7 questions about
lemaire
spring summer 2021 collection

【インタビュー】重要なのはタイムレス、機能性、そして着る人のパーソナリティ。ルメール 2021年春夏コレクション

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【インタビュー】重要なのはタイムレス、機能性、そして着る人のパーソナリティ。ルメール 2021年春夏コレクション

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spring summer 2021 collection

interview & text: manaha hosoda

窓から差し込む陽の光が美しく影を落とす、とあるパリの一室。真っ白な無機質の空間で、モデルが靴音を響かせて交差していく。パリメンズデジタルファッションウィークの最終日に LEMAIRE (ルメール) は、2021年春夏コレクションをオンラインにて発表した。装飾を限りなく削ぎ落としたプレゼンテーションは、スクリーン越しでも洋服の魅力がストレートに伝わってくる。ここ数ヶ月、さらに洋服と向き合う時間が持てたという Christophe Lemaire (クリストフ・ルメール) と Sarah-Linh Tran (サラ=リン・トラン) のふたりに、最新コレクションにまつわるあれこれを聞いた。

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ファーストルックはダブルポケットのコットンシャツに直線的なボックススカート。一見しただけではわからないが、このスカート実はコットンデニム製。デニムならではのシルエットとハリ感が活かされている。ベーシックだからこそマテリアルやディテールにごまかしが効かないスタイルを LEMAIRE はさりげなくやってのける。コレクションは美しいグラデーションを描いて、パターンや差し色でコントラストを演出。デニムにコットン、サテンといった厳選された良質なマテリアルをデイリーに着られるルックに落とし込んでいく、安定の LEMAIRE 節は今回も健在だ。

新型コロナウィルスの影響によって多くのブランドが従来のショー形式を取らず、オンラインでの発表方法に試行錯誤を重ねる中、あえてシンプルに洋服を見せることを選択したのも彼ららしい。多くの人が生活を見直し、今一度ファッションの存在意義が問われている現在、人々はかつてないほど信念を持った本当に価値のある服を求めている。そのアンサーとなるブランドこそまさに LEMAIRE かもしれない。最新コレクションについて聞いた回答のすべてが、彼らの服作りへの真摯な姿勢と揺るぎないビジョンに裏打ちされているのだ。

よりジェンダーフリーにファッションを楽しめる時代だからこそ

—ウィメンズウェアでは、よりマスキュリンな印象が強くなった印象があります。ここ最近、ウィメンズウェアを作る上で変化したことはありますか?

Christophe Lemaire (以下 CL):女性はよりメンズウェアの仕立てのクオリティやソリッドさ、機能性に関心を持つようになりました。LEMAIRE では常に、自身のスタイルにメンズウェアのエッセンスをミックスしている女性たちをスタイリッシュだと考えています。20年代のギャルソンたちや Coco Chanel (ココ・シャネル)、Marlene Dietrich (マレーネ・デートリッヒ)、第二次世界大戦後のサン=ジェルマンにいた実存主義者たち、60-70年代のカウンターカルチャーの女の子たち……パリでは昔から女性たちが男性のワードローブからエッセンスを拝借してきた伝統があります。それは、彼女たちに強さや自信を与えるだけでなく、女性らしさにおける慣習的で保守的なコードから解放される術でもあったのです。そして、メンズウェアは時に女性の繊細さの恩恵や美しさを強調することもあります。

Sarah-Linh Tran (以下 SLT):ウィメンズウェアは常に進化していて、それはここ数年加速していると思います。ウィメンズウェアがよりマスキュリンになったかどうかはわかりませんが、確かに男性の日常着の特徴をさらに取り入れています。そうした洋服は昔から快適で、機能的、そして丈夫にデザインされていて、それはみんなが普段の装いに期待していることだからです。男性もまた、より自由に新しいシェイプを探すようになりました。それはフェミニティのある概念に結びついていて、みんな違うスタイルをミックスできる自由をこれまで以上に感じていると思います。

—Martin Ramirez (マルティン・ラミレス) の作品を前シーズンから引き続きコレクションに取り入れていますね。このアーティストへの思い入れを教えてください。

SLT:ずっとアール・ブリュット(正規の美術教育を受けていない作家による芸術作品)に興味を持っていたのですが、わたしが20歳の時にインターンシップをしていたパリ・モントルイユの「ABCD Art Brut」というギャラリーで彼の作品とその悲劇的な物語を知ったんです。

Martin Ramirez はもう他界していますが、家族を支えられる仕事を見つけるため30歳の時、アメリカに移住しました。北カリフォルニアで彼は炭鉱や鉄道建設の仕事をしていましたが、クリステロ戦争がメキシコで起こり、彼の生家は破壊され、そこで飼っていた動物たちも失ってしまいます。誤解から家族ともついに仲違いしてしまった彼は、もともと患っていた精神疾患のため1931年にストックトン州立精神病院に入院します。その後、彼は何度も出たり入ったりを繰り返すことになりますが、1935年にそこで絵を描き始めます。今も彼の作品が保存されているのは、アーティストであり心理学の教授である Tarmo Pasto (タルモ・パスト) のおかげです。Martin Ramirez は集めた紙切れに絵を描き、カラーペーストも鉛筆や木炭、フルーツジュース、靴用ワックスなどから作ったものでした。

私たちはニューヨークのギャラリー「Ricco Maresca」にコンタクトをとりました。オーナーはこのプロジェクトにすごく熱心になってくれて、アーティストの孫を私たちに紹介してくれたんです。彼も非常にオープンな人物でした。コラボレーションはこれからも続けていくことになるでしょう。彼の作品の違うシリーズからデザインすることで、そのワードローブに架空の風景を断片的に描くことになります。そこに顔やなびく髪、動く体が現れて、その秘密の庭と完璧な調和を奏でるのです。

着る人とともに年を重ねていく服を

—今回のコレクションでは、これまで以上にデニム素材へのこだわりがうかがえました。何か特別な意図はありましたか?

CL:私たちはいつもデニムに取り組んでいます。違う種類の洋服に、クラシックデニムのワークウェアのアイテムを再構築してみたり、デニムやコットンドリルを生地として使ったりするのが好きなんです。デニムの反抗的な性質、そして美しく年月を重ねていくところが気に入っています。

SLT:デニムは時が経てば経つほど美しくなりますし、着る人によっても変わっていきます。時間に対して非常にパーソナルかつユニークな性質があるんです。レザーをのぞいて、こんなにもオーガニックに歳をとっていく素材が他にあるでしょうか?その頑丈さは洋服に信頼感を与えてくれるので、フォーマルだけどイージーな新しいスーツにデニムを使いました。

—新しく「Judo Pants」が登場しました。日本人としてやっぱり気になります。

SLT:この「Judo Pants」はワードローブのキーアイテムです。トラックスーツの着心地の良さと動着の静かな威厳を兼ね備えています。膝部分を強化することで非常にソリッドに仕上がりました。武道からはいつも影響を受けています。なぜなら武道における空間というのは、肌と洋服の間、それから洋服とあたりの空間を定義しているからです。

CL:本当ですね。確かに私たちはそう呼んでいます。伝統的な柔道着から着想を得ていますが、私たちはそこに”ツイスト”を加えています。実はミリタリーのトレンチパンツと柔道を組み合わせているんです。もしかしたら別の名前をつけたほうがいいかもしれませんね!

—ミリタリーウェアとワークウェアの影響をさらに感じました。何か特別なテーマはありましたか?

CL:ミリタリーウェアとワークウェアは常にインスピレーション源となっています。機能がデザインを決めるんです。実用的なクオリティーと機能的なディテール、ソリッドな仕立て、カットしやすい洋服が好きなんです。

—ワントーンカラーのスタイルはわたしも好きなのですが、ルメールの絶妙な色の組み合わせは別格だと思います。何か心がけていることはありますか?

CL:ありがとうございます。絶妙な方法で色には取り組んでいます。良い服というのは着ている人のパーソナリティを乗っ取ることなく、異なるスキントーンやその人のワードローブにある別のアイテムとも合わせやすくあるべきだということを常に念頭に置いています。これがニュートラルな色合い、スキンシェード、そしてソフトな色彩を私たちが好む理由です。

SLT :色があなたの雰囲気を決定します。シルエットと同じくらい重要で、ほとんど色に飛び込んでいると言っても良いぐらい、単色のシルエットをよく発表しています。色は顔色をよくみせる明るいメイクアップとして考えていて、それを否定することはできないでしょう。インスピレーションは実際にあるものから得ることが多いですね。髪や陶器、スキンパウダー、時には食べ物であったりもします。

COVID-19によってもたらされた内省的な時間

—新型コロナウイルスの影響で通常のコレクション発表とはプロセスも違うものになったと思います。どのように進行していきましたか?

CL:新型コロナウイルスそしてそれに伴う制限は、私たちになぜ服をデザインするのか、消費や物質、自分たちのワードローブとの関係性についてより深く考えるきっかけになりました。その興味深い内省的な時間は、私たちの信念やタイムレスなクオリティを持つ優れた服を生み出すことへの情熱をより強いものにしてくれたんです。タイムレスなクオリティというのは、持続するという意味で、より少なく、より良い服を買いたい人たちに向けたものです。

SL:プロジェクトを強く信じている優れたチームを持てたことの重要性に改めて気づきました。ズームでのリモートミーティングにもかかわらず、私たちは感情のある(と願っている)コレクションをローンチすることができました。家から働くことで、身の回りの環境との関係性が強くなったかもしれません。以前のように洋服をしっかりと見ることはできませんでしたが、これまで以上に座ったり、掃除したり、植物に水をあげたり、洋服を脱いだり、自身を守るといった日々の行動に向き合っています。