“モダン ボヘミアン” を提唱するブダペスト発の最旬ブランド、ナヌーシュカが考える私たちと地球のこと
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“モダン ボヘミアン” を提唱するブダペスト発の最旬ブランド、ナヌーシュカが考える私たちと地球のこと
Sandra Sandor talks
Nanushka
resort 2021 collection
interview & text: manaha hosoda
今じわじわと注目を集めているブダペスト発のブランドをご存知だろうか? 2006年に Sandra Sandor (サンドラ・サンダー) によって設立された Nanushka (ナヌーシュカ) は、「機能性」「自然の愛」「ボヘミアン」という3つの軸をブランドコンセプトに置き、上質かつ地球にやさしいウェアラブルな洋服を作り続けてきた。環境問題が深刻化し、サステナブルファッションへの注目がとりわけ集まる中、Nanushka はこれまでに積み重ねてきたサステナビリティへの取り組みの “集大成” となる2021年リゾートコレクションを発表した。Sandra 本人が今年15周年を迎える Nanushka のこれまで、そして現在のステージについて直接話してくれた。
ハンガリー、ブダペストで生まれ育った Sandra Sandor は、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業した後、再びブダペストに戻り、Nanushka をスタート。もともとファッションの街として認知されていなかったブダペストで、徐々に国際的な注目を集めるようになる。彼女の母親はハンガリー初の子供服事業を設立しており、Sandra がハンガリーを拠点にブランドを成長させていったことは必然だったのかもしれない。
Nanushka は、「モダン ボヘミアンのためのコンテンポラリー ブランド」という設立当時からのコンセプトを貫いてきた。ボヘミアンとは、ジプシーに由来を持ち、世俗にとらわれない自由奔放な生き方をしている人々のことを指し、60-70年代のフラワーチルドレンらが持っていた思想とも通底するところがある。Nanushka も60-70年代のスタイルを彷彿とさせるリラックスしたウェアを提案しているが、“モダン ボヘミアン”を彼女はどう定義しているのか。
「既存の考えにとらわれない自由な気持ちを持っていること。完璧なものではなくて、どこか欠けているところに美を見出し、そこに対して愛情を持てることがボヘミアン的姿勢だと考えています。異なる文化を受け入れて、愛でることができ、そこからインスピレーションを得ることも。ひとつのものに固執せず、いろいろなものを取り入れ、自分とは異なるものに美しさを見出すのがボヘミアン。ここでいうモダンというのは、スピリチュアルな部分と現代的な部分をミックスしていいます。スピリチュアルな部分を大切にしながら、実用的かつ機能的、そして快適さを併せ持つものがわたしにとってはモダンなんです。モダン ボヘミアンは、そうした考えを掛け合わせた造語なんです」
「私がデザインする上で、まずひとつにハンガリーで暮らしていること自体がインスピレーションになっています。ハンガリーという国は、歴史的に見ても東西の文化の交差点でした。古くにはオスマン帝国が栄えた場所であり、ゲルマン人の移住から、ベルエポックの鮮やかな文化的生活を経て 、何千年にもわたり様々な文化に影響を受けてきました。それが、ボヘミアン、流浪の民という言葉を私たちがよく使う由縁でもあります。そしてもうひとつ、デザインをする上で大切にしているのが実用性や機能性。これに関しては日々の暮らしからインスピレーションを得ています。暮らしそのものがアイデアなんです」
そして、彼女がもうひとつブランドの支柱として考えているのがサステナビリティだ。もとより自然が好きだったという Sandra は最初、個人レベルからサステナブルな取り組みを始め、5年ほど前よりブランドでも積極的にサステナビリティに取り組むようになったという。
「Nanushka にとってのサステナビリティとは地球と人類に愛情と配慮のある選択をすることです。 サステイナビリティは私にとって個人としても仕事においても非常に重要です。2020年になってからサステナビリティと美を共存させることができるようになり、以前のように妥協する必要がなくなりました。100%サステナブルなブランドというものは存在しませんが、私たちはサステナブルな取り組みに引き続き注力していきます。私はいつも自分が自然と強く繋がっていると感じますし、愛犬のジニーとハイキングをしたり、自分で野菜を育て、それをサステナブルな方法で食することを楽しんでいます。今や、サステナブルな取り組みというのは特別なことではなく、マストで行わなければいけないことになっていて、コロナ禍においてその流れはますます強くなっていると思います。次世代のために私たちの惑星を守ることが最優先事項であるべきです」
「私たちは今多くの取り組みをしています。カナダ森林保護 NGO の Canopy (キャノピー) と組んで、森林破壊と戦うために FSC (森林管理協議会) 認証の素材のみの使用に切り替えています。 私たちが取り組んでいるもう一つの重要なプロジェクトとして、Noha Studio (ノハ・スタジオ)と協働で、ハンガリーの恵まれない地域に雇用の機会を提供しています。 サステナビリティが環境だけではなく人々に関わる、より複雑なテーマであるということは、しばしば忘れられがちです。私たちの雇用プログラムを通して、勤め先を見つけられなかった女性たちに技術を与えることで、彼女たちは家族のために生計をたてることができます。これは私がとても大切にしているプロジェクトです。また、出張の際にはカーボンオフセットを選ぶようにしています」
そんな Nanushka の現段階での “集大成” となる2021年リゾートコレクションは「HUMAN/NATURE」と題され、さらにパート1として「REFLECTION」というタイトルが与えられている。自然からの力強いインスピレーションと自然が人間界に与える変容効果について目を向けることで、自然に感謝し、尊重するというブランドの精神を反映したコレクションに仕上げられている。
具体的には、100%リサイクルされたメッシュジャージーや FSC 認証を受けたサテン、オーガニックコットン、再生レザー、再利用された エコファーなど、環境に配慮したファブリックを中心に構成することでサステナビリティを追求。シーウォッシュ仕上げやアースカラーの色調などを取り入れることで、視覚的にも自然との共存をアピールしている。
「主となるインスピレーションは、自然とその変容する力、そしてそれが人間の世界にもたらす影響でした。ロックダウンの期間中、幸いにも私は自然に囲まれたハンガリーの田舎で今回のコレクションの大部分をデザインしました。そこで自然が持つ本質的な要素や、テクスチャー、色彩からインスピレーションを受け、自然の大切さを共有したいという思いで出来上がったのがこのコレクションです。自然のありのままの姿、そしてその不完全な美を有機的なかたちでファッションに落とし込みました」
「パンデミックを受けて、ブランドとして何をすべきか考えました。そして、立ち上げから大切にしているコアバリューをさらに強化すべきという結論に至りました。サステナブルであり、美しいだけでなく、昼から夜までシーンを選ばずに着ることのできる耐久性、実用性、機能性に優れたもの。新しく思いついたものに飛びつくのではなく、ブランドがもともと目標として掲げていたものが本当に大切なんだと改めて気づいたんです。希望としては業界がもう少しスローダウンしてくれるといいですね。ファッションの世界では、実際の季節とコレクションのシーズンがかけ離れすぎているので。ただ、コレクションの発表方法でいうと、今後も物理的にファッションショーを続けていきたいと思っています。デジタルが大きな役割を果たしていくことは間違いありませんが、デジタルが完全にフィジカルな部分を補えるとは思いません。デジタルだけの世界ではなく、やはりフィジカルな経験も重要です」
このコロナ禍で、Sandra もまた今後のブランドの在り方やファッションの存在意義を再考したデザイナーのひとり。そんな彼女が、思考を重ねる上で助けになったというメディテーション (瞑想) のTipsも指南してくれたので、最後に共有しよう。
「メディテーションは長い間私の生活の一部だったのですが、ここ数か月間は現在の状況と向き合うのにとても役立ちました。 変に聞こえるかもしれませんが、メディテーションの第一のルールは “Just Do It”、とりあえずやってみること。時間がなかったり、自分にはできないと思っていても、とりあえず座ってやってみるんです。やってみれば、きっと得るものは大きいはず。私は朝起きてすぐにメディテーションをします。やらない理由がないからです (笑)。ロックダウン中は、サンセットメディテーションもよくしていました。私はエキスパートではないので、素晴らしい先生についてもらっています。上級者レベルになるとメディテーションは非常に寡黙で一人だけの作業になりますが、ガイド付きのメディテーションもオススメです」