Maison Margiela (メゾン マルジェラ) "illusion" - episode 1

彼について思い出すとき、いつも頭に浮かぶのは一枚の絵のことだ。ふらりと入ったギャラリーに飾られていたその絵には、人物のポートレートが描かれていた。とても美しい人だと思った。けれど、それが男性なのか女性なのか、若いのか老いているのか、新しいものなのか古いものなのか、そういったことが読み取れない、不思議な絵だった。見る人によって人物像が変わるポートレート。作家はそういう存在に魅力を感じ、作品を通して描こうとしたそうだ。顔や姿ではなく、まとっている空気そのものが、何にも似ていないその自由さが、似ている。

私にとって彼は、性別や見えないルールから自由になった、一枚の絵のような人なのだ。「あなたに似ている人が飾られているよ」。そう言ってこの絵を見せたら、彼はどんな顔をするだろう？