アーツ前橋に響く芸術の旋律。ピアニスト・向井山朋子による大規模展「Act of Fire」が開催
「火を燃やす-1」2025年-©Tomoko-Mukaiyama
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アーツ前橋に響く芸術の旋律。ピアニスト・向井山朋子による大規模展「Act of Fire」が開催
Tomoko Mukaiyama
launches her large-scale exhibition "Act of Fire"
オランダ・アムステルダム在住のピアニスト・向井山朋子による初の大規模個展「Act of Fire」がアーツ前橋にて開催される。本展では、アーツ前橋の6つのギャラリーを地下劇場に見立てた回廊型インスタレーションを展開する。会期は、1月24日から3月22日(日)まで。
異彩を放つピアニスト、向井山朋子。音楽から映像、パフォーマンス、インスタレーションに至るまで、ジャンルを横断した型破りな表現活動で世界を魅了し続けてきた。そんな向井山が今回、アーツ前橋にて、美術館では初となる大規模個展「Act of Fire」を開催する。本展では、アーツ前橋の6つのギャラリーを地下劇場に⾒⽴てた回廊型インスタレーションを展開。血で染めたシルクドレスの迷宮「wasted」(2009年)、3.11の津波で破壊された2台のグランドピアノを用いた「nocturne」(2011年)、ピアノの演奏が印象的な映像詩「ここから」(2025年) など、新旧のアートワークを再構築し紹介する。
本展の会場であるアーツ前橋は、閉店した百貨店をコンバージョンした独特な空間構造を持つ。地下には回廊状にギャラリー2から6が配置されており、向井山がピアニストとして、1人の女性としてノマディックに生きてきた軌跡が音・映像・オブジェによって表出される。吹き抜けでつながった地上階のギャラリー1、地下階のギャラリー2では、向井山が3.11の被災地で出会ったグランドピアノをアートへと昇華させた作品「nocturne」を新たなインスタレーションとして展示。東日本大震災から15年。復興と同時に記憶は風化しつつある。向井山が今この作品に再提示するものとは。
回廊の外周部となるギャラリー3・4では、アートフェスティバル「越後妻有アートトリエンナーレ 2009」で発表した「wasted」が通路状の空間にあわせて再構成して披露される。同作品は、女性たちの人生と身体を象徴する数千枚のドレスを用いた迷路のようなインスタレーションである。今回の個展では、作家個人の物語にさらに着目。経血によって染められた衣服や靴、一連の写真、縁・⾎縁と愛する存在の喪失を象徴する古い⿃籠や家具たち、そして閉じたまま置かれたグランドピアノなどが点々と配置される。ここまでの彼⼥の旅と⼈⽣を静かに物語るだけでなく、過去から現在の多様な性をとりまく様々な痛みの経験について、訪れる⼈々との声なき対話を促す。
©Yuki Kumagai
回廊を曲がると現れるギャラリー5では、2025年7月に向井山が期間限定で無料配信した18分の映像詩「KOKOKARA」に登場する燃えさかるピアノを映し出す。向井山が演奏するウクライナ系オランダ人の作曲家 Maxim Shalygin (マキシム・シャリギン) のピアノ作品「9つの前奏曲」を背景に、鍵盤から炎を吹き上げて崩れ落ちるピアノの映像は、恐ろしくも荘厳な印象を与えるだろう。本展「Act of Fire」を締めくくるギャラリー6の大広間は、この燃えるピアノを中心とした映像インスタレーションである。蚊帳を縫いあわせた何枚もの幕が空間を仕切り、そこに複数のプロジェクターから投影される⽕のクローズアップ映像によって、鑑賞者はあたかも⾃分⾃⾝も含めた部屋全体が業⽕に包まれているような感覚に誘われる。
向井山が深く抱く、喪失・抵抗・怒りといった個人的な感情を燃焼させる空間であると同時に、ジェンダー問題、自然災害、終わりなき侵略といった社会問題を「火」という人間の根源的な存在を通して照らし出していく本展。そういったコンセプトが、タイトルの由来になっている。ギャラリー全体に広がるインスタレーション空間は、世界との関係性を省みる思索の旅へと誘うだろう











