masaki suda

光の方へ。菅田将暉とモノクロームのリズム 〈前編〉

masaki suda

model: masaki suda
photography: yuichiro noda
styling: chie ninomiya
hair & make up: azuma (m-rep by mondo artist-group)
interview & text: hiroaki nagahata
edit: nonoka nagase

地方移住がテーマの一つでもある楡周平原作の映画『サンセット・サンライズ』が、2025年1月17日に封切られる。主演を務めるのは、最近では黒沢清監督作『Cloud クラウド』での怪演が評判を呼んだ菅田将暉。監督は『あゝ、荒野』や『正欲』などで知られる岸善幸、そして脚本はあの宮藤官九郎だ。

本作では、都会から宮城県南三陸に移住した釣り好きの主人公・晋作 (菅田) と、よそ者に警戒心を抱く地元民との交流が主に描かれる。時代設定はコロナ禍の真っ只中。登場人物の全員がマスクをつけている姿がスクリーンに映ると、どこかファンタジーのようだった近過去の記憶が一気に蘇る。震災や過疎化、パンデミックのような社会問題に対して、人々はどのようにコミュニケーションを重ね、協働していけばいいのか。ここには、分断と二極化の時代に私たちが直面している問題に対する示唆が込められている。同時代性をはらんだ本作に対して、菅田将暉はどのように挑んだのか。Maison Margiela (メゾン マルジェラ) のシックなセットアップに袖を通した本人に訊く (前編)。

masaki suda

光の方へ。菅田将暉とモノクロームのリズム 〈前編〉

―岸善幸監督とは今作で3本目の作品となります。これまでのインタビューを拝見するに、監督とは毎回かなり深いコミュニケーションをとられているみたいですし、前作の段階ですでに「次は明るいのをやりましょう」という話になっていたんですよね。ということは、このオファーが来た時も、ノールックで快諾という感じだったのでしょうか?

変な言い方ですが、岸監督からのオファーは無条件で「やります」という気持ちでした。過去2作がシビアで暗い作品だったこともあって、監督とは「次は笑いたいね」と話していて。それが今作で実現したので、すごく楽しみでした。

―しかも脚本が宮藤官九郎さんということで。菅田さんも宮藤さんとは初タッグかと思いますが、岸さん×宮藤さんの化学反応にも期待するところが大きかったんじゃないですか?

本当に。お二人がどんなセッションをするのかまったく想像がつかなかった。それがこの作品に飛び込む最大のきっかけでもありました。

―「こういう台詞を入れて欲しい」とか「言い方を変えたい」とかっていう要望を出したことはありましたか?

ありませんでした。宮藤さんは地元が (本作の舞台となった) 宮城ですし、今回は自分のことを部外者として南三陸に溶け込んでいく人間として認識していたので。

―本作は、楡修平さんの同名小説が原作になっています。ただ、小説は今の社会問題が中心に描かれる一方で、映画では登場人物の物語に焦点があたるという点で、色合いが異なるように感じました。そのあたり、菅田さんはどのように解釈して撮影に入ったのでしょうか?

たとえば、「モモちゃんの幸せを祈る会」(南三陸の地元男性4人による、町役場で働く百⾹のファンコミュニティー) は原作に登場しないんです。だから、今回は原作に忠実に演じるというよりも、脚本の中に描かれた地元の人々との関係性や、そこから湧き上がるエネルギーを大切にしながら再構築するイメージでした。また、岸監督や宮藤さんが東北という土地への理解を深く持っていたので、僕が余計なアプローチをしないことも意識していました。

ジャケット ¥445,500、シャツ ¥201,300、パンツ ¥282,700、ブーツ ¥258,500/すべて Maison Margiela (メゾン マルジェラ)

―宮藤さんの脚本の第一印象はどのようなものでしたか?

本当にめちゃくちゃ面白かったです。頭の中で鮮明に映像が浮かんできて、なんていうか、「この脚本はずるいな」って(笑)。読んだその時点が一番面白いし、特にギャグに関しては鮮度が大事。だから、自分の中でのイメージがありありと広がるんですが、逆にそれを現場で再現するのが難しくて。

―思わぬところで笑えるポイントがありました。クスっていうよりも、けっこうゲラゲラ笑ってしまうところが。

本当ですか? それならよかったです (笑)。脚本に書いてあることをシンプルに再現するだけだとダメで。自分なりに解釈してやってみたんですが、正直「これで正解なのかな」と不安でした。

―やっぱり宮藤さんの脚本はすごいんですね。

僕がいうのもおこがましいんですが、ちょっと群を抜いているなと思いました。笑いと涙のバランスがキレッキレでした。

―ここからは映画についてお聞きしていきます。話自体はすんなり入ってくるものの、作品全体としてかなり独特な印象を受けたんですね。特に撮影の部分。ワンカットごとにしっかり時間をかけながら、人物に密着してじっくりと撮られている。ただ、これってコメディには珍しいテンポじゃないですか。そのゆったりしたタイム感の中で菅田さん演じる晋作は淡々とボケていたりするので…

そう、まさに。岸監督のドキュメンタリー的な撮影手法と、宮藤さんの脚本が持つコメディのテンポや間をどう融合させるか。それがこの映画の肝でした。岸組の撮影って、だいたいが手持ちカメラで、基本的にカットもあまり割らないんです。ただ、今回のような作品で笑えるかどうかには、カット割りが大きく影響します。冒頭、虫が苦手な釣り客の服にミミズがついてアニエスベーのロゴの形になるというシーンでも、カットをどんどん割っていかないとギャグにみえない。だから話し合いの結果、この組ではカットは割りますと。ただそれも、人物ごとに最初から最後まで撮って、編集時にカットを割るというやり方なので、現場ですごく時間がかかるわけです。

―今回の撮影を担当されたのが、岸さんとは初タッグとなる今村圭佑さん (『余命10年』(22)『青春18×2 君へと続く道』(24) など藤井道人監督作品の撮影を多く担当) ですよね。

そうです。僕から「(通しで何度も撮ることになるから) ちょっとイマムーの負担が大きくないですか?」と岸監督に相談したこともありました (笑)。だけど、今村さんはカメラマンとして何でもできるタイプだし、本人も偶然現れる良い情景は全部おさえておきたいだろうから、このやり方でいこうと。何回も撮影を繰り返す中で、僕はできるかぎり笑いの鮮度を落とさないことを重点的に考えていました。

―むしろ、だからこそ全体がスッと流れていかず、体内に滞留する感じは強かったかもしれません。「コメディーだったらこうするよね」というロジックからズレたところにある本作は、不思議と「残る」んです。

僕も最終的にはすごく面白いものになっていると思います。