Koharu Sugawara
Koharu Sugawara

ダンサー・菅原小春インタビュー

Koharu Sugawara

Photographer: Takanori Okuwaki at UM
Stylist: Megumi Yoshida
Hair&Makeup: Tomomi Fukuchi
Writer: Nina Utashiro

Portraits/

国籍、性別、年齢、ジャンル…何かとカテゴリー分けをしたがる日本人だが、彼女にとってこれらの “レーベル” は全くと言っていいほど意味を持たない。日本人ダンサー、菅原小春。10代の頃からストリートダンスシーンで頭角を現し、その後 LA に単身渡米。ヒップホップやジャズ、ロッキンなど様々なジャンルを独自のメソッドで融合させたスタイルで世界的に注目を集め、これまで数え切れないほどのトップアーティストたちとの共演を果たしている。

ダンサー・菅原小春インタビュー

国籍、性別、年齢、ジャンル…何かとカテゴリー分けをしたがる日本人だが、彼女にとってこれらの “レーベル” は全くと言っていいほど意味を持たない。日本人ダンサー、菅原小春。10代の頃からストリートダンスシーンで頭角を現し、その後 LA に単身渡米。ヒップホップやジャズ、ロッキンなど様々なジャンルを独自のメソッドで融合させたスタイルで世界的に注目を集め、これまで数え切れないほどのトップアーティストたちとの共演を果たしている。

メディアで見かける彼女は、ニューフェミニズムとでも呼ぼうか、とにかく “強そう” という印象だ。それはもちろん、端正な顔立ちに、パワフルな身体の動き、そしてどこかこざっぱりした口調によるものが大きいのだが、今回「PORTRAITS」に出演してもらうにあたり、これまで見たことの無い彼女の “女性的な” 一面を見たくなった。そして実現したインタビューとファッションシューティング。ストリートのプリマドンナの素顔に迫る4000字を、余すところなくお届けしよう。

<Koharu Sugawara wears> ドレス ¥ 147,000/Molly Goddard (問い合わせ先/TRADING MUSIUM COMME des GARÇONS)、シューズ/TOGA ((問い合わせ先/TOGA 原宿店)、ジュエリー/スタイリスト私物

<Koharu Sugawara wears> ドレス ¥ 147,000/Molly Goddard (問い合わせ先/TRADING MUSIUM COMME des GARÇONS)、シューズ/TOGA ((問い合わせ先/TOGA 原宿店)、ジュエリー/スタイリスト私物

 

― ダンスとの出会い、そして踊り始めたきっかけを教えてください。

うちの家族はあまりテレビを見ない家庭だったので、みんなで音楽を聴いて歌ったり踊ったりしながら育ちました。パフォーマンスが好きだったのかもしれないです。小学校4年生のとき、そんな私を見て母がスタジオに入れてくれて。当時をモーニング娘。が流行っていて私は夢中になっていました。こんなにかっこいいクリエイティブ集団はない!という憧れからダンスをしっかり習いたいと思ったのがきっかけです。

― 独特のダンススタイルで世界中を虜にしている小春さんですが、様々なジャンルのダンスが融合しているように思います。ルーツをたどるとどういった経緯で今のスタイルができあがったのでしょうか?

1番始めはお遊戯ダンスだったんですよ (笑)。そこから見よう見まねでジャズやロッキン、ジャズなどを自己流で取り入れながらどんどん変化させていって、って感じですね。私、小さいころから創作するのが好きだったので基礎を習ってない状態でひたすら踊っていました。スタジオに通い始めたときくらいから自分で振り付けたものをコンテストで踊り始めたのですが、一定のレベルまできた時に本格的にやるのであれば基礎を固めなきゃと思い初心に戻って学び始めました。

中学生くらいからヒップホップ、ブレイクダンス、ロックダンスも習い始めて。その頃にはもうダンスの虜になっていたんです。ダンスを本格的にやりたくて高校は千駄ヶ谷にあるVAW栄光ハイスクールに通いました。そこでオールジャンル学んで、ある程度応用が利かせるようになりました。

Photo by Takanori Okuwaki

Photo by Takanori Okuwaki

― ダンサーとしてのキャリアの中で、また人間として、人生のターニングポイントになった物事はありますか?

やっぱり1番最初に海外に行ったときの衝撃に勝るものはないですね。あのとき、何か自分の中で着火したんです。その炎がなかったら今の自分はいないと思います。もちろん積み重ねてきた基礎やダンスに対しての愛はあってこその着火だったんですけど。今までがむしゃらに1つの方向だけを見て突き進んできたのをいい意味で壊されたんです。

世界はとても大きくて色々な可能性を持っている場所なんだと思い知らされた出来事でした。ダンスしかやってこなかったんで (笑)、英語が全然喋れなくてコミュニケーションが言葉でなかなかとれないところに自分の身をおいたときに、ダンスで思いを伝えようって思えたんです。それって日本にいていくら精一杯踊っても味わえないほどの「本気」なんです。「これ以外に自分の思いを伝えるツールがない」って思えたときの1つ1つの動きの重みが全然違って、そうやって踊るようになって成長できた部分が大いにあると思います。若かったということもあって無鉄砲だったから何も怖くなかったんです。とりあえず行ったらなんとかなるだろうと思ったら本当になんとかなって (笑)。結果あの経験が1番の宝物だし、1番私を変えてくれましたね。

― 高校を卒業後、LAに留学されてますよね?これは何がきっかけだったのですか?LAでの生活について少し教えてください。

高校を卒業するときに日本のダンスシーンで自分ができることの限度を感じたんです。少し心苦しいところが見えてきたということもあり、大好きなダンサーのマット・ケイリーがいるLAにダンスを習いに行きたいと思って何にも決めずにとりあえず行ってみました。住むところも通うスタジオも現地に行ってから決めて…。始めて行き当たりばったりの行動をしたんです。色んなクラスやワークショップを調べて自転車飛ばしながら1日何クラスもハシゴしたり、色々な人の家に転がりこんだりして。このときの生活が視野を広げてくれました。「何でもありなんだ」って思えたんです。「踊る」ということは人の心を動かすこと。技術レベルが高いのももちろん必須ではあるけどダンサーとして1番大切なことはいかに自分の心の中を正確に表現できるかということ。私がダンスの本質を理解できた場所だと思います。

― 海外での飛躍が目まぐるしい小春さんですか、日本を拠点とされていますね?海外に比べて日本のダンスシーンはどう違いますか?

日本は型に収めたがる国だと思います。ダンスに限らず全てのシーンにおいてそうだと思うんですけど。本来「自己表現」というのが本質的な核心であるアートにおいて日本はやっぱり枠組みが強すぎると感じるんです。だから私がいくら海外で踊ったにしても、日本のダンサーやダンス業界全体がもう少し柔らかくならないとダメだと思うんです。そのためにも私が海外に消えて踊るのではなく、日本のダンス業界を少しでも変えられたらと思って日本を拠点にしてます。私が道を切り開いたら、日本のダンサーとしての頂点が誰かのバックダンサーになることではなく、一個人としての表現ができることなんだというのを次の世代に分かってもらえるかなと思います。ダンサーはカテゴリーに当てはまらないものです。ファッションであり、スポーツであり、表現するツールなんです。日本が好きだからこそ私が変えなきゃと思ってます。

Photo by Takanori Okuwaki

Photo by Takanori Okuwaki

― あなたのインスピレーションとなるものはなんですか?

かっこいいな、と思ってきた人はたくさんいます。もちろん Michael Jackson (マイケル・ジャクソン) には多大なる影響を受けました。TDK の CM で共演させてもらった Stevie Wonder (スティービー・ワンダー) も偉大なインスピレーション。

もっと身近なところで言えば両親です。彼らがいなかったら今の私はいないし、想像しきれないほどの影響を受けていると思います。でも基本的にその人にはその人にしかできないことがあって、私は私しかできないことをやらなきゃいけないっていうスタンスでいるので「好き」はあっても「憧れ」はあまりないです。もちろん基礎ができている前提の話ですが、ダンスというものは日常の会話だったり、服だったり、景色だったり、映画だったり、そういうものの中に自分が感じることを盛り込ませて進歩していくものだと思います。だから毎日がインスピレーションです。人生まるごとインスピレーションです。

― 10年後はどんな自分でありたいですか?

子供を担いで全然違うことをやっていたいです。お豆腐屋さんとか (笑)。ダンスって多分辞めるとか辞めないとかのものではないと思うんですが、10年後には体も動かなくなっていると思うので、ダンスじゃない人生を歩んでいると思います。私は1つのことしかできないタイプなので、今は精一杯踊って、家庭ができたらそれは第2の人生として思いっきり生きていきたいです。自分がやりたい放題やれたので、踊りきったら子供にバトンタッチしたいですね。自分の両親がそうだったので。女として生まれたことには意味もあると思うし、結婚して子供が生まれたら「女性」として生きていきたいですね。子供に全てを注げる親になっていたいです。

― 小春さんにとってのフェミニニティとは何ですか?

たとえば、ダンスでいうとビキニ着て胸やヒップを強調して踊る踊りだけがセクシーというわけではないと思うんです。それも1つのセクシーであるだけで。中に秘めているものに興味を持たせるミステリアスさだったり、想像させることが本当のセクシーだと思うんです。「男性の視線から見てセクシーだと思われるもの=女性らしさ」っていう一般的な固定概念がありますが、それぞれの芯にあるもの、その強さこそがフェミニニティだと思います。もっと知ろうと思われること、興味を持たせられるこ。それが性対象としてだけではなく、一女性としてできることこそ本当の女性らしさだと思います。

― 人生の中でやり遂げたいことはありますか?

目の前の目標だと、オリンピックにダンサーとして出ることですね。東京オリンピックが近いので、開会式で踊れたらなと思います。あとはやっぱりお母さんになりたいです。

― 普段スポーティーなイメージが強いかと思いますが、今日の撮影ではこれまでのイメージとまた違う、ガーリーな Molly Goddard (モリー・ゴダード) のドレスにトライしました。

正直なところ、嬉しかったです。誰も着せてくれないので (笑)。いつも黒やメタリックなもの、もしくはスポーティーなものを着せられることが多いので新鮮でした。いつもと違うものは常に挑戦したいので、今日の撮影でも自分の新しい一面が発見できた気がします。ママになったら Molly Goddard を親子で着たいですね (笑)。

― 小春さんのファッション哲学は?

服は好きです。ブランドのことやトレンドのことは全く分からないのですが、両親がデザイナーだった影響で小さいころから服とはどこか繋がりを感じて生きてきました。自営業だったので、家にミシン台があって、裁断やパターンを敷いているところなどをずっと見てきたんです。舞台で踊るときの衣装も気にかけてます。

ランウェイブランドはまだリアルとして捉えられないんですが、Chanel (シャネル) のショーは毎シーズン欠かさずチェックしてます。なんかこう、ステージとか、舞台演出がすごいじゃないですか。洋服が素敵なのはもちろんですけど。

でも個人的には、服に着られているようじゃかっこよくないなって。陳腐な表現ですけど。いつか50歳とかになった時、Chanel が似合う女性になってたらなって。

<プロフィール>
菅原小春 (すがわらこはる)
1992年2月14日生まれ。千葉県出身。10歳の頃からダンスを始め、10代の時に様々なコンテストで優勝。2010年にLAに留学、独自のダンススタイルを生み出す。Rihanna (リアーナ) のバックダンサーを務め海外で注目を集めた。日本を拠点にしながら、国内外の様々なアーティストのバックダンサーや振り付けを行なっている。2015年には「VOGUE JAPAN Women of the Year 2015」を受賞。