Finding Vivian Maier: Explores A Mysterious Photographer

【監督インタビュー】謎のヴェールに包まれた女性写真家・Vivian Maier (ヴィヴィアン・マイヤー) の素顔に迫るドキュメンタリー映画が10月公開

Finding Vivian Maier: Explores A Mysterious Photographer
Finding Vivian Maier: Explores A Mysterious Photographer
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【監督インタビュー】謎のヴェールに包まれた女性写真家・Vivian Maier (ヴィヴィアン・マイヤー) の素顔に迫るドキュメンタリー映画が10月公開

Finding Vivian Maier: Explores A Mysterious Photographer

「彼女の作品が発表されていたら、20世紀の写真史は変わっていたかもしれない」— ここ数年で写真界に大きな衝撃をもたらしている謎の女性写真家、Vivian Maier (ヴィヴィアン・マイヤー) の素顔に迫るドキュメンタリー映画が、10月10日 (土) より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される。

「彼女の作品が発表されていたら、20世紀の写真史は変わっていたかもしれない」— ここ数年で写真界に大きな衝撃をもたらしている謎の女性写真家、Vivian Maier (ヴィヴィアン・マイヤー) の素顔に迫るドキュメンタリー映画が、10月10日 (土) より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される。

© Vivian Maier_Maloof Collection

世紀の大発見となった Vivian Maier が初めて注目を集めたのは、地元シカゴの歴史について調べていた青年が、2007年に彼女のネガを、それとは知らずオークションで落札し、一部をブログにアップしたことに端を発する。熱狂的な賛辞が次から次へと寄せられ、発行された写真集は全米売り上げ No.1 を記録。ニューヨーク、パリ、ロンドンで開催された展覧会は大成功を収め、Vivian Maier は一躍時の人となる。しかしそれは、彼女がこの世を去った後のことだった……。

生前1枚も公表することがなかった作品は、15万枚以上にのぼるという。なぜ彼女は、これほど優れた写真を撮りながら、そのほとんどを現像すらすることなく、誰にも見せようとしなかったのか。

© Vivian Maier_Maloof Collection

ネガを発見した青年 John Maloof (ジョン・マルーフ) は、謎に包まれた Vivian Maier の影を追い求めるうち、生前の所在を突き止め、そこで意外な事実を知ることになる。彼女の職業は、写真家ではなく、住み込みのナニー (乳母) だったのだ。その後も Maloof は Vivian を知る人物とのコンタクトを重ね続け、少しずつその輪郭を明らかにしていく。その一部始終を、Maloof が自らの手でドキュメントしたのが、本作『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』である。

作中、2人のレジェンドともいえる写真家のインタビューが収録されている点も見逃せない。ひとりは、Joel Meyerowitz (ジョエル・マイロウィッツ)。William Eggleston (ウィリアム・エグルストン) や Stephen Shore (スティーブン・ショア) と並んで「ニューカラー」を代表するアメリカの写真家だ。もうひとりは、今年5月に惜しまれつつ他界した女性ストリート写真家の Mary Ellen Mark (メアリー・エレン・マーク)。Diane Arbus (ダイアン・アーバス) の後継者とも呼ばれた彼女による Vivian Maier 評は、実に深い説得力を持って、観る者の心を震わせる。

本作は、ともすれば誰にも知られないまま、永遠に忘れ去られていたかもしれない天才・Vivian Maier の紹介映像であると同時に、ほとんど偶然ともいっていい出会いから監督デビューを果たすことになった  John Maloof の旅の物語でもある。その完成度の高さは、若き天才監督・Xavier Dolan (グザヴィエ・ドラン) も絶賛したほど。アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた、アート・ドキュメンタリーの新たな傑作を、ぜひお見逃しなく。

次ページでは、公開にあたり収録された、John Maloofと、共同監督を務めた Charlie Siskel (チャーリー・シスケル) のオフィシャルインタビューを紹介する。

 

 

© Vivian Maier_Maloof Collection

ー 最初にVivian の写真を手に入れてから2年後に、彼女の作品に興味を持ってリサーチを始めたそうですね。彼女の写真のどんなところに惹かれたのでしょう。

John Maloof (以下、John): 特定のどこが良かったってことはありませんでした。むしろ、全体的に良いと思いました。オークションで落札した時自分が想像していたより良かった。その何枚かをFlickrに投稿したらすごく反応が良くて驚いた。それを機に Vivian について調べようと思った。リサーチを進めていくうちに、彼女がとてもミステリアスで、興味深いと思った。コレクターとしての勘もよく働いた。

 

ー Charlie は、いつからプロジェクトに参加したのか?

Charlie Siskel (以下、Charlie): John が Vivian を知っている人をリサーチで発見し、実際にインタビューをし始めた頃に合流しました。知人を介してJohnを紹介されました。Vivian 発見の話はニュースなどで知っていたので、すぐにプロジェクトに入ることにしました。そこから二人でどんなストーリーにするのかを話し合いました。

監督/ プロデューサーの John Maloof (右) と Charlie Siskel。Charlieは過去に、Michael Moore (マイケル・ムーア) 監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002) をプロデュースしたことも | © GettyImages

ー リサーチを進めていくなかで、Vivian Maier という人物のどんなところに興味を持ちましたか? リサーチを通じて発見した事実で特に興味深かったことは?

John: 何か一つと言われたら、わからないとしか言いようがない。Vivian のリサーチを通じて私たちは多くの謎を発見しました。その謎を解明するのはとても難解なことでした。Vivian の何か一つに興味を持ったということではなくて、インタビューを通じて発見した彼女の謎が一つずつ積み重なり、Vivian という存在そのものが大きな謎になっていた事に興味を持ちました。インタビューを通じて得られる情報はまるでパズルのピースのようで、私たちはまるで取り憑かれたかのように彼女の情報をかき集めました。強いて言うなら、彼女は強烈に不思議な人物で、リサーチを通じて彼女の真実に近づいていく感じがとても楽しかった。

 

ー John がリサーチした事実を映画としてまとめていくなかで、どんなところに気を配りましたか?

Charle: この映画を作る上で最もチャレンジングだったのは、そもそも Vivian という女性はすでに亡くなっていて、アーティストでありながらアーティストとしては生きていなかった一人のナニーであったこと。そんな人物像を人の話を元に構築して、誰も知らない Vivian Maier というアーティストとして世の中に紹介することでした。彼女を知っている人の中に、彼女がアーティストであることを認知している人はいませんでした。なぜなら、Vivian はプライベートな部分は頑なに人に見せていなかったからです。なので、私たちがインタビューをした人たちは、Vivian のアーティスティックな部分や彼女がうちに秘めていたアーティストとしてのパッションについて語れる人がいなかったのです。そんな中、私たちは彼女の写真や遺品を通じて、彼女が実際にアーティストとしての自負を持っていた事や、アーティストとして作品を発表したがっていた事実を突き止めたのです。公が知る Vivian と、遺品が語る Vivian の二面性を積み重ね、一人の人物像を浮き上がらせることはとても難しく、逆にチャレンジングな仕事となりました。

 

ー Joel Meyerowitz (ジョエル・マイロウィッツ)、Mary Ellen Mark (メアリー・エレン・マーク) の2人の写真家にインタビューを依頼した理由は?

John: そもそも Joel も Mary も、2人ともとても有名なストリート写真家で、写真界ではレジェンドの2人でした。その2人に Vivian の写真について話を聞くのはある意味自然でした。

Charlie: 付け加えるとしたら、私たちは、いわゆる専門家のインタビューをあまり多くは必要としていませんでした。Joel も Mary が語ってくれた Vivian についての持論で、写真に詳しくない視聴者でも十分に Vivian の写真が他の誰よりも優れているとイメージができたらからです。これ以上多くの写真理論を入れると映画を複雑にしてしまう懸念がありました。

 

ー Vivian はなぜ、これほど写真を撮ることに熱中したのだと思いますか?

John: 彼女は若い頃から写真をやっていて、写真を撮ることに飽くなき探究心を持っていました。写真を撮ることは彼女にとって日常で、強烈な自己表現だったと思う。彼女には家族がいませんでした。寂しさを抱えていたからこそ写真に没頭できたのかなと思った。

Charlie: 彼女にとって写真を撮るということは、アーティストとして作品を撮るという自覚があったのだと思います。アーティストは時に様々なコンプレックスを抱えていますが、彼女の場合そのコンプレックスは非常に強かったと思います。そんな心境が元に、彼女は大量の写真を撮ることに執着したのではないでしょうか? しかし、晩年の彼女の作品を見ると、まるで新聞の一面を飾るかのような素晴らしいものばかりで、そのような作品はただ自分のコンプレックスの解消のために撮られたものではなく、写真に対する長年の研究と探究心があったからこそだと思います。彼女の写真に対する姿勢と世界を見る眼差しは偉大なアーティストのものだと思えます。

 

ー Vivian はなぜ、誰にも作品を見せなかったのだと思いますか?彼女の作品がもし生前に発表されていたらどうなっていたと思いますか?

John: 実際に発表されなかったのでなんとも言えませんが、仮に発表されていたら彼女は何かしらの写真賞などを受賞して、写真家としての名誉を得ていたかもしれませんね。リサーチを通じてわかったのは、彼女はとてもプライベートに対して秘密が多く、自分を語ろうとしない人でした。そのような人物が作品を発表するとは想像できませんでした。Vivian 以外にも作品を発表できなかったアーティストは多くいると思います。時に性格や人格がアーティストの発表をしたいとい意思を邪魔してしまうことがあるんだと思います。Vivian はそのような人の一人だったのだと思います。また時代背景も一つあると思います。70年代まで写真はアートとしてそこまで重要視されていませんでした。そんな時代に、人がただ交差点を歩く写真や、車の写真、トレンチコートを着た男の写真など、町の中にある日常的な写真が作品として評価されるのはとても難しい時代でした。今では最もクラシックなストリート写真集である、Robert Frank (ロバート・フランク) の最初の写真集ですら当時はそういう扱いだったと思います。Vivian が写真を発表しなかった、もしくはできなかったのは、時代性があるのかもしれません。

 

 

© Vivian Maier_Maloof Collection

ー Vivian はなぜ、ナニーという職業を選んだと思いますか?

John: 彼女はノマドとして生き、いつでも自由に写真を撮りたかったんだと思う。当時の独身女性として仕事はあまりなかったと思うし、ナニーはちょうど良かったのでは? 彼女が子供が好きだからナニーをやっていたのかは全くの謎ですが、インタビューを通じて彼女が優れたナニーだったことは確かです。

Charlie: その時代に、Vivian のような女性に、仕事の選択肢が多くはなかったはずです。ナニーの仕事をやっていたら、写真を撮る時間も多くあったというのは事実だと思いますし、それ以上に、Vivian はナニーの仕事を通じて裕福層の暮らしをみていたのではないでしょうか?そのコントラストで Vivian は町を見て歩いていたように思います。ナニーという仕事を通じて、Vivian は写真家としての眼差しを鍛えていたように思えます。

 

ー 沢山の人々を魅了した、彼女の写真の感性は彼女の人生のどこで磨かれたものだと思いますか?

Charlie: インタビューをした人の中には、Vivian は常に部屋に隠れていて、写真を撮るときだけこっそりと外出をすると言っている人がいましたが、それは全く間違いです。彼女は常に外にいました。そして彼女は文化の消費者でした。海外映画をこよなく愛し、美術館にも頻繁に通っていました。本のコレクションも多くあり、新聞も毎日読んでいました。そんな彼女はおそらく他のアーティストが何をやっていて、何を考えていたのかをよく知っていたのだと思います。そういう研究心こそが彼女のアーティストとしての感性を養っていたと思います。

 

ー 無名だった Vivian の写真集がこれほど話題になっているとは驚きです。彼女の作品がなぜ今、これほどまでに受け入れられたのだと思いますか?

Charlie: 第一に、写真の力が強いからです。写真が全て物語ってくれます。Vivian の写真は誰が見ても素晴らしいアーティストのものだとわかります。その上に、死後に大量の写真が発見されたという物語もついたので人々の興味をひいたのだと思います。偶然発見された彼女の作品は、場合によっては一生世の中に出ることがなかったものだったのかもしれません。素晴らしい写真の背景にあるこのドラマティックな物語が、Vivian Maier をさらに興味深いものにしています。

 

ー 彼女の人生を振り返ってみて、お二人はどんな感想を持たれますか? Vivian がもし、今も生きていたらどんなことを訊いてみたいですか?

John: 今僕がこのように彼女の作品をアーカイヴして発表していることについて満足してくれているか聞いてみたいです。

Charlie: 今こうやって作品が発表されて、映画を通じてより多くの人に Vivian の存在が知れ渡り、その偉業について感動する人が世界中にいる事実について、天国の Vivian に幸せかを訪ねたいね。僕も John も、その答えはYesだと信じています。

 

ー 日本での展覧会の予定はありますか?

John: 日本での展示予定はまだありませんが、11月には北京での展示会が予定されています。LAでも年内に展示をします。

 

ー 映画を通じて二人の生活に変化はあったか?

John: 僕はこれまで映画業界にいたわけでないのにいきなりオスカーのノミネートになるんだから、それは全てが新しいことで多くを学びました。Charlie からも多くを学びました。また映画を作りたいと思えるし、もちろん、この経験で人生は大きく変わったと思います。

Charlie: 長編映画としては初監督でした。John との仕事は本当に楽しかったし良い経験でした。オスカーにノミネートされたことは次作のファンディングにもうまくつながると思うし、そういう意味ではこの作品が次のステップに自分を導いてくれると思っています。

 

<映画情報>
『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』
監督:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル
出演: ヴィヴィアン・マイヤー、ジョン・マルーフ、ティム・ロス、ジョエル・マイロウィッツ、メアリー・エレン・マーク
(2013年/アメリカ映画/83分/原題:Finding Vivian Maier)
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
宣伝: テレザーとサニー
10月10日 (土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
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HP: vivianmaier-movie.com