Interview with Koyu Asanuma, Insights Presenter of WGSN, the world's leading fashion forecaster

ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『WGSN』のインサイト・プレゼンター、浅沼小優氏インタビュー

Interview with Koyu Asanuma, Insights Presenter of WGSN, the world's leading fashion forecaster
Interview with Koyu Asanuma, Insights Presenter of WGSN, the world's leading fashion forecaster
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ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『WGSN』のインサイト・プレゼンター、浅沼小優氏インタビュー

Interview with Koyu Asanuma, Insights Presenter of WGSN, the world's leading fashion forecaster

アパレルからリテール、家電、自動車、インテリアまで、ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『Worth Global Style Network (WGSN)』。ロンドンに本社をかまえ、パリ、ニューヨーク、香港、上海、メルボルン、サンパウロ、そして東京に支局を設け、クリエイティブ産業にたずさわるあらゆる職種に有益な情報を提供している。WGSN東京支局にてアカウント・マネジャー兼WGSNインサイト・プレゼンターを務める浅沼小優氏に、トレンドが決まるプロセスから、SNSがファッションの消費行動に与える影響、今後のリテールビジネス・ブランドビジネスの行方、 いま世界的注目の新興アパレル市場、2013年に消費者が求めるもの、Eコーマスなど、いろいろと話を聞いた。

アパレルからリテール、家電、自動車、インテリアまで、ファッション・ライフスタイルの最新情報と2年先のトレンド分析を提供する世界最大級のオンラインリサーチサービス『Worth Global Style Network (WGSN)』。ロンドンに本社をかまえ、パリ、ニューヨーク、香港、上海、メルボルン、サンパウロ、そして東京に支局を設け、クリエイティブ産業にたずさわるあらゆる職種に有益な情報を提供している。WGSN東京支局にてアカウント・マネジャー兼WGSNインサイト・プレゼンターを務める浅沼小優氏に、トレンドが決まるプロセスから、SNSがファッションの消費行動に与える影響、今後のリテールビジネス・ブランドビジネスの行方、 いま世界的注目の新興アパレル市場、2013年に消費者が求めるもの、Eコーマスなど、いろいろと話を聞いた。

まず WGSN (ダブル・ジー・エス・エヌ) について簡単に教えてください。

WGSN は、もともとその上に Top Right Group (トップライトグループ) というグループ会社がありまして、そこが3つのグループを持っているんです。そのうちのひとつが、“予測”という意味の“foresee”とかけて 4C Group と呼ばれるグループ。WGSNはそこに属しています。1998年にロンドンで立ち上がり、15年間、ファッションのみならず社会的なトレンドも含めて発信してきました。そういったプロダクト・ライフ・サイクルの起点から、アパレルでいえば、アイテムの絵型やグラフィックを出すといった、実務に直接かかわるような情報まで提供しています。また、GLOBAL FASHION AWARDS (グローバル・ファッション・アワード) というファッション業界に貢献した人、ブランド、企業を称える授与式を主催しています。Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) のメンズ・ディレクター、Kim Jones (キム・ジョーンズ) もこれまでWGSNを使ってきたことをGLOBAL FASHION AWARDSのビデオで語っていますが、お客様は、ラグジュアリーブランドはもちろん、TOPMAN (トップマン) や PUMA (プーマ)、H&M (エイチ・アンド・エム)、DIESEL (ディーゼル) まで、非常に幅広くいらっしゃいます。

WGSNは約2年先のトレンドまで予測を行い、顧客に情報をお届けするということなのですが、そのトレンドを決めるプロセスについてお聞きしたいです。

WGSN は87カ国で展開していますが、シーズン毎に約40人のスタッフがロンドンに集まり、それぞれのローカルのトレンド情報を報告しあいます。いまローカルでなにが起きているのか、各地域の情報を精査します。そしてモダンアートや社会的なムーブメント、影響力を持つ人物たちの考え方をそこと照らし合わせて、一体なにが世界で共通して起きているのかを探っていくわけです。反対にいまのストリートの状態がこうだから、半年後、1年先、2年先はこうなっているだろうという話ももちろんあります。

毎シーズンのコレクションで、このカラーがキーカラーだとか、どのブランドも結構同じカラーや同じプリントを発表するなど、似通っているケースが結構あると思うのですが、そういうファッショントレンドの生まれる構造というのは、みんな裏で口合わせをしているというわけではないんですよね?

予測の仕方には主に3つ要素があるんです。ひとつは、トップダウンという上からやってくる要素。ボトムアップで下から (ストリートから) 上がってくる要素。そして、震災などもそうですが、社会が一変してしまうような大きな背景の変化というのもあります。通常はボトムアップとは言いながら、ストリートレベルで起きていることが一度上のほうに吸い上げられるというように、ラグジュアリーブランドをはじめ、そういうトレンドを発信しているところに一回吸い上げられることで、それが全体に広がっていくというような動きをしているように思います。したがってストリートは大事なのですが、そこにあるだけでは発信力は限られてしまいます。やはり一度どこかに吸い取られないと、全体的なトレンドにはなかなかなりません。私どもが、2年先の予測を出すということも、ある意味、トレンドの一本化に良くも悪くもじゃっかん貢献してしまっている。もしかすると、もっと多様だったはずのトレンドが、私たちのようなトレンド予測会社が普及することで幅が狭まってしまう可能性もあります。ある程度確実に売りたいというのがビジネスの基本ですので、どうしてもそこに収斂せざるをえないというのはあると思いますけど。自戒も込めて、私たちがきちんと発信しなければいけないということと、できるだけダイバーシティーというか、さまざまなトレンドがあるということをきちんと伝えていかなければならないと思っています。

トップから降りてくるトレンドというのは、具体的にはどういうものですか?

例えば、社会的な活動をするというひとつのトレンドがありますよね?それを、いままでみんな草の根レベルでやってきたわけです。しかし、例えばそれが一度ラグジュアリーブランドなどに吸収され、彼らが発信することによって、お洒落なモノ、ファッショナブルなモノだという認識に変わっていく。そして今度また社会的活動が普及していくというような形があるわけです。これはひとつの例ですが、デザインの話だけではなく、表現の仕方や、なにをそれぞれの人生の中に取り込んでいくかについても、やはりラグジュアリーブランドがある程度の影響力を持つ発信者になっているのではないでしょうか。

『Facebook (フェイスブック)』や『Twitter (ツイッター)』といったソーシャルメディアがかなりの勢いで普及していきていますが、このことはファッションの消費行動、消費者の趣向などに変化を与えたりしていますでしょうか?

意思決定のプロセスがある程度、可視化されたのではと思っています。というのは、いままでなにか洋服を選ぶときや、消費材を選ぶというとき、雑誌などを見て自分の意志で決定しているという思いが消費者に強くあったのですが、こういうネットワークで「これでいいよ」と言われて、「なるほどいいかも」と思ったりするようになってきています。他者からの影響を避けるのはなかなかむずかしいのですが、それをいままでできるだけ意識しないようにしてきたのが消費社会の構造だと思うんです。それが割とドラスティックに変わってきた。消費者がこの点を意識しているかはわからないですけど、確実に気持ちの中にはだれかの影響を受けて消費をしているということを、潜在意識の中に取り込むようになってきたのでは思っています。それは、他者との関係性を意識する機会になりますし、自らがすべて自分の意思によってものごとを決定している/しなければならない、という呪縛からの解放にもつながります。

グローバル化やIT化の影響で今後のリテールビジネスとブランドビジネスはどのように変化していくとお考えですか?

いくつかあるのですが、先ほどブランドが発信者であるという話はしましたが、最近のブログや『Twitter』などの影響を考えると、発信者がブランドから人に戻ってきていると思います。そもそもトレンドの発信者というのは、マリー・アントワネットのような上流階級の特定の人がいて、その人が「いいよ」と言ったものについてみんなで「それいいかも」と言って、フォローしていったわけですよね。しかし、そういう体制が崩壊して、今度はブランドがトレンドの発信元になりました。上流階級にいる人たちは、こういった身の回り品で生活を整えるべきだということで、ブランド側がアイコンはいても、特定の人の輪郭をぼかした形で要素だけを発信していった。それが、今度また具体的な個人が実際のライフスタイルを構成するモノを発信することで、主導権が個人に戻ってきているのかなと思います。ブロガーが発信するとか、『Twitter』でみんなが「いいね」と思ったものがトレンドになっていくというように。

あとブランドの手法というか、今後どんどん発展していくのだろうと思われるのはパーソナライズです。IT化が進んで、消費者がインプットしたデータがフィードバックされ、その情報を使って、この人にはなにが必要かを分析する。Amazon (アマゾン) も商品を勧めるようなことをやっていますが、あれがもっともっと深化していくのではと考えています。

—日本のリテールやブランドが苦戦している話が多くあがっていますが、WGSNのマーケティングの専門的な視点から見て、今後はどのようにしていくのがいいのでしょうか?

日本と海外という言い方はすこし極端すぎますが、一般的な西洋社会と日本の美の基軸というのは違いますよね。そこは大事な点で、おそらく海外のブランドが日本でやるにしても、日本のブランドが海外でやるにしても、それが違うということを把握し、念頭におく必要があると思います。もっとはっきり言ってしまうと、日本だと「カワイイ」的な視点で物事が動いていて、海外だともっとセンシュアルなものが理想的なうつくしさとしてとらえられています。そこは大きく違いますし、身体の表出の仕方=ファッションが変わってきますので、その辺をはっきり意識せずに海外に出て行ってしまったら、むずかしいと思います。あとは震災を経て、これからどんな風に私たちが生きていくのかというのをしっかりと表現できるかどうか。日本のモノ作りというのはすばらしいのですが、どうしてもテクニックに集中してしまうというか。このようなモノができるとか、このようなすばらしい技術があるとか。でも実際はそれを使ってなにをするかというところの方が大事なところで、その部分が日本はなかなか表現できていないと思います。私がいつも良い例として取り上げるのが、プリウスですね。プリウスは技術があって、しかもその技術を使ってどんな風に生きていくのかというライフスタイル提案を含めた商品で、だからこそやはりグローバルで成功したのだと思います。でも、そういうしっかり意思表示をしている商品はなかなかまだ少ない。そういう意味では、今後そういうものを作って出していく必要があるではと。あとはリアリティ・チェックですよね。グローバルでなにが起こっているのかということに対して、耳を塞ぐ傾向が日本の人にはあるかなと正直なところ思ったりもします。海外で展開していくのであれば、グローバルでなにが起こっているのか、それこそ社会的な背景はファッショントレンドと無縁ではありません。いま、どのような考え方にスポットがあたっているのかということも、ある程度は知っておく必要があるのかなと思います。

日本の市場が大きいので進出したいという海外ブランドもたくさんあると思うのですが、日本市場に参入したい場合の注意点はありますでしょうか?

繰り返しになってしまいますが、やはり美の基軸が違うということを知った上で展開するということですね。もともと、私たちはライフスタイルの提案が得意ではない国なので、逆にスタイル提案をされると弱いというか、ついていきたくなるというのはあるかもしれないですね。

逆に日本のブランドが海外で展開する際の注意点も聞きたいです

スタイルにもよると思いますが、私たちが戦後築いてきた生活様式で世界があこがれるような魅力的なモノというのがあまり想像できません。それ以前のやり方や生き方については、まだまだアピールできるモノがあると思います。私たちは意外に素朴に生きてきたと思うし、手仕事を大事にしてきたし、モノも大事にしてきました。そういうものに関しては、日本的なやり方、「こういうのもありますよ」というように、生き方の提案を含めてできるのであれば、日本の技術と一緒にしっかり打ち出していって良いと思います。ただ「良いものなんですこれ」というだけであれば、それを出しても全体的な世界観としてはそれほどアピールできないのかと。パーツとしては重宝されると思いますが。

説明不足ということでしょうか?

説明不足というか、「いま日本には世界があこがれるようなライフスタイルはあるのだろうか」と言う社会学者もいますが、ライフスタイルがないからアパレルが苦戦しているという状況はあると思います。だから、パーツだけ持ってきてなんとなくそれらしく見せるというのは上手は上手なんですけれど、それがサステナブルかというと少し疑問ですよね。だからその部分をもう一度、これからどう生きていくのかということも含めて真剣に考えるべきだと思います。

世界的にいま新興アパレル市場としても注目されている BRICS (ブリックス: ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ) ですが、特に注目しているアパレル市場はどこですか?

インドに注目しています。中国も大きいですけれど。インドは人口が2030年くらいまでに、25%くらいは伸びると言われていて、それに従ってやはりモノを買う中間層なり、その下の層もそうですけれども、グッと増えるというのが大きなポイントになります。ただ、インドに関して WGSN が注目しているポイントは、インドの市場そのものというよりは、インドが世界に与える影響なんです。いままでこの近代化のなかで、私たちが選んできた資本主義や民主主義などいろいろありますけれども、そういうものが上手くいっていないですよね。経済も崩壊するし、生態系もおかしくなっているし。さまざまな人がどうしたら良いのかと知恵を絞っていくなかで、インドというのはなかなかフレッシュで、それこそ西欧的な考え方の中で生きてきたわたしたちにとって、揺さぶられるようなパワフルなインスピレーションソースになるだろうと考えています。

アパレル市場としてはトルコにも注目していますね。いまの人口は7,500万人くらいですが、2050年には1億人近くなります。2030年までの伸び率としては17,8%、2050年までには25%近く伸びると言われていますね。もう既にGDPも2002年からだと3倍くらいになっています。毎年、9年間連続でGDPが5.2%平均で上がってきているという統計も出ています。かなり力強く動いてると思います。あとは西洋文化と東洋文化の接点でもあるので、2013年のトレンドのひとつでもありますが、いろいろなカルチャーのリミックス的要素もあり、トルコはかなり注目しています。

日本のブランドやメーカーはインドやトルコに進出していますか?

インドは、確実に視野に入れていると思いますが、トルコは地理的な問題もありますし、まだファッション系はそれほど進出していないのかと思います。しかし、トルコは親日的な国なので、入りやすいとは思います。大々的にいまトルコをターゲットにしようとしているアパレルさんがいるかというとすこし疑問ですね。おそらくヨーロッパ社会から見たときに注目している市場だと思います。

インドやトルコは、物価が日本と比べるとかなり安いと思うのですけが、日本のブランドが向こう側にいったときに、富裕層のような、所得がある人でないと買えないものになるのでしょうか?

そうなのですが、結構その富裕層が増えてきているんです。確実にラグジュアリーブランドが展開をはじめています。それはもう WGSN でもレポートにしてまとめています。富裕層に関してトルコに注目していますし、ロシアと中東においても、富裕層は確実に増えていくと予測しています。

2013年に消費者が求めるものとは?

ここまでIT化が進むと、「じゃあテクニックでなにをするの?」というようになった際、「つながったけどなにをするんだ?」ということは当然起きてきますし、24時間体制で常にそれに受け答えをしなければいけない状況が続いてきていて、疲れを感じてきていると思うんです。そういう意味で意図的にローテク化していくというのが、ひとつのトレンドとして言われています。例えばタイの通信会社DTACが、「IT機器に向かうのをやめて家族と向き合いましょう」という主旨のCMを打ち出しています。ITを否定するのではないですが、それに拘束されるのも疑問ですよね。自分たちの生活の中でほどよいバランスで使おうという気持ちが更に強なるのではないかと思います。

あとは、実感があることがより大事になっていくのではないでしょうか。クラフティングがいまトレンドになっていますよね。一生懸命に手を使ってモノを作るということに対するよろこびみたいなものが、もう一度注目されると思っています。手紙などでもステキな便箋を買ってきて書くとか、そういう実際に手を使って、動かしてなにかをすることに対する欲求が出てくるのではないでしょうか。実際にはすでにもう出てきてはいるんですけれど、2013年は特にそういうところに注目をしていきたいです。

意図的にローテク化というのはおもしろいですね。

人と人がつながってなにをするの?という問題ですが、つながることそのものは良いのですが、つながってもあまりその後の展開がなかったりしますよね。昔の友達を見つけた、良かった。それくらいで終わってしまって、それではつまらないですよね。だから遠くにいるひととSNSなどでつながることばかりではなく、携帯の電源も意図的に切って、身近に顔を合わせておしゃべるできるような人とちゃんとつながろうという流れも出てきていると聞いています。その辺を含めて、ローテク化というのがひとつのポイントですね。

その一方で便利なものであることは確かなので、より消費者が使いやすいように、商品を消費者の近くまで「運ぶ」という計画をしているブランドも結構あります。例えば韓国のホームプラスという食料品店。韓国というのは世界的にも労働時間が長い国のひとつらしいのですが、買い物をする時間がないという人たちの要望に答えるために、地下鉄の駅構内にバーチャル商品棚というのを作ったそうなんです。そこのQRコードをスキャンすると、後日自宅に郵送されるというシステムを作って、結構これが人気らしいです。そんな風にテクニックがあるだけではダメですが、それを使って時間の使い方を変えられたら良いですよね。ITというのは生活を便利にするために使って、残った時間は自分たちの生活を豊かにするために使うというような考え方に今後なるのではと思っています。

ラグジュアリーブランドのパーソナライズ化戦略が気になっています。

基本的には「こういうモノはどうですか?」というようにしてお勧めをすることですね。情報を集積して、その人を言うなれば調べ上げるわけなのですが、その上で、「こういうモノにご興味ありませんか?」というようにやっていきます。あとは、ブランドのカスタマイズですね。私もブランドにいたときにやっていたのですが、最近というわけではなく90年代にはすでにそういうことをやっていました。もっとさかのぼれば、上流階級の人たちは自分たちの名前を入れたり、彼らのために作るオートクチュールなどはその最たるものです。それがより一般化したという意味で、90年代にはもうすでにパーソナライズに注目をしてきました。その情報の取り方がITを使って、になったので、より細かくなってきているということですよね。いままでは、たとえば顧客の情報というのは会話の中で聞き取ったり、店員さんが「ご旅行にいかれるのでしたら、こういうのはいかがですか?」みたいな形でマニュアルで情報を取り出していたのが、いまはいろいろなソースを駆使して、情報を取られていると私たちに気づかせないかたちで情報を掴んで、この人は、例えばこういうニュースを読んで、こういうサイトを見ているのであれば、こういう傾向の思考というか、考え方の人に違いないというように、分析している会社も結構あります。どんな政党を支持するかでどういう洋服を着るかまでわかるみたいな。どの車に乗っているかでどういう食べ物の趣向かがわかるとか。実際にはそこまで上手くはいかないとは思いますが。

トレンドリサーチ業界で、SNSの今後はどのようになると考えられていますか?

私はあまりSNSに詳しくないので限られたことしか言えないのですが、PCを使用する人よりモバイル端末を使う人が増えていますから、そっちのサイトを強化するというのは全体的にブランドの戦略としてはあると思います。モバイル端末向けの媒体を充実させていくことは必須です。あとは、ひとりの人から派生した友達を上手く全体的に消費に取り込むというのは、ブランドの戦略としては確実にありますね。

いま日本語に対応する海外のオンラインショッピングのサイトが増えてきて、日本で海外ブランドを買うより確実に安いという理由で、日本のショップは打撃を受けているようなのですが、その対策としてなにかありますでしょうか?

いまは円高なのでかなりお買い得ですよね。ショップで試着しておいて、家に帰って海外のサイトで購入というように、ショップはただのディスプレイになっていますし。日本のディストリビューターの未来はあまり明るくなさそうな感じがします。でも、ポイントはアフターサービスだと思います。もちろんものを購入するまでは、絶対安いところで買いたいと思うのはみんなが思うことですが、買ったあとが問題です。例えば返品したくなったときにどうするか。それから少し修理や相談したいときにどうするか。まったく日本にベースがないと、やはり言語的な問題もあってなかなか日本の人が最終的に海外のサイトから買うかどうかわからないですよね。若い人は英語環境でショッピングをするとか、あるいは日本語になっているからそこからショッピングするということに対して違和感を感じないかもしれないですけど、買ったあともその商品を買ってよかったと思い続けてもらえるような環境を提供することが次の購買につながると思います。

あとは実際にモノを手に取れるというのはやはり大事なんですよね。その触感、特にアパレルはそうですよね。触ったときの感じや着心地も大事ですし。ですので、オンラインで買ってはみたものの、実物は気に入らなかったということはありますし、見たいとか触りたいというのは自然な欲求としてある。そういう意味でモノが商品棚から消えることはないでしょうし、商品についてある程度直接モノを見ながら説明するのは大事な仕事だと思います。でも、おっしゃるように、規模としては小さくなるというのはありますね。それはもう避けがたいことだと思います。

海外のECサイトで安く購入するというのは一番賢いやり方なのかもしれませんが、ベストな方法を人が常に選ぶとは限らないですよね。心理的な壁がある人というのは、さっきも申し上げた通り、どうしても海外のECサイトで買うのが嫌だという場合もあるので。特に日本は、IT機器を駆使して気軽にお買い物をする人もいれば、日本橋三越に行って、外商のひとといっしょにお買い物するのがやっぱりいいという人もいるわけですよね。それはそれで良いんですよね。その人がたのしいと思うことがベストなわけですから。だからそういうサービスもある程度は必要です。デパートに行って買ったほうが、購入感はありますよね。そういうのを得たいときもあるだろうし。いろいろなタイプのうれしさやよろこびがあると思うので、その辺はさまざまなオプションを用意しておくと良いと思います。
ラグジュアリーブランドにとっては特にアフターマーケティングというか、買って正解だったという風に思ってもらうことは特に大事な側面ですよね。そういう意味では、ネットでお届けしましたで終わりでは、なんだか寂しい。10万円も費やして、ただ商品が届きましたというのでは寂しい。そういう意味ではあとからDMが届くのがうっとうしいかなと思ったりするものの、でもそのようにケアしてもらっているみたいな感覚というのが大事なときもあると思うんです。

WGSN が企業向けに提供できるソリューションにはどのようなものがありますか?

日本の市場規模が小さくなっていく状況はどうしても避けられません。そこで海外に活路を見出そうとしていらっしゃる企業に対して、先ほどのリアリティチェックではないですけれども、いまどこでなにが起こっているのか、そして未来にどのようなことが起こると予測されるのかというある程度の指標を提供できます。もちろん、WGSNだけが正解ではありませんが、ひとつの判断材料にはなり得ます。また、個別のコンサルティングも行っていまして、こういう国でこういうことをしたいとか、この国にいるこういう人たちとつながりたいというときにもお手伝いできると思います。海外のバイヤーさんを日本に連れてくるという企画もありますし、逆もあります。ヨーロッパ各国とアメリカでは私どもはある程度認知されていて、ファッション業界の方々とも近しくお付き合いしています。業界団体との交流をセッティングすることもできます。あとは、サンプルバイイングというサービスもありまして、海外で売っているモノをサンプルとして買ってお送りしたりしています。

やはりアパレル産業というのは日本ではなかなかむずかしい局面にあって、それをなんとかお手伝いしたいという思いがあります。どうしても日本のブランドは内向きになってしまう傾向にありまして、自分たちがオリジナルのモノを創り出していくという姿勢自体はすばらしいのですが、オリジナルを生み出すためには実際の状況を知らなければいけない。その中で自分たちがどういう立ち位置なのか、常に確認しなくてはいけない。そのために上手く活用していただければなと思っています。私どもは、トレンドに沿ったさまざまな絵型やグラフィックを出しているので、あたかもそれを作ってくださいと言っているように聞こえるかもしれませんが、そういう観点ではなくて、グローバルでこういうものが出るでしょうとか、出ますというときに、「じゃあそこと違うことやろうよ」というのでも当然良いわけですよね。もちろんそれを使ってくださっても構わないのですが、まずはメインストリームを知らないと自分たちがやっていることの意味がなかなかわからない。そういう点では私どもを見ていただくことで自分たちの立ち位置をうまく把握して、そこから発信されると良いのではと思います。

海外に進出したいときのコンサルティングをお願いできる相手というのはなかなかいないですよね。現地の詳しい情報はなかなか入手するのがむずかしいので。

私どもは世界中で情報収集をしているので、ある程度ご相談いただきながら進めていけます。日本の人は情報に対価を払うことに対して少し抵抗があるかもしれません。もちろん、情報にためらいなくお金を払われるところも確かにあるのですが、大きい会社でもネットで調べれば出てくるだろうと考えられている方がいらっしゃるみたいで。もちろん、情報はあふれるほど出ています。一方で、本当に精査された情報、あるいはキューレーションされたものというのはそんなに転がっていないんです。莫大な金額ではないとは思いますが、ある程度コストをかけないとそれに見合った情報は出てこないのではないかと思います。つまり、断片的な切れ切れな情報というのはたくさんありますけど、分析されたものであったり提案を含めたものであったりというのは、なかなかフリーでは手に入りません。

WGSNのサイトではすべてが日本語になっているわけではないですが、例えば、クライアントさんが「この記事ちょっとおもしろそうだから読みたい」と言ってきた場合は、日本側のチームで翻訳をしたりしているのでしょうか?

それはアディショナルサービスとして承っています。もちろん技術的には可能は可能ですけれども、相当な量がありますので。あとは、ある企業では自分たちの業界に関係したり、関心のあるニュースの解説をして欲しいということで、例えば10本から15本くらい弊サイト上にあるリポートをピックアップして、それらの互いの連関を含めて解説をする、といったカスタマイズのセミナーをしたこともあります。

最後に、浅沼さんの東京のおすすめスポットを3つ教えてください。

・浜離宮恩賜庭園
住所: 東京都中央区浜離宮庭園1-1
Tel: 03-3541-0200
年に数回、季節ごとに行きます。菜の花の季節だと蜂蜜のようなにおいがしたり、梅の季節も本当に楽園のような香りだし、夏は夏で潮のにおいがして、のんびり散歩をしながら季節の香りを楽しんでいます。

・わした
住所: 東京都中央区銀座1-3-9 マルイト銀座ビル1F, B1F
Tel: 03-3535-6991
銀座にある沖縄の物産店。東京の普通のスーパーでは売ってないような沖縄の新鮮な食材が買えます。

・光の館
住所: 新潟県十日町市上野甲2891
Tel: 025-761-1090
東京ではないですが、アーティスト James Turrell (ジェームズ・タレル) の作品がそのまま体感できる旅館です。神社仏閣の造りで、谷崎潤一郎の『陰影礼賛』に影響を受けて建てられたそうです。明け方になると屋根が開いて、寝そべりながらみんなで明けていく空を眺めることができます。

<プロイール>
浅沼小優 (あさぬまこゆう)
WGSN (ワース・グローバル・スタイル・ネットワーク・リミテッド)
アカウント・マネジャー & WGSNインサイト・プレゼンター
積水ハウス勤務後、渡米。インテリア業界にてVMDとバイイングに従事。帰国後LVMHグループ、ロエベ、伊シューズブランドなどにてMD、マーケティングを担当。2010年より現職、各企業にてクリエイティブ・マクロ・トレンドの解説を行う。立教大学大学院修了、主に消費論、アイデンティティ論、欲望論などを研究。社会デザイン学MBA。