masachika & yuta

市村正親と市村優汰。影響し合う親子の肖像〈後編〉

1973年から劇団四季の看板俳優を務め、退団後も日本の演劇界のトップを走り続ける伝説の舞台俳優、市村正親。そんな偉大な父の背中を追い、同じ役者の道を志した息子の市村優汰。実の親子であり、同じ舞台に立つ役者同士である二人は、どんな想いで互いを見つめているのか。演じることに真摯に取り組む二人の間には、親子としての絆だけでなく、互いに影響を与え合う特別な関係性が浮かび上がる。2021年の舞台『オリバー!』での初共演を経て、それぞれ新たなステージへと歩む二人の姿を、インタビューと共にお届けする。

masachika & yuta

model: masachika ichimura & yuta ichimura
photography: naoto usami
styling: toshihiro oku
hair & make up (masachika): maki morioka
hair & make up (yuta): kazuhiro naka
text & edit: yuki namba

―お二人は2021年にミュージカル『オリバー!』で共演されていますが、親子で同じ舞台に立たれて、お互いに影響しあうことはありましたか?

正親:僕から優汰に何か言うことは無かったね。演出家や振り付けの先生がいるから、僕が傍目で言うよりはリーダーの方たちが作っている色合いがあるわけだから。それに茶々を入れるのはしないほうがいいなと思って。

優汰:僕はお父さんに提案したりしてみてました。「最後に死ぬ場面は暴れるんじゃなくてゆっくり倒れた方がいいんじゃない?」とか。

正親:それで僕がこれは演出家の路線にちゃんと沿っているなと思ったら、やってみるんですよ。でも「それはちょっと演出家の路線とは違うからできないな」とはならなかったね。やっぱり流れの中で見てるから、優汰はきちんと分かって言ってるんだよね。そういう意味では新しい視点を貰えて助かりました。

ジャケット¥346,500、インナー¥144,100、パンツ¥154,000、シューズ¥170,500/すべてBottega Veneta (ボッテガ・ヴェネタ) ベルト/スタイリスト私物

ブルゾン¥1,018,600、シャツ¥189,200、パンツ¥173,800、ネクタイ¥77,000、シューズ¥159,500、ベルト¥69,300/すべてBottega Veneta (ボッテガ・ヴェネタ)

―以前、正親さんが「舞台役者は正解があるわけではなく、自分で作り上げていくもの」と仰っていましたが、正解のない役を作り上げていく事にどのような感情で接していますか?

優汰:役に関しては一から自分で作るものなので、まず台本を見ながら自分の性格にあっているところを見つけて、稽古で演出家さんに聞きながらどんどん仕上げていくみたいな感じですね。不安とかは特になく、作り上げていく工程を純粋に楽しんでいます。

正親:僕は中学、高校まではあまり本を読んだことがなくて、役者になってから読み始めたんですよ。要するに、役に対して「何かヒントないかな」というときに漁るように読む。読んでいくうちにだんだんと一冊の中にある色んなドラマに気付いていって、そのうちきっと自分の役が見つかるんだろうね。

―優汰さんは8月に『プリンスオブマーメイド』で初の座長を務められるそうですね。

優汰:僕は、自分が座長だからとかはあまり思っていなくて、みんなと一緒に平等にやっていきたいなと思っています。一からみんなで作り上げていくので、もし何かあったらそこはしっかり僕が支えていったりはしたいなと。

正親:一個アドバイスすると、僕が座長の市村座ってあるんだけど、座長っていうのはみんなを食わせる人。優汰は今回『プリンスオブマーメイド』をやるときに座長って言われたら、「座長じゃなくて、主役です」って言い方をしたほうがいい。主役をやって、役を演じることでお金をもらっている立場だからね。

―正親さんは8月に舞台『モーツァルト!』を控えていますね。モーツァルトの父親役はこれまで何度も演じてこられましたが、今この役をやるにあたり変化はありましたか?

正親:最初は芳雄くんと中川くんがやって、次に山崎育三郎くんが来て、古川くんが来て、今度は京本大我くんが来て。毎回子どもは変わっていくんだけども、自分にも子どもがいるので、親子の話という意味ではとても分かり合うものがありました。最近は優汰も大きくなってきて、もっとモーツァルトの世界に近くなってきてるなあと感じますね。お父さんのレオポルトがモーツァルトに対して正しく生きて欲しい、良い状態で生きてほしいと思う気持ちは、まさしく僕と優汰の関係と似ていますね。逆らったり、怒ったり、逆にこっちが悩んだり・・・。実人生と重ね合わせて、モーツァルトという舞台の力を借りて表現できるのは楽しいですよ。

―今後やってみたい役や挑戦したいことはありますか?

優汰:お父さんがやっていた『ラ・カージュ・オ・フォール』という舞台があるんですけど、僕がやりたいのはジャン・ミッシェルという役。本当はお父さんと真島茂樹さんの2人がいる状態で、3人でやりたかったんですけど、残念ながら真島さんが亡くなってしまって。それでも今まで観てきた舞台の中でも本当にいい作品だなと思うので、いつかお父さんと一緒にできたらいいなと思ってます。

正親:僕もそう思う。いつかやれたら面白いよね。役者の道を歩んでいくのには色んな苦しみとか自分との闘いがあるから、優汰には少しずつそういうことを学びながら、人間として成長していってくれたら嬉しいな。