New Generation Tokyo Feature: 90's Tokyo - the legacy of an era

東京のニュージェネレーション・メンズウエア: 90年代の東京ファッションを受け継ぐ世代

New Generation Tokyo Feature: 90's Tokyo - the legacy of an era
New Generation Tokyo Feature: 90's Tokyo - the legacy of an era
News/

東京のニュージェネレーション・メンズウエア: 90年代の東京ファッションを受け継ぐ世代

New Generation Tokyo Feature: 90's Tokyo - the legacy of an era

ロンドンで注目を集めるセレクトショップのLN-CCは、2010年の立ちあげ時から日本のメンズウエア・ブランドの買い付けをし、サポートを行っている。SASQUATCHfabrix. (サスクワッチファブリックス)、Blackmeans (ブラックミーンズ)、Nonnative (ノンネイティブ)、UNUSED (アンユーズド)、Sunsea (サンシー)、FACETASM (ファセッタズム)、Wacko Maria (ワコマリア) などといったブランドを取り扱う海外では数少ないショップだ。東京を拠点とするこれらのインディペンデントなブランドは、いま世界のメンズウエア業界で最先端を走るブランドだ。

提供: LN-CC

©LN-CC

ロンドンで注目を集めるセレクトショップのLN-CCは、2010年の立ちあげ時から日本のメンズウエア・ブランドの買い付けをし、サポートを行っている。SASQUATCHfabrix. (サスクワッチファブリックス)、Blackmeans (ブラックミーンズ)、Nonnative (ノンネイティブ)、UNUSED (アンユーズド)、Sunsea (サンシー)、FACETASM (ファセッタズム)、Wacko Maria (ワコマリア) などといったブランドを取り扱う海外では数少ないショップだ。東京を拠点とするこれらのインディペンデントなブランドは、いま世界のメンズウエア業界で最先端を走るブランドだ。

彼らの作る洋服の思想について彼らと話していると、“東京”や“彼らの世代”という2つのキーワードがよく浮かび上がってくる。彼らの作り出すムーブメントの文化的背景を理解するための記事なども日本の雑誌で書かれていたりもするようだ。彼らの世代は1990年代の東京ファッションを受け継ぐ世代。若者のファッションやカルチャーに大きな変化が起こった年代で、上記にあげたニュージェネレーション・デザイナーたちも、10代のころに90年代に大きな影響を受けたという。

現在の日本のメンズウエア・ムーブメントを理解するために、90年代を分析し、この年代が次世代のメンズブランドに与えた影響を調べてみたい。SASQUATCHfabrix.とFACETASMのデザイナーたちにも話を聞いた。

2/5ページ:90年代に入ると日本の経済状況の悪化とともにこのブームも極限地点に達することとなる。しかし東京のストリートファッションやカルチャーに新しいムーブメントが生まれはじめたのはこの時期だった。

COMME des GARÇONS (コム デ ギャルソン) やYohji Yamamoto (ヨウジ ヤマモト)といった1980年代初期に世界のファッション・シーンに乗り出し、トップブランドとして世界的に認知されるポジションを獲得した第1世代についてはこれまでにもいろいろなところで記事が書かれている。歴史上でこれまでに起こったカルチャー・ムーブメントの多くにあるように、国際的に評価をされると、自国でも再評価をされることがある。日本のブランドの人気が爆発した“DCブランド”ブームもそのひとつだ。

この“DCブランド”ブームに加え、80年代はVivienne Westwood (ヴィヴィアン・ウエストウッド) などのヨーロッパ勢のブランドが日本で人気を博した年代だった。ピーク時となるいわゆる“デザイナーブーム”期になると、世界のファッション情報が東京に集まり、唯一無二の存在感を示していた。

©LN-CC, Interior Design: Wonderwall Inc. Photography: Kozo Takayama | ©NOWHERE CO., LTD. 1993/2011

90年代に入ると日本の経済状況の悪化とともにこのブームも極限地点に達することとなる。しかし東京のストリートファッションやカルチャーに新しいムーブメントが生まれはじめたのはこの時期だった。原宿に若手のデザイナーたちや新しいショップが集まりはじめたのだ。藤原ヒロシやA Bathing Ape (ア ベイシング エイプ) のNIGO®、UNDERCOVER (アンダーカバー)の高橋盾などが中心となり、“裏原宿 (通称: 裏原)”というムーブメントが生まれた。“アイデンティティー”や“エクスクルーシブ”などのコンセプトにもとづいた新しいデザインやリテールによって、裏原宿は東京のファッションや若者の文化に多大な影響を与えたのだった。

3/5ページ:「藤原ヒロシさんはイギリスでいうマルコム・マクラーレンみたいな存在かもしれません」

「当時はファッションという概念よりも、“リミテッド”、“デッドストック”、“エクスクルーシブ”などという言葉がやたらと使われていました。そういうレアなアイテムを入手することによって、“感度の高いマイノリティー”になれたんです。ハマっているものを探して集めてコンプリートすることにみんな夢中になっていました」とSASQUATCHfabrix.のデザイナーのひとり、横山大介はいう。

また当時、日本のメンズ・ファッション誌が台頭し、裏原宿ムーブメントの情報などを多くの読者に伝える架け橋となったことも重要だ。いまでも紙媒体は日本のメンズウエアのトレンドに多大な影響力を持っているといっても過言ではない。『POPEYE (ポパイ)』『MEN’S NON=NO (メンズノンノ)』『Hot-Dog PRESS (ホット・ドッグ・プレス)』といった人気雑誌が当時のキーパーソンたちのファッションだけでなく、アートや音楽といった彼らのライフスタイル全般を紹介していたことが大きい。そして彼らに影響を受けた熱狂的なファンが雑誌の最新号で紹介された新しい限定アイテムを求めてNIGO®と高橋盾のショップ「NOWHERE (ノーウェア)」に駆け込んだりしていたという。

©LN-CC, 90's HOT DOG PRESS feature on Hiroshi Fujiwara

「雑誌を読んでいていいモノを見つけたら必死で探していましたね。僕らはアウトサイダーだったんで、変なモノを探していました。例えば、UNDERCOVERの高橋盾さんが雑誌に載っていたら、彼が紹介していたデニムジーンズより、彼が付けていたピンバッジを探したりなんかしていました」と横山はいう。また、SASQUATCHfabrix.のもうひとりのデザイナーである荒木克記は、裏原宿の中心人物だった藤原ヒロシと、彼をフィーチャーした日本の雑誌に大きな影響を受けたという。「それまではなかったカジュアルシルエットを提案した藤原ヒロシさんの存在は大きかったです。ジーンズとエルメスのコートを堂々と合 わせ、それが本当にカッコよく見えて、いまだにそのミックス感がよしとされています。このとき以降、東京のスタイルに対する価値観は激変したと思いますね。藤原ヒロシさんはイギリスでいうマルコム・マクラーレンみたいな存在かもしれません」。

4/5ページ:裏原宿のムーブメントは、明らかに90年代の東京のストリート・シーンを象徴しているが、これだけでは当時のシーンを完全には語れない

裏原宿のムーブメントは、明らかに90年代の東京のストリート・シーンを象徴しているが、これだけでは当時のシーンを完全には語れない。東京はいつもさまざまなスタイルが入り混ざっており、ヨーロッパのアヴァンギャルド・デザイナーたちも、当時10代だったいまの東京のメンズファッション・シーンを引率するジェネレーションに影響を与えていたようだ。

©LN-CC, 90's MENS NON-NO feature / Ura-Harajuku meets European avant-garde - two key pieces from Ochiai's archive, Vivienne Westwood and Undercover

FACETASMのデザイナー、落合宏理は次のように語る。「裏原でUNDERCOVERやA Bathing Apeが盛り上がっていたころ、他方ではMaison Martin Margiela (メゾン マルタン マルジェラ)やVivienne Westwood (ヴィヴィアン ウエストウッド)、Dirk Bikkembergs (ダーク ビッケンバーグ)、W.&.L.Tなどの影響力もすごかったですね。当時はたくさんのインディペンデントなショップが海外ブランドを扱っていましたからね。井上三太さんや岡崎京子さんのようなマンガ家たちがファッションに深く関わったりしていて、カルチャーとファッションが本当にミックスされたすごく刺激的な時代でした」。

5/5ページ:「結局、90年代に受けた影響は、僕が洋服を作ることになったキッカケのひとつでしかありません。」

90年代に東京で10代を過ごしたとしたら、いまの東京を代表するニュージェネレーション・デザイナーたちの洋服に、当時の片鱗を見ることはできるのだろうか?

SASQUATCHfabrix.の横山は、「結局、90年代に受けた影響は、僕が洋服を作ることになったキッカケのひとつでしかありません。でも、いまこうして服を作る上でのテーマの見つけ方や着眼点、執着心の強さは、きっと当時から培ったものだと思います。縫製や生地、加工の精度にまでこだわるのは、当時の探して集めてコンプリートするという感覚が生きているからなんだと思うんです」と語る。また、「情報が飽和していた時代に育ったからなのか、たしかに僕が作るFACETASMの服は情報量が多い服かもしれません。そういう意味では同世代のSASQUATCHfabrix.や、表面的にはそう見えないけどUNUSEDも似ていると思います。服への詰め込み方、または掃き出し方はみんな違うけど、同じ東京という匂いがする。そこが共通点かも知れません」とFACETASMの落合はいう。

ベルギーのAntwerp Six (アントワープ・シックス)、裏原宿、ヴィンテージ、スケートカルチャー、アート、音楽。たくさんの情報が東京に集まった時代。この時代に10代を過ごしたいまの東京デザイナーたちが、さまざまなカルチャー・ムーブメントやカオス的な情報量をミックスしてハイレベルのファッションを表現しているのは自然の流れなのかも知れない。