ブラジル最大の映画祭、サンパウロ国際映画祭で観客賞を受賞『ストリート・オーケストラ』が公開
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ブラジル最大の映画祭、サンパウロ国際映画祭で観客賞を受賞『ストリート・オーケストラ』が公開
'Tudo Que Aprendemos Juntos' To Launch In Japan August 13th
スラム街で暮らす若者がクラシック音楽で未来を切り開いた実話をもとにした感動作『ストリート・オーケストラ』が、8月13日 (土) からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開される。
スラム街で暮らす若者がクラシック音楽で未来を切り開いた実話をもとにした感動作『ストリート・オーケストラ』が、8月13日 (土) からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開される。
1996年にサンパウロ最大のスラム街で誕生した「エリオポリス交響楽団」。世界的名指揮者 Zubin Mehta (ズービン・メータ) とも共演経験を持つ実力もある彼らの誕生時のエピソードを元に生まれた本作は、夢を見ることも知らない荒んだ環境で暮らす若者が、一人のヴァイオリニストと出会い運命を変えていく奇跡のストーリーとなっている。クラシック音楽はもちろん、スラム街の子どもたちを映し出す場面では、ラップやヒップホップが流れ、またエンディングでは、2003年に銃弾に倒れた伝説的ラッパー、Sabotage (サボタージ) が残した曲に実際の「エリオポリス交響楽団」がオーケストラアレンジを加えた音楽が流れるなど、音楽の豊かさも堪能できる作品だ。
ロカルノ国際映画祭を皮切りに、ブラジル最大の映画祭であるサンパウロ国際映画祭で観客賞を受賞しブラジルで現在最も注目を浴びる監督 Sergio Machado (セルジオ・マシャード) が本作について語ったインタビューを以下、ノーカットでお届けする。
<あらすじ>
ブラジル最大のスラム街。運命に立ち向かう為に、子供達が手にしたのは“ラップ”でも“サッカー”でもなくクラシック音楽だった。憧れのサンパウロ交響楽団のオーディションに落ちたヴァイオリニストのラエルチは、失意のなか生活のためにスラム街の学校で音楽教師を始めるが、5分たりとも静かにできない子供たちに愕然とする。ある時、ギャングに襲われたラエルチは、見事な演奏で逆襲する。感動したギャングが銃をおろしたと聞いた子供たちは、暴力以外に人を変える力があることを知る。やがて子供たちは音楽の与えてくれる喜びに気付き、ラエルチもまた情熱を取り戻す。そんな矢先、校長から次の演奏会で最高の演奏ができなければ、学校の存続は難しいと告げられる。一世一代のステージにしようと張り切るラエルチと子供たちに、思わぬ事件が待ち受けていた-。
—この映画を撮ったきかっけを教えてください。
ふたつあります。ひとつは、両親が音楽家だということです。父はピアノを、母はファゴットをバイーア大学交響楽団で吹いていました。幼い頃はオーケストラの中で育てられ、楽器で遊んだりしていたので音楽の世界には親しみがあり、両親へ捧げたいという気持ちがありました。もうひとつは、ブラジル映画といえば、ネガティブな問題に焦点をあてた作品が多いのですが、その中で希望を伝える映画を作りたいと思ったということです。音楽は普遍的な言語として世界中に通じるものだと思っています。
—主人公のラエルチは、もともとは教師としての熱意があったのではなく、普通の人だと感じました。どうしてこのように描いたのでしょうか?
実はもともとこの作品の監督を引き受けた時に、別作品を撮影していたので、プロデューサーが別の人に脚本を頼んでいたのですが、あがってきたものに納得ができず修正をかなりしたんです。私は映画をつくる際には、よりパーソナルなものにしたいと思っています。最初の脚本のままでは撮れないと思い悩み、このままでは映画を撮れなくなってしまうのではないか、とまで思いました。私は、映画監督になると子どもの頃に意志を固めてから、その意志が揺らいだことはありませんが、ラエルチが感じる恐怖は、ある日突然なんらかの理由でこの仕事ができなくなるという私自身の恐怖でもあります。つまり、私には映画をつくることしかできないのに、それさえ出来なくなってしまったらそこからどう回復していくのか、その道のりを描こうと思い至ったのです。自分の中のラエルチを発見した瞬間から、脚本をスムーズに書くことができました。この映画は、主人公のバイオリニストが直面するジレンマ、オーディションで神経衰弱を起こし、人生の全てを捧げて来た夢を一生叶えられないという恐怖を、自分自身のジレンマと重ねた、個人的な要素を含むプロジェクトでもあるのです。
またもうひとつ大事なことは、「素晴らしい教師との出会いによって、子どもたちが変わった」という物語ではなく、「コミュニティが先生を変えた」という物語にしたということです。私は、世間からはみ出し者と見られがちな人物たちを違う切り口で描きたいといつも思っています。前作では、貧しい地域に生まれた人々が、愛の力で人生を変える物語でした。ブラジル映画では、スラム街を舞台にすると、暴動とか暗い話題が主題になりがちですが、私はそうしたくはありません。また、新作でも、例えばウォルター・サレスと進めている次のプロジェクトでは、アニメなのですが小さな虫が大きな世界を救うという物語で、しかもその小さなものは、可愛いものではなく、ゴキブリやドブネズミたちなんです。私は、泥の中でさえも花は咲く、どんなところにでも希望はあるということをいつも描こうとしています。 この映画は、もともとは頼まれて引き受けた仕事ですが、結果的にはとても大事な仕事になりました。
—生徒役のキャストはどのようにして選んだのでしょうか?彼らとの撮影はどうでしたか?
彼らは全員スラム街出身で、演技経験のある子は1人しかいません。オーディションでは、自分の人生を語ってもらいました。そして子どもたちを初めて集めた日に、みんなの前でもう一度、自分の人生を語ってもらったんです。彼らはまだ子どもですが、すでに苦しみを十分に味わい、暴力などの痛みを感じているという共通点があります。他人の話を聞いて、涙する子どもたちを見た時、「この映画のことが分かった」と感じました。クラウディオ・アバドというイタリアの有名な指揮者がいましたが、彼は「クラシックの未来は南米にある」と言っています。これはエル・システマという素晴らしいプログラムがあるからですが、私も実際にそうなんだろうなと感じています。
この映画は彼らが作り、彼らのために作られる物
彼らは、もしかしたら人生でたった1回かもしれないチャンスと感じ、撮影には真剣に向き合ってくれました。また私にも、色々な意味で変化をもたらしてくれました。撮影を始めてすぐに、この映画は彼らが作り、彼らのために作られる物だと気付きました。彼らがインスピレーションの源であり、最終的に少年たちにこの映画を見てほしかったので、とにかく彼らの本当の姿を描けるように努力しました。彼らが自らを発見し、出来上がった作品に誇りを持ってほしかったのです。
- 彼らは、ブラジルの映画界の大物俳優の Lázaro Ramos (ラザロ・ハモス) と共演しました。Lázaro をラエルチに選んだのはどうしてでしょうか?
実は当初は彼が一番の候補ではありませんでした。主人公の友人役の話を彼に持ちかけたのです。Lázaro とは15年来の友人です。脚本を読んで、彼は自分自身の話だから、この主人公役が務まるのは自分以外にいない、ぜひやらせて欲しいと言ってきたのです。もともとは白人をイメージしていたので戸惑いましたが、最初で最後のお願いとまで言われました。 彼は、映画に出てくる子どもたちよりもっと貧しいスラム街出身で、 芸能界への道は、社会福祉活動から開かれたそうです。その熱意に押され、Lázaro にラエルチを演じてもらうことにしましたが、その際には Lázaro の個性をキャラにもたらして欲しい、ただ演じるのではなく存在して欲しいとお願いしました。私はかなり細かい脚本をつくるタイプですが、現場ではオープンなタイプで、Lázaro にも脚本は持たずにアドリブで演じても良いとも言いました。 実は、制作費が集まらず、撮影が1年伸びてしまい、その間子どもたちには演奏のレッスンを受けてもらったのですが、Lázaro にも1年間レッスンを受けてもらっています。ラザロは大スターですが、現場での子どもたちとの関係性は同等でした。子どもたちは、かつての Lázaro であり、Lázaro は子どもたちがいつかなりたい夢の人物、というリアルな関係性が素晴らしかったんです。撮影が始まったばかりの頃に、微笑ましいエピソードがあります。子どもたちが撮影を終えて、ラザロだけのシーンの撮影に入る前に、彼らが Lázaro を部屋の隅に呼んで、「失敗しちゃだめですよ。」と言っていたんです。ラザロと彼らの間には、最初からとても強い絆を感じました。
—監督がお気に入りのシーンはありますか?
やはり楽しそうに演奏するシーンですね。ひとつは、サムエルのバイオリンと VR の楽器 (ブラジルのウクレレのようなもの) が競演するところ、もうひとつはサークルで、ジョイントするところです。このサークルのシーンについては、バカレリ協会で実際に目にした練習を取り入れたんですが、実際のエリオポリス交響楽団のメンバーたちもとても楽しそうに演奏していました。
<プロフィール>
Sergio Machado (セルジオ・マシャード) 。1968年、ブラジル、バイーア州生まれ。ベルリン国際映画祭金熊賞/ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞に輝いたブラジル映画の名作『セントル・ステーション』(1998) や、『ビハインド・ザ・サン』(2002) の助監督を経てデビュー。初の長編フィクション、『Cidade Baixa』が、カンヌ国際映画祭の「Award of the Youth」をはじめ、18の賞を受賞。テレビやドキュメンタリー分野でも活躍中。
作品情報 | |
映画タイトル | ストリート・オーケストラ |
原題 | Tudo Que Aprendemos Juntos |
監督・脚本 | Sérgio Machado (セルジオ・マシャード) |
出演 | Lázaro Ramos (ラザロ・ハモス)、Kaique Jesus (カイケ・ジェズース)、Sandra Corveloni (サンドラ・コルベローニ) |
特別出演 | サンパウロ交響楽団、エリオポリス交響楽団 |
配給 | GAGA |
字幕翻訳 | 蓮見玲子 |
HP | gaga.ne.jp/street |
2015年/ブラジル映画/103分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル | |
©gullane | |
8月13日 (土) からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開 |