taiga takahashi
to open "t.t" in kyoto

未来は過去にある。現代美術作家、高橋大雅による総合芸術空間「T.T」が京都にオープン

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未来は過去にある。現代美術作家、高橋大雅による総合芸術空間「T.T」が京都にオープン

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by Manaha Hosoda

研ぎ澄まされた感性と妥協を許さない服づくりで今業界から熱い視線を集める Taiga Takahashi (タイガ・タカハシ)。2017年にニューヨークでブランドをローンチ後、2021年秋冬シーズンより日本に本格上陸。満を持して、2021年12月4日、京都・祇園にブランドの旗艦店であり、茶寮と自身の彫刻作品を展示する”総合芸術空間”をオープンする。

高橋大雅は、1995年生まれ兵庫県出身のデザイナー。ロンドン国際芸術高校に入学した後、セントラル・セント・マーチンズに進学。ロンドン、アントワープでメゾンブランドのデザインアシスタントとして経験を積み、2017年にニューヨークにて Taiga Takahashi (タイガ・タカハシ) をローンチ。「過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」というコンセプトを掲げ、海外のアンティークディーラーや古美術商を通じて10代より収集してきた100年以上前の服や骨董といった膨大なアーカイヴから、考古学の観点で服づくりに取り組んでいる。日本では、2021年秋冬シーズンより本格的な展開がスタートした。

最近、新たなアートフェアやデザイナーズホテルなどアート&カルチャーの発信地として盛り上がりをみせる京都。なかでも、京都有数の花街であり、風情漂う歴史的な街並みが残る祇園にて、大正時代初期に建てられた町屋を改装した「T.T」は、日本古来の美意識を現代へ新たに蘇らせる高橋の考古学的/実験的試み。人生の半分を海外で過ごすうちに日本の美学を強く意識するようになったという高橋が、日本の古材と数寄屋造りの伝統技術を用いて、自身の美学を追求。これまでに培ってきた知識とあくなき探究心によって完成したのは、隙を許さず細部までこだわり抜かれた究極の空間だ。TFPは、オープン前の「T.T」に一足先にお邪魔。高橋本人の言葉も交えて、京都の新たな注目アドレスの魅力を5つの観点から紐解く。

祇園茶寮然美(さび)

岡倉天心の『茶の本』が今もなお世界中で読まれ、多くの文化人に影響を与えているように、高橋もまた日本芸術の源流である「茶の湯」の世界に深い感銘を受けたという。自身の総合芸術の一部として、伝統とモダニティを融合させたのが茶室「然美(さび)」だ。もとより茶室だったという2Fの空間を改装し、日本茶と茶菓子のペアリングを楽しめる予約制のサロンとして展開。老舗和菓子司二代目の職人によって考案された創作菓子と京都の茶葉を中心に一流のソムリエが手がけた創作日本茶、それぞれ5品ずつからなる茶菓懐石は、月ごとにメニューを変える。アルコールドリンクを含めるメニューとノンアルコールのコース2種を用意し、料金は税込み5,500円。京都の四季を「食」で楽しむ至福のひとときを提供する。

「時を経るごとに美しくなる、価値が増すような場所にいたいという想いから”さび”と名付けました」

究極の静を堪能する空間づくり

新しいものが次々と登場しては消費されていく現代社会において、本当に価値のあるものとは何か。衣服、建築、食、茶といった人々の営みに寄り添ってきた過去の遺物を見つめていく上で、「未来は過去にある」という答えにたどり着いた高橋。幼い頃に足繁く通ったという祇園で偶然見つけた町屋に日本の伝統的な建築様式である数寄屋造りを取り入れて改装。「型押し」という古典印刷技術を現代に受け継ぐ京都の唐紙工房「かみ添」に特別に依頼した和紙の壁、20世紀を代表するデザイナーのひとりであるジョージ・ナカシマの家具を長年制作してきた「桜制作所」と共作した椅子など、日本の優れたクラフトを積極的に採用している。また、茶室の床の間には高橋が収集した古美術や骨董品が月替わりで展示する。

「究極的に静寂な空間を作りたいというアイディアが最初からありました。仏閣に訪れた時に感じるような、日常生活を忘れられる神聖な空気を大事にしたいと思ったんです」

目に見えない時間の概念を形あるものへ

足を踏み入れるとすぐに目に入ってくるのが、石畳の中心に据えられた彫刻作品。「無限門」と名付けられた同作は、茶室に設置される「つくばい」を高橋が彫刻へと落とし込んだ作品で、時間をテーマにしている。考古学的観点からみても原始的な芸術表現である彫刻に10代より造詣を持ってきたという高橋は、他にも時間をテーマに彫刻作品を制作。イサム・ノグチ日本財団理事長であり、石彫家の和泉正敏氏と香川県の牟礼で制作した作品群を展示している。

「無限、終わりなくずっと続くものを視覚化したいと思いました。時間の概念は自分の洋服、建築、そして茶室すべてに共通するテーマとなっています」

古来より続く技術を用いたタイムレスな服づくり

「T.T」では、日本で本格的に展開をスタートした2021年秋冬コレクションはもちろん、次シーズンとなる2022年春夏コレクションを取り揃える。加えて、ここでしか手に入らない限定アイテムもお目見え。これまでに収集してきたヴィンテージの生地を用いて、タグも自身のブランドタグではなくヴィンテージのものがあしらわれており、すべて一点ものとなっている。コレクションもまた、草木染めや泥染めといった天然染色を積極的に採用し、手作業にこだわっているため、それぞれ風合いが異なる。原点ともいべき技術を研究し、現代的に昇華することで、タイムレスな価値を追求。本当の意味での悠久の時を超えた服づくりを目指す。

「大量生産ではできないものづくりがしたい。原始的な技法であったり、自分が収集してきたコレクションを現代に蘇らせることで、時間が経てば経つほど価値があがる服を未来に遺したいんです」

京都から世界へ

京都にもアトリエを構え、今後はもともと拠点としていたニューヨークと京都を行き来していくという高橋。「T.T」のオープンにあわせて、ブランドの公式ECサイトも開設。京都まで足を運べない人たちにもブランドの世界観を届ける。月ごとに替わる茶菓懐石や展示など、「T.T」にも繰り返し訪れてほしいところだが、コレクションのルックはもちろん、服づくりの背景やブランドの哲学も伝えるECサイトで Taiga Takahashi の魅力を堪能してほしい。