フィクションとノンフィクションの交錯。ダイスケタナベによる2026年春夏コレクションが発表
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フィクションとノンフィクションの交錯。ダイスケタナベによる2026年春夏コレクションが発表
daisuke tanabe
launches 2026 spring/summer collection
大阪出身の田邊大祐がデザイナーを務めるブランド daisuke tanabe (ダイスケ タナベ)。2023年に独立した新進のブランドが、2026年春夏コレクションを発表。今シーズンは、「x」というタイトルと「社会全体の無関心」をテーマに掲げ、全12ルックがお披露目された。
田邊大祐は京都大学経済学部を卒業後、京都の西陣織で名高い HOSOO (ホソオ) に入社。伝統工芸での経験を培った後、自身の名を冠したブランド tanabe daisuke を設立した。本ブランドは、単に伝統技術を活かすのではなく、現代的なファッション要素を織り交ぜた前衛的なワードローブが特徴的だ。また、映画や小説、写真を元に創作したフィクションをインスピレーションにしており、各アイテムに秘められた背景も魅力となっている。
4シーズン目となるこのコレクション「x」は、イギリス出身のシンガーソングライター James Blake (ジェイムズ・ブレイク) の楽曲「Like the End」を聴いていたときに感じた危機感が基軸となったという。またこの「x」というテーマは、未定数や不確かさの象徴であると同時に、SNSのプラットフォーム X (エックス) という意味も持ち合わせている。真偽の曖昧な情報が無秩序に拡散され、正しさよりもスピードが優先される時代において、田邊は「x」を揺らぐ真実のあり様を示すシンボルとして掲げた。
本コレクションは、視覚的な表現として、映画『関心領域』(2023年) やスウェーデンのフォトグラファーの JH Engström (ジェイ・エイチ・エングストーム) の写真集『CDG/JHE』を着想源にしている。『関心領域』のシーンからインスパイアを受け、デザインされたレザーのマウンテンパーカーは、最も軽量な Ventile (ベンタイル) コットンを用いたリバーシブル仕様に完成。軽量でありながらも撥水性を兼ね備えた高機能なアイテムには特に注目したい。また、リバーシブルという二面性も、今季のコレクションのモチーフとなっている。ジャガード柄のデニムジャケットとトラウザーは、大戦期のデニムの写真からピクセル単位で構成されたデータに落とし込み、自身のデニムのパターンに合わせて再構築。ダメージやディテールのテクスチャを柄として反映させたデザインが特徴的だ。
黒い子牛の原皮を使用したジャケット、トラウザー、スカートはユニセックスで着用可能なデザインが実現。コレクションのアイテムの中でも最も中立的な存在としてこのテーマの下支えをしている。グレーを基調としたこれらのワードローブは、抑制された静けさや緊張感、そして鈍感さをまとう。対照的に使用したブルーは、「ブループリント」や「ウェットブルー」といった言葉に通じるように、まだ形を持たない予兆や未来への微細な意識を表現している。全体的に曖昧なトーンに差し色となるシルク生地のブルーが、コレクションに彩りを与えてくれた。
本コレクションの撮影は、『CDG/JHE』のくすんだカラーが演出する不穏さと、抽象と具象、歓喜と悲哀が交錯するコントラストから着想を得ている。約3か月というスピードで製作された4シーズン目のコレクション。田邊が触れたフィクションをベースに、彼が持つ職人技術を織り交ぜた最新コレクション「x」。実験的ともいえるクリエイションを続ける気鋭ブランド tanabe daisuke から今後目が離せない。