【香料連載】 第8回 ウード
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【香料連載】 第8回 ウード
open the door to a new world of scents vol.8 oud
photography: So Mitsuya
text: AYANA
edit: Miwa Goroku
フレグランスを構成する<香料>を軸に、ファッションフレグランスからニッチなメゾンフレグランスまでをピックアップ & アーカイブしていく本連載。今月のテーマは「ウード」。温かみがありながら神秘的なオーラを醸す、その香りのルーツを、ビューティライターの AYANA が紐解きます。
瞑想や祈りや、マインドフルネスと相性のいい香りがあります。その香りはえてして深く、静かで、まろやかで、静寂を携えた湖のようにどっしりとしていて、またどこか母親に抱かれているような安心感と温かみを携えています。その多くが香木や樹脂によるもので、サンダルウッドやローズウッド、フランキンセンス、ミルラなどはフレグランス界でもメジャーどころといえるでしょう。今回フォーカスするウードも、この文脈上にあります。
ウードは中東における名称で、アガーウッドの精油のこと。ウードを使ったフレグランスには、モード感に満ちた黒や琥珀色のボトルが非常に多く、深いウッディノートにモス (苔) の面影を忍ばせた、ウード独特の一筋縄ではいかないオリエンタルな空気を彷彿とさせます。ウッディ系でありながら、ムスクのようなセンシュアリティが潜む香りといっていいでしょう。
アガーウッドはいわゆる「沈香」であり、日本で最も古い香り (日本書紀に推古天皇が扱った香りと記録されています) であるばかりでなく、その後平安時代の貴族の遊びを経て、香道を彩る重要な香りとなります。ゆえにアガーウッドは日本人に非常に馴染みのある存在といえます。
しかしウードが放つのはただの香木の香りではありません。アガーウッドの木片は、特定の腐朽菌によって分解されていく過程で、死 (腐敗) に対する抵抗として樹脂を作り出します。これがウードとなります。つまりウードは、死へのベクトルに向かい合う樹脂の香りなのです。
スーフィー教徒をして「心を変容させる力がある」と言わしめ、アーユルヴェーダでは心の病に処方するというウードは、光と闇、どちらの世界も熟知している香りと読み取れます。即物的・肉体的で、対立する考えに陥りやすいこの世から、ポジティブやネガティブを越えてその先の調和へと導いてくれるのがウードの役割なのでしょう。