イソップの新作フレグランスが描く、ある夏の日。調香師バーナベが語る、ノスタルジックな香りの生み出し方
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イソップの新作フレグランスが描く、ある夏の日。調香師バーナベが語る、ノスタルジックな香りの生み出し方
aēsop
Launch of a new fragrance inspired by moments spent in the shade of a lush fig tree
interview & text: yuko igarashi
さんさんと日光が降り注ぐ青空の下、自然の中で過ごした夏。ゆっくりと時間が流れていく空間は、めまぐるしい日々を過ごす私たちに静穏と安息をもたらし、美しい思い出として頭の片隅に残っていく。この秋、Aēsop (イソップ)のフレグランスコレクションの11作目としてローンチした「ヴィレーレ オードパルファム」は、いつかの夏のひとときが発想の起点。フレッシュなグリーンをメインに据えながらも、Aēsop ならではの深みやニュアンスを加え、グリーンのもつイメージを覆すような複雑な香調となっている。青々しさに溢れつつも、何層もの奥行きを堪能できるこのフレグランスは、私たちを遠い過去の記憶の世界に連れ出してくれるかもしれない。調香を手がけたのは、Aēsop の長年のパートナーである Barnabé Fillion (バーナベ フィリオン)。The Fashion Post では彼に本作にまつわるさまざまな質問を問いかけた。
—新作「ヴィレーレ オードパルファム」のテーマを教えてください。
ヴィレーレ オードパルファムは、生い茂るイチジクの樹の木陰で過ごすひとときが着想源。いわば自然の中で過ごした夏の思い出です。木陰でゆったりと時間を過ごし、その場にふさわしいお茶を丁寧に淹れる光景に、私は詩的なものを感じます。木の下で飲むお茶の一口、吹き抜ける朝風に揺れる枝葉の優しい音など、素朴だけども宝物のような一瞬を、このフレグランスで表現しました。香りの方向性は、一杯のグリーンティーを淹れてイチジクを浮かべるという素朴な行為や場面を起点としています。
—どんな香りですか?
ヴィレーレはまさにグリーンティーを彷彿とさせる、爽やかな翠緑を思わせる香りです。周囲の人をお茶でもてなすということは、世界中の Aēsop のお店で幾度となく行われていることですが、小さな振る舞いの中におおらかさが感じられます。そんな慎ましい行為を称えるという考えのもとから、お茶を淹れて飲むという行為にまつわる感覚的な体験からひらめきを得ました。インスピレーション源のメインとなるものは、生のイチジクの果肉を浸したグリーンティー。たった今淹れたばかりの軽やかなグリーンティーと、そこから立ち上る最初の湯気のイメージ。蒸気によってグリーンティーと緑色をした生のイチジクが互いに一体化してなじんでいく。ドライさを保ちながら、すがすがしい蒸気のような印象もあるという2つの要素を忠実に再現したかったのです。終始 Aēsop と知見や理解を深めながら、フレッシュな青々しさに溢れながらも深みある、何層もの奥行きと表情の多彩さを愉しめるフレグランスが完成しました。
—調香する際にこだわったことは?
イチジクを煎じたことによって滲み出る香りを表現しています。葉、樹幹、枝から切り取ったばかりの青い果実が、お茶の蒸気で変化するまでのすべてです。そして、香りをつくる上でこだわったことは、一番目に見えにくい一瞬に耳を傾けるという意識。お茶から上って来る蒸気を顔や肌に受けると、本当に触れる感覚がある。このような限られた一瞬がもたらす熱と水分を再現したかった。蒸気によって乾燥葉がよい香りのする生気を帯びたハーブへと変容を遂げる瞬間。この香りの基盤にはミネラルの効いた水のような塩気を帯びたノートがあり、濃縮されたお茶のうま味がだんだんと広がっていくさまを表しました。そして、豊かなイチジクの実が浮かぶ淹れたてのグリーンティーからじんわりと湯気が立ち上り、その温度やイチジクの香りであたりが満たされていく様子を思わせます。そんな香りから思い出される心ほぐれるような情景。茶を淹れるという洗練された儀式的行為と、誰もが記憶の中に持っている、ごく身近で懐かしい思い出であるノスタルジアが巡り合い、美しいバランスが生み出されました。
—香りと記憶はどのように結びついているとお考えですか?
調香をするうえで記憶は重大な役割を果たしています。過去の出来事が、現在、そして未来につながる未知との関係を創造し、匂いの成長を育むのです。記憶の中でも友情、音楽、愛することにまつわるものは特に鮮明に残っていますが、こうした思い出があることでストーリーに深く入り込むことができ、香りへと昇華して皆さんに共有することができます。ヴィレーレに関していえば、私にとってイチジクの樹というと実よりも葉の印象が強く、木陰で昼寝をしたこと、いろいろなイチジクの樹を横目に自転車で走った夏のひとときなどが思い出されます。そして、日本のことも思い出します。緑色をしたイチジクがグリーンティーになじみ、また違った美しさに変幻するのを眺めた記憶です。
—「ヴィレーレ オードパルファム」はどんなときにつけたい香水?
ヨーロッパの青い空のもと、夏の光に出会うようなひとときをもたらしてくれるフレグランスですが、昼夜を問わずに使ってください。嵐のとき、暗闇の中、昼食やディナーなど食事の時間など、思い出といつつながりたいかは使う方次第。また、衣服に付ける、友人に付ける、鞄に付けるなど、まとい方もさまざま。どのような人がどのような場所でこの香りをまとうのか、頭の中にはっきりと描くことはできませんが、今私がお話ししていることは、まさにこのフレグランスの構成要素の一部でもあります。つまり、楽しいひととき、衣服の肌ざわり、香りを思い出すこと、追憶の欠片、こうしたものすべてが重なり、香りをまとう時間を彩るのです。
—こちらは Barnabé さんではなく Aēsop チームの皆さんに質問です。Aēsop が提案する「ヴィレーレ オードパルファム」の新たな付け方を教えてください。
Aēsopのスキンケア、ヘアケア、ボディケア製品とあわせて使用するのをおすすめします。Aēsop最初のオリジナルフレグランスである「ミストラ」および「マラケッシュ」はこれらの製品を引き立たせるねらいで開発されました。その後ローンチしているフレグランスもAēsopの製品と見事に調和します。
—いくつか組み合わせのアイディアを教えてください。
アンドラム アロマティック ハンドウォッシュおよびハンドバームで手肌をリフレッシュしうるおいを与えた後、ヴィレーレを使用。ハンドバームの持つシトラス、ハーブ、ウッディな香りはヴィレーレとぴったりです。また、フレッシュでグリーンな香りを存分に堪能したい方は、ゼラニウム ボディクレンザーを毎日お使いいただき、忘れずにゼラニウム ボディスクラブで週2回肌を磨いてください。そしてゼラニウム ボディトリートメントあるいはゼラニウム ボディバームを使って保湿を行います。ヴィレーレ オードパルファムを付ける肌にゼラニウムの下地があることで、フレッシュなシトラスの香りを一層盛り立てくれるでしょう。ヴィレーレ全体に織り込まれているフレッシュでハーバルな香りを好まれる方には、ハーバル ボディスプレーやハーバル ボディ ロールオンを一緒に使うのもおすすめです。ハーブ、カンファーといった香りの組み合わせが、爽やかな肌印象へ導きます。また、ヴィレーレの爽快感がお好きな方は、アグラオニケ アロマティック キャンドルにも同様の快さを感じられるでしょう。洗練されたフローラルとフレッシュに、さりげないスパイスの漂うアグラオニケ アロマティック キャンドルは周囲にすがすがしい香りを届けます。
—最後に Barnabé さんにお聞きします。改めて「ヴィレーレ オードパルファム」魅力について教えてください。
ヴィレーレは Aēsop のフレグランス コレクションの中で最も明るく、炸裂感があります。まるでダンスを踊っているようだと言ってもいいくらい。イチジクに関連した香水はたくさんありますが、ヴィレーレはイチジクの葉に着眼しているのが特徴です。これは自然そのものを写し取った結果であり、イチジクの樹の下で過ごした思い出を称える試みでもあります。そして、過去の記憶に結びついた香水ですが、ピュアで、強く明るく、はじけるようなまばゆさのあるノートで陰鬱さはありません。あのイチジクの樹の下で過ごした夏のひとときように、あと何百回でもあんな夏が来てくれたらいいのに、と思わせてくれる香りです。