空虚を満たす、水原希子のインスピレーション〈前編〉
俳優、モデルに止まらず、ファッションブランドや自然派ブランドなども数多く手掛け、さまざまな世界で自身の色を表現している水原希子。SAINT LAURENT(サンローラン)の艶やかなサテンやシースルのルックは、内面から湧き出る凛とした美しさを強調させている。
甲斐さやか監督が20年以上も年月をかけて脚本を書き下ろした映画『徒花-ADABANA-』で、水原は臨床心理士のまほろ役を演じた。ウイルスの蔓延で人口が激減し、延命措置として上層階級の人間だけに自分と同じ見た目の“それ”の保有が許された世界で、死が近づいている主人公、新次とまほろが“それ”と向き合い、命について考える物語。何が人間で何がそうでないのか、作品と向き合う中で感じたことについて話を聞いた。
kiko mizuhara
model: kiko mizuhara
photography: shota kono
styling: masako ogura
hair & makeup: naho ikeda
interview & text: mami chino
edit: Yuki Namba
−水原さん演じる臨床心理士のまほろは、淡々と業務を進める一見冷徹な人柄ですが、井浦さん演じる新次に触れてだんだんある種洗脳が解かれていくように感情を露わにしていました。水原さんは脚本を読んだ時、まほろという役をどう受け止めましたか?
まほろの仕事として新次と会話をすることと、いち人間として誰かと会話することとの違いを表現すべきだと思っていたので、まずは臨床心理士という職がどういうものかを知ることから始めました。何人かの臨床心理士さんに実際に取材をさせていただいて、いろんなタイプの診療方法があることを学びました。その上で、まほろは淡々と進めていくスタイルでいこうと決めました。
−取材はどのように?
臨床心理士でYouTubeをやっている方がいて、直接DMをしてコンタクトをとってみて(笑)。監督のお知り合いの方もいらっしゃって、その方にも会いました。実際に私自身のことで相談してみたいことを話してみて、診断されるということを経験しました。参考になったのは、患者さんと向き合う時にどこかでドライでいないといけないんですって。だんだん患者さんが心を開いてきた時に共感しすぎないようにしていると。あとは大きな病院の場合、その患者さんの症状を事細かに記録しておかないといけない場合があるらしいんです。そうなると患者さんなのに被験者のように思えてくると仰っていて。そういう同じ人であるはずなのに実験対象として接してしまう恐ろしさこそが、今回の作品で表現すべきものだと確信しました。
−ロボットのように淡々と話す一方で、実はうちに秘めた想いがあるというような、見た目だけではわからない空気感をまとっていた役を演じる上で意識していたことはありますか?
取材をした上でまほろらしいスタイルを見出したのですが、現場にいるとそれがどんどん変わってしまって…。ずっと迷いながら演じることになってしまいましたが、その感情の動きが作品に反映されているんじゃないかなと思っています。まほろと新次の関係性は、臨床心理士と患者という関係だけではなくもっと特殊で。新次はその病院にとって必要な存在で、システムや治療方法についても知り尽くしている人。だから何もかも見透かされているようで、居心地が悪くて。治療したいのにさせてもらえない心地の悪さは、お芝居としても手応えがないようで、ずっとひとりで葛藤していました。