韓国の名匠、ホン・サンスが捉えるキム・ミニの魅力。近年話題の4作品が特別上映中
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韓国の名匠、ホン・サンスが捉えるキム・ミニの魅力。近年話題の4作品が特別上映中
Hong Sang-Soo's Films Is Now Showing
by Daisuke Yokota
実生活でも恋人であることを公言し、世界一センセーショナルな監督と女優として今最も注目を集めるホン・サンスとキム・ミニ。運命的な出会いを果たした『正しい日 間違えた日』(2015) から『夜の浜辺でひとり』(2017) 、『それから』(2017)、『クレアのカメラ』(2017) とベルリン、カンヌなど国際映画祭を筆頭に世界中から熱視線が注がれる彼らの代表作をご紹介。
実生活でも恋人であることを公言し、世界一センセーショナルな監督と女優として今最も注目を集めるホン・サンスとキム・ミニ。Roberto Rossellini (ロベルト・ロッセリーニ) と Ingrid Bergman (イングリッド・バーグマン)、Jean-Luc Godard (ジャン=リュック・ゴダール) と Anna Karina (アンナ・カリーナ)、小津安二郎と原節子ら、映画監督と名女優のタッグによって生み出されてきた多くの名作たちは長い年月を経てもその輝きを衰えることはないだろう。近年のアジア映画界を代表する2人もまた、その親密で特別な関係性の中で作品を作り続けるタッグと言える。彼らは2015年に『正しい日 間違えた日』(2015) で運命的な出会いを果たした。その後、2人が組んだ『夜の浜辺でひとり』(2017) では、キム・ミニが韓国人俳優初となるベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞。続く『それから』(2017)、『クレアのカメラ』(2017) がカンヌ国際映画祭に同時出品という異例の快挙を達成した。現在ヒューマン・トラストシネマ有楽町とヒューマン・トラスト渋谷では、世界中の映画ファンから熱視線が注がれる彼らの代表作を順次公開中。この機会に映画史に名を刻む名匠とそのミューズの軌跡を辿ってみるのはいかがだろう。
『正しい日 間違えた日』
ホン・サンスとキム・ミニによる記念すべき初タッグ作となった本作は、全米映画批評NO.1サイト「ロッテントマト」で96%Fresh (2017年 11月時点) という高評価を獲得した。描かれるのは、運命的に出逢った男女が「タイミング」の違いによってたどりつく斬新な2つのラスト。運命を分けるタイミングの違いとは?男と女の本音と建前、男の下心に女のプライド、恋の天国と地獄をそれぞれ描いてみせる、異色のラブストーリーとなっている。
<あらすじ>
前半「あの時は正しく 今は間違い」:映画監督のハム・チュンスは特別講義で水原にやってくる。スタッフのミスで予定より一日早く到着してしまった彼は、観光名所で魅力的な女性ヒジョンを見かけ声をかける。絵を描いて暮らしているという彼女のアトリエを訪れ作品を褒め、寿司屋で過ごし、一緒にヒジョンの先輩が集まるカフェを訪れる。甘い雰囲気の2人だったが……。
後半「今は正しく あの時は間違いだった」:映画監督のハム・チュンスは特別講義でスウォンにやってくる。絵を描いて暮らしているという魅力的な女性ヒジョンと知りあい、アトリエにやってきた2人。チュンスが正直に絵を評したことで、ヒジョンを怒らせてしまう。寿司屋で弱さを見せるヒジョンに、チュンスは「愛している」と告白し、ある事実を告げるのだが……。
『夜の浜辺でひとり』
第67回ベルリン国際映画祭で、女優の美しさが全編を支配する作品として話題をさらった本作でキム・ミニが見せるのは、儚くも荒々しい美しさを持つ、かつて見たことの無いヒロイン像。ハンブルクと江陵という2つの海岸都市を舞台に、未来が見えない中で、自分らしくありたいともがく主人公の周囲には、恋人の不在や仕事の空白がブラック・ホールのように広がり、そこにはホン・サンスの繊細な仕掛けが施されている。微妙な心の揺れが多くの現代女性と共鳴し、深い余韻を残す、ホン・サンスによる比類なき女性賛歌が誕生した。
<あらすじ>
女優のヨンヒは既婚男性との恋に疲れ、キャリアを捨ててドイツのハンブルクにやってきた。ハンブルクに暮らす女友達のジヨンと街を散策し、この外国の街に住む自分を夢想する。韓国から会いにくると言っていた恋人の言葉に期待しながら、今では半信半疑でいる。 時は流れ、帰国したヨンヒは東海岸の都市、江陵を訪れる。先輩のジュニとの約束までの間、映画館を訪れると、昔馴染みのチョンウとミョンスに会う。飲みに行った先で、ヨンヒは皆から魅力的になったと言われる。焼酎とマッコリととめどない会話。どこか乱暴に振る舞うヨンヒを皆は温かく受け止め、ジュニは愛おし気に眺めている。友人たちと話すうちに、ヨンヒは女優復帰することを考え始める。ひとり、ホテル傍の浜辺を訪れ砂浜に横たわるヨンヒ。心配する声に顔を上げると、知り合いの映画スタッフがいる。彼らはヨンヒが付き合っていた映画監督サンウォンの次回作のロケハンをしていたという。監督も江陵に来ていると言われたヨンヒは……
『それから』
家に帰りたくないある男の生活を観察したことから生まれた本作には、どこか生きづらい世の中にこそ必要とされる、そこはかとないユーモアが漂う。全編に渡り圧倒的な美しきモノクロームの世界の中でキム・ミニが演じたアルムは、理不尽なとばっちりを受けても、醒めた視点を持ち、動じない女性。騒動のそれからが語られるラストでは、ままならぬ人生にも清々しい一瞬があることを見せてくれる。
<あらすじ>
著名な評論家でもあるボンワンが社長をつとめる小さな出版社に勤めることの決まった主人公のアルム。ボンワンは、毎朝4時半に起きて出勤し夜遅くまで帰らないことで、妻に浮気を疑われている。アルム初出勤の日、事務所に踏み込んできた女に、アルムはいきなり殴られてしまう。浮気の証拠を見つけたボンワンの妻が、アルムを夫の愛人だと勘違いしたのだ。夜、ボンワンはアルムをお詫び代わりに食事に連れて行く。アルムは仕事を辞めると告げるが引き止められる。ところがそこに、アルムの前任者でボンワンの浮気相手であるチャンスクが前触れもなく姿を現す。そして、舌の根も乾かぬうちに、二人から出版社を辞めて欲しいと頼まれるアルム。あまりの理不尽さに憤るが、アルムは数冊の本をもらい出版社を後にする。それから……。ボンワンの評論が有名な賞を受賞した。アルムがお祝いを伝えるために、“図書出版 カン” を訪れると―。
『クレアのカメラ』
『3人のアンヌ』(2012) ぶりにホン・サンス作品に参加するフランスの至宝 Isabelle Huppert (イザベル・ユペール) が、キム・ミニとともにWヒロインを務める本作は、2016年のカンヌ映画祭で同じ街に滞在したわずかな機会を利用して撮影されたという。本作の見どころの一つは、まさにそのカンヌ映画祭の裏事情といえるだろう。登場人物は女癖の悪い映画監督、監督と男女の関係にある映画会社の女社長、監督と火遊びしてしまった映画会社の社員。虚実ないまぜの設定でそれぞれの思惑が交錯するストーリー。映画祭には魔物が棲んでいるといわれるが、まさに本作では華やかな舞台の陰で繰り広げられる人間模様がユーモアたっぷりに描かれる。 淡々としたカメラワークとヒリヒリとした毒気溢れるシュールな会話を追った構成は、まるでジャームッシュ作品のごとく。ジグソーパズルのように、ばらばらだったピースが最後にピタリとはまるとき、観客は思わずニヤリとしてしまうことだろう。
<あらすじ>
映画会社で働くマニは、カンヌ国際映画祭への出張中に、突然社長から解雇されてしまう。帰国日を変更することもできず、一人カンヌに残ることにしたマニは、ポラロイドカメラを手に観光しているクレアと知り合う。クレアは、自分が一度シャッターを切った相手はもう別人になるという自説を持つ、不思議な人物だった。そこで二人は、マニが解雇を言い渡されたカフェに行き、同じ構図で写真を撮るのだが……。