SOSUKE IKEMATSU
The Fashion Post
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映画と生きる。池松壮亮の体温 vol.1

池松壮亮は、映画でもドラマでもファッションでも、その場で起こることを受け入れ、そこに居るということに嘘がないと感じさせる俳優だ。今年、事務所から独立した彼の最新主演作、奥山大史監督最新作『ぼくのお日さま』(9月13日公開)は、第77回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映され、大きな反響を得た。北村道子がスタイリングを手がけ、写真家の鈴木親が撮り下ろす、池松壮亮の現在地とは。第1回では、noir kei ninomiya (ノワール ケイ ニノミヤ) を大胆に着こなした。

これまでも時折々でコラボレーションを重ねてきた池松、北村、鈴木の三人。全4回にわたるファッションストーリーでは、その出会いを振り返りながら、映画という総合芸術について語る鼎談(第1-2回)、そして、『ぼくのお日さま』への想いを聞いた池松のソロインタビュー(第3-4回)をお届け。(第1回/全4回)

SOSUKE IKEMATSU

model: SOSUKE IKEMATSU
photography & videography: chikashi suzuki
styling: MICHIKO KITAMURA
hair: tsubasa
makeup: masayo tsuda
interview & text: Tomoko Ogawa
edit: daisuke yokota & honami wachi

ジャンパースカート ¥95,700、ソックス ¥4,510/すべて noir kei ninomiya (ノワール ケイ ニノミヤ)、シューズ ¥61,600/noir kei ninomiya × Reebok (ノワール ケイ ニノミヤ×リーボック)

北村さん、鈴木さんとは、池松さんが20代からのお付き合いだそうですが、どのような出会いがきっかけだったんでしょうか?

北村道子(以下、北村): 池松くんは、『ラスト サムライ』(03)の子役で出てるじゃない。ラストの彼の顔が忘れられなくて。日本で育って、ハリウッド映画のあそこまでのクローズアップで動揺していないというのはちょっとすごいと思って、なんとなく覚えてたんだよね。知り合いのヘアメイクの人が、池松くんのヘアをやっていると知って、野球部で九州出身の子だと聞いて、「ちょっと会わせてよ」と言って。そうしたらすぐ連絡してくれて、会ったんです。新宿のカフェでね。

池松壮亮(以下、池松):よく覚えてます。そのときの感じも覚えてます。

北村:私が一人で一方的に2時間しゃべってたよね。世界のエージェントシステムと、日本のマネージャーシステムは違うから、個人的に会うことは日本だと憚れるものだけれど、一人で来たんだよね。

鈴木親(以下、鈴木):その話は北村さんから、よく聞いてました。

北村:何を着てきたかも全部覚えてますよ。Rick Owens(リック オウエンス)の紐が付いている洋服を着ていて、「君、まだそんなに有名じゃないのに、どうしてそういう服が着れるの?」とかって、めちゃくちゃ一方的に酷いことを言ったんですよ。そうしたらあんぐりした顔で、「そこまで僕、言われるんですか?」ってね(笑)。

池松:あの北村道子さんが目の前にいて、いろんなことを話してくれて、聞いているのがやっとでした。

鈴木僕も池松くんには何回か撮影を頼んでいて、役者さんはほとんどの場合、事務所に入っているから、その事務所の人として来る感じがあるけれど、池松くんはどっちかというと個人として来るんですよね。北村さんからもそう聞いてたし、こういう子がいるんだっていうのは印象的でした。個人としていられるかは世界で仕事するにはすごく大事なことだから。

池松:自分はファッションをたくさんやってきたわけではなく、映画以外のことはあまりしてこなかった方ですが、20代でお二人と出会えて、ものすごくたくさんの影響を受けました。もちろん、会う以前からお二人のことは知っていましたし、出会ってからも、そんなに頻繁に会うわけではなかったけど、会うたびにあまりに多くのことを教えてもらってきたように思います。

—モデルとしての池松さんの魅力とは?

北村:今日も親くん、池松くんのアップ撮ってましたけど、その色気はどこからきたのって感じがあるよね。『ラスト サムライ』のクロース・アップで感じたのも色気だったんですよ。あんな子どもなのに。

鈴木:僕はあまりアップを撮らないんだけど、ファッションシュートで顔のアップを撮ると、所謂タレント撮影みたいになってしまう場合があるからなんです。でも、池松くんが被写体だとそういう感じにはならないから。

北村:私、俳優って存在だと思うんだよね。クロースアップにしても全く動揺しないというのは、そういうことですよ。ドイツ語で「sein」なんです。そこに存在していることに、その人の価値があるのよ。

鈴木:俳優って、その存在感、もしくはその声を使うことですもんね。だから、池松くんの声は覚えてるんだよね。僕は映画を撮るわけではないけれど、例えばSofia Coppola (ソフィア・コッポラ) が来てたときに一緒に遊んでいたりしたから、映画監督がどういうふうに俳優を見ているかを間近で見れる機会が多くて。池松くんは当て書きにフィットするタイプの俳優だから、どんどん監督に会った方がいいと思って、そう伝えたよね。普通の事務所なら怒られそうだけど、池松くんは大丈夫そうだったから。

 

—池松さんの出演作品で印象に残ったものは?

北村:塚本晋也監督の『斬、』(18)は、塚本さんと池松くんがようやく出会ったんだなと思う作品だったんです。塚本さんは監督でもあるし、自分の映画の俳優でもあるから、池松くんと1対1の勝負をしてるんですよね。だから、これ以上のすごくセッションは、今後出てこないんじゃないかなと思ったくらい。例えば、黒澤明さんの『七人の侍』の三船敏郎さん、最高じゃない。この作品のために彼は俳優になったんじゃないかということは、観ている側も感じるんです。それ、前に話したよね。

池松:はい、北村さんにあの映画を褒めてもらえてどれだけ嬉しかったか。塚本さんと北村さんがやられた『双生児』は、僕にとって生涯忘れられないような映画ですから。

鈴木:その話も、雑誌『CUT』のアートディレクターの中島英樹さんから生前聞いていて。2017年頃に中島さんは北村さんと組んで、池松さんの表紙を撮影していて、中島さんも「すごい役者の子がいる」と言っていたんです。中島さんって、俳優の話をすることはほぼなかったし、名前も覚えない人だから。一度だけ、Tony Leung (トニー・レオン) を表紙にしたときに、編集者が電話で依頼をしたらマネージャーが出るものだと思ったら本人が出て、OKしてくれて、そのままふらっと撮影にきて、パッと帰って行った、という話だけは聞いたことがあったけれど。

池松:親さんは、会うたびにいつもこんなふうに、映画のこと、文化のこと、ファッションのこと、いろんな話をしてくれて、今日ほんと久しぶりにお会いして、準備中も最近面白かった映画の話をしながら、ものすごく懐かしくなりました。

鈴木:懐かしいと言えば、ちょっと前、来日中のHarmony Korine(ハーモニー・コリン)に会ったときに、26年前に、ChloëSevigny(クロエ・セヴィニー)と『DUNE』の林文浩さんとカラオケ行ったりしたことを彼も覚えていて、26年経ってもまた一緒に仕事ができるっていいねという話になったんです。北村さんともそうだし、今回、池松くんと久しぶりに一緒に仕事しても、それぞれが映画やファッションに関わり続けているから、本当にいい撮影ができるじゃないですか。映画とファッションという日本ではかつて離れていたものが、北村さんたちの努力のおかげもあって、やっとつながってきたんだなと。

三人が揃うのは、久しぶりだったんですね。

池松:僕、実はしばらくファッションから遠ざかってしまっていたんです。自分が放つべきメッセージはないような気がして、5年くらいやっていなかったと思います。でも、今回こうしてご依頼のメールをいただいて、親さんの撮影で、北村さんのスタイリングということで、またお二人に会いたいなと思っていましたし、僕でいいのかなと思いながら、久々過ぎて緊張しましたが、お二人とも全然変わらなくて、もうなんか本当に嬉しかったです。

北村:今日、顔を見てたけど、あなたも『ラスト サムライ』からまったく変わってないから。

鈴木:来たときも、「あの顔のままで大人になったね」って、北村さん言ってましたよね(笑)。

第2記事に続く……