・ヘッジス) がミルドレッドの家族として出演し、クセモノのキャラクターを生き生きと演じ切っている。各々の大切なものを守るために、予想もしない道へと外れていく大人たちをダークなユーモアを潜ませて熱く切なく描き、観る者を途方もない結末へと連れ去るこの物語。きっとあなたもそれぞれのキャラクターを可笑しくも愛おしく思うことだろう。

©︎ 2017 Twentieth Century Fox

＜あらすじ＞
アメリカ・ミズーリ州。田舎町を貫く道路に並ぶ3枚の広告看板に、地元警察のウィロビー署長を批判するメッセージを出したのは、7カ月前に何者かに娘を殺された母親ミルドレッド。犯人は一向に捕まらず、何の進展もない捜査状況に腹を立てたミルドレッドが、署長にケンカを売ったのだ。署長を父親のように慕う暴力的なディクソン巡査に様々な嫌がらせを受け、署長を敬愛する町の人々からも抗議を受けても、一歩も引かないミルドレッド。その日を境に次々と不穏な事件が起こり始め、町に激震が走るなか、思いがけない容疑者が現れる—。

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