「存在/不在」のはざまについて問い直す。写真家・中野道が企画展「うつせみ」を開催
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「存在/不在」のはざまについて問い直す。写真家・中野道が企画展「うつせみ」を開催
MICHI NAKANO
holds a special exhibition "Utsusemi"
写真家・映像作家として活動する中野道が、企画展「うつせみ」を2025年5月10日(土)より開催。本展では「切り取る」という行為に着目し、撮影したものと、切り取られずにこぼれ落ちたものとの間に何があるのかを表現する。会場は、東京・神楽坂のアートギャラリー「BOOTLEG gallery」。
2015年よりファッション、音楽の領域で写真家・映像監督として活動する中野道。彼は「撮影」を「目の前の連続した瞬間の一部分を切り取ること。何かを選ぶということは、同時に選ばれなかったものが必ず存在するということ」と考える。本企画展「うつせみ」では「切り取る」という行為に着目し、撮影したものと、切り取られずにこぼれ落ちたものとの間に何があるのかを表現。世田谷のギャラリースペース「々 noma」が新たに取り組む出張展示として、東京・神楽坂の「BOOTLEG gallery」にて開催される。プリント作品と映像、またそれらを組み合わせることで撮影するという行為について実践的に考察し、「存在/不在」のはざまについて問い直した作品群からは、中野道が立ち会ってきた世界の断片を辿ることができるだろう。
本展の開催に際して、アーティストステートメントも届いた。
「僕の部屋からは、飛行機が見える。
遠くの街へ行く誰かを、知らないまま、ただ見送っているようでなんとなく、
不思議だ。
同じように、僕もきっと、
どこかで誰かの景色をなんの跡も残さず、通り過ぎているのかもしれない。
ただ、それが自然に感じられた。
僕の日々は、この小さな部屋から始まって、
ほんの少しだけ、誰かの世界と交わって、気づけば今日になっている。
世界のほうが、僕よりずっと大きくて、
偶然のほうが、僕よりずっと正直だ。
きっと、その中でたまたま重なった何かに、
ただ立ち会っているだけなのだと思った。
毎日が、ほんのわずかずつ違う音を立てて過ぎていく。
思い描いていた場所にいたつもりでも、
僕が漂っていたのでもなく、
漂っていた世界のほうが、僕をすり抜けていったのだと思う。
写真を撮ることも、それと少し似ている気がする。
選び取ることじゃなくて、委ねること、そして手放すことに近いと思った。
ただ、立ち会うだけ。
残したかったわけじゃないし、
忘れないようにと願っているわけでもない。
集めていたのは、そこに落ちていた時間のかけらで、
そこに写っているのは、きっと「今」じゃない。
誰かの、選ばれなかった時間。
誰かの、見過ごされた記憶。
それは、僕のものでも、あなたのものでもない。
けれど、たしかにどこかにいたかもしれない。
ほんの一瞬、風の音のように、すり抜けていったもの。
誰にも気づかれないまま。
だけどもし、
その歌に、誰かが自分を重ねたとしたら、
そこに、もう一度だけ、時間が立ち上がる。
ほんの一瞬、かすかに触れられると思う。」