Mitsuru Fukikoshi
Mitsuru Fukikoshi

俳優・吹越満インタビュー

Mitsuru Fukikoshi

Portraits/

CMディレクター、劇作・演出家、そして映画監督という他分野で活躍する山内ケンジ。その監督第2作目となる映画『友だちのパパが好き』が、現在公開中だ。女友だちの父親に恋をするヒロインが繰り広げる純愛ストーリーと聞くと、どこか現実離れした話のようにも思えるが、出演する俳優たちの芝居のリアルさと、それぞれの不思議な存在感にぐいぐいと引き込まれてしまう映画だ。なかでもひと際存在感を放つのは、本作の主人公である箱崎恭介役の吹越満。一見冴えない中年男だが、実は妻とは離婚間近、妊娠中の愛人がいるにも関わらず年若い娘の友だちと恋をする、いわゆる“ひどい男”。そんな摑みどころのない役をのらりくらりと演じながら、ラブシーンではとたんに大人の色気を発揮してみせ、観る者を驚かせる。映画公開間近、山内ケンジが主催する演劇プロデュース・ユニット〈城山羊の会〉の公演『水仙の花』(2015年12月4日〜13日)に出演中の吹越満に、映画『友だちのパパが好き』の魅力と撮影秘話についてお話をうかがった。

俳優・吹越満インタビュー

取材・文: 月永理絵 写真: 宮下祐介 スタイリスト: 岡部駿佑 編集: 髙橋恵里

 

CMディレクター、劇作・演出家、そして映画監督という他分野で活躍する山内ケンジ。その監督第2作目となる映画『友だちのパパが好き』が、現在公開中だ。女友だちの父親に恋をするヒロインが繰り広げる純愛ストーリーと聞くと、どこか現実離れした話のようにも思えるが、出演する俳優たちの芝居のリアルさと、それぞれの不思議な存在感にぐいぐいと引き込まれてしまう映画だ。なかでもひと際存在感を放つのは、本作の主人公である箱崎恭介役の吹越満。一見冴えない中年男だが、実は妻とは離婚間近、妊娠中の愛人がいるにも関わらず年若い娘の友だちと恋をする、いわゆる“ひどい男”。そんな摑みどころのない役をのらりくらりと演じながら、ラブシーンではとたんに大人の色気を発揮してみせ、観る者を驚かせる。映画公開間近、山内ケンジが主催する演劇プロデュース・ユニット〈城山羊の会〉の公演『水仙の花』(2015年12月4日〜13日)に出演中の吹越満に、映画『友だちのパパが好き』の魅力と撮影秘話についてお話をうかがった。

 

– 今回、山内ケンジ監督の新作映画『友だちのパパが好き』に主演されていますが、そもそも山内さんとは、〈城山羊の会〉公演『微笑の壁』(2010年)、同じく〈城山羊の会〉公演『水仙の花』(2015年)と、三度も演出家(監督)と主演俳優としてタッグを組んでいますね。映画の企画自体はいつ頃決まったのでしょうか。

2010年の『微笑の壁』が終わった直後から映画の話は動き出していました。その段階ではプロットなどは何もなく、とにかく次の映画を一緒にやろう、ということだけ。脚本が出来上がったのは2014年くらいかな。脚本を読んで初めて「ああ、こういう映画なんだ」と知りました。2011年に大震災があって、映画はそれを絡めたものを考えているんだ、というのは一回山内さんから聞いたことがありましたが、いろんな都合で時間が延びたこともあり一から考え直したようで、監督としては最初の構想よりもだいぶ変わったみたいですね。撮影は今年の1月だったんですが、その前には今回の『水仙の花』の公演の話も決まっていました。

– 最初に本作の脚本を読まれたときの感想を聞かせていただけますか。

この映画はワンシーン・ワンカットで撮るということを最初から聞いていたので、まずは台詞をちゃんと覚えないといけないな、ということですかね。キャラクターでいうと、僕が演じた箱崎恭介という役はちょっと人としておかしい男なんですが、前の『微笑の壁』でも、僕の役は奥さんがいるのに別の女性と結婚しようとするという変な人だったんです。山内さんとしては、僕をこういう役が合う役者だと思っているんでしょうね。すでに山内さんのなかに僕のイメージというのがあるのなら、僕は特に考えて演じないほうがいいのかな、と。そういうことは考えていました。

– ワンシーン・ワンカットで撮るというのは、役者さんにとってはかなり大変だったのではないでしょうか。

芝居のリハーサルはずいぶんしましたね。そこは舞台をつくるときの稽古と近い空気感がありました。

– 以前に吹越さんが主演された園子温監督の『冷たい熱帯魚』でも、ワンシーン・ワンカットが多く、かなりリハーサルをされたということでしたね。

ただ『冷たい熱帯魚』の場合は、ワンシーン・ワンカットで何度も撮って、それらの素材の中から重要なところだけをピックアップして使う、ということだったんです。だから芝居自体はシーンの頭から終わりまで一気に撮っているけど、出来上がった映画としては編集が成されている。そこが今回とはかなり違いますね。

– 『友だちのパパが好き』では、ワンシーン・ワンカットで撮ってそれをそのまま使っているわけですね。

そもそもワンシーン・ワンカットで撮るというのは、その手法に通用する脚本を書かないと、と山内さんがおっしゃっていたんです。どう役者が動き、どう会話をしていくかということを全部想定したうえで山内さんは脚本を書いていたわけで、役者もそのつもりで撮影に臨む。おもしろいのは、そうやって出来上がった作品からは演出の存在が消えていくんですよ。

– 演出の存在が消えていく、というのはどういうことでしょうか?

すべて俳優さんたちの演技で引っ張っているように見えるというかね。実は芝居のニュアンスや間合い、その位置関係や声のトーンとか、ひとつのアングルの中でそうとう緻密な演出がなされているんだけど、出来あがったものを見るとそれがまったく見えない。ただ俳優たちの演技がそこでおこなわれているだけのように見える。監督にとっては、そう見せること自体がひとつの目的だったんじゃないかな。

– なるほど。たしかに芝居のリアルさにまず目が行きました。

実際は映画に映っている芝居は全部脚本通りなんですけどね。元々の脚本に書かれている台詞って、たぶん一個もカットになっていないはず。

– ふつうはあまりないことですか?

場合によりますけど、いろんな素材を撮って編集をほどこす場合は、撮影はしたけど時間の都合上カットされていたり、逆にあのカットが欲しいから撮り足したりということがよくあります。でも本作についてはそういう要素が一切ない。「よーい、スタート」から「カット」までの間の要素を全部使っているんです。まさに、脚本通り、演出通り、です。そういう意味で、編集も手を出す要素が少ないから一見すると演出の要素を感じない。音楽についてもそう。二カ所だけ使っていますが、演技シーンの演出効果としての音楽は入っていないんです。

– なるほど、そういう意味では映画というより舞台に近いようにも思いますね。

でも舞台は舞台ですから。俳優の仕事でいえば、長く芝居をするという点で舞台に似ているかもしれませんが、監督の仕事としては、舞台用の脚本と映画用の脚本はまったく違う。『友だちのパパが好き』については、とにかくワンシーン・ワンカットで映画を撮るために必要な脚本を書く、ということが山内さんにとっていちばん大事だったんだと思います。

– 脚本はそれぞれのキャストにあわせて書かれた、いわゆる“当て書き”だったそうですが、山内監督が前作『ミツコ感覚』の脚本について話していたのは、キャストの人の口癖やイントネーション、しゃべり方なども想定して台詞を書いている、ということでした。今回の脚本でも、そういう部分は演じていて感じましたか?

自分ではまったく意識しなかったけど、意識しないで演じられたというのは、つまりそういうことなんでしょうね。脚本を読んでいて「この台詞ってどう言えばいいのか」とか気になる部分が全然なかったんですよ。たとえば恭介の台詞で「やあやあ」っていう、普通あまり言わないような言葉もありましたけど、一度も「どう言えばいいですか」って監督に聞かなかった。すべて撮り終わってから、「あの「やあやあ」の台詞はあれでよかったんですか」と聞いたら「うん、本読みの段階でいいと思っていたよ」と言われました。

– お互いの信頼関係によって成り立っているんですね。吹越さんから見て、監督・演出家としての山内ケンジの魅力というのはなんでしょうか。

いろいろありますが、人柄も好きですね。もの静かで、いつも変なことを考えていて、常に新しいことに挑戦するという強い意思を持っている人。作品も同じ手を二度続けて使わないし、自分から進んで大変なほうに向かっていく。〈城山羊の会〉にしても、「山内ケンジといえばこういうものだろう」と思っていると危険ですよ。今回の舞台(『水仙の花』)についても、前回、前々回とはまったく違うことをやっているし。そこは本当にすごいなと思いますね。

– たしかに、今回の映画も前作の『ミツコ感覚』とはまた全然違う作品になっていますね。

前作は映画としては山内さんにとって初作品でしたから、舞台とは別の方法を編み出さなきゃ、と思っていた部分が大きいんじゃないですか。

Photography: Yusuke Yamashita | ©The Fashion Post

Photography: Yusuke Miyashita | ©The Fashion Post

– プライベートのことについても少しお聞かせください。ふだんは映画や演劇はよくご覧になりますか。

舞台はまあよく観に行くかな。映画は映画館に行くよりDVDで観る方が多いです。特にこのジャンルが好き、というのはないんですが、大きい規模の映画はどちらかといえばちょっと苦手ですね。

– ファッションのこだわりなどはどうでしょうか。

こだわりはありますよ。こだわりすぎて、僕はもう着替えないことにしましたから。毎日着るものを考えるのもいやだし、色とか柄とか考えたくない。だから気に入ったものをいくつか用意しておいて、汚れていなければ毎日同じものを着ていてもいいや、と。肌に触れるものは汚れるから替えますけどね。だから僕の知り合いは、遠くから歩いてきても、シルエットだけで僕だってわかるみたいですよ。帽子もずっと同じものだし。

– サングラスもよくかけていらっしゃいますね。

外を歩くときはどうしても必要なんですよ。かけていないとまっすぐ歩けないんです。

– 視力の問題ですか?

いや、目も悪くないし度も入ってないんですけど、何ていうんでしょうか、かけていないとバランス感覚を失うんです。一度、一緒に飲んでいた人が間違えて僕のサングラスを持って帰っちゃったことがあるんですよ。それで気づかずにかけているつもりで外に出たら、うまく歩けないし、すごく気持ち悪くなっちゃって。持って帰ったやつには猛烈に怒りましたね。

– 何だか不思議な話ですね……。身体的に必要としている、ということなんでしょうか。

かっこつけているだけだろう、と思う人もいるんでしょうけど。まあかっこはつけているんですよ。でもそれ以上に僕の身体にはこれを必要とする理由があるんだ、ということです。どうもこの鼻の上にサングラスがないと落ち着かない。こういう仕事をする前からずーっとかけていますから。種類もだいたい一緒です。たくさん種類を持っていて気分によって変える、というようなこだわりはないです。いつも同じ。何なんでしょうね、こだわりすぎてこうなっちゃったんです。

個性的で、どこか摑みどころのない人。そんな当初のイメージとは裏腹に、映画や舞台についての言葉からは心に熱い情熱を秘めた人だと感じた。山内監督を「常に新しいことに挑戦する人」と評した吹越自身、ひとつのイメージに縛られず常に挑戦を続ける人なのだろう。映画『友だちのパパが好き』からは、俳優・吹越満のまた新たな一面が垣間見えるはずだ。

<吹越満 着用>ジャケット ¥ 175,000、シャツ ¥ 55,000、パンツ ¥ 63,000、ベレー帽 ¥ 24,000 全て EMPORIO ARMANI

<問い合わせ先>ジョルジオ アルマーニ ジャパン 03-6274-7070

<プロフィール>
1965年、青森県出身。ソロパフォーマーとしても活躍後、数々の舞台・映画・テレビドラマに出演。近年では映画『冷たい熱帯魚』『悪の教典』やドラマ『あまちゃん』等、多くの話題作に出演。日本になくてはならない個性派俳優。

<映画情報>
『友だちのパパが好き』
第28回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門 公式出品
監督・脚本:山内ケンジ
出演:吹越満、岸井ゆきの、安藤輪子、石橋けい、平岩紙ほか
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
2015年12月19日(土)ユーロスペースほか、全国ロードショー
HP: http://tomodachinopapa.com
©2015 GEEK PICTURES