【インタビュー】マーク・ボスウィックも参加する、ネット上で “体温” を感じるクリエイティビティ体験ができる全く新しいWebプロジェクト『to be』
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【インタビュー】マーク・ボスウィックも参加する、ネット上で “体温” を感じるクリエイティビティ体験ができる全く新しいWebプロジェクト『to be』
Interview with Nick Dangerfield, Victor Esther and Mark Borthwick: the minds behind new creative digital tool “to be”
「だれかのためになにかをつくる」というコンセプトをもとに、オンライン上で誕生したクリエイティブ・ツール『to be』。“フィールド” という独自のオンライン・スペース上で、白紙の状態から写真・映像・音楽などを組み合わせて特別なモノをだれかと共同で制作するためのツールを提供するプロジェクトだ。
取材・文: 編集部 写真: Shinji Serizawa @ROOSTER
「だれかのためになにかをつくる」というコンセプトをもとに、オンライン上で誕生したクリエイティブ・ツール『to be』。“フィールド” という独自のオンライン・スペース上で、白紙の状態から写真・映像・音楽などを組み合わせて特別なモノをだれかと共同で制作するためのツールを提供するプロジェクトだ。
この秋に正式なローンチをひかえている『to be』は、インターネットの持つ可能性を高めると同時に、非人間的な空間に “体温” をもたらしてくれる。ブログでもSNSでもない、この全く新しいWebのプラットフォームを手がけている Nick Dangerfield (ニック・デンジャーフィールド) と Victor Esther (ヴィクター・エステル)、そして公式コントリビューターとして参加をしている世界的なアーティスト、Mark Borthwick (マーク・ボスウィック) に話を聞いた。
– まず『to be』について教えてください。
Nick Dangerfield (ND): 『to be』はWebブラウザ上のアプリケーションです。普通のWebサイトと同じように、なにかをダウンロードする必要はないし、特別なソフトウエアも必要ありません。高解像度の作業スペースを提供して、そこでいろいろと表現できるツールを提供するのが『to be』です。とても大きな壁を想像してみてください。JPEGやGIF、アニメーション、ビデオ、サウンドなど、基本的にどのようなメディアも使うことができて、さらにペイントすることもできます。
ドラッグしてドロップするような感じでイメージを簡単に放り込めて、好きなようにリサイズしたり、配置を変えたりできます。『to be』上で使える素材を集めたライブラリー機能もあり、これはコンテンツ面でとても重要な要素になります。きちんとブランド化されたライブラリーにする予定で、さまざまなアーティストや企業が制作したイメージや音楽を今後ストックしていきます。音楽をイメージにくっつけることができるので、イメージと音楽を結びつけて考えることができます。
それから制作したモノの上にペインティングをほどこせます。ペイントがオブジェクトに張りついて、レイヤーとして機能するんです。シルクスクリーンもつくれて、イメージをステンシルとして使ってプリントをすることも可能です。
『to be』はとても物理的で、ハンドメイドな要素が強い環境なんです。満足できるモノができあがったら、ガールフレンドやボーイフレンドに送ってみてください。2人で共有できるWebサイトのできあがりです。もしくはそのサイトを一般公開して、だれもが見られる通常のWebサイトにすることもできます。
-『to be』をつくろうとおもったキッカケはなんでしょうか?
ND: 好きな人のためになにかクリエイティブなことをするという意思表示ができる環境をつくりたかったんです。心遣い、愛、そしてクリエイティビティが合わさる瞬間は、とてもうつくしいですよね。こういう意思表示ができるオンラインのスペースはあまりありません。『to be』はよりパーソナルな文脈で特別なメッセージを伝えるツール。本当に親しみやすいスペースを提供します。あと、予期せぬ結果を生みだすことをうながすような、遊び心があって、散らかっていて、大胆なことをしたかったんです。
– このプロジェクトがはじまったのはいつぐらいですか?
ND: 2012年の春です。1年少し前ぐらいですね。サイトの構築は去年の9月にはじめました。チーム自体は少人数で、5人しかいません。
– 『Tumblr』や『Pinterest』といったソーシャルメディアのプラットフォームと比べて、どの点で『to be』は革新的なのでしょうか?
ND: 僕たちはインターネットの時代が到来してから10年たったぐらいに生まれたソーシャルなプロダクトにたずさわっていて、ここ5年ぐらいで『Facebook』や『Tumblr』がメインストリームのプロダクトになってきました。まだ最初の段階ですが、僕たちは “ハイパープロダクト” の世代だとおもいます。
『to be」は『Twitter』『Tumblr』『Myspace』『SoundCloud』『Bandcamp』などといった既存の多くのものにインスパイアされています。インターネットもだんだんと熟してきて、これらのようなメディアをつくることができるテクノロジーも発達してきました。『to be』はとてもモダンなブラウザ・テクノロジーなんです。
ほかのソーシャルサービスはすばらしいですが、使用法が限定的です。僕たちのプロダクトは、ディストリビューションのプラットフォームだけでなく、クリエーションのツールにもなります。『Tumblr』はディストリビューションを目的としたプラットフォームで、クリエーションをするツールは提供していません。『SoundCloud』も同じで、コンテンツをパーソナルにするツールがありません。
『to be』は次世代のWebプラットフォームで、個人のスタイルをより強く反映させることができます。あまり型にはまっていないんです。ハイレベルのカスタマイズ機能を提供しますし、ユーザーに対して特定の型を押しつけません。
– 現在開発中の新機能はありますか?
ND: あまりたくさんの機能を追加する予定はありません。できるだけシンプルにしたいので。ただ、ユーザー同士が一緒に制作作業をするという観点ではもっとやりたいことがあります。このプラットフォームは、複数のユーザーがほぼ同時に同じ “フィールド” で作業をすることができるようにデザインされています。
特に知らない人同士のコラボレーションの形を発展させていきたいんです。ビジュアルアートのコラボレーションはあまりありませんし、アート集団同士が実際に共同でなにかに取り組むということもまれです。このようなコラボレーションは実際には流行らないかもしれませんが、挑戦してみたいんです。こういうことにすごく興味があります。知らない人と同じ “フィールド” で作業をすると、なにが起こるかわからないじゃないですか。
Victor Esther (VE): 『to be』は一緒にコラボレーションをしたい気持ちから生まれたんです。だから僕たちのURLは “to be us” になっています。
– 今後の展開について教えてください。なにか進行中のプロジェクトはありますか?
ND: まだいろいろと開発段階で、このツールをベストな状態に持っていくことを目指しています。あと、長期的なプランは持たないようにしています。1~2カ月先のことした考えない短期型です。毎週やることに注力する必要があるからなのですが、どうなりたいかの夢はあります。
現時点ではまだ数百人しか『to be』を使った経験がありません。ユーザーがどういう風にこのツールを使うのか、たのしみにしています。ここが一番おもしろい点ですし、感動的な部分でもありますね。僕たちは今後の予定を決めないで、ほかの人たちがどう使うかによって、予定が変わってくるのかもしれません。
– モバイルのデバイスには対応していますか?
ND: HTML5のテクノロジーを使っているので、どのプラットフォームでも見ることはできます。いまは Chrome のブラウザ上でしか編集はできませんが、これからは iPad 上などでもいろいろとできるようにしていきたいです。
– Markさんに質問ですが、アーティストとして、『to be』の印象を聞かせてください。
Mark Borthwick (MB): コラボレーションのオファーをもらって参加したんだけど、『to be』には無限の可能性を感じているんだ。可能性を引き上げてくれる地平線のようなものさ。クリエーションの機会を与えてくれて、いろいろと自由に制作ができる。2人でシェアやコラボレーションができるというアイデアも好きだよ。とても自由なツールで、ルールや答えもない。
最初が “無” からはじまるところがおもしろい。なにもないプラットフォームで、自由に行き来できる広いスペースがある。そこに感情に訴えるアイデンティティやパーソナリティの要素を落とし込むんだ。コンピューター自体は、いま最も非魅力的な存在だとおもうんだ。とても合理的だよね。個人的には、つかみどころのない世界の方が好きなんだ。『to be』にはかなりの柔軟性がある。透明感があってエネルギーもある。ユーザーを別世界に連れていくことができるんだ。
『YouTube』のページに行くと、だれか特定の人が制作した映像を選べて、見たいモノはすべてそこにある。表面的で答えがすぐ見つかる。ファッション雑誌を読むのとさほど変わりない。「これ買って、あれ買って、これやって、あれやって」と押しつけてくるイメージに僕たちは吸収されて消費されてしまうんだ。
でも『to be』は真逆で、なにが起こるかわからない。物事の新しい見方を教えてくれる。僕たちはほとんど動きのないモノを見る傾向にあるよね。『Tumblr』のページには本当にすごい情報量がある。盗まれたイメージも。
ND:『Tumblr』上でMarkの写真を見たことがあるよ。熱烈なファンのユーザーがいるんだとおもう。
MB: それはそれで良いとおもう。イメージは盗まれるためにそこにあるんだから。でもいまは盗むことが多すぎる時代なのかもしれないね。
VE: でもイメージはもうイメージだけで存在している。20年前にあるイメージが好きだったとしたら、雑誌を買って、そのページを切り抜いて壁に貼ったりしていたとおもうんです。昔とはもう違いますね。
MB: もう夢の世界とあまり変わらない。いまの僕の生き方に関してだけど、外の道や雑誌の中に存在しているモノより、夢の中の方がよりリアリティがあるんだ。自分と関係がないモノは存在していないから。夢は集合的に感情になって、日々の過ごし方に関連した精神的な電波みたいなときもある。
ファッションの会社を想像してみてよ。ファッションデザイナーがアイデアをコピーするためのイメージを集めてストーリーボードをつくったりしていたよね。もし少しでも想像力があって、興味もあるんだったら、一度ストーリーボードを用意して寝てしまった方が良い。それから夢を見みると、その間に頭の中でストーリーボードがよりおもしろい仕上がりになるんだ。
『to be』はこれにすごく近いとおもうんだ。突然イメージがあらわれて、マウスを使っていじってみるとそのイメージが生き生きとしはじめる。そのイメージ自体がストーリーを持つことになる。予期せぬことが起こるからすばらしい作品が生まれるかもしれない。
– そもそもみなさんはどのように知り合ったんですか?
MB: 僕たちはスペインの同じ村で育ったんだ。ボートに乗っているときに迷って、ビーチで座礁してしまって、僕はひっくり返ってしまったんだけど、Victorが助けてくれたってこともあったね。当時は8~9歳だったかな。
同じ場所で初めて恋いに落ちたこともあるよ。Nickと初めて会ったとき、僕らはその場にいたイタリア人の女の子たちの気を引こうとおもって、スパゲティを食べている振りをしたんだ。実際に食べていたのは浜辺で育つキレイな草だったんだけどね。
ND: あれから何年もたって、ニューヨークで再会を果たしたんです。一緒にある日本の会社向けにうつくしい映像を制作したり、本をつくったりしました。
VE: いろいろなことを共同で作業し続けているんです。去年はMarkのミュージック・レコードをリリースしました。
MB: NickとVictorは「Playbutton」という、音楽を聴く新しい方法をつくりだしたりしているよ。
ND: それをつくったのは2011年ですね。Markは世界で最も好きなアーティストのひとりなので、レコードを一緒につくりたいとオファーしたんです。『to be』がまだ存在さえもしていない時期に、このアイデアについて話した最初の数人のうちのひとりでもあります。もう長年ずっと一緒に仕事をしているんです。
MB: 僕のキャリアはまだまだ初期の段階だとおもっている。この間、Victor と一緒にショートフィルムを制作したんだ。彼が撮影してくれて、いろいろな話をしたり、料理をしたり、自宅の庭のプールで泳いだりもしたよ。
今回のプロジェクトはまだまだはじまったばかりだから好奇心いっぱいなんだ。どの方向に進むのかまだわからない。イメージのパッチワークをつくりはじめた段階さ。
VE: 最近『to be』のフィールドで一緒に作業をしているんです。
MB: まだまだ新しいプロジェクトだし、それってすばらしいことだよね。初期の段階で、終わりがないところが良い。この間、自分の娘の Bibi と Victor と共同で本をつくったんだ。彼女が全部写真を撮って、被写体は衣装を着た僕。ほとんどの場合、隠れていたから、写真を見ても気づかないとおもうけど。
僕たちはひとりではほとんどのことができない。このことをもっと自覚した方が良い。僕たちの世界は大きなエゴにあふれていて、虚無的な心を持つ人々がさまざまなことをやりたがっている。いまはもっとコラボレーションをして、対話をしないといけない時代なんだ。
テクノロジーとコンピューターに支えられた世界はさみしいとおもう。かなり危険だね。消費至上主義的な人生の過ごし方と同じようなもので、いつも買えるモノを見つめている。ニーズと欲の世界。『to be』の良いところは、コラボレーションを最も重視しているところ。いろいろな問いが生じてくるけど、答はない。
僕たちは結局のところ孤独だとおもうんだ。孤独だということをたのしみがちのときもあるし、そういうときはすばらしいモノが生まれたりもする。そういうときの感情を使ったり、共有することは良いことだとおもうよ。僕の世代の人で、テクノロジーに埋もれてしまっている人はあまり見ない。だいたい若者たちなんだ。『to be』は彼らのために構築されているし、使っていてとてもおもしろい。無限の可能性を秘めているとおもう。コンピューターの世界の孤独感はつらいね。
ND:『to be』にとって、言語は障害にはならないので、会話をすることができない相手とでさえ共同作業ができるんです。違う種類の会話です。知らない人と一緒に価値をつくりあげることは、すばらしいことだとおもいます。
to be
URL: http://tobe.us
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URL: http://tobe.us/tobe/likes
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