
物語を「着る」。川上未映子とシャネル
作家・川上未映子。彼女が紡ぐ言葉には力が宿っている。美しく、詩的な文体、ときに大阪弁を交えた独特の世界観、そして緻密な心理描写により綴られたその文章の一つひとつは、読む者の脳裏に深く刻み込まれ、ある時は力強いエールとなり、またある時は私たちに優しく寄り添ってくれる。2007年、『わたくし率、イン 歯ー、または世界』で作家デビューを果たすと、翌年、女性の身体、貧困、そして「生」を巡る切実な問いを描いた『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞し、瞬く間にその名を文壇を轟かせた。中学校で起こったいじめの根源的な問題をテーマに、哲学的な視点で考察した『ヘヴン』は、2022年に世界的に権威のある文学賞の一つであるブッカー国際賞にノミネートされ、2019年に刊行された反出生主義を巡る議論を掘り下げた長編小説『夏物語』は、現在40カ国以上で愛読されるなど、今や日本のみならず世界中をも釘付けにする彼女は、まさに現代を象徴する作家の一人と言えるだろう。
そんな彼女が今回まとったのは、確かな伝統と美学が息づいたメゾンブランド。時代を経ても色褪せることのない、真のラグジュアリーを写真家・鈴木親が撮り下ろす(第1回/全4回)。
mieko kawakami
model: mieko kawakami
photography & videography: chikashi suzuki
styling: mihoko sakai
hair: tsubasa
make up: tomohiro muramatsu
text: miku oyama
edit: daisuke yokota & yuki namba


ジャケット ¥2,140,600、ドレス ¥986,700、シューズ ¥466,400、バッグ ¥1,120,900、ネックレス ¥299,200/すべて CHANEL (シャネル)


毎年、世界各地の都市を巡り、その土地の魂と CHANEL (シャネル) のサヴォアフェールが響き合う「メティエダールコレクション」。今回の舞台は、詩情が息づく神秘の都、中国・杭州。Gabrielle Chanel (ガブリエル・シャネル) が暮らしていたパリのアパルトマンに飾られていたという、アンティークのコロマンデル屏風をインスピレーション源に、歴史、芸術、そしてパリと中国双方の文化が深く融合したルックが披露された。川上が袖を通したのは、メゾンの象徴的なツイード素材で仕立てられたブラックジャケット。ほどよくシェイプがかかっており、身体のラインを美しく際立たせる。細部に目を凝らせば、中国伝統のフロッグボタン、そして繊細なきらめきを放つ糸が織り込まれ、遠い異国の地へと誘うかのような、洗練とエレガンスを表現。足元に合わせられたパテントレザーのサイハイブーツは、予想外の組み合わせながらも、重厚感と官能性を引き出し、どこか憂いのある “ファムファタール” のような魅力をまとわせる。